行間・死神の足音
「……ァ…はぁ」
太郎のマンションの7階と8階を繋ぐ階段の踊場。
瀧澤は、人生最大の痛みを味わいながら
それでも、頭は人生最大に冴ていた。
(こうゆう…大怪我したりして、血まみれになると…気絶できるのは……テレビのだけなのな…)
彼は自分の血の水溜まりを見ながら考えた。
(気絶してぇなあ。ガチで辛い。)
目がすわってき始めた。頭が冴てようと確実に瀧澤には死が近づいている
(……さっきまで…太郎達と楽しくやってたのにな………。あーあ。この血…どうやったら止まんのかな……つーか、マジで気絶させるようにしてくれよ……)
(…太郎と小鳥遊、逃げ切れたかな?……太郎はあいつ、いつも普通人間で、体力測定も全国平均値だけど、あいつなら大丈夫だ。)
(普通とか…違うんだよな。あいつは普通そうで全然普通じゃねーんだよ。)
「……それに…しても……俺…なんで…生きてるんだろ…?」
思考がループする。
ループを重ねる度に段々、瀧澤の意識は失われていく。
「え?なになに?もしかして死にたかったの??
随分と物好きだね!」
瀧澤は霞む視界で、必死に視覚から情報を得る。
目の前に現れたその青年。
年齢は瀧澤らと同じくらいで、黒いジーパンで白いトレーナーに黒いジャンパーを羽織っていた。
顔も白人のように白く、黒い髪は長すぎず短すぎずと、普原西高校の生活指導の規定だとギリギリのラインだった。
「………だ……れ……?」
別に怖い顔してるわけでもない。寧ろ線の細いイケメンだろう。普通に見たら。
普通なようで…全然普通じゃない。
異常が普通の皮を被ってるような…そんな奴だった。
「……だ…れ…?」
その言葉を聞くと青年は
ニコッ と清々しい笑顔を浮かべた。
瀧澤には狂気に満ちた笑顔に見えただろう。
「…え?僕?………じゃあ逆に聞くよ。誰だと思う?」
「………っ……」
瞼が重い。重くて重くて、目の前の死に神のような青年が何処のどいつなのか……
そんなことはどーでもよくなった。
やっと気を失える……
ドガッ
「う゛あ゛ッ!!!!?」
脇腹の傷口を蹴り飛ばされ、気を失う寸前で瀧澤は現実に引き戻された。
「ねぇ?痛い?痛いよね?痛いだろ?」
ドガッ ドガッ ドガッと 何度か蹴り付けたあと。彼はこう言った。
「良かったね、まだ君は生きてる。」
ただでさえ血がなくなり、朦朧としているのに意味が解らない言葉を浴びせられた瀧澤は、もはや理解する気もなかった。
「皮肉だよね?人は死を前にして生きるってことの意味を一番理解できるんだ」
難しい言葉は頭を反響して止まない。
瀧澤は先程よりも速やかに意識を失いかける。
先程よりも弱った瀧澤を見ながら、思いついたように青年は
懐から紙を取り出した
「ダメだよ気を失っちゃあ。どんなに苦しくても諦めちゃダメだぜ?」
死体同然の瀧澤と青年とでは、会話すら成り立たないというのに、
お構いなく青年は話を続ける。
「あっそうだ!僕、ひとさがししてるんだけど…協力してくれない?困ってるんだよね!」
瀧澤の返答など、置かれている状況など青年には眼中にない。
「まぁ、初対面で馴れ馴れしいかもだけどさ〜。そこは、人間共に助け合うのが大切ってことで!」
自分を中心に宇宙が展開してるとでも言うような、エゴイスティックな態度。
それもごくごく普通に、呼吸をするくらい当たり前に、罪悪感とか、そんなモノは一切感じていない。
自分が異常だと認識していない。
そんな感じだった。
「あれ?聞いてる?…他人の話は最後まで聞きなさいって習わなかった?…ねぇってば!」
そして、残念そうな顔をしながら瀧澤を見ながら屈んだ。
「おーい。おはよーございます〜。起きろ〜」
つんつんいじったり、殴ったりしたけど反応がない。
「しょうがないなあ……。もうっ」
そういって青年は瀧澤の髪を持ち、瀧澤の顔を自分の顔に近付けた。
「壊すのとちがって、やりづらいんだよなぁ」
下の方から、何やら小さく衝撃音が聞こえる。
「やっぱり、彼らが近くにいると……やりにくいなあ。」
ぱっと瀧澤の髪をはなす。
意識を失っている瀧澤に向かってこう言った。
「それは話し相手になってくれたお礼だよ。……僕ってほら基本、親切だから」
「また会ったらその時はまたヨロシクね(^∀^)ノ」
青年は何もなかったように9階のほうへ登ってゆく。
取り残された瀧澤は変わらず血だまりの中にいる。
しかし、その脇腹には傷はなくなっていた。




