第36話 「一日目」
夜明け前。
村の、北。
シルフィが、目を、覚ました。
いや。
眠っていなかった。
一晩中、耳を、澄ませていたのだ。
「……来ました」
彼女は、言った。
その声は、静かだった。
しかし、村中に、伝わった。
「……距離は」
バルドが、聞いた。
「……三キロです」
シルフィは、答えた。
「……到着は」
彼は、聞いた。
彼女は、答えた。
「……一時間後」
### 二
「……避難、開始します」
バルドは、言った。
村の、南側。
そこに、地下避難所が、完成していた。
五百人分。
「……老人と、子供」
バルドは、続けた。
「……そして、病人」
彼は、言った。
「……全員、地下へ」
村人たちが、動き始めた。
しかし。
一人の老婆が、動かなかった。
「……ばあちゃん」
ココが、言った。
「……行かないよ」
彼女は、答えた。
### 三
「……危ないよ」
ココは、言った。
「……知ってるさ」
老婆は、答えた。
「……じゃあ」
「……でもね」
彼女は、続けた。
「……あたしが、地下にいたら」
老婆は、言った。
「……誰が、飯を、作るんだい」
ココは、その言葉に、驚いた。
「……あたしが」
彼女は、言った。
「……一人でかい?」
老婆は、聞いた。
「……八百人分を?」
「……あ」
ココは、言葉に、詰まった。
### 四
「……そういうことさ」
老婆は、笑った。
「……あたしは、台所にいる」
彼女は、続けた。
「……そこが、あたしの、持ち場だ」
「……でも」
ココは、言った。
「……ココ」
老婆は、言った。
「……はい」
「……あんた、忘れてるよ」
彼女は、続けた。
「……何を」
ココは、聞いた。
老婆は、答えた。
「……戦うのは、剣だけじゃ、ない」
### 五
そして、他の老人たちも、動かなかった。
「……わしも、残る」
「……あたしも」
「……水を、運ぶ役が、要るだろ」
「……包帯を、巻くのも」
三十人ほどの、老人が、残った。
バルドは、その様子を、見ていた。
そして、言った。
「……わかりました」
彼は、続けた。
「……でも」
バルドは、言った。
「……危なくなったら」
彼は、続けた。
「……逃げてください」
「……わかってるよ」
老婆は、答えた。
### 六
一時間後。
夜が、明けた。
そして。
村の北に。
千の、軍勢が、現れた。
整然と。
音も、なく。
そして、その前に。
一人の男が、立っていた。
ダグラス・ヴァイン。
第一師団長。
「……あれが」
レオンが、呟いた。
「……はい」
ノアが、答えた。
### 七
ダグラスは、村を、見た。
そして、その防備を、確認した。
三メートルの、柵。
蔓。
そして、魔法陣。
「……報告通りだな」
彼は、言った。
「……はい」
副官が、答えた。
「……では」
ダグラスは、続けた。
「……勧告する」
彼は、前に、出た。
そして、村に向かって、叫んだ。
「……フェアウッド村の、住民に、告ぐ!」
### 八
村の、柵の上。
バルドが、立っていた。
その隣に、トムが、いた。
そして、その後ろに、八百四十五人。
「……私は」
ダグラスは、続けた。
「……王国軍、第一師団長」
彼は、言った。
「……ダグラス・ヴァインである」
「……」
「……王命により」
ダグラスは、続けた。
「……この村を、制圧する」
### 九
「……ただし」
彼は、続けた。
「……無用な、犠牲は、望まない」
ダグラスは、言った。
「……よって、勧告する」
彼は、続けた。
「……住民は、村を、出よ」
「……」
「……武器を、捨て」
ダグラスは、言った。
「……南へ、去れ」
「……」
「……そうすれば」
彼は、続けた。
「……命は、取らない」
### 十
「……ただし」
ダグラスは、続けた。
「……大賢者と、その弟子、十六名」
彼は、言った。
「……そして、白翼傭兵団」
ダグラスは、続けた。
「……これらは」
彼は、言った。
「……引き渡せ」
村が、ざわめいた。
「……そんな」
「……ふざけるな」
「……冗談じゃねえ」
しかし。
バルドは、静かに、聞いていた。
### 十一
「……回答は」
ダグラスは、聞いた。
「……一時間、待つ」
彼は、続けた。
そして、下がろうとした。
しかし。
「……回答します」
バルドの声が、響いた。
ダグラスが、振り返った。
「……もう、か」
彼は、言った。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……よかろう」
ダグラスは、頷いた。
「……言え」
### 十二
バルドは、深く、息を、吸った。
そして、言った。
「……断ります」
千人が、その言葉を、聞いた。
「……理由は」
ダグラスは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……三つ、あります」
彼は、続けた。
「……一つ目」
バルドは、言った。
「……ここは、私たちの、家です」
### 十三
「……二つ目」
彼は、続けた。
「……八百七十五人のうち」
バルドは、言った。
「……五百人が、避難民です」
「……」
「……北から、逃げてきた人たちです」
彼は、続けた。
「……その人たちに」
バルドは、言った。
「……また、逃げろとは」
彼は、続けた。
「……言えません」
### 十四
「……三つ目」
バルドは、言った。
「……一番、大事な理由です」
彼は、続けた。
「……言え」
ダグラスは、言った。
バルドは、答えた。
「……仲間を、売りません」
「……」
「……大賢者も」
彼は、続けた。
「……傭兵団も」
バルドは、言った。
「……僕たちの、仲間です」
彼は、続けた。
「……だから」
バルドは、言った。
「……渡しません」
### 十五
ダグラスは、その回答を、聞いた。
そして、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……理解した」
彼は、続けた。
「……では」
ダグラスは、言った。
「……制圧する」
そして、彼は、後ろを、向いた。
しかし。
「……一つ、質問が、あります」
バルドの声が、した。
ダグラスは、止まった。
### 十六
「……なんだ」
彼は、聞いた。
バルドは、答えた。
「……あなたは」
彼は、続けた。
「……これを、正しいと、思いますか」
千人が、その問いを、聞いた。
ダグラスは、しばらく、黙っていた。
そして、答えた。
「……思わん」
村が、ざわめいた。
そして、バルドが、聞いた。
「……では、なぜ」
ダグラスは、答えた。
「……命令だからだ」
### 十七
「……それは」
バルドは、言った。
「……理由に、なりません」
「……なる」
ダグラスは、答えた。
「……なぜですか」
彼は、聞いた。
ダグラスは、答えた。
「……軍とは、そういうものだ」
彼は、続けた。
「……一人一人が、判断すれば」
ダグラスは、言った。
「……軍は、成り立たん」
「……」
「……そして」
彼は、続けた。
「……軍が、なければ」
ダグラスは、言った。
「……国は、滅ぶ」
### 十八
バルドは、その論理を、聞いた。
そして、答えた。
「……わかりました」
彼は、続けた。
「……では」
バルドは、言った。
「……僕からも、一つ」
「……なんだ」
ダグラスは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……僕たちは」
彼は、続けた。
「……誰も、殺しません」
千人が、その言葉に、ざわめいた。
### 十九
「……何?」
ダグラスは、聞いた。
「……誰も、殺しません」
バルドは、繰り返した。
「……戦わないのか」
彼は、聞いた。
「……戦います」
バルドは、答えた。
「……しかし」
彼は、続けた。
「……殺しません」
「……なぜだ」
ダグラスは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……あなた方は」
彼は、続けた。
「……敵では、ないからです」
### 二十
「……我々は」
ダグラスは、言った。
「……お前たちを、攻める」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……それでも、敵では、ないと」
彼は、聞いた。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……あなた方は」
彼は、続けた。
「……命令で、動いています」
「……ああ」
「……そして」
バルドは、言った。
「……その命令を、出したのは」
彼は、続けた。
「……あなた方では、ありません」
### 二十一
ダグラスは、その言葉を、聞いた。
そして、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……甘いな」
「……はい」
バルドは、答えた。
「……甘いです」
彼は、続けた。
「……でも」
バルドは、言った。
「……僕たちは」
彼は、続けた。
「……それで、ここまで、来ました」
ダグラスは、その答えを、聞いた。
そして、背を、向けた。
「……開始する」
彼は、言った。
### 二十二
攻撃が、始まった。
まず、弓兵。
三百人。
そして、矢が、放たれた。
三百本。
村に、向かって。
「……来ます!」
シルフィが、叫んだ。
「……盾!」
バルドが、叫んだ。
そして。
柵の内側に、盾が、並んだ。
ドグが、作ったものだ。
八百枚。
そして、矢が、そこに、刺さった。
### 二十三
「……被害は」
バルドが、聞いた。
エマが、答えた。
「……軽傷、三名」
彼女は、続けた。
「……重傷、ゼロ」
「……よかった」
バルドは、頷いた。
そして、ドグを、見た。
「……ドグさん」
「……おう」
「……盾、ありがとうございます」
彼は、言った。
「……当たり前だ」
ドグは、答えた。
そして、笑った。
「……俺、頑丈なもん作るの」
彼は、続けた。
「……得意なんだよ」
### 二十四
第二波。
歩兵が、前進した。
二百人。
そして、蔓に、突入した。
「……!」
足が、絡んだ。
「……切れ!」
指揮官が、叫んだ。
兵士たちが、剣で、蔓を、切った。
しかし。
切った端から。
蔓は、伸びた。
「……なんだ、これは!」
「……切れません!」
混乱が、広がった。
### 二十五
「……モモさん」
バルドが、言った。
「……はい」
「……効いています」
彼は、続けた。
「……はい」
モモは、頷いた。
そして、その光景を、見ていた。
「……あの」
彼女は、言った。
「……はい」
バルドは、答えた。
「……あの人たち」
モモは、続けた。
「……怪我、しませんか」
バルドは、その問いに、答えた。
「……しません」
彼は、続けた。
「……転ぶだけです」
### 二十六
「……よかった」
モモは、言った。
そして、少し、笑った。
「……あたし」
彼女は、続けた。
「……人を、傷つける植物は」
モモは、言った。
「……作れません」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……だから」
彼は、続けた。
「……お願いしました」
バルドは、言った。
「……止めるだけの、植物を」
### 二十七
二百人の、歩兵は。
蔓の中で、一時間、動けなかった。
そして。
撤退した。
「……第二波、撤退」
トムが、報告した。
「……損害は」
バルドが、聞いた。
「……向こうは、ゼロ」
彼は、答えた。
「……こっちも、ゼロ」
「……いいですね」
バルドは、頷いた。
そして、太陽を、見た。
「……まだ、朝です」
彼は、言った。
### 二十八
正午。
第三波。
今度は、工兵だった。
百人。
そして、彼らは、蔓を、焼き始めた。
火を、使って。
「……まずい」
モモが、言った。
「……焼かれると」
彼女は、続けた。
「……伸びません」
「……どのくらい、持ちますか」
バルドが、聞いた。
モモは、答えた。
「……二時間です」
### 二十九
「……二時間」
バルドは、頷いた。
そして、考えた。
「……リナさん」
彼は、言った。
「……はい!」
「……煙を」
バルドは、続けた。
「……たくさん」
「……了解!」
リナは、答えた。
そして、ミアと、動いた。
数分後。
村の、北側が。
煙に、包まれた。
### 三十
「……何も、見えん!」
工兵が、叫んだ。
「……火が、見えない!」
「……作業、続行!」
指揮官が、命じた。
しかし。
煙の中で。
彼らは、方向を、失った。
そして。
自分たちが、焼いた場所が。
どこか、わからなくなった。
「……どこまで、焼いた!」
「……わかりません!」
### 三十一
二時間後。
煙が、晴れた。
そして、工兵たちは。
自分たちの、成果を、見た。
蔓は。
半分ほど、焼けていた。
しかし。
「……伸びてる」
一人が、呟いた。
焼けた場所の、隣から。
新しい蔓が、伸びていた。
「……くそ!」
「……また、最初からか!」
### 三十二
「……モモさん」
バルドが、言った。
「……すごいです」
「……いえ」
モモは、首を振った。
「……あたしは」
彼女は、続けた。
「……何も、していません」
「……え?」
「……植物が」
モモは、言った。
「……勝手に、伸びています」
彼女は、続けた。
「……あたしは」
モモは、言った。
「……場所を、選んだだけです」
### 三十三
夕方。
第四波。
騎兵、五十。
彼らは、蔓を、避けて。
村の、東側から、回り込もうとした。
「……ニナさん」
バルドが、言った。
「……はい」
「……東は」
彼は、聞いた。
ニナは、答えた。
「……沼です」
「……沼?」
「……うん」
彼女は、頷いた。
「……見た目は、草原」
ニナは、続けた。
「……でも、下は、沼」
### 三十四
五十騎が、東から、突入した。
そして。
「……!」
馬が、沈んだ。
膝まで。
そして、動けなくなった。
「……なんだ、これは!」
「……沼だ!」
「……下がれ!」
騎兵たちは、慌てて、後退した。
そして、五十騎のうち。
十騎が、馬を、失った。
ただし。
騎手は、無事だった。
### 三十五
「……ニナさん」
バルドは、言った。
「……なんで、沼だと、わかったんですか」
ニナは、答えた。
「……草の、色」
「……色?」
「……うん」
彼女は、頷いた。
「……水が、多いと」
ニナは、続けた。
「……草が、濃くなる」
「……」
「……あそこだけ」
彼女は、言った。
「……色が、違った」
### 三十六
日没。
一日目が、終わった。
第一師団は、後退した。
そして、野営に、入った。
村では。
八百七十五人が、生きていた。
死者、ゼロ。
重傷者、ゼロ。
軽傷者、十二名。
「……信じられない」
ジャンが、呟いた。
「……一日、耐えたぞ」
「……はい」
バルドは、頷いた。
しかし。
その顔は、暗かった。
### 三十七
「……どうした」
ジャンが、聞いた。
バルドは、答えた。
「……向こうも」
彼は、続けた。
「……死者、ゼロです」
「……それが、まずいのか」
ジャンは、聞いた。
「……いえ」
バルドは、首を振った。
「……よかったです」
彼は、続けた。
「……でも」
バルドは、言った。
「……今日は」
彼は、続けた。
「……様子見でした」
### 三十八
「……明日から」
バルドは、続けた。
「……本気で、来ます」
「……どうなる」
ジャンは、聞いた。
彼は、答えた。
「……わかりません」
「……」
「……でも」
バルドは、続けた。
「……今日の、手は」
彼は、言った。
「……全部、使いました」
「……全部?」
ジャンは、聞いた。
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……蔓も、煙も、沼も」
### 三十九
「……明日は」
彼は、続けた。
「……同じ手は、通じません」
バルドは、言った。
「……じゃあ」
ジャンは、聞いた。
「……どうする」
バルドは、答えた。
「……考えます」
彼は、続けた。
「……今夜」
バルドは、言った。
「……八百七十五人で」
### 四十
同じ頃。
南へ、向かう街道。
大賢者は、歩いていた。
一日で、四十キロ。
普通の人間なら、不可能な距離だ。
しかし。
彼の、呼吸は、乱れていなかった。
そして。
日没。
彼は、街道の、脇で、休んだ。
そのとき。
馬の、音が、聞こえた。
### 四十一
一騎。
そして、それは、大賢者の前で、止まった。
騎手が、降りた。
甲冑。
そして、見覚えのある、顔。
「……久しぶりだな」
その男は、言った。
「……ロラン卿」
大賢者は、答えた。
ロラン・デュヴァル。
王国軍、第二師団長。
「……なぜ、ここに」
大賢者は、聞いた。
ロランは、答えた。
「……待っていました」
### 四十二
「……待っていた?」
大賢者は、聞いた。
「……はい」
ロランは、頷いた。
「……三日前から」
彼は、続けた。
「……なぜだ」
大賢者は、聞いた。
ロランは、答えた。
「……あなたが、来ると、思ったからです」
「……根拠は」
彼は、聞いた。
ロランは、答えた。
「……フェアウッド村の、危機です」
彼は、続けた。
「……そして」
ロランは、言った。
「……あなたなら、王に、会いに行く」
### 四十三
大賢者は、その推理に、頷いた。
「……鋭いな」
彼は、言った。
「……いえ」
ロランは、首を振った。
「……当然の、推理です」
彼は、続けた。
「……あなたには」
ロランは、言った。
「……それしか、手が、ありません」
「……そうだな」
大賢者は、頷いた。
そして、聞いた。
「……で」
彼は、続けた。
「……何の用だ」
### 四十四
ロランは、答えた。
「……二つです」
彼は、続けた。
「……一つ目」
ロランは、言った。
「……情報です」
「……なんだ」
大賢者は、聞いた。
彼は、答えた。
「……王都に」
ロランは、続けた。
「……入れません」
「……なぜだ」
大賢者は、聞いた。
ロランは、答えた。
「……全門に」
彼は、続けた。
「……あなたの、人相書きが、貼られています」
### 四十五
「……なるほど」
大賢者は、頷いた。
「……そして」
ロランは、続けた。
「……門の警備が」
彼は、言った。
「……通常の、三倍です」
「……ふむ」
「……つまり」
ロランは、続けた。
「……王は」
彼は、言った。
「……あなたが、来ることを」
ロランは、続けた。
「……予想しています」
### 四十六
「……そうか」
大賢者は、言った。
そして、聞いた。
「……二つ目は」
ロランは、答えた。
「……提案です」
「……なんだ」
彼は、聞いた。
ロランは、答えた。
「……私が」
彼は、続けた。
「……連れて行きます」
「……連れて行く?」
大賢者は、聞いた。
「……はい」
ロランは、頷いた。
「……どうやって」
彼は、聞いた。
ロランは、答えた。
「……捕虜として」
### 四十七
大賢者は、その提案に、眉を、上げた。
「……捕虜」
彼は、言った。
「……はい」
ロランは、頷いた。
「……私が、あなたを、捕らえた」
彼は、続けた。
「……そう、報告します」
「……」
「……そして」
ロランは、言った。
「……王の前に、連れて行きます」
大賢者は、その計画を、考えた。
そして、聞いた。
「……君は、どうなる」
### 四十八
「……私ですか」
ロランは、聞いた。
「……ああ」
大賢者は、頷いた。
「……嘘が、ばれれば」
彼は、続けた。
「……君は、処刑される」
「……はい」
ロランは、答えた。
「……知っています」
「……では、なぜ」
大賢者は、聞いた。
ロランは、しばらく、黙っていた。
そして、答えた。
「……三年前です」
### 四十九
「……三年前」
大賢者は、繰り返した。
「……はい」
ロランは、頷いた。
「……私は」
彼は、続けた。
「……命令違反を、しました」
「……ああ」
「……そして、二百人を、救いました」
ロランは、言った。
「……しかし」
彼は、続けた。
「……三日、遅れました」
「……」
「……その三日で」
ロランは、言った。
「……四百人が、死にました」
### 五十
「……あれから」
彼は、続けた。
「……三年」
ロランは、言った。
「……私は、考えていました」
「……何を」
大賢者は、聞いた。
彼は、答えた。
「……『なぜ、もっと早く、破らなかったのか』と」
「……」
「……答えは」
ロランは、続けた。
「……怖かったからです」
彼は、言った。
「……処刑が」
### 五十一
「……そして」
ロランは、続けた。
「……今」
彼は、言った。
「……また、同じ状況です」
「……」
「……フェアウッド村に」
ロランは、続けた。
「……八百人が、います」
「……ああ」
「……そして」
彼は、言った。
「……私は、また」
ロランは、続けた。
「……迷っています」
### 五十二
「……しかし」
彼は、続けた。
「……今度は」
ロランは、言った。
「……三日、待ちません」
彼は、続けた。
「……だから」
ロランは、言った。
「……ここに、来ました」
大賢者は、その言葉を、聞いた。
そして、聞いた。
「……ロラン卿」
「……はい」
「……君の、第二師団は」
大賢者は、聞いた。
「……どこにいる」
### 五十三
ロランは、答えた。
「……ここから、西に」
彼は、続けた。
「……十キロの、地点です」
「……人数は」
大賢者は、聞いた。
「……八百です」
ロランは、答えた。
「……命令は」
彼は、聞いた。
ロランは、答えた。
「……『北へ、進軍せよ』です」
「……そうか」
大賢者は、頷いた。
そして、聞いた。
「……その道は」
彼は、続けた。
「……フェアウッド村を、通るか」
### 五十四
ロランは、その問いに、答えた。
「……通りません」
「……そうか」
大賢者は、言った。
「……しかし」
ロランは、続けた。
「……寄り道は、できます」
大賢者は、その言葉に、目を、細めた。
「……ロラン卿」
彼は、言った。
「……はい」
「……それは」
大賢者は、続けた。
「……反逆だぞ」
「……はい」
ロランは、答えた。
### 五十五
「……八百人が」
大賢者は、続けた。
「……君に、従うか」
ロランは、しばらく、考えた。
そして、答えた。
「……わかりません」
彼は、続けた。
「……しかし」
ロランは、言った。
「……三年前」
彼は、続けた。
「……私が、撤退を、命じたとき」
ロランは、言った。
「……誰も、逆らいませんでした」
### 五十六
大賢者は、その言葉を、聞いた。
そして、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……ロラン卿」
「……はい」
「……一つ、頼みがある」
彼は、続けた。
「……なんですか」
ロランは、聞いた。
大賢者は、答えた。
「……村には、行くな」
ロランは、驚いた。
「……なぜ、ですか」
彼は、聞いた。
### 五十七
大賢者は、答えた。
「……あの子たちが」
彼は、続けた。
「……自分で、やると、言った」
「……しかし」
ロランは、言った。
「……千人ですよ」
「……ああ」
大賢者は、頷いた。
「……勝てません」
彼は、続けた。
「……勝たなくていい」
大賢者は、言った。
「……三日、耐えればいい」
### 五十八
「……無理です」
ロランは、言った。
「……そうかもしれん」
大賢者は、答えた。
「……では」
「……しかし」
彼は、続けた。
「……私が、助けに行けば」
大賢者は、言った。
「……あの子たちは」
彼は、続けた。
「……『自分たちでは、できなかった』と、思う」
「……」
「……それは」
大賢者は、言った。
「……勝利より、悪い」
### 五十九
ロランは、その言葉を、聞いた。
そして、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……厳しいですね」
「……ああ」
大賢者は、頷いた。
「……私は」
彼は、続けた。
「……厳しい師匠だ」
そして、彼は、少し、笑った。
「……ただし」
大賢者は、言った。
「……一つだけ」
彼は、続けた。
「……頼みたいことが、ある」
### 六十
「……なんですか」
ロランは、聞いた。
大賢者は、答えた。
「……四日目だ」
「……四日目?」
「……ああ」
彼は、頷いた。
「……四日目に」
大賢者は、続けた。
「……村へ、行ってくれ」
「……」
「……それまでは」
彼は、言った。
「……待て」
ロランは、その指示を、聞いた。
そして、聞いた。
「……もし」
彼は、続けた。
「……三日目に、村が、落ちたら」
大賢者は、答えなかった。
そして、しばらくして、言った。
「……そのときは」
彼は、続けた。
「……私の、負けだ」
第36話終了。
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## 次話予告
第37話「二日目」
一日目。
死者、ゼロ。
しかし、手は、すべて、使った。
二日目。
ダグラス・ヴァインは、戦法を、変える。
蔓を、避け。
沼を、避け。
そして。
「……西から、行く」
村の、西側。
そこには、何も、ない。
柵も。
蔓も。
そして。
そこを、守るのは。
十六人のうち、たった、二人だった。
「……行けますか」
「……はい」
ノア・ベルと、シオン・ダンマリ。
武器を、持たない、二人。




