第37話 「二日目」
夜。
村の、広場。
八百七十五人の、会議が、続いていた。
「……手が、ありません」
バルドは、言った。
「……蔓は、半分、焼かれました」
彼は、続けた。
「……煙は、一度、見られました」
「……」
「……沼も、知られました」
バルドは、言った。
「……つまり」
彼は、続けた。
「……明日は」
バルドは、言った。
「……同じ手が、通じません」
### 二
「……なら」
ガルドが、言った。
「……新しい手を、考えるしかねえな」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……でも」
彼は、続けた。
「……材料が、ありません」
「……材料?」
ジャンが、聞いた。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……武器も」
彼は、続けた。
「……人も」
バルドは、言った。
「……足りません」
### 三
そのとき。
ヴェルナーが、口を、開いた。
「……一つ、聞く」
彼は、言った。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……明日」
ヴェルナーは、続けた。
「……あの男は」
彼は、言った。
「……どこから、来る」
バルドは、しばらく、考えた。
そして、答えた。
「……わかりません」
「……考えろ」
ヴェルナーは、言った。
### 四
「……それが、指揮官の、仕事だ」
彼は、続けた。
「……はい」
バルドは、頷いた。
そして、地図を、見た。
村の、地図。
北。
東。
南。
西。
「……北は」
バルドは、言った。
「……蔓と、柵が、あります」
「……ああ」
「……東は」
彼は、続けた。
「……沼です」
「……そうだな」
ヴェルナーは、頷いた。
### 五
「……南は」
バルドは、続けた。
「……地下避難所が、あります」
彼は、言った。
「……そこを、攻められたら」
バルドは、続けた。
「……終わりです」
「……しかし」
ヴェルナーは、言った。
「……南に、回るには」
彼は、続けた。
「……村を、半周する」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……時間が、かかります」
### 六
「……では」
ヴェルナーは、言った。
「……残りは」
バルドは、答えた。
「……西です」
「……そうだ」
彼は、頷いた。
「……西には」
ヴェルナーは、続けた。
「……何がある」
バルドは、答えた。
「……何も、ありません」
「……そうだな」
ヴェルナーは、言った。
「……だから」
彼は、続けた。
「……そこから、来る」
### 七
十六人は、その結論に、頷いた。
「……では」
バルドは、言った。
「……西を、守ります」
「……誰が、行く」
ガルドが、聞いた。
バルドは、しばらく、考えた。
そして、言った。
「……北も、守らないと、いけません」
彼は、続けた。
「……はい」
「……北は、主力が、来ます」
バルドは、言った。
「……だから」
彼は、続けた。
「……人を、多く」
### 八
「……つまり」
トムが、言った。
「……西には、人を、割けない」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……何人、出せる」
ヴェルナーが、聞いた。
バルドは、答えた。
「……二人です」
十六人が、驚いた。
「……二人!?」
リナが、叫んだ。
「……はい」
彼は、答えた。
「……無理だよ!」
彼女は、言った。
### 九
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……無理です」
彼は、続けた。
「……普通なら」
バルドは、言った。
そして、二人を、見た。
ノアと、シオン。
「……お二人に」
彼は、続けた。
「……お願いしたいです」
ノアは、その言葉を、聞いた。
そして、顔を、上げた。
「……何を、すれば」
彼女は、聞いた。
### 十
バルドは、答えた。
「……止めてください」
「……止める?」
ノアは、聞いた。
「……はい」
彼は、頷いた。
「……戦わずに、ですか」
彼女は、聞いた。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……武器は」
ノアは、聞いた。
「……持たないでください」
彼は、答えた。
ノアは、その指示を、聞いた。
そして、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……何人、来ますか」
### 十一
バルドは、答えた。
「……たぶん」
彼は、続けた。
「……三百から、四百」
「……四百人を」
ノアは、言った。
「……二人で」
「……はい」
バルドは、頷いた。
ノアは、その数字を、聞いた。
そして、シオンを、見た。
シオンは、何も、言わなかった。
ただ、頷いた。
「……わかりました」
ノアは、言った。
### 十二
「……できますか」
バルドは、聞いた。
ノアは、答えた。
「……わかりません」
彼女は、続けた。
「……でも」
ノアは、言った。
「……やってみます」
「……ありがとうございます」
バルドは、頭を、下げた。
そして、続けた。
「……一つだけ」
彼は、言った。
「……はい」
「……危なくなったら」
バルドは、続けた。
「……逃げてください」
### 十三
「……はい」
ノアは、答えた。
そして、聞いた。
「……バルドさん」
「……はい」
「……一つ、質問が、あります」
彼女は、続けた。
「……なんですか」
バルドは、答えた。
ノアは、聞いた。
「……なぜ、私たちですか」
バルドは、その問いに、答えた。
「……武器が、ないからです」
### 十四
「……武器が、ない?」
ノアは、聞き返した。
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……お二人は」
彼は、続けた。
「……武器を、使いません」
「……はい」
「……つまり」
バルドは、言った。
「……相手も」
彼は、続けた。
「……武器を、使いにくい」
ノアは、その説明を、聞いた。
そして、頷いた。
「……理解しました」
### 十五
夜明け前。
村の、西側。
そこは、平坦な、草原だった。
柵も、ない。
蔓も、ない。
ただ、草が、生えているだけ。
そこに。
二人が、立っていた。
ノアと、シオン。
武器は、持っていない。
そして、鎧も、着ていない。
普段着のまま。
「……」
二人は、何も、話さなかった。
ただ、西を、見ていた。
### 十六
「……ノア」
シオンが、言った。
「……はい」
「……怖いか」
彼は、聞いた。
ノアは、しばらく、黙っていた。
そして、答えた。
「……はい」
「……」
「……シオンさんは」
彼女は、聞いた。
シオンは、答えた。
「……怖い」
「……そうですか」
ノアは、言った。
そして、少し、笑った。
「……安心しました」
### 十七
「……なぜだ」
シオンは、聞いた。
ノアは、答えた。
「……一人じゃ、ないからです」
シオンは、その言葉を、聞いた。
そして、頷いた。
「……そうだな」
彼は、言った。
そして、二人は、また、黙った。
一時間。
夜が、明けた。
そして。
西の、地平線に。
砂煙が、見えた。
### 十八
「……来ました」
ノアは、言った。
「……何人だ」
シオンは、聞いた。
彼女は、その砂煙を、見た。
そして、答えた。
「……四百です」
「……そうか」
シオンは、頷いた。
そして、聞いた。
「……作戦は」
ノアは、答えた。
「……ありません」
「……そうか」
彼は、言った。
そして、少し、笑った。
「……いつも通りだ」
### 十九
四百人が、近づいてきた。
歩兵。
そして、その先頭に、指揮官が、いた。
若い男。
三十代。
彼は、二人を、見た。
そして、動きを、止めた。
「……なんだ、あれは」
彼は、呟いた。
「……二人、です」
副官が、答えた。
「……見ればわかる」
指揮官は、言った。
「……武装は」
彼は、聞いた。
副官は、答えた。
「……ありません」
### 二十
「……罠か」
指揮官は、言った。
「……かもしれません」
副官は、答えた。
「……周囲を、探れ」
彼は、命じた。
そして、斥候が、走った。
十分後。
斥候が、戻ってきた。
「……報告します」
彼は、言った。
「……周囲に、伏兵は、ありません」
「……本当か」
指揮官は、聞いた。
「……はい」
斥候は、答えた。
「……あの二人、だけです」
### 二十一
指揮官は、その報告に、困惑した。
「……なぜだ」
彼は、呟いた。
「……なぜ、二人だけで」
そして、彼は、前進を、命じた。
「……全隊、前進」
四百人が、動いた。
そして、二人との距離が、縮まった。
百メートル。
五十メートル。
三十メートル。
そして。
二十メートルで、止まった。
### 二十二
「……そこの、二人!」
指揮官が、叫んだ。
「……道を、開けよ!」
ノアと、シオンは、答えなかった。
ただ、立っていた。
「……聞こえないのか!」
彼は、叫んだ。
「……道を、開けよ!」
沈黙。
指揮官は、苛立った。
「……最後の、警告だ!」
彼は、言った。
「……開けなければ」
指揮官は、続けた。
「……殺す!」
### 二十三
そのとき。
ノアが、顔を、上げた。
そして、指揮官を、見た。
一秒。
そして、また、俯いた。
「……」
そして、彼女は、言った。
「……ハルト・ヴェイル、さん」
指揮官の、動きが、止まった。
「……なぜ」
彼は、言った。
「……私の、名を」
### 二十四
ノアは、答えなかった。
代わりに、続けた。
「……北部、ケルン地方の、ご出身ですね」
「……!」
指揮官は、驚いた。
「……なぜ、それを」
彼は、聞いた。
ノアは、答えた。
「……訛りです」
「……」
「……そして」
彼女は、続けた。
「……剣の、握り方」
ノアは、言った。
「……ケルン式です」
### 二十五
指揮官は、その分析に、動揺した。
「……それが、なんだ」
彼は、言った。
ノアは、答えた。
「……ケルンは」
彼女は、続けた。
「……三年前」
ノアは、言った。
「……ゲルニアに、焼かれました」
指揮官の、顔が、強張った。
「……そして」
彼女は、続けた。
「……村人が」
ノアは、言った。
「……逃げました」
### 二十六
「……その人たちは」
彼女は、続けた。
「……南へ、逃げました」
「……」
「……そして」
ノアは、言った。
「……今」
彼女は、続けた。
「……この村に、います」
指揮官は、その言葉に、凍りついた。
「……何?」
彼は、言った。
「……ケルンからの、避難民が」
ノアは、続けた。
「……四十三人」
### 二十七
「……四十三」
指揮官は、繰り返した。
「……はい」
ノアは、頷いた。
「……嘘だ」
彼は、言った。
「……本当です」
彼女は、答えた。
「……証拠は」
指揮官は、聞いた。
ノアは、答えた。
「……名前を、言います」
そして、彼女は、読み上げ始めた。
「……マルタ・ゲルン」
「……ヨナス・ヴァイス」
「……エレン・ホフ」
### 二十八
指揮官は、その名を、聞いた。
そして。
顔色を、失った。
「……止めろ」
彼は、言った。
しかし、ノアは、続けた。
「……クラウス・ベルガー」
「……ハンナ・ベルガー」
「……そして」
彼女は、言った。
「……ミレーナ・ヴェイル」
指揮官の、体が、震えた。
### 二十九
「……ミレーナ」
彼は、呟いた。
「……ご存じですか」
ノアは、聞いた。
指揮官は、答えなかった。
そして、しばらくして、言った。
「……妹だ」
四百人が、ざわめいた。
「……生きて、いるのか」
彼は、聞いた。
「……はい」
ノアは、答えた。
「……嘘では、ないな」
指揮官は、言った。
ノアは、答えた。
「……嘘は、つきません」
### 三十
「……会わせろ」
指揮官は、言った。
「……はい」
ノアは、頷いた。
「……ただし」
彼女は、続けた。
「……条件が、あります」
「……なんだ」
彼は、聞いた。
ノアは、答えた。
「……武器を、置いてください」
指揮官は、その条件を、聞いた。
そして、しばらく、迷った。
そして、言った。
「……私だけだ」
「……はい」
ノアは、答えた。
### 三十一
彼は、剣を、置いた。
そして、一人で、前に、出た。
四百人が、その背中を、見ていた。
そして、ノアが、案内した。
村の中へ。
十分後。
一人の女性が、現れた。
三十代。
そして、その顔を、見た瞬間。
指揮官は、崩れ落ちた。
「……ミレーナ」
彼は、言った。
女性は、彼を、見た。
そして、言った。
「……兄さん?」
### 三十二
二人は、抱き合った。
そして、泣いた。
四百人は、遠くから、その光景を、見ていた。
「……なんだ、あれ」
「……妹らしいぞ」
「……生きてたのか」
ざわめきが、広がった。
そして。
一人の兵士が、呟いた。
「……俺の、家族も」
彼は、言った。
「……どこかに、いるかな」
### 三十三
ノアは、その呟きを、聞いた。
いや。
見た。
彼女は、その兵士の、口の動きを、読んでいた。
そして、シオンに、言った。
「……シオンさん」
「……」
「……あの人です」
ノアは、続けた。
「……三列目、左から、七人目」
シオンは、頷いた。
そして、歩き出した。
四百人の、方へ。
一人で。
### 三十四
兵士たちが、身構えた。
「……止まれ!」
しかし。
シオンは、止まらなかった。
そして。
その兵士の、前に、立った。
三列目、左から、七人目。
二十代の、若い兵士。
「……な、なんだ」
彼は、言った。
シオンは、答えなかった。
ただ、見ていた。
そして。
しばらくして、言った。
「……名は」
### 三十五
「……え?」
兵士は、聞き返した。
「……名は」
シオンは、繰り返した。
「……お、俺?」
「……」
シオンは、頷いた。
兵士は、しばらく、迷った。
そして、答えた。
「……トビアス・ケラーです」
シオンは、その名を、聞いた。
そして、頷いた。
そして、聞いた。
「……家族は」
### 三十六
「……え」
トビアスは、戸惑った。
「……家族は」
シオンは、繰り返した。
「……あの」
彼は、答えた。
「……北の、ザンド村に」
「……」
「……父と、母と」
トビアスは、続けた。
「……妹が」
シオンは、頷いた。
そして、振り返った。
そして、ノアを、見た。
ノアは、その名を、聞いていた。
そして、答えた。
「……います」
### 三十七
「……え?」
トビアスが、言った。
ノアは、続けた。
「……ザンド村からの、避難民」
彼女は、言った。
「……十二人」
「……」
「……その中に」
ノアは、続けた。
「……ケラーという、名字の方が」
彼女は、言った。
「……三人」
トビアスの、体が、震えた。
「……父と、母と」
彼は、呟いた。
「……妹」
### 三十八
「……確認しますか」
ノアは、聞いた。
トビアスは、答えられなかった。
ただ、頷いた。
何度も。
そして、彼は、剣を、落とした。
音が、鳴った。
そして。
その音を、聞いた、周囲の兵士たちが。
一人ずつ。
こちらを、見た。
### 三十九
「……皆さん」
ノアが、言った。
四百人が、彼女を、見た。
「……この村に」
彼女は、続けた。
「……五百人の、避難民が、います」
「……」
「……北から、逃げてきた人たちです」
ノアは、言った。
「……そして」
彼女は、続けた。
「……名簿が、あります」
「……名簿?」
一人が、聞いた。
「……はい」
ノアは、答えた。
### 四十
「……全員の、名前」
彼女は、続けた。
「……出身地」
ノアは、言った。
「……そして、家族構成」
「……」
「……私が、記録しました」
彼女は、続けた。
「……一年かけて」
四百人は、その言葉を、聞いた。
そして、ノアは、言った。
「……見ますか」
### 四十一
沈黙。
そして。
一人が、前に、出た。
「……見たい」
彼は、言った。
そして、もう一人。
「……俺も」
さらに、一人。
「……俺の、村の名は」
そして。
四百人が。
動き始めた。
武器を、持たずに。
### 四十二
その頃。
村の、北。
主力が、攻めていた。
六百人。
そして、そこを。
十四人が、守っていた。
「……来ます!」
シルフィが、叫んだ。
「……盾!」
バルドが、命じた。
矢が、降った。
そして、盾が、それを、受けた。
しかし。
「……!」
一枚の盾が、割れた。
### 四十三
「……!」
その後ろにいた、村人が、倒れた。
「……エマさん!」
バルドが、叫んだ。
エマが、駆けた。
そして、その村人を、診た。
「……肩です」
彼女は、言った。
「……重傷」
「……助かりますか」
バルドは、聞いた。
エマは、答えた。
「……はい」
彼女は、続けた。
「……でも」
エマは、言った。
「……腕は」
彼女は、続けた。
「……動かなく、なります」
### 四十四
バルドは、その報告を、聞いた。
そして、拳を、握った。
「……バルド」
トムが、言った。
「……はい」
「……自分を、責めるな」
彼は、言った。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……でも」
彼は、続けた。
「……僕の、指示です」
「……ああ」
トムは、頷いた。
「……そして」
彼は、続けた。
「……君の指示で」
トムは、言った。
「……八百人が、生きてる」
### 四十五
正午。
北側の、戦闘は、激しくなっていた。
六百人が、柵に、取りついた。
そして、それを、壊そうとした。
「……ドグさん!」
バルドが、叫んだ。
「……おう!」
ドグが、動いた。
そして、柵の内側から。
ハンマーで、地面を、叩いた。
すると。
柵が、震えた。
そして、取りついていた兵士が。
振り落とされた。
### 四十六
「……なんだ、今のは」
兵士が、叫んだ。
「……共振です」
レンが、答えた。
「……え?」
「……この柵は」
彼は、続けた。
「……わざと、緩く、作ってあります」
レンは、言った。
「……だから」
彼は、続けた。
「……特定の、振動を、与えると」
レンは、言った。
「……大きく、揺れます」
### 四十七
「……つまり」
バルドは、言った。
「……登れません」
「……はい」
レンは、頷いた。
「……壊れませんか」
バルドは、聞いた。
「……壊れます」
レンは、答えた。
「……いつ」
彼は、聞いた。
レンは、答えた。
「……あと、五時間ほどで」
### 四十八
夕方。
柵が、崩れた。
北側の、三十メートル。
「……突入!」
指揮官が、叫んだ。
そして、百人が、村に、なだれ込んだ。
「……来ます!」
トムが、叫んだ。
「……レオンさん!」
バルドが、命じた。
「……おう!」
レオンが、駆けた。
そして、その後ろから。
シルフィの矢が、飛んだ。
### 四十九
百人と、十四人。
しかし。
十四人は、殺さなかった。
レオンは、転びながら、敵の足を、払った。
ガルドは、拳で、盾を、砕いた。
しかし、人は、殴らなかった。
リナの爆弾は、足元で、鳴った。
しかし、誰も、傷つけなかった。
音と、光だけ。
そして。
一時間後。
百人は、後退した。
### 五十
「……被害は」
バルドが、聞いた。
エマが、答えた。
「……こちら、重傷、三名」
彼女は、続けた。
「……軽傷、四十七名」
「……死者は」
彼は、聞いた。
「……ゼロです」
エマは、答えた。
「……向こうは」
バルドは、聞いた。
トムが、答えた。
「……たぶん、負傷者、百名以上」
彼は、続けた。
「……でも」
トムは、言った。
「……死者は、ゼロだ」
### 五十一
日没。
二日目が、終わった。
第一師団は、後退した。
そして、村では。
八百七十五人が、生きていた。
死者、ゼロ。
「……二日」
ジャンが、呟いた。
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……あと、一日だ」
彼は、言った。
「……はい」
バルドは、答えた。
しかし。
その顔は、前日より、暗かった。
### 五十二
「……どうした」
ジャンが、聞いた。
バルドは、答えた。
「……柵が」
彼は、続けた。
「……壊れました」
「……ああ」
「……明日は」
バルドは、言った。
「……守るものが、ありません」
彼は、続けた。
「……そして」
バルドは、言った。
「……重傷者が、三人」
### 五十三
そのとき。
ノアが、戻ってきた。
そして、バルドに、報告した。
「……西側は」
彼女は、言った。
「……止まりました」
「……本当ですか」
バルドは、聞いた。
「……はい」
ノアは、頷いた。
「……どうやって」
彼は、聞いた。
ノアは、答えた。
「……名前を、呼びました」
### 五十四
「……名前?」
バルドは、聞いた。
「……はい」
ノアは、頷いた。
「……四百人の、うち」
彼女は、続けた。
「……三十七人が」
ノアは、言った。
「……この村に、家族が、いました」
十六人が、驚いた。
「……三十七人!?」
リナが、叫んだ。
「……はい」
ノアは、答えた。
### 五十五
「……なぜ、そんなに」
バルドは、聞いた。
ノアは、答えた。
「……当然です」
彼女は、続けた。
「……五百人の、避難民が、います」
「……はい」
「……その人たちの、家族は」
ノアは、言った。
「……どこかに、います」
彼女は、続けた。
「……そして」
ノアは、言った。
「……多くが」
彼女は、続けた。
「……軍に、入ります」
### 五十六
「……なぜですか」
エマが、聞いた。
ノアは、答えた。
「……村を、失ったからです」
彼女は、続けた。
「……仕事が、ありません」
「……」
「……食べるために」
ノアは、言った。
「……軍に、入ります」
十六人は、その説明を、聞いた。
そして、トムが、言った。
「……つまり」
彼は、続けた。
「……あの軍の中に」
トムは、言った。
「……村人の、家族が、いる」
### 五十七
「……はい」
ノアは、頷いた。
「……何人、くらい」
バルドが、聞いた。
ノアは、答えた。
「……わかりません」
彼女は、続けた。
「……でも」
ノアは、言った。
「……西側で、三十七人でした」
彼女は、続けた。
「……千人なら」
ノアは、言った。
「……九十人前後だと、思います」
### 五十八
バルドは、その数字を、聞いた。
そして、しばらく、考えた。
そして、言った。
「……ノアさん」
「……はい」
「……名簿を」
彼は、続けた。
「……全部、写せますか」
ノアは、答えた。
「……五百人分ですか」
「……はい」
バルドは、頷いた。
ノアは、しばらく、考えた。
そして、答えた。
「……一晩、あれば」
### 五十九
「……お願いします」
バルドは、言った。
「……何に、使うんですか」
ノアは、聞いた。
彼は、答えた。
「……明日」
バルドは、続けた。
「……千人に、見せます」
十六人が、驚いた。
「……全員に?」
ミアが、聞いた。
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……そして」
彼は、続けた。
「……読み上げます」
### 六十
「……五百人分をか」
ジャンが、聞いた。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……何時間、かかる」
彼は、聞いた。
バルドは、答えた。
「……五時間ほどです」
「……その間」
ジャンは、言った。
「……攻撃は」
バルドは、答えた。
「……止まると、思います」
そして、彼は、続けた。
「……そして」
バルドは、言った。
「……五時間、稼げれば」
彼は、続けた。
「……三日目が、終わります」
第37話終了。
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## 次話予告
第38話「三日目」
最終日。
柵は、壊れた。
蔓は、焼けた。
そして、重傷者が、三人。
残された手は、一つ。
五百人の、名前。
「……読み上げます」
バルドは、そう、宣言する。
千人の、軍の前で。
しかし。
ダグラス・ヴァインは、それを、許さない。
「……耳を、塞げ」
彼は、命じる。
「……全軍、耳を、塞げ」
そして、そのとき。
一人の女が、前に、出る。
白い、翼の紋章を、背負って。
「……では、私が、話します」
エリス・ヴァレンティア。
三日間、一度も、剣を抜かなかった女。




