魔を極める儀式
「フフフ、私の勝ちだな!最期に残した切り札の差だ。やはり一度底に落ちた人間は這い上がる事は不可能だ」
蝋燭明かりに照らされながら、そんな風にレヴィアが宣言した。
それはまさに魔王が、自らに挑んだ勇敢にも愚かな人間に対する最期宣告さながらだ。
しかし、相手が悪かったな魔王。俺を凡百の英雄と一緒にされては困る。
「そうかな?」
「なにっ!?」
俺は勝利を確信したレヴィアに、不敵な笑みを返してやる。
想像以上に大きいリアクションをしてくれるレヴィア。
「忘れたのか?お前の切り札である禁断の魔術師『ジョーカー』を唯一敗れる魔概札の存在を……」
「まさか……貴様……!」
「金色の魔王!お前の切り札は俺の最弱にして最強のザ・サードがぶち壊すっ!」
「う、うああああ……!」
「第二十五回の儀式終了!今回の結果は……レヴィアが『大貧魔』だね」
「も、もう一回だっ!」
「もう一回は良いけど魔概札をカットし、この場に集いし魔術師に配布するのは、大貧魔の仕事だろ?さっきまで俺やってたぞ」
「くっ……忌々しい……次こそは……」
苦渋の表情を浮かべながらレヴィアは、散らばった禍々しい装飾を施された魔概札を手に取り、再びランダムに配っていく。
俺の持ち札は……微妙か。折角這い上がった地位を無くしたくないものだ。
「先程の奇跡が二度起こると思うなよ?ユキト」
「それは良いけどレヴィア、魔概札を『偉大なる魔術師』に差し出す必要があるんじゃないか?」
「あ……」
自分の魔概札を見てご満悦な表情を浮かべていたレヴィアの顔が再び曇る。
震えながら二枚の魔概札を抜き出すと観月さんに差し出した。
そして、代わりに観月さんよりもたらされた二枚の魔概札を見たレヴィアの表情は…… この世の終わりに遭遇したかのようであった。
本当にこの短い時間でよくもまぁ、そこまでコロコロ表情変えられるもんだ。
「な、泣くなよ……」
「ご、ごめん……ちょっと二枚は厳しいよね!一枚だけにしよう?」
「泣いてないしっ!そんな情け等無用だ!絶対に……絶対にお前達を地獄に沈めてやる……」
既に時間は午後九時を回っている。
あの後、簡単な夕食を取り、そのまま現在に至るというわけだ。
まさかこんなラストダンジョンみたいなところでカップラーメンを啜る事になるとは思って居なかった。
夕食後にレヴィアの提案により己が魔術師としての力を研鑽し、より高めるための儀式とやらを始め、そのまま数時間没頭していた事になる。
そして、この儀式の場においては、予想に反し観月さんがその力を見せつけた。
現在進行中の二十六回目の儀式も、今までと同様に観月さんが優位に場を進めている。
と言うか手も足も出ない……!これが永続魔術とでも言うのか……観月さんの攻撃の手は緩むことを知らない。
「魔概札よ……私に力を貸して……顕現せよ『戦場を断ち切りし炎と風と水の八卦陣』!」
「くっ……バカな!三属性による八卦陣だと!?そんな事をすれば貴様は……!」
「観月さん……まさか……」
「これで私の攻撃はまだ終わらない!我が呼び声に応え、その力振るい給え……大地の英雄達よ……ランスロット!アルジーヌ!アレクサンダー!」
「こ、これは……くっ……対抗できる……力が……」
「フィナーレです!」
観月さんは、最期の魔概札をその場に叩きつける。
圧倒的な強さだ……俺もレヴィアも殆ど何も出来ていない。
まさに『虚空の姫君』の面目如実と言った強さである。
「流石ミツキだ……」
「うん、レヴィアの魔概札を分けて貰えたお陰だよ!」
「そ、そうだな!私の助力が有ったからだな!」
どうも観月さんはレヴィアの扱いに手馴れてきているような気がする。
さっきまで涙目だったの上に、またボコボコにされたにも関わらずレヴィアは上機嫌だ。
「フッ……とは言え、この私が何時までもこのような不名誉な地位に甘んじているわけにもいくまい」
「悪いけど、俺も平均的な生活くらいは送りたいからな。ベソかいても負けてやる気はねーぞ」
「べ、ベソなどかいてないっ!そんな減らず口すぐにきけなくしてやる……!」
こうして儀式は、再び『偉大なる魔術師』の座を得た観月さんを除き俺とレヴィアによる一騎打ちとなる。こ
の戦いに負けた者が不名誉な『大貧魔』となってしまうのだ。
ここまでの状況を分析すると……恐らくレヴィアの手元に残された火力は俺以上だ。
だが……俺も黙ってあいつの高火力に晒されるつもりは……
「っておい!!」
「どうしたのだ?ここからが私の本気だぞ」
「あ、コーヒー無くなってますね。入れてきましょうか?」
「うん、ありがとう。……って違うよ!何してるの俺達!?」
「言っただろう。魔概札を用いて我らの魔力を研鑽し、より高みへと……」
「ああ、お前がもっともらしく喋るし、何か大層な設定色々有ったけど……要するにこれ『大貧民』だろっ!?」
「『大貧民』……?まぁ、『大貧魔』等と言う俗称もある儀式だが……」
絶対にウソだ……こんな小学生でも出来るお手軽儀式があって堪るか。
説明するまでも無いだろうが、俺たちが今興じているのは、用いているカードこそやたら仰々しい物で、そこに刻まれた絵柄もどこから見ても魔術道具な感じだが……完全にトランプで遊べるお手軽ゲーム『大貧民(大富豪)』である。
「こ、これがただの『大貧民』だったら私って……」
数時間越しの俺のツッコミに対して青褪めている観月さん。
凄く恥ずかしい詠唱ずっとしてたよね観月さん。でも安心してくれ。
今回は俺も正直言ってノリノリでやってたから人の事を余り言えないから。
「ふーん……このタイミングでそんな事を言い出すとは……さてはユキト。私に負けるのが怖くなったのだな?」
「何だと……?」
一方でレヴィアは俺の指摘に対して、顔色一つ変えない。
「確かに、我が力を略奪した観月の力は強大だった……」
「略奪って……ルールだからねっ!?」
「しかし、貴様の立場は……所詮は『凡俗の魔術師』だ。それに先程からパスが多いじゃないか?序盤で強い魔概札を使い尽くしたと見える……戦略ミスだな。
断言しよう、お前は私を恐れている!故にこの儀式を中断させ有耶無耶にしようとしているのだ」
まるで真犯人を見抜いた名探偵の如く、レヴィアは俺に指を付き付ける。
こいつめ……魔術ならともかく、『大貧民』で俺を圧倒出来るとでも思っているのか。
魔術のキャリアは大差有っても、『大貧民』のキャリアは俺だって十年以上有るんだ。
『大貧民』のキャリアだけで言えば、別に俺もレヴィアも大差が有るわけではあるまい。
ここは……俺の実力を再認識させておこう。後々のためにも。
「そこまで言うならば……俺の力を知らしめてやろう」
「そうこなくてはな……!だが、勝つのは私だっ!」
言い放つと同時にレヴィアは場に『死の炎(ハートの4)』を召還する。
だが、これは悪手だ。いや、正直言ってこの勝負は既に決着がついている。
レヴィアは、大艦巨砲主義と言うか、人の持ち札を余り気にしていないのだ。
魔術合戦ならば、運良く良い手札ばかり揃った時のようにその有り余る火力でどんな奴も捻じ伏せるのだろうが
これはカードの枚数も強さも最初から決まっているゲームだ。普段のレヴィアの戦術は通じない。
彼女のそんな性格に付け入る隙は、沢山有り過ぎる。
「俺は八だ」
「桐嶋さん!ちゃんと言って下さい!『戦場を断ち切りし大地の八卦陣』ですよ」
「う、うん……」
要するにさっき観月さんもやっていた「八切り」というやつだ。
強制的にその場を一旦終了させ、自分の手番からスタート出来るルールだが地方によっては有ったり無かったりする。
つまりこの場合は、レヴィアの手番で始まった一枚ずつカードを切っていく場が強制的に終了となる。
「ほう……戦場を切り裂いたか……しかし、お前の残された手札で私の息の根が止められるかな?」
「ああ……止められるよ」
「強がりを……お前にはキング以上の魔概札は残っていないはずだっ!」
「一個見落としてるぞレヴィア。ジョーカーは一枚じゃない」
「なっ……ふん、だが、ジョーカーが一枚だけあったところでっ!」
「確かにな。だが、ジョーカーがあるとこういう事が出来るんだ」
俺はその場に三枚の七とジョーカーを出した。
「こ、これは……!水と炎と大地の七星と禁断の魔術師『ジョーカー』による……世界の変革ですね!!」
「な、なにぃっ!?」
観月さんとレヴィアは大きなリアクションしてくれるが、要は「革命」だよね。
言うまでも無く大貧民は通常、三を最弱として、数字順に強くなっていき、
十三より上に一と二が来るのだが、革命はその序列を逆転させる。
同じカードを四枚、もしくはジョーカーを含む同じカード四枚によって成立する。
「あ、あうう……わ、私の魔概札が……」
レヴィアが大事に抱えていた絵札以上のカードは、この場ではもはやゴミとなった。
一方で俺が手元に残している、四や五等の弱小カードが、覇権を取るのだ。
あとは一方的な虐殺である。レヴィアには、「革命」を返せるカードは無い。
「ず、ずるいぞ……そんなのずるい……」
「いや、ルール通りだろう」
「うん……ルール通りだね……」
「み、ミツキまでっ!」
こうして俺達の第二十六回魔術儀式は終了した。
流石に自信満々で挑発したにも関わらず敗北したレヴィアは……
「もう今日は良い……解散」
と言ったきりベッドに潜り込み出て来なくなってしまった。
仕方なく、俺達も帰路につく事にした。転移魔法陣は幸いにも俺の部屋だけでなく
観月さんの部屋にも繋がっている。
それにしても、結局今日の後半は遊ぶだけで全く何も進まなかった。
「結局、今日も一日無駄にしちゃったな……」
「…………」
「まぁ、でも……時間を遡行させる魔術が一度は発動したってのは進歩か」
「…………」
「ん?観月さん?」
「あの……桐島さん……」
こちらに顔を向けない観月さん。その表情は伺えない。
何か有ったのだろうか?さっきまで普通に楽しく遊んでいたと思うのだが……
「私……何か……魔術使えそうです」
そう言って振り返った観月さんの手には、碧い炎が燈っていた。




