2章・怪人症候群
「…それで?なに見てたんだよ。」
漸く落ち着いて、聞ける時がきた。
あの孤立無縁に思えた二人が、一緒になって夢中で見ていたモノ。それが何か兄貴として知りたかった。
「これだよ」
そう言うとパソコンの画面を指さした
え?え?なに?そんなに簡単に見させてくれたの?
とさっきまで若干下手にでてた自分を悔やみながら、パソコンの画面を覗いた。
《現代に現れた切り裂きジャックの末裔》
覗き込んだらそんな記事がネット掲示板に書かれていた。
『切り裂きジャック』というモノを知っているだろうか?
僕も良く知らない、200年くらい?前のロンドンかどこかに現れた伝説の殺人鬼って風に理解していた。
「それね…ねえちゃんが予言した通りなんだ。」
おいしそうにご飯を食べながら友覇はいった。
「はァ?なに?なにを予言したって?」
「だから、『もしも切り裂きジャックの子孫が現代にいたら、先祖の意思を継いで猟奇殺人事件を起こすんじゃないか』って一昨日ねえちゃんが言ったら…本当にそういう都市伝説があってさ。」
それは予言とは違くないか?
と思いながらも
一番の疑問だけをぶつけた。
「でも…都市伝説なんだろ?なら探せばいくらでも……」
「実際に被害者が出たんだよ。」
一瞬、冷たい物が背中を這ったような気がした。
「ね!?凄いでしょ!実はね、僕も一昨日ねえちゃんの話きいてて、有り得なく無い話だなって思って……聞いてる?」
嫌な予感しかしない。
何故? 毎日のように殺人事件が報道されて…
それは皆、僕らと関係ないものじゃないか…
「それにね、その事件…」
秘密兵器を見せびらかそうとする、僕の驚く顔を見るのを待ち構えているような笑顔で 友覇は話続ける。
「ついさっき、並原町で起きたらしいよ?」
全身の毛が逆立つ。という言葉をリアル体験した。
震える手で、パソコンの画面をスクロールしてみる。
《24日午後8時半頃、普原商店街の路上で男性の遺体の上半身が、普原町の住宅街に下半身が、それぞれ発見された。それぞれ右手、右足に“JackTheRipper”と刻まれており……》
更に下へスクロールすると、野次馬か何かが撮った現場の写真が上がっていた。
「8時…30?」
時計を見ると、時計は11時を指そうとしていた。
つまり、つい…1時間半前……この近くに“切り裂きジャック”がいた。
その事実に、言いようのない恐怖に教われる。
それでも、弟の前で情けない態度は隠さなければならないという意識が働いた。
「……どうせ…愉快犯だよ。大方、こういう都市伝説を見て……」
“切り裂きジャック”じゃなくても、殺人鬼は消えないのに。
ただ何故か
“切り裂きジャック”を恐れていた自分がいた。
都市伝説に出てくる得体の知れない怪人がやってるわけじゃないと…信じたかったのだろうか
「なんで!?偽物だって証拠ないじゃん!?」
「…ジャックは女を襲うんだ。だから男が被害者である時点で……」
被害者が女に限られる、ジャックの方が僕には危険が及ばずにすむから良いはずなのに…
ジャックではないという根拠を探している自分がいる。
「へぇ。そうなんだ…でも、それって今まで襲われたのが女の人ってだけじゃないの?それに犯人がジャックの子孫なら、男を襲ったって別におかしくないよ」
確かにそうだった。
「それに、僕らは、ジャックの魂が取り付いた人間が事件を起こしてるんじゃないかって予想してるんだ。」
「…そんな訳……」
しかし、そういいながらジャックを肯定しようとする友覇の目は…無邪気そのものだ。そんな目を見ていると、何故か二人を守らなきゃ…という気持ちが沸き上がる。
別に、二人が狙われるわけじゃないし、狙われことになるとも思わない。
友覇の部屋から出た。すると不思議と『切り裂きジャック』への恐怖は凪いでいた。
それからなにをすることもなく。
ただカーテンを閉めて、布団を敷いて眠りについた。
今日はホントよく弟たちと喋ったな
友愛の部屋からはまだ、カッコイイような呪文が聞こえていた。




