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大賢者と16人の落ちこぼれ弟子  作者: 伝説の男前
第二部 育成編

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28/38

第28話 「名前を、返す」

食堂は、静まり返っていた。


七号は、器を、見つめたまま、動かなかった。


そして、ハーヴィスは、その様子を、見ていた。


「……七号」


彼は、言った。


「……はい」


「……食事を、続けろ」


七号は、答えた。


「……できません」


「……なぜだ」


「……不明です」


彼は、続けた。


「……手が、動きません」


ハーヴィスの顔から、表情が、消えた。


そして、彼は、言った。


「……七号を、隔離しろ」


二


二人の職員が、動いた。


七号の、両腕を、掴んだ。


「……待ってください」


エマが、言った。


「……何をするんですか」


ハーヴィスは、答えた。


「……検査です」


「……嘘です」


エマは、言った。


「……嘘?」


「……はい」


彼女は、頷いた。


「……あなた、今」


エマは、続けた。


「……七号を、見ませんでした」


「……」


「……人は」


彼女は、言った。


「……治す相手は、見ます」


「……」


「……見ないのは」


エマは、続けた。


「……捨てる相手だけです」


三


ハーヴィスは、答えなかった。


そして、しばらくして、言った。


「……鋭いですね」


「……処分するんですか」


エマは、聞いた。


「……はい」


彼は、答えた。


十六人が、動揺した。


「……なぜ!」


リナが、叫んだ。


「……感情の再発は」


ハーヴィスは、答えた。


「……不良の兆候です」


彼は、続けた。


「……感情が戻れば、恐怖が戻る」


「……」


「……恐怖が戻れば、戦えない」


ハーヴィスは、言った。


「……戦えない兵は」


彼は、続けた。


「……不要です」


四


「……ふざけるな」


ガルドが、言った。


「……子供だぞ」


「……いいえ」


ハーヴィスは、答えた。


「……兵器です」


その言葉に。


十六人の空気が、変わった。


「……先生」


レオンが、言った。


「……いいですか」


大賢者は、答えなかった。


「……先生!」


「……レオン」


大賢者は、言った。


「……はい」


「……私は、手を出さない」


「……!」


「……なぜですか!」


レオンは、叫んだ。


大賢者は、答えた。


「……ここは、お前たちの、戦いだ」


五


「……そうですね」


バルドが、言った。


「……バルド?」


「……先生の言う通りです」


彼は、続けた。


「……先生が、ハーヴィスさんを、止めても」


バルドは、言った。


「……たぶん、また、同じことが、起きます」


「……」


「……先生は、いつか、いなくなります」


彼は、続けた。


「……だから」


バルドは、言った。


「……僕たちが、やります」


そして、彼は、ハーヴィスを、見た。


「……ハーヴィスさん」


「……なんですか」


バルドは、言った。


「……取引を、しませんか」


六


「……取引?」


ハーヴィスは、聞き返した。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……何を、賭けるのですか」


彼は、聞いた。


バルドは、答えた。


「……一晩、ください」


「……一晩?」


「……はい」


彼は、続けた。


「……その間に」


バルドは、言った。


「……三十二人が、感情を、取り戻したら」


「……」


「……この施設を、閉じてください」


ハーヴィスは、その提案に、笑った。


「……無理です」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……たぶん、無理です」


彼は、続けた。


「……だから、賭けになります」


七


「……では」


ハーヴィスは、聞いた。


「……あなた方が、負けたら」


バルドは、答えた。


「……僕たちは、帰ります」


「……それだけ?」


「……はい」


「……不公平ですね」


ハーヴィスは、言った。


「……私が、失うものが、大きすぎる」


バルドは、しばらく、考えた。


そして、言った。


「……では」


彼は、続けた。


「……僕たちが、負けたら」


バルドは、言った。


「……僕たち十六人が」


「……」


「……被験体になります」


八


十五人が、驚いた。


「……バルド!」


レオンが、叫んだ。


「……何を言ってるんだ!」


「……はい」


バルドは、答えた。


「……無茶だと、思います」


彼は、続けた。


「……でも」


バルドは、言った。


「……この人が、欲しいのは、それです」


彼は、ハーヴィスを、見た。


「……違いますか」


ハーヴィスは、答えなかった。


そして、しばらくして、言った。


「……なぜ、そう思うのですか」


バルドは、答えた。


「……あなたは、僕たちを、中に、入れました」


九


「……戦えば、勝てたはずです」


バルドは、続けた。


「……三十二人が、いるんですから」


「……」


「……でも、あなたは、招き入れた」


彼は、言った。


「……そして、見学させた」


「……」


「……なぜですか」


バルドは、聞いた。


ハーヴィスは、答えなかった。


「……たぶん」


バルドは、続けた。


「……見せたかったんだと、思います」


「……」


「……先生に」


彼は、言った。


「……『私は、成功しました』と」


十


ハーヴィスの、手が、震えた。


「……そして」


バルドは、続けた。


「……本当は」


「……」


「……褒めて、ほしかったんじゃ、ないですか」


その言葉に。


ハーヴィスは、動きを、止めた。


長い、沈黙。


そして、彼は、言った。


「……いいでしょう」


「……取引、成立ですか」


「……はい」


ハーヴィスは、頷いた。


「……一晩、差し上げます」


彼は、続けた。


「……ただし」


「……はい」


ハーヴィスは、言った。


「……何をしても、無駄です」


十一


三十二人は、食堂に、残された。


そして、十六人と、エリスも。


大賢者は、部屋を、出ていった。


「……先生」


ミアが、言った。


「……手を出さないと、言っただろう」


彼は、答えた。


「……見ているのも、手のうちだ」


そして、去っていった。


食堂に、残ったのは。


十六人と、エリスと、三十二人。


「……さて」


バルドが、言った。


「……作戦を、説明します」


十五人が、彼を、見た。


バルドは、言った。


「……名前を、呼びます」


十二


「……名前?」


レオンが、聞いた。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……三十二人、全員の」


彼は、続けた。


「……番号じゃ、なくて」


「……」


「……本当の、名前を」


十五人は、その提案を、聞いた。


そして、リナが、言った。


「……でも」


彼女は、続けた。


「……名前、わかんないよ」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……だから」


彼は、言った。


「……探します」


十三


「……どこを」


トムが、聞いた。


バルドは、答えた。


「……記録です」


「……記録?」


「……はい」


彼は、続けた。


「……この子たちは、赤ん坊のときに、連れてこられました」


「……はい」


「……つまり」


バルドは、言った。


「……どこかの家から、来ています」


「……」


「……そして」


彼は、続けた。


「……その家には、親がいて」


「……」


「……名前を、つけたはずです」


十四


「……でも」


ミアが、言った。


「……その記録、ありますか」


バルドは、答えた。


「……あります」


「……なぜ、わかるんですか」


彼は、答えた。


「……ハーヴィスさんが、持っているからです」


「……え?」


「……たぶん、捨てていません」


バルドは、続けた。


「……なぜなら」


彼は、言った。


「……十一号が、持っていたからです」


十五人は、その言葉に、気づいた。


「……死亡記録の、写し」


エマが、呟いた。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……あれを、写せたということは」


彼は、続けた。


「……原本が、あるということです」


十五


「……そして」


バルドは、続けた。


「……記録を、残す人は」


彼は、言った。


「……全部、残します」


「……」


「……死亡記録だけ、残して」


バルドは、続けた。


「……出生記録を、捨てる人は」


彼は、言った。


「……いません」


十五人は、その推論に、頷いた。


「……なるほど」


トムが、言った。


「……で」


彼は、聞いた。


「……どこにある?」


バルドは、答えた。


「……ノアさん」


「……はい」


「……お願いできますか」


十六


ノアは、頷いた。


そして、食堂を、出た。


シオンが、続いた。


二人は、施設の、廊下を、歩いた。


そして、ノアは、観察した。


床。


壁。


そして、扉。


「……」


「……」


二人は、何も、話さなかった。


そして、三十分後。


ノアは、一つの扉の、前で、止まった。


地下への、階段。


その入口だった。


「……ここです」


彼女は、言った。


十七


「……なぜ、わかった」


後ろから、声が、した。


十一号だった。


彼は、二人を、追ってきていた。


「……床です」


ノアは、答えた。


「……床?」


「……はい」


彼女は、頷いた。


「……この施設の床は、清掃されています」


ノアは、続けた。


「……でも」


「……」


「……この扉の前だけ」


彼女は、言った。


「……傷が、多いです」


十八


「……傷?」


十一号が、聞いた。


「……はい」


ノアは、答えた。


「……人が、頻繁に、通っています」


彼女は、続けた。


「……そして」


「……」


「……重いものを、運んでいます」


ノアは、言った。


「……たぶん、書類の箱です」


十一号は、その説明を、聞いた。


そして、言った。


「……正解です」


彼は、続けた。


「……記録庫は、地下です」


「……開けられますか」


ノアは、聞いた。


十一号は、答えた。


「……鍵が、必要です」


十九


「……誰が、持っていますか」


「……施設長です」


十一号は、答えた。


「……そうですか」


ノアは、頷いた。


そして、シオンを、見た。


シオンは、頷いた。


そして、歩き出した。


「……どこへ?」


十一号が、聞いた。


ノアは、答えた。


「……もらいに」


「……許可は、出ません」


彼は、言った。


「……そうですか」


ノアは、答えた。


そして、続けた。


「……でも」


彼女は、言った。


「……あの人なら、もらえます」


二十


施設長の、部屋。


シオンが、扉を、開けた。


ハーヴィスは、机に、向かっていた。


「……なんですか」


彼は、聞いた。


シオンは、答えなかった。


ただ、立っていた。


そして、見ていた。


「……用件を」


ハーヴィスは、言った。


シオンは、答えなかった。


一分。


二分。


三分。


沈黙。


ハーヴィスは、その沈黙に、苛立った。


「……何か、言いなさい」


シオンは、答えなかった。


五分。


そして。


ハーヴィスは、言った。


「……鍵、ですか」


二十一


シオンは、頷いた。


「……なぜ、わかると、思うのですか」


ハーヴィスは、聞いた。


シオンは、答えなかった。


「……答えなさい」


沈黙。


そして。


ハーヴィスは、続けた。


「……あなたは」


彼は、言った。


「……私が、記録を、捨てていないと、思っている」


シオンは、頷いた。


「……なぜ」


ハーヴィスは、聞いた。


そして、シオンは、初めて、口を、開いた。


「……捨てられなかったから」


二十二


ハーヴィスの、動きが、止まった。


「……何を、根拠に」


彼は、聞いた。


シオンは、答えなかった。


そして、部屋を、見回した。


机。


本棚。


そして、その上の、写真立て。


シオンは、それを、見た。


そして、ハーヴィスを、見た。


「……」


ハーヴィスは、その視線を、追った。


そして、写真立てを、見た。


そこには。


一人の、女性が、写っていた。


「……それは」


彼は、言った。


「……妻です」


二十三


「……十年前に、死にました」


ハーヴィスは、続けた。


「……病気で」


「……」


「……なぜ、この写真を、持っているか」


彼は、言った。


「……必要では、ありません」


「……」


「……仕事に、影響も、しません」


ハーヴィスは、続けた。


「……それでも」


彼は、言った。


「……捨てられなかった」


シオンは、頷いた。


そして、言った。


「……同じです」


二十四


ハーヴィスは、しばらく、動かなかった。


そして、引き出しを、開けた。


そして、鍵を、取り出した。


「……持っていきなさい」


彼は、言った。


シオンは、それを、受け取った。


「……ただし」


ハーヴィスは、続けた。


「……無駄です」


「……」


「……名前を、呼んでも」


彼は、言った。


「……あの子たちは、反応しません」


シオンは、答えなかった。


そして、頭を、下げた。


そして、部屋を、出た。


二十五


地下、記録庫。


そこには、大量の、書類箱が、あった。


数百。


「……多いですね」


ノアが、呟いた。


「……はい」


十一号が、答えた。


彼は、二人に、ついてきていた。


「……手伝いますか」


ノアは、聞いた。


十一号は、しばらく、黙っていた。


そして、答えた。


「……不明です」


「……不明?」


「……はい」


彼は、続けた。


「……命令が、ありません」


ノアは、その答えを、聞いた。


そして、言った。


「……では、お願いします」


二十六


「……それは、命令ですか」


十一号が、聞いた。


「……いいえ」


ノアは、答えた。


「……お願いです」


「……差が、わかりません」


彼は、言った。


ノアは、答えた。


「……命令は、断れません」


彼女は、続けた。


「……お願いは、断れます」


十一号は、その説明を、聞いた。


そして、しばらく、考えた。


そして、言った。


「……手伝います」


「……ありがとうございます」


ノアは、頭を、下げた。


十一号は、その動作を、見た。


そして、言った。


「……不明です」


二十七


「……何が、ですか」


ノアは、聞いた。


十一号は、答えた。


「……今、あなたが、頭を下げました」


「……はい」


「……その結果」


彼は、続けた。


「……胸部に、変化が、ありました」


ノアは、その言葉を、聞いた。


そして、微かに、笑った。


「……それ」


彼女は、言った。


「……嬉しい、と、言います」


十一号は、その言葉を、記憶した。


そして、書類箱を、開け始めた。


二十八


三時間後。


十六人と、エリスが、記録庫に、集まっていた。


そして、全員で、書類を、探していた。


「……あった!」


リナが、叫んだ。


「……これ、出生記録です!」


彼女は、一冊の、帳簿を、掲げた。


そして、開いた。


そこには。


三十五人分の、記録が、あった。


名前。


生年月日。


出身地。


そして、両親の、名前。


「……全部、ある」


リナは、呟いた。


「……全部、書いてある」


二十九


十六人は、その帳簿を、読んだ。


そして、ノアが、写し始めた。


一人ずつ。


丁寧に。


「……一号」


彼女は、読み上げた。


「……エルナ・ヴィント」


「……二号」


「……カイ・ボルド」


「……三号」


「……リィナ・サージュ」


十六人は、その名前を、聞いた。


そして、エマが、呟いた。


「……名前が、ある」


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……当たり前ですけど」


エマは、続けた。


「……ちゃんと、ある」


三十


「……七号は」


バルドが、聞いた。


ノアは、その行を、探した。


そして、答えた。


「……七号」


彼女は、続けた。


「……ユーリ・ハルト」


「……ユーリ」


バルドは、その名を、繰り返した。


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……出身は、東の、ハルト村」


彼女は、続けた。


「……父は、大工」


「……」


「……母は」


ノアは、そこで、言葉を、止めた。


「……どうしました」


バルドが、聞いた。


ノアは、答えた。


「……備考欄に」


彼女は、続けた。


「……『母、返還を求め、再三来訪』と」


三十一


十六人は、その記述に、動きを、止めた。


「……お母さんが」


エマが、呟いた。


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……探しに、来ていたんですね」


「……はい」


彼女は、続けた。


「……そして」


ノアは、言った。


「……その下に」


「……なんて、書いてあります?」


ノアは、答えた。


「……『三年間、継続。以後、記録なし』」


三十二


「……三年」


リナが、呟いた。


「……三年間、来てたんだ」


「……はい」


「……で、来なくなった」


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……なんで」


リナは、聞いた。


誰も、答えられなかった。


そして、エリスが、言った。


「……諦めたか」


彼女は、続けた。


「……死んだか」


「……」


「……どちらかです」


十六人は、その言葉に、沈黙した。


そして、十一号が、聞いた。


「……質問が、あります」


三十三


「……なんですか」


ノアが、答えた。


十一号は、聞いた。


「……私の、記録は」


ノアは、その帳簿を、めくった。


そして、探した。


「……十一号」


彼女は、読み上げた。


「……テオ・マレン」


十一号は、その名を、聞いた。


そして、動かなかった。


「……テオ」


ノアは、繰り返した。


「……あなたの、名前です」


十一号は、答えなかった。


そして、しばらくして、言った。


「……知りません」


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……でも」


彼女は、続けた。


「……あなたの、名前です」


三十四


「……備考は」


十一号は、聞いた。


ノアは、その欄を、読んだ。


そして、しばらく、黙っていた。


「……読んでください」


十一号は、言った。


「……はい」


ノアは、答えた。


そして、読み上げた。


「……『父、抵抗。制圧の際、死亡』」


十一号は、その言葉を、聞いた。


そして、動かなかった。


「……」


長い、沈黙。


そして、彼は、言った。


「……もう一度」


「……え?」


「……もう一度、読んでください」


三十五


ノアは、もう一度、読んだ。


「……『父、抵抗。制圧の際、死亡』」


十一号は、それを、聞いた。


そして、しばらく、立っていた。


そして、言った。


「……不明です」


「……」


「……胸部が」


彼は、続けた。


「……痛みます」


「……」


「……しかし、外傷は、ありません」


十一号は、言った。


「……原因が、不明です」


エマが、その症状を、聞いた。


そして、言った。


「……それは」


彼女は、続けた。


「……悲しい、と、言います」


三十六


十一号は、その言葉を、聞いた。


そして、繰り返した。


「……悲しい」


「……はい」


エマは、頷いた。


「……記録します」


彼は、言った。


そして、紙を、取り出した。


そして、書いた。


『悲しい:胸部の痛み。外傷なし。原因は、父の死亡記録』


エマは、それを、見た。


そして、言った。


「……テオくん」


十一号は、その名に、反応した。


「……それは、私ですか」


「……はい」


エマは、答えた。


十一号は、しばらく、考えた。


そして、言った。


「……了解しました」


三十七


夜。


食堂。


三十二人が、集まっていた。


そして、その前に。


十六人が、立っていた。


「……皆さん」


バルドが、言った。


「……これから」


彼は、続けた。


「……名前を、呼びます」


三十二人は、無表情だった。


「……名前は、不要です」


一人が、言った。


「……番号で、十分です」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……そうかもしれません」


彼は、続けた。


「……でも」


バルドは、言った。


「……聞いてください」


三十八


ノアが、帳簿を、開いた。


そして、読み上げた。


「……一号」


彼女は、言った。


「……エルナ・ヴィント」


一号が、顔を、上げた。


「……北の、ヴィント村の生まれ」


ノアは、続けた。


「……父は、羊飼い」


「……」


「……母は、機織り」


彼女は、言った。


「……あなたには、姉が、二人います」


一号は、その言葉を、聞いた。


そして、答えた。


「……不明です」


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……でも、記録に、あります」


三十九


「……二号」


ノアは、続けた。


「……カイ・ボルド」


二号が、顔を、上げた。


「……西の、港町の生まれ」


彼女は、言った。


「……父は、船乗り」


「……」


「……あなたが、生まれた日」


ノアは、続けた。


「……父は、海に、出ていました」


「……」


「……帰ってきたとき」


彼女は、言った。


「……あなたは、いませんでした」


二号は、その言葉を、聞いた。


そして、答えた。


「……不明です」


四十


ノアは、続けた。


一人ずつ。


三号。


四号。


五号。


「……五号は」


彼女は、そこで、止まった。


「……亡くなっています」


ノアは、言った。


「……でも」


彼女は、続けた。


「……名前は、あります」


「……」


「……ミラ・ケント」


ノアは、言った。


「……十歳の冬に、亡くなりました」


「……」


「……訓練中に」


彼女は、続けた。


「……その日、雪が、降っていました」


四十一


十一号が、反応した。


「……なぜ、それを」


彼は、聞いた。


ノアは、答えた。


「……あなたの、記録に、書いてありました」


「……」


「……『五号、死亡。当日、降雪』と」


彼女は、続けた。


「……天気を、記録する必要は、ありません」


「……」


「……でも、あなたは、書きました」


ノアは、言った。


十一号は、答えなかった。


そして、しばらくして、言った。


「……覚えています」


「……はい」


「……雪が」


彼は、続けた。


「……ミラの、顔に、落ちました」


四十二


三十二人が、その言葉に、反応した。


一斉に。


「……今」


一人が、言った。


「……名前を、言いました」


「……はい」


十一号は、答えた。


「……番号では、ありません」


「……はい」


「……なぜですか」


十一号は、答えた。


「……不明です」


そして、彼は、続けた。


「……しかし」


「……」


「……そちらの方が」


十一号は、言った。


「……正しい気が、します」


四十三


ノアは、続けた。


六号。


そして、七号。


「……七号」


彼女は、言った。


「……ユーリ・ハルト」


七号が、顔を、上げた。


「……東の、ハルト村の生まれ」


ノアは、続けた。


「……父は、大工」


「……」


「……母は」


彼女は、そこで、一度、止まった。


そして、言った。


「……あなたを、探しに、来ました」


七号の、体が、動いた。


微かに。


しかし、確かに。


四十四


「……三年間」


ノアは、続けた。


「……何度も、この施設に、来ました」


「……」


「……『返してください』と」


彼女は、言った。


「……そして、三年目に」


ノアは、続けた。


「……記録が、途切れています」


七号は、その言葉を、聞いた。


そして、聞いた。


「……なぜ」


「……わかりません」


ノアは、答えた。


「……でも」


彼女は、続けた。


「……三年間」


ノアは、言った。


「……来ていました」


四十五


七号は、動かなかった。


そして、しばらくして。


彼の、目から。


液体が、流れた。


「……」


七号は、それに、気づいた。


そして、頬に、触れた。


そして、言った。


「……不明です」


「……」


「……眼球から、液体が」


エマが、言った。


「……それは」


彼女は、続けた。


「……涙です」


七号は、答えた。


「……知っています」


彼は、続けた。


「……しかし」


「……」


「……止まりません」


四十六


エマは、彼の前に、しゃがんだ。


そして、言った。


「……ユーリくん」


七号は、その名に、反応した。


「……止めなくて、いいです」


エマは、続けた。


「……効率が、落ちます」


七号は、言った。


「……はい」


エマは、頷いた。


「……落ちます」


彼女は、続けた。


「……でも」


エマは、言った。


「……人間は、そういうものです」


七号は、その言葉を、聞いた。


そして、泣いた。


声を、上げて。


十三年分を。


四十七


その泣き声が、食堂に、響いた。


そして。


三十一人が、それを、見ていた。


「……七号が」


一人が、言った。


「……異常です」


「……いいえ」


エマは、答えた。


「……正常です」


彼女は、続けた。


「……あなたたちが、異常です」


三十一人は、その言葉に、反応した。


「……根拠は」


一人が、聞いた。


エマは、答えた。


「……仲間が、死んだのに」


彼女は、続けた。


「……三人も」


「……」


「……誰も、泣いていません」


四十八


「……泣く必要は」


一人が、言った。


「……ありません」


「……はい」


エマは、頷いた。


「……必要は、ありません」


彼女は、続けた。


「……でも」


エマは、言った。


「……したく、なりませんか」


三十一人は、答えなかった。


そして、ノアが、続けた。


「……八号」


彼女は、言った。


「……セラ・ミント」


一人が、顔を、上げた。


「……南の、ミント村の生まれ」


ノアは、続けた。


「……あなたの、名前は」


彼女は、言った。


「……お母さんが、つけました」


四十九


ノアは、読み続けた。


九号。


十号。


十一号。


「……十一号」


彼女は、言った。


「……テオ・マレン」


十一号は、頷いた。


「……はい」


その返事に。


十六人が、驚いた。


初めて。


彼は、名前に、返事を、した。


「……テオくん」


エマが、言った。


「……はい」


彼は、答えた。


そして、続けた。


「……その呼び方の方が」


「……」


「……胸部の、反応が、良好です」


五十


ノアは、読み続けた。


十二号。


十三号。


十四号。


一人ずつ。


丁寧に。


名前。


出身地。


親の職業。


そして、備考。


その備考には。


多くの、記述が、あった。


『母、返還を求め、再三来訪』


『父、抵抗。制圧の際、死亡』


『祖母、施設前にて三日間座り込み』


『兄、十五歳。追跡を試み、負傷』


十六人は、それを、読み上げた。


そして。


三十二人は、それを、聞いた。


五十一


夜が、更けた。


そして、三十二人分の、名前が、読み終わった。


食堂は、静かだった。


しかし。


その静けさは、以前とは、違っていた。


「……」


何人かが、俯いていた。


何人かが、手を、握っていた。


そして、七号は、まだ、泣いていた。


「……皆さん」


バルドが、言った。


「……これが、あなたたちの、名前です」


彼は、続けた。


「……使うかどうかは」


バルドは、言った。


「……自由です」


五十二


そのとき。


食堂の、入口から、声が、した。


「……見事ですね」


ハーヴィスだった。


彼は、そこに、立っていた。


そして、その光景を、見ていた。


「……ハーヴィスさん」


バルドが、言った。


「……賭けは」


彼は、聞いた。


「……私の、負けです」


ハーヴィスは、答えた。


十六人が、驚いた。


「……いいんですか」


「……はい」


彼は、頷いた。


「……七号が、泣きました」


ハーヴィスは、続けた。


「……それは、感情の、再発です」


五十三


「……では」


バルドは、言った。


「……施設を」


「……閉じます」


ハーヴィスは、答えた。


「……ただし」


彼は、続けた。


「……問題が、あります」


「……なんですか」


ハーヴィスは、言った。


「……来月の、戦争です」


「……」


「……三十二人の、出撃は」


彼は、続けた。


「……王命です」


「……」


「……私が、施設を閉じても」


ハーヴィスは、言った。


「……王命は、消えません」


五十四


「……つまり」


トムが、言った。


「……この子たち、戦場に」


「……はい」


ハーヴィスは、頷いた。


「……止められません」


十六人は、その事実に、沈黙した。


「……いつ、迎えが、来ますか」


バルドが、聞いた。


ハーヴィスは、答えた。


「……三日後です」


「……三日」


「……はい」


彼は、頷いた。


「……王国軍が」


ハーヴィスは、続けた。


「……三十二人を、引き取りに、来ます」


五十五


「……逃がせませんか」


エマが、聞いた。


「……無理です」


ハーヴィスは、答えた。


「……なぜ」


「……追跡されます」


彼は、続けた。


「……そして」


「……」


「……三十二人は、逃げません」


ハーヴィスは、言った。


「……命令が、ないからです」


十六人は、その言葉に、気づいた。


「……そうか」


バルドが、呟いた。


「……この子たちは」


彼は、続けた。


「……自分で、決められない」


五十六


「……いえ」


声が、した。


十一号——テオだった。


「……テオくん?」


エマが、言った。


「……訂正が、あります」


彼は、言った。


「……何を」


「……『決められない』は」


テオは、続けた。


「……不正確です」


「……」


「……正確には」


彼は、言った。


「……『決め方を、知らない』です」


十六人は、その言葉を、聞いた。


そして、バルドが、聞いた。


「……教えたら」


彼は、続けた。


「……決められますか」


テオは、答えた。


「……不明です」


そして、続けた。


「……試したいです」


五十七


その言葉に。


十六人が、動きを、止めた。


「……今」


エマが、言った。


「……『したい』と、言いました」


「……はい」


テオは、答えた。


「……それ」


彼女は、続けた。


「……願望です」


「……はい」


テオは、頷いた。


「……記録します」


彼は、紙を、取り出した。


そして、書いた。


『したい:命令なしに、行動を選択する意思。名称、願望』


そして、彼は、言った。


「……三日間」


テオは、続けた。


「……教えてください」


「……何を」


バルドが、聞いた。


テオは、答えた。


「……決め方を」


第28話終了。


次話予告


第29話「三日間」


王国軍の到着まで、三日。


十六人は、三十二人に、教えることになる。


しかし、教えるのは、剣術ではない。


魔法でもない。


「決め方」だ。


自分で、選ぶこと。


自分で、決めること。


そして、その責任を、自分で、負うこと。


十六人は、気づく。


それは、自分たちが、この一年で、学んだことそのものだった。


一方、村では。


ジャンのもとに、一通の書状が、届いていた。


『フェアウッド村、住民全員に告ぐ』


『三日以内に、村を、明け渡せ』

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