第30話 「白翼の男」
男は、ゆっくりと、歩いてきた。
三十代。
背は高い。
痩せているが、貧相ではない。
鎧は、着ていなかった。
代わりに、旅装のような、簡素な服。
そして、腰に、一本の剣。
「……久しぶりだな」
彼は、言った。
「……エリス」
エリスは、答えなかった。
ただ、立っていた。
その顔から、血の気が、引いていた。
「……エリスさん?」
エマが、小声で、聞いた。
「……大丈夫ですか」
エリスは、答えなかった。
そして、しばらくして、言った。
「……ヴェルナー」
二
「……覚えていたか」
男——ヴェルナーは、笑った。
「……当然です」
エリスは、答えた。
「……そうか」
彼は、頷いた。
そして、周囲を、見渡した。
施設。
三十二人の、子供。
そして、十六人と、大賢者。
「……揃っているな」
ヴェルナーは、言った。
「……全部」
彼は、続けた。
「……賢者計画の、成果が」
大賢者が、前に、出た。
「……何者だ」
彼は、聞いた。
ヴェルナーは、答えた。
「……ヴェルナー・カイル」
彼は、続けた。
「……白翼傭兵団、団長です」
三
「……なぜ、ここにいる」
大賢者は、聞いた。
「……仕事です」
ヴェルナーは、答えた。
「……仕事?」
「……はい」
彼は、頷いた。
「……王国と、契約しました」
ヴェルナーは、続けた。
「……来月の、戦争」
「……」
「……その、先鋒として」
彼は、言った。
「……白翼傭兵団、九十二名」
「……そして」
ヴェルナーは、続けた。
「……この、三十二名を」
彼は、子供たちを、指した。
「……預かります」
四
「……預かる?」
バルドが、聞いた。
「……はい」
ヴェルナーは、頷いた。
「……訓練を、担当します」
彼は、続けた。
「……実戦での、使い方を」
「……使い方」
バルドは、その言葉に、拳を、握った。
「……あの子たちは」
彼は、言った。
「……道具では、ありません」
ヴェルナーは、その言葉に、笑った。
「……そうか」
彼は、言った。
「……では、何だ」
バルドは、答えた。
「……子供です」
五
「……子供」
ヴェルナーは、繰り返した。
そして、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……そうだな」
彼は、頷いた。
「……子供だ」
「……なら」
バルドは、言った。
「……わかってください」
「……わかっている」
ヴェルナーは、答えた。
「……では」
「……しかし」
彼は、続けた。
「……子供でも、戦える」
ヴェルナーは、言った。
「……そして、戦えるなら」
彼は、続けた。
「……戦場に、出る」
六
「……それが、あなたの、考えですか」
バルドは、聞いた。
「……いや」
ヴェルナーは、首を振った。
「……世界の、考えだ」
彼は、続けた。
「……私は、それに、従っているだけだ」
「……」
「……不満か」
ヴェルナーは、聞いた。
バルドは、答えた。
「……はい」
「……そうか」
彼は、笑った。
「……若いな」
ヴェルナーは、言った。
「……いいことだ」
七
彼は、三十二人に、近づいた。
そして、一人ずつ、見た。
「……ふむ」
ヴェルナーは、呟いた。
「……いい素材だ」
「……素材?」
エマが、言った。
「……ああ」
彼は、頷いた。
「……訓練されている」
ヴェルナーは、続けた。
「……そして、迷いがない」
彼は、言った。
「……戦場では、迷いが、一番、危険だ」
「……」
「……こいつらには、それがない」
ヴェルナーは、言った。
「……理想的だ」
八
そのとき。
一人が、前に、出た。
テオだった。
「……質問が、あります」
彼は、言った。
ヴェルナーは、その少年を、見た。
「……なんだ」
「……あなたの、名前は」
テオは、聞いた。
ヴェルナーは、少し、驚いた。
「……名前?」
「……はい」
「……ヴェルナー・カイルだ」
彼は、答えた。
「……ありがとうございます」
テオは、頭を、下げた。
そして、続けた。
「……私の、名前は」
彼は、言った。
「……テオです」
九
ヴェルナーの、動きが、止まった。
「……テオ?」
彼は、聞いた。
「……はい」
「……番号では、ないのか」
「……はい」
テオは、答えた。
「……番号は、十一号です」
彼は、続けた。
「……しかし」
テオは、言った。
「……名前は、テオです」
ヴェルナーは、その言葉を、聞いた。
そして、ハーヴィスを、見た。
「……施設長」
「……はい」
「……これは、どういうことだ」
ハーヴィスは、答えた。
「……実験は、失敗しました」
十
「……失敗?」
ヴェルナーは、聞き返した。
「……はい」
ハーヴィスは、頷いた。
「……被験体に」
彼は、続けた。
「……感情が、再発しました」
「……いつ」
「……三日前です」
ハーヴィスは、答えた。
「……原因は」
「……不明です」
彼は、答えた。
ヴェルナーは、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……全員か」
「……はい」
ハーヴィスは、頷いた。
「……三十二名、全員です」
十一
「……なるほど」
ヴェルナーは、頷いた。
そして、笑った。
「……つまり」
彼は、言った。
「……使えない、ということか」
「……はい」
ハーヴィスは、答えた。
「……兵器としては」
彼は、続けた。
「……使用不能です」
「……そうか」
ヴェルナーは、言った。
そして、しばらく、考えた。
そして、聞いた。
「……戦えないのか」
ハーヴィスは、答えた。
「……戦えます」
「……では」
ヴェルナーは、言った。
「……使える」
十二
「……!」
ハーヴィスの、顔が、強張った。
「……しかし」
彼は、言った。
「……感情が、あると」
「……何が、問題だ」
ヴェルナーは、聞いた。
「……命令に、従わない、可能性が」
「……ああ」
彼は、頷いた。
「……それは、問題だな」
ヴェルナーは、続けた。
「……しかし」
彼は、言った。
「……解決できる」
「……どうやって」
ハーヴィスは、聞いた。
ヴェルナーは、答えた。
「……普通の、兵士と、同じにすればいい」
十三
「……普通の?」
バルドが、聞いた。
「……ああ」
ヴェルナーは、頷いた。
「……軍隊とは、そういうものだ」
彼は、続けた。
「……兵士には、感情がある」
「……」
「……怖い。逃げたい。帰りたい」
ヴェルナーは、言った。
「……全員、思っている」
彼は、続けた。
「……それでも、戦う」
「……なぜ」
バルドは、聞いた。
ヴェルナーは、答えた。
「……逃げる方が、怖いからだ」
十四
「……逃げる方が」
バルドは、繰り返した。
「……そうだ」
ヴェルナーは、頷いた。
「……脱走すれば、処刑される」
彼は、続けた。
「……家族も、罰せられる」
「……」
「……だから、戦う」
ヴェルナーは、言った。
「……感情が、あっても」
彼は、続けた。
「……いや」
ヴェルナーは、言った。
「……感情が、あるからこそ」
彼は、続けた。
「……恐怖で、縛れる」
十五
十六人は、その言葉に、寒気を、覚えた。
「……あなたは」
エマが、言った。
「……なんだ」
「……あの子たちに」
彼女は、続けた。
「……恐怖を、教えるんですか」
ヴェルナーは、答えた。
「……ああ」
「……そんなの」
エマは、言った。
「……ひどいです」
「……そうだな」
彼は、頷いた。
「……ひどい」
ヴェルナーは、続けた。
「……しかし」
彼は、言った。
「……戦場では、それが、優しさだ」
十六
「……優しさ?」
エマは、聞き返した。
「……ああ」
ヴェルナーは、頷いた。
「……恐怖を、知らない兵士は」
彼は、続けた。
「……真っ先に、死ぬ」
「……」
「……無謀に、突っ込むからだ」
ヴェルナーは、言った。
「……しかし」
彼は、続けた。
「……恐怖を、知っていれば」
「……」
「……隠れる。逃げる。生き延びる」
ヴェルナーは、言った。
「……だから」
彼は、続けた。
「……恐怖は、必要だ」
十七
エマは、その説明を、聞いた。
そして、反論できなかった。
「……間違って、います」
彼女は、言った。
「……どこがだ」
ヴェルナーは、聞いた。
エマは、答えられなかった。
そして、しばらくして、言った。
「……わかりません」
「……そうか」
彼は、頷いた。
「……でも」
エマは、続けた。
「……間違って、います」
ヴェルナーは、その答えに、笑った。
「……いい返事だ」
彼は、言った。
「……論理では、勝てないが」
ヴェルナーは、続けた。
「……譲らない」
彼は、言った。
「……そういう奴が、一番、厄介だ」
十八
そして、ヴェルナーは、エリスを、見た。
「……エリス」
「……はい」
「……お前も、そうだった」
彼は、言った。
エリスは、答えなかった。
「……十三歳の、お前を」
ヴェルナーは、続けた。
「……拾ったときのことを、覚えている」
「……」
「……港町で、飢えていた」
彼は、言った。
「……父が、死んで」
「……」
「……一人だった」
ヴェルナーは、続けた。
「……そして、私は、お前に、聞いた」
彼は、言った。
「……『戦えるか』と」
十九
「……お前は、答えた」
ヴェルナーは、続けた。
「……『わかりません』と」
「……」
「……そして、続けた」
彼は、言った。
「……『でも、やります』と」
エリスは、俯いた。
「……あのとき」
ヴェルナーは、続けた。
「……私は、思った」
彼は、言った。
「……『こいつは、化ける』と」
「……」
「……そして、化けた」
ヴェルナーは、言った。
「……十年で」
彼は、続けた。
「……傭兵団の、最強になった」
二十
「……ヴェルナー」
エリスが、言った。
「……なんだ」
「……一つ、聞きます」
彼女は、続けた。
「……あなたは」
エリスは、言った。
「……知っていましたか」
「……何をだ」
彼女は、聞いた。
「……私が、賢者計画の、被験者だと」
ヴェルナーは、しばらく、黙っていた。
そして、答えた。
「……知っていた」
二十一
エリスの、顔から、表情が、消えた。
「……いつから」
彼女は、聞いた。
「……最初からだ」
ヴェルナーは、答えた。
「……拾ったときから」
「……」
「……偶然、拾ったのでは、ない」
彼は、続けた。
「……探していた」
エリスは、その言葉に、震えた。
「……なぜ」
「……仕事だ」
ヴェルナーは、答えた。
「……誰の」
彼女は、聞いた。
ヴェルナーは、答えた。
「……言えん」
二十二
「……答えてください」
エリスは、言った。
「……言えん」
彼は、繰り返した。
「……ヴェルナー!」
「……エリス」
彼は、言った。
「……落ち着け」
「……落ち着けるわけが!」
エリスは、叫んだ。
「……私の、十年は」
彼女は、続けた。
「……全部、仕組まれていたんですか」
ヴェルナーは、答えなかった。
そして、しばらくして、言った。
「……半分は」
「……半分?」
「……ああ」
彼は、頷いた。
「……残りの半分は」
ヴェルナーは、言った。
「……お前が、選んだことだ」
二十三
「……私が」
エリスは、呟いた。
「……そうだ」
ヴェルナーは、頷いた。
「……私は、お前を、拾った」
彼は、続けた。
「……そして、訓練した」
「……」
「……しかし」
ヴェルナーは、言った。
「……砦を落とせとは」
彼は、続けた。
「……一度も、言っていない」
エリスは、その言葉に、動きを、止めた。
「……八百人は」
ヴェルナーは、言った。
「……お前が、選んだことだ」
二十四
エリスは、その言葉を、聞いた。
そして、膝を、ついた。
「……エリスさん!」
エマが、駆け寄った。
「……大丈夫です」
エリスは、言った。
しかし、その顔は、蒼白だった。
「……エマさん」
バルドが、言った。
「……はい」
「……脈を」
エマは、エリスの手首に、触れた。
そして、顔色を、変えた。
「……速いです」
彼女は、言った。
「……そして、乱れています」
二十五
ヴェルナーは、その様子を、見ていた。
そして、言った。
「……エリス」
「……はい」
「……お前、あとどのくらいだ」
エリスは、答えなかった。
「……答えろ」
「……百六十日ほどです」
彼女は、答えた。
ヴェルナーは、その答えを、聞いた。
そして、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……そうか」
彼は、続けた。
「……思ったより、短いな」
「……知っていたんですか」
エリスは、聞いた。
「……ああ」
ヴェルナーは、答えた。
「……最初から」
二十六
「……そして」
彼は、続けた。
「……お前を、使い潰した」
エリスは、その言葉に、顔を、上げた。
「……それが、私の仕事だ」
ヴェルナーは、言った。
「……傭兵団とは、そういうものだ」
彼は、続けた。
「……人を、使う」
「……」
「……そして、壊れたら、捨てる」
ヴェルナーは、言った。
「……お前も、そうなる」
彼は、続けた。
「……しかし」
ヴェルナーは、言った。
「……今日は、違う」
二十七
「……何が、違うんですか」
バルドが、聞いた。
ヴェルナーは、答えた。
「……エリスは、もう、傭兵団の人間ではない」
彼は、続けた。
「……一年前に、抜けた」
「……」
「……だから」
ヴェルナーは、言った。
「……私は、こいつに、命令できない」
彼は、続けた。
「……ただの、他人だ」
エリスは、その言葉を、聞いた。
そして、聞いた。
「……では」
彼女は、続けた。
「……なぜ、話しかけたんですか」
二十八
ヴェルナーは、しばらく、黙っていた。
そして、答えた。
「……見たかった」
「……何を」
エリスは、聞いた。
彼は、答えた。
「……お前が、どうなったかを」
「……」
「……一年前」
ヴェルナーは、続けた。
「……お前は、団を、抜けた」
彼は、言った。
「……そして、砦を、落とした」
「……」
「……あの頃の、お前は」
ヴェルナーは、続けた。
「……死にたがっていた」
二十九
「……そして、今」
彼は、続けた。
「……お前は、村で、暮らしている」
「……」
「……子供に、剣を、教えている」
ヴェルナーは、言った。
「……知っているんですか」
エリスは、聞いた。
「……ああ」
彼は、頷いた。
「……調べた」
ヴェルナーは、続けた。
「……そして、思った」
彼は、言った。
「……『変わったな』と」
三十
「……誰のおかげだ」
ヴェルナーは、聞いた。
エリスは、答えた。
「……この人たちです」
彼女は、十六人を、見た。
「……そうか」
ヴェルナーは、頷いた。
そして、十六人を、見た。
「……お前たち」
彼は、言った。
「……はい」
バルドが、答えた。
「……名は」
「……賢者塾、第一期生です」
バルドは、答えた。
ヴェルナーは、その答えに、笑った。
「……賢者塾か」
彼は、言った。
「……いい名だ」
三十一
「……一つ、聞く」
ヴェルナーは、続けた。
「……はい」
「……お前たちは」
彼は、言った。
「……この三十二人を、どうしたい」
バルドは、答えた。
「……村に、連れて帰りたいです」
「……そして」
「……普通に、暮らしてほしいです」
彼は、続けた。
「……畑を、耕して」
「……」
「……家を、建てて」
バルドは、言った。
「……そして」
彼は、続けた。
「……美味しいものを、食べてほしいです」
三十二
ヴェルナーは、その答えを、聞いた。
そして、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……甘いな」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……甘いです」
「……そして」
ヴェルナーは、続けた。
「……無理だ」
「……なぜ」
バルドは、聞いた。
彼は、答えた。
「……王命だからだ」
ヴェルナーは、続けた。
「……私が、了承しても」
彼は、言った。
「……王は、了承しない」
三十三
「……では」
バルドは、聞いた。
「……どうすれば」
ヴェルナーは、答えた。
「……方法は、一つだ」
「……なんですか」
彼は、言った。
「……戦って、勝て」
「……戦争に、ですか」
バルドは、聞いた。
「……違う」
ヴェルナーは、首を振った。
「……私に、だ」
十六人が、緊張した。
「……あなたに?」
「……ああ」
彼は、頷いた。
「……私は、王国と、契約した」
ヴェルナーは、続けた。
「……『三十二人を、預かる』と」
三十四
「……つまり」
彼は、続けた。
「……今、この子たちの、管理責任は」
ヴェルナーは、言った。
「……私にある」
「……」
「……だから」
彼は、続けた。
「……私が、『預からない』と言えば」
ヴェルナーは、言った。
「……この子たちは、宙に浮く」
バルドは、その説明を、聞いた。
「……では」
彼は、言った。
「……預からないと、言ってください」
「……断る」
ヴェルナーは、答えた。
「……なぜ」
彼は、答えた。
「……契約金を、受け取ったからだ」
三十五
「……金、ですか」
ガルドが、言った。
「……そうだ」
ヴェルナーは、頷いた。
「……子供の、命より」
彼は、続けた。
「……金か」
「……ああ」
ヴェルナーは、答えた。
「……ふざけるな!」
ガルドが、叫んだ。
「……ガルドさん」
バルドが、止めた。
「……いや」
ヴェルナーは、言った。
「……怒っていい」
彼は、続けた。
「……私は、そういう人間だ」
ヴェルナーは、言った。
「……しかし」
彼は、続けた。
「……契約は、破れない」
三十六
「……ただし」
ヴェルナーは、続けた。
「……契約には、条件がある」
「……条件?」
バルドが、聞いた。
「……ああ」
彼は、頷いた。
「……『無傷で、預かる』だ」
ヴェルナーは、言った。
「……つまり」
彼は、続けた。
「……私が、負ければ」
「……」
「……預かれない」
ヴェルナーは、言った。
「……そして、契約は、不履行になる」
彼は、続けた。
「……金は、返す」
三十七
「……つまり」
バルドは、言った。
「……あなたに、勝てば」
「……そうだ」
ヴェルナーは、頷いた。
「……この子たちは、自由になる」
「……本当ですか」
「……嘘は、言わん」
彼は、答えた。
「……ただし」
ヴェルナーは、続けた。
「……勝てるとは、言っていない」
彼は、言った。
そして、剣に、手を、かけた。
「……言っておくが」
ヴェルナーは、続けた。
「……私は」
彼は、言った。
「……エリスより、強い」
三十八
十六人は、その言葉に、緊張した。
「……嘘です」
エマが、言った。
「……エリスさんは、王国軍の師団長級だと」
「……ああ」
ヴェルナーは、頷いた。
「……その通りだ」
彼は、続けた。
「……そして、私は」
ヴェルナーは、言った。
「……その、上だ」
「……」
「……なぜ、そんな人が」
ミアが、聞いた。
「……傭兵を?」
彼は、答えた。
「……自由だからだ」
ヴェルナーは、続けた。
「……軍にいれば、命令される」
「……」
「……傭兵なら、断れる」
三十九
「……では」
バルドは、言った。
「……今回も、断れるはずです」
ヴェルナーは、その指摘に、笑った。
「……鋭いな」
彼は、言った。
「……その通りだ」
ヴェルナーは、続けた。
「……私は、断れた」
「……なぜ、断らなかったんですか」
バルドは、聞いた。
ヴェルナーは、しばらく、黙っていた。
そして、答えた。
「……この子たちを」
彼は、続けた。
「……他の誰かが、預かるより」
ヴェルナーは、言った。
「……私が、預かった方が」
彼は、続けた。
「……マシだからだ」
四十
十六人は、その答えに、驚いた。
「……それって」
リナが、言った。
「……守るため、ってこと?」
「……違う」
ヴェルナーは、答えた。
「……私は、こいつらを、使う」
彼は、続けた。
「……戦場で」
「……」
「……しかし」
ヴェルナーは、言った。
「……無駄には、死なせない」
彼は、続けた。
「……それだけだ」
四十一
大賢者が、前に、出た。
「……ヴェルナー」
「……はい」
「……一つ、聞く」
彼は、続けた。
「……お前は、なぜ、私を、知っている」
ヴェルナーは、その問いに、笑った。
「……ようやく、聞きましたね」
彼は、言った。
「……答えろ」
「……いいでしょう」
ヴェルナーは、頷いた。
そして、答えた。
「……あなたを、探していたからです」
「……誰の依頼だ」
大賢者は、聞いた。
ヴェルナーは、答えた。
「……それも、言えません」
四十二
「……ただし」
彼は、続けた。
「……一つだけ、言います」
「……なんだ」
ヴェルナーは、言った。
「……依頼主は」
彼は、続けた。
「……あなたを、殺したがっています」
十六人が、緊張した。
「……理由は」
大賢者は、聞いた。
「……知りません」
ヴェルナーは、答えた。
「……本当か」
「……はい」
彼は、頷いた。
「……ただ」
ヴェルナーは、続けた。
「……依頼主は、こう言いました」
彼は、言った。
「……『あの男は、人間ではない』と」
四十三
その言葉に。
十六人が、大賢者を、見た。
「……先生?」
レオンが、言った。
大賢者は、答えなかった。
「……先生」
エマが、言った。
「……今の」
大賢者は、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……そうか」
彼は、続けた。
「……そこまで、来ているか」
「……先生」
バルドが、言った。
「……どういう、意味ですか」
大賢者は、答えなかった。
そして、ヴェルナーを、見た。
「……ヴェルナー」
「……はい」
「……その依頼は、続いているのか」
四十四
「……いいえ」
ヴェルナーは、答えた。
「……断りました」
「……なぜ」
大賢者は、聞いた。
彼は、答えた。
「……勝てないからです」
ヴェルナーは、続けた。
「……あなたを、見て、わかりました」
彼は、言った。
「……私では、届かない」
「……」
「……だから、断りました」
ヴェルナーは、続けた。
「……傭兵は」
彼は、言った。
「……勝てない仕事は、受けません」
四十五
「……しかし」
ヴェルナーは、続けた。
「……あなたを、殺したい者は」
彼は、言った。
「……まだ、います」
「……」
「……そして、次は」
ヴェルナーは、続けた。
「……もっと、強い者を、雇うでしょう」
大賢者は、その言葉を、聞いた。
そして、頷いた。
「……忠告か」
「……はい」
ヴェルナーは、答えた。
「……なぜ、忠告する」
大賢者は、聞いた。
彼は、答えた。
「……エリスの、恩人だからです」
四十六
その言葉に。
エリスが、顔を、上げた。
「……ヴェルナー」
「……なんだ」
「……あなた」
彼女は、続けた。
「……私のことを」
ヴェルナーは、答えなかった。
そして、しばらくして、言った。
「……十年、育てた」
彼は、続けた。
「……情くらい、湧く」
エリスは、その言葉に、涙ぐんだ。
「……ただし」
ヴェルナーは、言った。
「……それと、これは、別だ」
彼は、剣を、抜いた。
「……契約は、契約だ」
四十七
「……十六人」
ヴェルナーは、言った。
「……はい」
バルドが、答えた。
「……戦うか」
彼は、聞いた。
バルドは、しばらく、考えた。
そして、答えた。
「……一つ、確認します」
「……なんだ」
「……あなたに、勝つとは」
バルドは、聞いた。
「……どういう、状態ですか」
ヴェルナーは、答えた。
「……私が、戦えなくなることだ」
「……殺す必要は」
「……ない」
彼は、答えた。
「……わかりました」
バルドは、頷いた。
四十八
「……ただし」
ヴェルナーは、続けた。
「……条件が、ある」
「……なんですか」
「……大賢者殿は、参加しない」
彼は、言った。
「……当然です」
バルドは、答えた。
「……そして」
ヴェルナーは、続けた。
「……エリスも、参加しない」
「……!」
エリスが、立ち上がろうとした。
しかし。
「……無理です」
エマが、止めた。
「……今の脈で、戦ったら」
彼女は、続けた。
「……死にます」
四十九
エリスは、その言葉に、動きを、止めた。
そして、座り込んだ。
「……すみません」
彼女は、言った。
「……いえ」
バルドは、答えた。
「……見ていてください」
彼は、続けた。
「……僕たちが、やります」
エリスは、その言葉に、頷いた。
そして、言った。
「……バルドさん」
「……はい」
「……一つだけ」
エリスは、続けた。
「……あの人の、弱点を、教えます」
五十
「……弱点?」
バルドが、聞いた。
「……はい」
エリスは、頷いた。
「……なんですか」
彼女は、答えた。
「……ありません」
「……え?」
「……弱点は、ありません」
エリスは、続けた。
「……あの人は」
彼女は、言った。
「……十年、私が、探しました」
「……」
「……でも、見つかりませんでした」
エリスは、言った。
「……ただ」
彼女は、続けた。
「……一つだけ」
五十一
「……なんですか」
バルドは、聞いた。
エリスは、答えた。
「……あの人は」
彼女は、続けた。
「……人を、見ます」
「……見る?」
「……はい」
エリスは、頷いた。
「……戦う前に」
彼女は、続けた。
「……必ず、相手を、観察します」
「……」
「……そして、弱い順に、倒します」
エリスは、言った。
「……効率的だからです」
五十二
バルドは、その情報を、聞いた。
そして、しばらく、考えた。
そして、言った。
「……わかりました」
彼は、十五人を、見た。
「……皆さん」
「……はい」
「……作戦です」
バルドは、言った。
「……全員、同じ動きを、してください」
「……え?」
リナが、聞いた。
「……同じ?」
「……はい」
彼は、頷いた。
「……十六人、全員」
バルドは、続けた。
「……同じ、構えで」
彼は、言った。
「……同じ、速度で」
五十三
「……なんで」
ガルドが、聞いた。
バルドは、答えた。
「……誰が弱いか」
彼は、続けた。
「……わからなくするためです」
十五人は、その意図に、気づいた。
「……あ」
トムが、声を、上げた。
「……そうか」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……あの人は、弱い順に、倒します」
彼は、続けた。
「……つまり」
バルドは、言った。
「……順番を、決めるのに」
彼は、続けた。
「……時間が、かかります」
五十四
「……でも」
ミアが、言った。
「……私たち、能力が、全然、違います」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……同じ動きなんて」
「……できます」
彼は、答えた。
「……え?」
「……この三日間」
バルドは、続けた。
「……三十二人を、見ていました」
彼は、言った。
「……あの人たちは」
バルドは、続けた。
「……完全に、同じ動きを、します」
「……はい」
「……真似しましょう」
彼は、言った。
五十五
「……真似?」
レオンが、聞いた。
「……はい」
バルドは、頷いた。
そして、テオを、見た。
「……テオさん」
「……はい」
「……お願いが、あります」
バルドは、言った。
「……僕たちに」
彼は、続けた。
「……『揃える方法』を、教えてください」
テオは、その依頼に、しばらく、黙っていた。
そして、言った。
「……可能です」
彼は、続けた。
「……ただし」
テオは、言った。
「……時間が、必要です」
五十六
「……どのくらい」
バルドが、聞いた。
テオは、答えた。
「……一時間」
「……一時間で、できますか」
「……不明です」
彼は、答えた。
「……しかし」
テオは、続けた。
「……試したいです」
バルドは、その言葉に、笑った。
「……ありがとうございます」
彼は、言った。
そして、ヴェルナーを、見た。
「……ヴェルナーさん」
「……なんだ」
「……一時間、ください」
五十七
ヴェルナーは、その要求に、笑った。
「……交渉か」
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……なぜ、受ける必要がある」
彼は、聞いた。
バルドは、答えた。
「……受けないと」
彼は、続けた。
「……つまらないからです」
ヴェルナーは、その答えに、驚いた。
そして、笑った。
「……面白いな」
彼は、言った。
「……いいだろう」
ヴェルナーは、続けた。
「……一時間、やる」
五十八
同じ頃。
フェアウッド村。
七百三十二人が、村の入口に、立っていた。
そして、その前に。
王国軍が、いた。
八百人。
しかし。
一年前とは、違っていた。
彼らは、壁を、作らなかった。
説得も、しなかった。
ただ。
最初から。
弓を、構えていた。
五十九
「……ジャン」
老婆が、言った。
「……ああ」
「……前と、違うね」
「……ああ」
ジャンは、頷いた。
「……どうする」
彼女は、聞いた。
ジャンは、答えなかった。
そして、その指揮官を、見た。
若い男。
無表情。
そして、その手が、上がっていた。
下ろせば。
八百の矢が、飛ぶ。
「……くそ」
ジャンは、呟いた。
「……読まれてる」
六十
指揮官が、口を、開いた。
「……三日が、経過した」
彼は、言った。
「……退去命令に、従わなかった」
「……」
「……よって」
指揮官は、続けた。
「……全員、反逆者と、みなす」
七百三十二人が、身を、固くした。
「……最後の、警告だ」
彼は、言った。
「……今すぐ、村を、出ろ」
沈黙。
そして、ジャンが、前に、出た。
「……断る」
彼は、言った。
指揮官は、その答えを、聞いた。
そして、手を、下ろした。
第30話終了。
次話予告
第31話「二つの戦場」
北の施設。
十六人対、ヴェルナー。
一時間の、準備。
そして、始まる、絶望的な戦い。
一方、フェアウッド村。
八百の矢が、放たれる。
七百三十二人に、向かって。
しかし。
その矢は、誰にも、当たらなかった。
なぜなら。
そこに、一人の男が、立っていたからだ。
「……久しぶりだな、ジャン」
ガレス・オルディン。
三年前、村を焼いた男。
そして、一年前、村を救った男。




