魔王室、再び
『良く判る結界』『結界術入門』『マジックピッキングを極める本』
俺の家の本棚に有った結界関係の本はコレくらいだった。
有り難い事に中身は日本語で書かれている。さて、時間は余り無い。
俺が『混沌の魔術師』と言われる程の天才だとすれば……
この少ない時間で結界魔術を極める事だって可能なはずだ。
魔力が無い?それがどうした……そんな物は俺のリビドーで穴埋めしてやる。
まずは……なるほど……結界魔術には己の魔力で展開する物と魔導器等を用いて外部より発動する物があるのか。
観月さんの家の結界は後者だな。俺の目の前で張られた結界……これはどちらだ?
レヴィアの先程の言動から推察するに、恐らくは……
「せいが出るな」
「ああ、この結界を破れば、良い事が有るらしいからな。言質は取ってある」
「…………ほう。良い事って何が有るんだ?」
「どうもそこの金髪娘の貧相なおっぱいくらいは触っても良いらしい」
「そんな事言ったのか?」
「俺の中ではそういう解釈になっている」
「そうか……そんなつもりは無いとか言ってた気がするんだが」
「バカめ。油断させる策略にまんまと引っ掛かったな」
「…………」
「…………おはよう。良く眠れたかい麗しの魔王様」
◆◆
「う~ん……おはようございます。ってもうこんな時間だけど……」
「もう調子は大丈夫か?」
「うん、レヴィアのお陰で」
「私は大した事などしていない」
「ところで……桐嶋さん、さっきよりボロボロになってませんか?」
「ふん、自業自得だ。このバカ椅子は」
……今度ばかりは本当に死ぬかと思いました。
酷いよな。レヴィアも破れるもんなら破ってみろ的な事言ってたくせに。
いざ、俺が本気を出してみたらこんな結果なんだもの。
ちょっと寝起きドッキリをしようと思っただけなのに。
レヴィアだって寝ている俺の上にいきなりワープとかしてくるんだから
たまには、こっちが寝起きドッキリしたって良いじゃないか……
千載一遇のチャンスだと思ったのだが……中々人生上手く行かないものだ。
「ミツキ、この男には近付かない方が良いぞ。胸揉まれるぞ。やっぱりケダモノだ」
「そ、そうなんですか?」
「ご、誤解だっ!俺はちょっとドッキリをレヴィアに仕掛けようと思っていただけで……」
調子に乗った発言はしたが……あれは冗談だ。そもそも出来るわけないだろ!?
二十六年間フォークダンスくらいしか女の子の手を握った事の無いこの俺が、幾らレヴィアのまな板にほぼ近い胸とは言え、いきなり触れる訳が無い。
「どうだか……その言葉も油断させる戦略かもしれないし」
「本当にごめんなさい。許して下さい。土下座が必要ならば甘んじて受け入れよう」
「いらん……代わりに今度、何かご馳走して貰う。それで手打ちだ」
「判ったよ……」
「そう言えば桐嶋さん、私にも焼肉ご馳走してくれるんでしたよね?」
おおう。そう言えば観月さん家に潜入した時のお詫びも有ったな……
何故このタイミングでそれを言うの!?そんな事言うと……
「じゃあ、私も焼肉だっ!この私の下を満足させる肉を用意するのだな」
ほら、予想通り食いついてきた。判った。駅前の焼肉食べ放題へ行こう。
あそこのウインナーは絶品だから何本食べても良いぞ。
それにカレーも食べ放題だからな。
「さて……ジョジョの奇妙な苑には、近いうち行くとして……」
「おおい!ちょっと待て。何だその色んな意味で高級そうな焼肉屋は。行けないよ。俺の財布が燃え尽きる程頑張っても行けないから」
「大丈夫です桐嶋さん!私、そんなに食べませんから!」
「お、おう……」
いや、一杯食べても良いから駅前の食べ放題にしといてくれないだろうか……
この世界の俺の預金がどうなっているのか調べておく必要が有りそうだ。
運が良ければお年玉がまだ残っているかもしれない。
「さて、そろそろ場所を移そう。時間も丁度良い頃合だ」
時計を見ると、もうすぐ十七時になろうとしていた。
授業は、もうとっくに終わっている時間だ。俺たちはこれから超重役出勤と言うわけだ。
「魔王室……今日は何もトラップ無いだろうな」
「結界が仮に張って合っても、先程必死に研究していた『混沌の支配者』の前じゃ大した障害にもならないだろう?フフフ……」
「くっ……」
「れ、レヴィア……あの……ちょっと私本調子じゃないしあんまりキツイ入場制限は……」
「フッ、冗談だ。そもそも直通の転送魔法陣を作ってしまったからな。トラップも素通りだ」
「良かったぁ……」
無断施工とは言え、この場合は助かったと言うべきだろう。
今後の事は、後でゆっくりと考える事にする。
「では、行くぞ」
レヴィアが手を掲げると、それに呼応するように大きな魔法陣が頭上に展開された。
魔法陣より発される光に俺達三人は包まれていく。そして、何時ものように景色が歪んでいった。
何回やってもこればかりは慣れそうに無い。転移酔いしそうだ。
今度から酔止めの薬を転移前に飲むようにしよう……
ぐにゃぐにゃになった景色は、徐々に固定され、さっきまでの俺の部屋とは全く違う場所が目の前に構築されていく。
そこは、いかにもな魔人の像とか、魔物を象ったレリーフ等で彩られ、
部屋の中心には、これまた、趣味の悪い豪華な椅子が鎮座している。
まさに魔王城と言った趣だ。しかも異常に広い。体育館くらいあるのでは無いだろうか?
「ようこそ、魔王室……最深部へ」
「わぁ……ひろい……」
「広すぎだ!おかしいだろっ!?特別棟のどこにこんなスペースあったんだ!?」
「フフフ……ただの一教室で、この私が納まるわけが無いだろう。ここは私が作り出した世界。限りなく広がる無限の魔王室だ……」
「そんな無限に広がるような世界を、ひのきの棒すら持たせずに踏破させようとしてたのか、昨日」
「お前達には、魔術と言う最強の武器があるだろう」
その最強の武器は、既にナマクラレベルまで劣化してしまっている。
Ⅱでは伝説の剣が若干残念な性能になってたとかそれ所じゃないレベルで。
「最強の武器が有っても……この広さじゃクリア出来たかわから無いけどな」
「貴様がそんなに弱気でどうする?パンツ一枚でも踏破するくらいの覚悟が欲しいものだ」
パンツ一枚で女の子の部屋を踏破しようとしたら捕まるだけじゃすまなくないか。
完全に俺の人生の歯車ボロボロになるだろう、それ。
「ここ、レヴィア一人で住んでるの?」
「人間は私だけだな」
そういう言い方はやめよう。何が出てくるか判らなくて怖いだろ。
無理だからな。ドラゴンとかにいきなり襲撃されたら為す術無いからな。
せめて出てくるのは、交渉の余地があるモンスターにしてくれ。
観月さんは、寂しがり屋のレヴィアを心配しているようだ。
「…………レヴィア、寂しくなったら何時でも遊びに来て良いからね」
「なっ……バカにするな。私は、一人でも別に……」
「そうだね。じゃ、暇になったら何時でも来てね!」
「……ふ、フフフ!言われなくても、勝手に忍び込む!」
「あ、アハハ……れ、連絡はして欲しいなぁ……」
「そう、連絡しないとオメガナザウィーネ食らわされるぞ」
「桐嶋さん……私、高いお肉が食べたくなってきました」
「お、お手柔らかに……」
何故、俺はいらん事をつい言ってしまうのだろうか……
ちょっと前まではこんな事は無かったはずなのに……環境の変化って怖い。
「それでは……そろそろ……」
レヴィアは気を取り直すように真剣な顔をして幕開けの言葉を紡ぎだした。
いよいよ、俺たちの時空を超える魔術の研究が本格的に始まる。
この歪んでしまった世界を正しい状態に戻すための戦いが始まるのだ。
今日起きた記憶遡行現象から、まずは検証して……
「夕飯にするぞ!」
「そういえば……御腹空いたかも」
「……だよね」
…………いよいよ、俺たちの夕飯が始まる!
交流魔術戦まで、あと二十七日!!




