2章・悲劇症候群
「あ………あ?…」
僕がディスプレイを見ていた瞬間だった。
「きゃあああああ太陽ぉ!!!」
瀧澤の左脇腹に、鉈が…肉を裂いて食い込んでいた
じわりじわりと瀧澤の服を赤黒い液体が侵食していく
食い込んだ鉈の柄には……倒したはずのアレの手があった。
「アハハッハハハッハハハッ!!」
また子供のように甲高い声で一段と豪快に笑い始めた。
「…っなんで………!!?」
アレは何も無かったかのようにムクッと立ち上がると
ハンマーを戻し、鉈を瀧澤の腹から引き抜く。
「あ゛ッ…ぐぅッあ゛ァ…ァ…」
引き抜くと同時に、瀧澤の身体は左側に倒れる。
「いやあああああ太陽ぉぉ!!」
泣き叫ぶ遊など気にも止めず
アレは倒れた瀧澤を蹴り飛ばす。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ァぁあッ!!…」
瀧澤の悲痛な悲鳴が聞こえる…
しかし彼はこういった。
『突っ立てんじゃねぇ、早く逃げろ』と
たしかに、途切れ途切れの言葉で瀧澤はそう言った。
「だけどお前が!!!」
「もう俺は無理だァ!!!お…前がいて……もかわんねぇ…から!!……いいからお前…は小鳥遊と……逃げろぉぉぉぉ!!」
渾身の叫び
「俺が…こんだけいてぇ思いした…んだ……。もと……とってくれ…よな…」
そう瀧澤が言うとアレは静かにこちらを向いた。
「おまえのっ……せいで………っ」
恐怖と怒りが同列に並んだ
そんな感じだった。
拳が砕けるほど強く拳を握った。
今、僕ができることは…
瀧澤から…アレを遠ざけること!
「おおおおおおっ」
アレと瀧澤に背をむけ、アレを誘うように雄叫びを上げながら階段を飛び降りるように下りた。
「いやあああああ太郎っ!!危ない!危ないッて!」
数秒間、アレは追い掛けるのが遅れたようで 距離は開いた。
ほとんど踊場から踊場へ飛び降りて逃げていたので、彼との距離は更に開いた。
二人分の体重を背負い跳ぶため、足首に負担がかかりそうなものだが、その時は全然平気だった。
それに、普通なら飛び越えられない距離なのに何故か跳べた。
後ろから
トトトトトトトト
という足音が聞こえる。
アレかなりのスピードで追い掛けてくる。
やっと一回のロビーに着いた頃には、距離はすこし狭まり15mほどになった。
あと少しで建物から出られる。
出られたなら、あとは人通りの良い道に行けば助けを呼べる!!
そうすれば!
そう思い、必死に
自動ドアに向かい、外を目指し走る。
「太郎!避けてッ!!!」
後ろを見ていてくれた遊が知らせてくれた。
後ろに目をやると
三日月状ナニカがの空気砲みたいに放たれて、こちらに弾丸のように飛んできていた。
「うおっ!!!」
寸前で身を屈めると、三日月状の衝撃波のようなものの方が上にそれた。
するとそれは自動ドアのガラスに当たりそれを砕いた。
マンションの中から外へ、キラキラとガラスが吹き飛ぶ。
すさまじい威力で、天井も大きく破損していた。
おばさんが管理してるマンションには殆ど入居者がいなかったことが幸いだ。
頭だけ振り返り、うしろを見てみると。
アレが鉈を構えて余裕で歩きながら、こちらに向かってくる
アレが鉈を大きく振るとそこからあの衝撃波が生まれた。
「なんだよ…それっ!!」
衝撃波をなんとか横に避けると、それは
自動ドアに当たり、ドアは跡形もなくきえる。
残るのは爆撃のあとのような風景。
マンションの外にすべてガラスの破片はとんでいった。
「くそっ…余裕こきやがって!!」
僕はまた前を向いて走りだした。
出口まであと数Mだ!
衝撃波は止んだが、アレは歩くのを止め、また走りはじめた。
念願の『外』に出られたが…まだ人通りの多い場所に行くには時間がかかる
飛び散ったガラスの破片で足の裏をきづつけながら…血まみれになりながら
僕は走った
僕は必死に走りながら、解せずにいた。
なぜ!なぜアレはあんな秘密兵器を持ちながら、ハンマーなんかでガラスを少しづつ破壊していったんだ?
危険だったから?
いや違うだろ!?
ガラスはすべて衝撃波が掻っ攫っていく。
あの時、ベランダにアレが現れた時
別にあの衝撃波をうっても問題無いはずだ!寧ろガラスの飛びちるので遊を殺すことくらい…簡単じゃないのか?
僕らが逃げたときだってそうだ、アレは何時でも仕留められたのに…何故つかわない??
その時、あの言葉が頭に浮かぶ
《『こんばんわ』と書かれメールがとどいたら最期、数時間後必ずジャック・ザ・リッパーに殺される》
「必ず……殺される……?」
そんな雑念が混じった時、
アレは衝撃波を僕の足のすぐ後ろのアスファルトにあてた。
「うあああああっ」
衝撃波に吹き飛ばされ、前に倒れた。
遊は僕がクッションになり助かったようだ。
一歩一歩。確実に後ろからアレは追い掛けてくる。
「太郎!!大丈夫!!?」
「お前…走れるか!?」
「走れる!もう大丈夫だから…早くたって…!!」
「早く行って。」
「え?」
「僕はあいつの足止めをするからッ…!その内に…商店街の方に行け!!そしてマンションに救急車を呼んでくれ。」
「いやだよ!一緒に行こうよ!!太郎!!!」
「狙われてんのは遊だ。僕なら殺されずにすむかもしれない。いや死んでやるもんか!!だから早く行って」
「けど…」
「早くしないと瀧澤が死んじゃう!!早く行けって!!!」
「……わかった…。」
くるりと方向転換した遊は、泣き喘ぎながら必死に走っていった。
それを追い掛けるように、アレは小走りをはじめた。
多分僕なんか、アレの目には映ってないんだろう。
標的は遊なんだから。
僕との距離は10Mない。
僕は立ち上がる。
倒れていれば、スルーしてくれるだろう。もし立ち上がったとしても、すぐに大怪我、ないしは死んで 足止めの役を果たせるかどうかも解らない。
けれど僕は立った。
得体の知れない。
切り裂きジャックと呼ばれた。あの大男の前に。
「僕もいるんだ、ちゃんと相手してくれよ」
大男は立ち止まると懐の中でゴソゴソと何かをやった。
再び懐から手をだすと、その手には鉈がもう一振り握られていた。
『ユーガッタメール』
これから死ぬか死にそうになるかの大戦って時に
僕のケータイがなった。




