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大賢者と16人の落ちこぼれ弟子  作者: 伝説の男前
第二部 育成編

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27/38

第27話 「三十二の器」

一


北への旅は、十日、かかった。


村を出て、街道を、北へ。


そして、ホルム砦の、跡地を、通った。


「……」


十八人は、そこで、足を、止めた。


砦は、無人だった。


門は、開いたまま。


壁には、傷一つ、ない。


「……ここで」


レオンが、呟いた。


「……八百人が」


「……はい」


エリスが、答えた。


彼女は、その門を、見つめていた。


そして、しばらくして、言った。


「……行きましょう」


「……エリスさん」


エマが、言った。


「……大丈夫ですか」


エリスは、答えた。


「……大丈夫では、ありません」


彼女は、続けた。


「……でも、行きます」


二


ホルム砦から、北へ、三日。


山地に、入った。


そこで、ニナが、活躍した。


「……ここ、水がある」


彼女は、言った。


「……でも、馬車は、通れない」


「……なぜ」


トムが、聞いた。


「……傾斜が、急すぎる」


ニナは、答えた。


「……荷物を積んだ馬車は、無理」


「……なるほど」


「……次」


彼女は、歩き出した。


二か所目。


「……ここ、道はある」


ニナは、言った。


「……でも、水が、少ない」


「……どのくらい」


「……十人分」


彼女は、答えた。


「……五十人は、無理」


「……次ですね」


バルドが、言った。


三


三か所目。


七日目の、夕方。


ニナが、立ち止まった。


そして、言った。


「……ここ」


「……水は」


「……ある」


彼女は、答えた。


「……たくさん」


「……道は」


「……ある」


ニナは、続けた。


「……しかも、整備されてる」


「……整備?」


バルドが、聞いた。


「……うん」


彼女は、頷いた。


「……石が、敷いてある」


ニナは、続けた。


「……山の中なのに」


十八人は、その道を、見た。


確かに。


石畳の道が、山の奥へ、続いていた。


「……ここです」


バルドは、言った。


四


「……ポチさん」


彼は、続けた。


「……犬を」


「……もう、出してる」


ポチは、答えた。


彼の犬たちが、先行していた。


そして、三十分後。


犬が、戻ってきた。


ポチは、その様子を、読んだ。


「……いる」


彼は、言った。


「……人が、いる」


「……何人」


「……多い」


ポチは、答えた。


「……六十人くらい」


「……六十」


バルドは、計算した。


「……子供三十二人と、職員が、三十人くらいですね」


「……たぶん」


「……武装は」


ポチは、答えた。


「……犬が、鉄の匂いがするって」


五


その夜。


十八人は、山中で、野営した。


火は、焚かなかった。


見つかる、可能性があるからだ。


「……作戦を、立てます」


バルドは、言った。


「……まず、目的の、確認です」


彼は、続けた。


「……三十二人を、助け出すこと」


「……はい」


十五人が、頷いた。


「……そして」


バルドは、言った。


「……できれば、誰も、殺さないこと」


「……できるか」


ガルドが、聞いた。


「……わかりません」


バルドは、答えた。


「……でも」


彼は、続けた。


「……相手は、研究者です」


「……」


「……兵士では、ありません」


六


「……いえ」


エリスが、言った。


「……はい?」


「……兵士は、います」


彼女は、続けた。


「……三十二人が」


十六人は、その言葉に、緊張した。


「……あの子たちは」


エリスは、言った。


「……兵士です」


彼女は、続けた。


「……そして、命令に、従います」


「……」


「……たとえ、それが」


エリスは、言った。


「……自分を、助けに来た人を、殺すことでも」


沈黙。


そして、バルドが、言った。


「……はい」


彼は、続けた。


「……だから、難しいんです」


七


「……普通なら」


バルドは、続けた。


「……敵を、倒せばいい」


「……はい」


「……でも、今回は」


彼は、言った。


「……敵が、救出対象です」


十六人は、その矛盾を、理解した。


「……倒したら、助けられません」


バルドは、続けた。


「……でも、倒さないと、こちらが、死にます」


「……」


「……どうすれば」


彼は、言った。


「……いいと、思いますか」


十五人は、考えた。


そして、しばらくして。


エマが、言った。


「……あの」


「……はい」


「……一つ、提案が、あります」


八


「……なんですか」


バルドが、聞いた。


エマは、答えた。


「……感情を、戻せませんか」


「……戻す?」


「……はい」


彼女は、頷いた。


「……どうやって」


エマは、しばらく、考えた。


そして、言った。


「……わかりません」


「……」


「……でも」


彼女は、続けた。


「……あの子たちは、感情を、削られました」


「……はい」


「……つまり」


エマは、言った。


「……元は、あったんです」


十六人は、その指摘に、気づいた。


「……あ」


トムが、声を、上げた。


「……そうか」


九


「……削られたということは」


エマは、続けた。


「……そこに、あったということです」


「……はい」


「……そして」


彼女は、言った。


「……完全に、消えたとは、限りません」


「……」


「……人間の体は」


エマは、続けた。


「……そんなに、単純では、ありません」


「……つまり」


バルドが、言った。


「……残っている、可能性が」


「……はい」


エマは、頷いた。


「……どこかに」


彼女は、続けた。


「……眠っている、かもしれません」


十


「……それを、起こすには」


バルドは、聞いた。


エマは、答えた。


「……わかりません」


「……」


「……でも」


彼女は、続けた。


「……ジャンさんの話が、ヒントだと、思います」


「……飯、ですか」


「……はい」


エマは、頷いた。


「……ジャンさんは、言いました」


彼女は、続けた。


「……『温かい飯を食って、礼を言われて、戻った』と」


「……」


「……つまり」


エマは、言った。


「……感情は、体から、戻るのかもしれません」


十一


「……体から?」


ココが、聞いた。


「……はい」


エマは、頷いた。


「……美味しい、と思う」


彼女は、続けた。


「……温かい、と思う」


「……」


「……それは、感情の、一番、手前です」


エマは、言った。


「……頭ではなく、体が、感じるものです」


ココは、その説明を、聞いた。


そして、言った。


「……じゃあ」


彼女は、続けた。


「……あたしの出番だ」


十六人が、彼女を、見た。


「……ココさん?」


「……料理、作る」


ココは、答えた。


「……三十二人分」


十二


「……それ、作戦になりますか」


リナが、聞いた。


「……なる」


ココは、答えた。


「……だって」


彼女は、続けた。


「……あの子たち、たぶん」


「……」


「……まずいもの、食べてる」


十六人は、その言葉に、考えた。


「……なぜ、そう思うんですか」


バルドが、聞いた。


ココは、答えた。


「……効率を、求めてるから」


彼女は、続けた。


「……栄養だけ、考えてる」


「……」


「……たぶん、味は、二の次」


ココは、言った。


「……そういう飯は」


彼女は、続けた。


「……食べても、心が、動かない」


十三


「……だから」


ココは、言った。


「……美味しいものを、食べさせる」


彼女は、続けた。


「……そうしたら」


「……」


「……何か、動くかもしれない」


十六人は、その提案を、聞いた。


そして、バルドが、言った。


「……採用します」


「……え?」


ココが、驚いた。


「……いいの?」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……でも、それだけじゃ」


「……はい」


彼は、答えた。


「……それは、最後の段階です」


バルドは、続けた。


「……その前に」


彼は、言った。


「……施設に、入ります」


十四


翌朝。


十八人は、施設に、接近した。


そして、その全貌を、見た。


石造りの、建物。


三階建て。


そして、その周囲を、壁が、囲んでいる。


高さ、五メートル。


「……堅いですね」


レンが、言った。


「……壊せますか」


バルドが、聞いた。


「……壊せます」


レンは、答えた。


「……でも」


彼は、続けた。


「……音が、出ます」


「……なるほど」


バルドは、頷いた。


そして、ノアを、見た。


「……ノアさん」


「……はい」


「……門の、警備は」


ノアは、その門を、観察した。


そして、答えた。


「……二人です」


十五


「……たった、二人?」


ガルドが、驚いた。


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……油断してますね」


「……いえ」


彼女は、首を振った。


「……違うと、思います」


「……え?」


「……あの二人」


ノアは、続けた。


「……普通の、警備兵です」


「……」


「……つまり」


彼女は、言った。


「……本当の警備は」


ノアは、続けた。


「……中にいます」


十六


「……三十二人、ですね」


バルドが、言った。


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……なるほど」


バルドは、考えた。


「……つまり」


彼は、続けた。


「……外は、緩い」


「……はい」


「……でも、中に、入ったら」


バルドは、言った。


「……三十二人と、戦うことになります」


「……そうです」


十六人は、その状況を、理解した。


「……どうする」


ガルドが、聞いた。


バルドは、しばらく、考えた。


そして、言った。


「……正面から、行きます」


十七


「……正面?」


レオンが、聞き返した。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……門から、堂々と」


「……なんで」


「……隠れても、無駄だからです」


彼は、答えた。


「……十一号が、いるんですよね」


「……はい」


エリスが、答えた。


「……観測特化型です」


「……なら」


バルドは、言った。


「……もう、見つかっています」


十六人は、その言葉に、気づいた。


「……あ」


「……たぶん」


バルドは、続けた。


「……昨日から」


十八


「……三日前です」


声が、した。


十八人が、振り返った。


そこに。


一人の少年が、立っていた。


十三歳。


無表情。


「……被験体、十一号」


彼は、言った。


「……あなた方の、接近を、観測しました」


「……三日前だと」


エリスが、聞いた。


「……はい」


十一号は、頷いた。


「……犬の、足跡から」


彼は、続けた。


「……頭数、九十八」


「……」


「……種類、十二種」


十一号は、言った。


「……召喚術による、大量召喚と、判断しました」


十九


ポチが、驚いた。


「……足跡だけで?」


「……はい」


十一号は、答えた。


「……すげえな」


ポチは、呟いた。


「……お前、いい観察するな」


十一号は、答えなかった。


そして、続けた。


「……施設長より、伝言です」


「……なんだ」


バルドが、聞いた。


十一号は、答えた。


「……『いらっしゃい』」


「……え?」


「……『見学して、いってください』」


彼は、言った。


「……以上です」


二十


十八人は、顔を、見合わせた。


「……罠、ですね」


トムが、言った。


「……たぶん」


バルドは、頷いた。


「……どうする」


ガルドが、聞いた。


バルドは、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……行きます」


「……おい」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……罠だと、わかっていますが」


彼は、続けた。


「……見なければ、何も、始まりません」


そして、彼は、十一号を、見た。


「……案内、してもらえますか」


十一号は、答えた。


「……はい」


二十一


施設の、内部。


そこは、清潔だった。


白い壁。


そして、静寂。


音が、しない。


六十人が、いるはずなのに。


「……静かですね」


ミアが、呟いた。


「……はい」


十一号が、答えた。


「……不要な音は、出しません」


「……不要?」


「……はい」


彼は、頷いた。


「……会話は、必要な情報のみです」


十六人は、その説明を、聞いた。


そして、廊下を、歩いた。


その途中。


窓から、中庭が、見えた。


そこに。


三十二人が、いた。


二十二


十六人は、その光景に、足を、止めた。


中庭。


そこで、三十二人の子供が、訓練していた。


十三歳。


全員、同じ服。


同じ髪型。


そして、同じ動き。


剣を、振っていた。


一斉に。


完全に、同じ速度で。


完全に、同じ角度で。


「……」


十六人は、それを、見た。


そして。


エマが、呟いた。


「……気持ち悪い」


二十三


「……エマさん?」


ミアが、驚いた。


「……ごめんなさい」


エマは、言った。


「……でも」


彼女は、続けた。


「……あれ、人間の動きじゃ、ありません」


「……どういう意味ですか」


エマは、答えた。


「……人間は、揺れます」


彼女は、続けた。


「……呼吸で。心臓で」


「……」


「……だから、完全に、同じ動きは、できません」


エマは、言った。


「……でも、あの子たち」


彼女は、続けた。


「……揺れていません」


二十四


「……揺れを、抑制しています」


十一号が、答えた。


「……なぜ」


エマが、聞いた。


「……効率のためです」


彼は、答えた。


「……揺れは、無駄です」


「……」


「……無駄を、省くと、精度が、上がります」


十一号は、続けた。


「……我々の、剣術精度は」


彼は、言った。


「……王国軍の、三倍です」


エマは、その説明を、聞いた。


そして、聞いた。


「……疲れませんか」


十一号は、答えた。


「……疲れます」


「……」


「……しかし、問題は、ありません」


二十五


「……なぜ」


エマは、聞いた。


十一号は、答えた。


「……疲労を、感じません」


「……え?」


「……感じる機能が、ありません」


彼は、続けた。


「……よって、限界まで、動けます」


エマは、その言葉に、青ざめた。


「……それ」


彼女は、言った。


「……危険です」


「……はい」


十一号は、頷いた。


「……三名が、死亡しました」


「……!」


「……訓練中に」


彼は、続けた。


「……限界を、超えて」


二十六


「……三名」


バルドが、呟いた。


「……はい」


十一号は、答えた。


「……三十二人じゃ、ないんですか」


「……当初は、三十五名でした」


彼は、答えた。


「……現在、三十二名」


十六人は、その事実に、絶句した。


「……あなたたち」


エマが、言った。


「……仲間が、死んだんですよ」


「……はい」


「……何も、思わないんですか」


十一号は、答えた。


「……思いません」


彼は、続けた。


「……ただ」


「……ただ?」


十一号は、言った。


「……記録は、しています」


二十七


「……記録?」


エマが、聞いた。


「……はい」


十一号は、頷いた。


そして、懐から、紙を、取り出した。


そこには、三つの、番号が、書かれていた。


『五号』


『二十三号』


『三十号』


そして、その横に。


日付と、時刻。


そして、死因。


「……これは」


エマが、聞いた。


「……記録です」


十一号は、答えた。


「……なぜ、持っているんですか」


彼は、答えなかった。


そして、しばらくして、言った。


「……不明です」


二十八


「……不明?」


エマが、聞き返した。


「……はい」


十一号は、頷いた。


「……記録は、施設に、保管されています」


彼は、続けた。


「……これは、私が、書いた、写しです」


「……なぜ、写したんですか」


十一号は、答えた。


「……不明です」


彼は、続けた。


「……必要では、ありません」


「……でも、持っている」


「……はい」


エマは、その事実を、見つめた。


そして、言った。


「……あなた」


彼女は、続けた。


「……忘れたく、なかったんじゃ、ないですか」


二十九


十一号は、答えなかった。


そして、しばらく、動かなかった。


そして、言った。


「……不明です」


彼は、紙を、しまった。


そして、歩き出した。


「……こちらです」


十六人は、その背中を、見た。


そして、エマが、小さく、言った。


「……残ってる」


「……え?」


ミアが、聞いた。


「……感情が」


エマは、答えた。


「……あの子の中に」


彼女は、続けた。


「……まだ、残っています」


三十


三階。


施設長の、部屋。


そこに、一人の男が、いた。


白衣。


四十代。


痩せている。


そして、眼鏡。


「……ようこそ」


彼は、言った。


「……お待ちしていました」


「……あなたが」


バルドが、聞いた。


「……施設長です」


男は、答えた。


「……名は、ハーヴィス」


彼は、続けた。


「……賢者計画・第二期、責任者です」


そして、彼は、大賢者を、見た。


「……お久しぶりです」


ハーヴィスは、言った。


「……先生」


三十一


十六人が、驚いた。


「……先生?」


レオンが、言った。


大賢者は、答えなかった。


「……ご存じ、ありませんか」


ハーヴィスは、言った。


「……私は、この方の、教え子です」


「……!」


「……二十年前」


彼は、続けた。


「……錬金術と、医術を、学びました」


ハーヴィスは、笑った。


「……優秀な、生徒でしたよ」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、言った。


「……ハーヴィス」


「……はい」


「……お前が、やっていたのか」


「……はい」


彼は、頷いた。


「……そうか」


大賢者は、言った。


そして、目を、閉じた。


三十二


「……先生」


ハーヴィスは、続けた。


「……怒っていますか」


大賢者は、答えなかった。


「……当然ですね」


ハーヴィスは、笑った。


「……しかし」


彼は、続けた。


「……私は、あなたの教えを、守っただけです」


「……なに?」


「……あなたは、言いました」


ハーヴィスは、続けた。


「……『欠陥ではない。まだ名前のない才能だ』と」


「……」


「……私は、それを、実現しました」


彼は、言った。


「……欠陥を、なくしました」


三十三


「……違う」


大賢者は、言った。


「……何がですか」


「……私は」


彼は、続けた。


「……欠陥を、なくせとは、言っていない」


「……」


「……欠陥を、才能と、呼べと、言った」


大賢者は、言った。


「……同じです」


ハーヴィスは、答えた。


「……違う」


「……どこが、違うのですか」


彼は、聞いた。


「……先生」


ハーヴィスは、続けた。


「……あなたの十六人は」


彼は、十六人を、指した。


「……今も、欠陥品です」


三十四


「……レオン・グランツ」


ハーヴィスは、言った。


「……剣を振れば、転ぶ」


「……」


「……ミア・ルーン。魔力が、足りない」


彼は、続けた。


「……ガルド・バルガス。すぐ、疲れる」


「……」


「……十六年、経ちました」


ハーヴィスは、言った。


「……そして、何も、変わっていない」


「……」


「……あなたは、証明できなかった」


彼は、続けた。


「……しかし、私は」


ハーヴィスは、言った。


「……証明しました」


彼は、窓の外を、指した。


「……あの三十二人は」


「……」


「……欠陥が、ありません」


三十五


「……そうか」


大賢者は、言った。


「……はい」


「……では、一つ、聞くが」


彼は、続けた。


「……あの子たちは、幸せか」


ハーヴィスは、答えた。


「……幸せの、定義に、よります」


「……そうか」


大賢者は、頷いた。


「……お前は、変わったな」


「……はい」


ハーヴィスは、答えた。


「……あなたが、去ってから」


彼は、続けた。


「……十六年」


「……」


「……私は、待ちました」


ハーヴィスは、言った。


「……あなたが、戻るのを」


三十六


大賢者は、その言葉に、動きを、止めた。


「……何?」


「……待っていました」


ハーヴィスは、繰り返した。


「……十六年」


彼は、続けた。


「……あなたは、突然、消えた」


「……」


「……何も、言わずに」


ハーヴィスは、言った。


「……私は、あなたの、一番弟子でした」


彼は、続けた。


「……それなのに」


「……」


「……何も、教えてもらえなかった」


ハーヴィスは、言った。


「……だから」


彼は、続けた。


「……自分で、続けました」


三十七


十六人は、その言葉を、聞いた。


そして、エリスが、呟いた。


「……この人も」


「……はい」


エマが、頷いた。


「……エリスさんと、同じです」


エリスは、その言葉に、俯いた。


「……先生」


彼女は、言った。


「……なんだ」


「……あなた」


エリスは、続けた。


「……何人、置いていったんですか」


大賢者は、答えなかった。


そして、しばらくして、言った。


「……多い」


「……」


「……そして、多くが」


彼は、続けた。


「……壊れた」


三十八


「……なぜ」


バルドが、聞いた。


「……なぜ、置いていくんですか」


大賢者は、答えなかった。


「……先生」


「……」


「……答えてください」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、言った。


「……近くにいると」


彼は、続けた。


「……人は、私に、追いつこうとする」


「……」


「……そして、無理を、する」


大賢者は、言った。


「……だから、離れる」


「……」


「……しかし」


彼は、続けた。


「……離れても、同じだった」


三十九


「……それは」


トムが、言った。


「……はい?」


「……先生の、責任じゃ、ないです」


大賢者は、彼を、見た。


「……その人たちが」


トムは、続けた。


「……勝手に、無理を、したんです」


「……いや」


大賢者は、首を振った。


「……私が、そうさせた」


「……違います」


トムは、言った。


「……先生」


彼は、続けた。


「……僕たち、十六人は」


トムは、言った。


「……無理を、していません」


四十


大賢者は、その言葉に、動きを、止めた。


「……何?」


「……無理を、していません」


トムは、繰り返した。


「……いや」


彼は、言い直した。


「……無理は、しています」


「……」


「……でも」


トムは、続けた。


「……一人で、していません」


彼は、十五人を、見た。


「……僕たち、十六人います」


トムは、言った。


「……だから」


彼は、続けた。


「……壊れません」


四十一


大賢者は、その言葉を、聞いた。


そして。


しばらく、動かなかった。


そして、言った。


「……そうか」


彼は、続けた。


「……そうだったな」


大賢者は、微かに、笑った。


「……忘れていた」


そして、彼は、ハーヴィスを、見た。


「……ハーヴィス」


「……はい」


「……お前が、壊れたのは」


大賢者は、言った。


「……一人だったからだ」


四十二


ハーヴィスの、顔が、歪んだ。


「……何を」


「……お前は、一人で、十六年、続けた」


大賢者は、続けた。


「……誰にも、相談せずに」


「……」


「……そして、こうなった」


ハーヴィスは、答えなかった。


「……ハーヴィス」


大賢者は、言った。


「……やめろ」


「……断ります」


彼は、答えた。


「……なぜだ」


ハーヴィスは、答えた。


「……もう、遅いからです」


彼は、続けた。


「……三十二人は、完成しました」


「……」


「……そして、来月」


ハーヴィスは、言った。


「……戦場に、出ます」


四十三


「……戦場?」


バルドが、聞いた。


「……はい」


ハーヴィスは、頷いた。


「……ゲルニアとの、戦争が、始まります」


彼は、続けた。


「……来月」


「……」


「……王は、すでに、決断しました」


ハーヴィスは、言った。


十六人は、その言葉に、動揺した。


「……戦争」


ミアが、呟いた。


「……はい」


「……そして」


ハーヴィスは、続けた。


「……三十二人は、その、先鋒です」


彼は、言った。


「……十三歳の、子供が」


四十四


「……止めます」


バルドが、言った。


「……無理です」


ハーヴィスは、答えた。


「……なぜ」


「……あなた方には、権限が、ありません」


彼は、続けた。


「……そして、力も」


ハーヴィスは、言った。


「……あの三十二人は」


彼は、続けた。


「……あなた方より、強い」


バルドは、その言葉を、聞いた。


そして、答えた。


「……知っています」


彼は、続けた。


「……でも」


バルドは、言った。


「……戦いに、来たわけでは、ありません」


四十五


「……では」


ハーヴィスは、聞いた。


「……何をしに?」


バルドは、答えた。


「……食事を、作りに、来ました」


「……は?」


ハーヴィスは、聞き返した。


「……食事です」


バルドは、繰り返した。


そして、ココを、見た。


「……ココさん」


「……うん」


彼女は、頷いた。


「……作っていいですか」


バルドは、ハーヴィスに、聞いた。


「……三十二人分の、夕食を」


ハーヴィスは、その提案に、困惑した。


「……何のために」


バルドは、答えた。


「……食べてもらうためです」


四十六


「……意味が、わかりません」


ハーヴィスは、言った。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……たぶん、わからないと、思います」


彼は、続けた。


「……でも」


バルドは、言った。


「……断る理由も、ないはずです」


「……」


「……毒は、入れません」


彼は、続けた。


「……確認していただいて、構いません」


「……」


「……そして」


バルドは、言った。


「……あなたも、食べてください」


四十七


ハーヴィスは、しばらく、黙っていた。


そして、聞いた。


「……何を、企んでいるのですか」


バルドは、答えた。


「……何も」


「……嘘だ」


「……本当です」


彼は、続けた。


「……ただ」


バルドは、言った。


「……あの子たちに」


彼は、続けた。


「……美味しいものを、食べてほしいだけです」


ハーヴィスは、その言葉を、聞いた。


そして、笑った。


「……甘い」


彼は、言った。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……甘いです」


四十八


「……いいでしょう」


ハーヴィスは、言った。


「……いいんですか」


「……はい」


彼は、頷いた。


「……厨房を、使ってください」


ハーヴィスは、続けた。


「……材料も、ご自由に」


「……ありがとうございます」


バルドは、頭を、下げた。


「……ただし」


ハーヴィスは、言った。


「……はい」


「……無駄です」


彼は、続けた。


「……あの子たちは」


ハーヴィスは、言った。


「……味を、感じません」


四十九


「……感じない?」


ココが、聞いた。


「……はい」


ハーヴィスは、答えた。


「……味覚は、あります」


彼は、続けた。


「……甘い、辛い、そういう区別は、できます」


「……」


「……しかし」


ハーヴィスは、言った。


「……『美味しい』が、わかりません」


「……」


「……それは、感情だからです」


彼は、続けた。


「……削りました」


ココは、その説明を、聞いた。


そして、言った。


「……ふうん」


彼女は、続けた。


「……じゃあ、やってみる」


五十


厨房。


ココは、そこに、立っていた。


大きな厨房だった。


六十人分を、作る設備。


そして、材料。


彼女は、それを、見た。


そして、顔を、しかめた。


「……何、これ」


「……どうしたの」


リナが、聞いた。


「……材料が」


ココは、答えた。


「……これしか、ない」


彼女は、指した。


そこには。


穀物。


干し肉。


そして、根菜。


それだけだった。


「……調味料は」


ココは、探した。


そして、見つけた。


塩だけ。


五十一


「……塩、だけ?」


リナが、驚いた。


「……うん」


ココは、頷いた。


「……砂糖も、香辛料も、ない」


彼女は、続けた。


「……油も、少ない」


「……なんで」


「……効率だと、思う」


ココは、答えた。


「……栄養だけ、あればいい」


彼女は、続けた。


「……味は、要らない」


ココは、その材料を、見つめた。


そして、言った。


「……ひどいな」


彼女は、続けた。


「……こんなの」


ココは、言った。


「……餌だ」


五十二


「……ココさん」


バルドが、言った。


「……作れますか」


ココは、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……作る」


「……材料、足りますか」


「……足りない」


彼女は、答えた。


「……でも」


ココは、続けた。


「……モモ」


「……はい!」


モモが、答えた。


「……この山、何かある?」


モモは、少し、考えた。


そして、答えた。


「……あります」


彼女は、続けた。


「……たぶん、たくさん」


五十三


その日、モモは、山に、入った。


そして、三時間後。


大量の、植物を、持って、帰ってきた。


「……これ、全部、食べられます」


彼女は、言った。


ココは、それを、見た。


そして、目を、輝かせた。


「……すごい」


彼女は、言った。


「……これ、香草?」


「……はい」


モモは、頷いた。


「……こっちは、甘い実です」


彼女は、続けた。


「……煮ると、もっと甘くなります」


「……これは?」


「……きのこです」


モモは、答えた。


「……出汁が、出ます」


ココは、その材料を、並べた。


そして、笑った。


「……いける」


五十四


調理が、始まった。


ココと、モモ。


そして、手伝いに、十四人。


「……何を、すればいい?」


レオンが、聞いた。


「……切って」


ココは、答えた。


「……これ、全部」


「……了解」


レオンは、包丁を、握った。


そして、切り始めた。


速い。


異常に、速い。


「……レオン、すげえな」


ガルドが、言った。


「……いや」


レオンは、答えた。


「……剣と、同じだから」


彼は、続けた。


「……刃物は、得意」


「……なるほど」


そして、彼は、途中で、転んだ。


「……あ」


しかし、包丁は、手放さなかった。


そして、転がりながら、切り続けた。


「……器用だな」


ドグが、笑った。


五十五


四時間後。


料理が、完成した。


大鍋、四つ。


そして、その匂いが、施設中に、広がった。


「……なんだ、この匂い」


警備兵が、呟いた。


「……いい匂いだ」


職員たちも、集まってきた。


「……何を、作っているんだ」


「……夕食です」


ココは、答えた。


「……よかったら、食べてください」


「……いいのか」


「……はい」


彼女は、笑った。


「……たくさん、作ったので」


五十六


食堂。


三十二人の、子供が、並んでいた。


そして、その前に。


料理が、置かれた。


湯気が、立っている。


そして、匂いが、漂っていた。


「……」


三十二人は、それを、見た。


しかし。


誰も、動かなかった。


「……食べて、いいんだよ」


ココが、言った。


しかし。


三十二人は、動かなかった。


そして、十一号が、言った。


「……許可が、必要です」


「……許可?」


「……はい」


彼は、答えた。


「……施設長の、許可が」


五十七


ハーヴィスが、食堂に、入ってきた。


そして、その料理を、見た。


「……ほう」


彼は、呟いた。


そして、言った。


「……食べなさい」


三十二人が、動いた。


一斉に。


そして、食べ始めた。


「……」


十六人は、それを、見ていた。


三十二人は、無言で、食べた。


速く。


効率的に。


そして、表情は、変わらなかった。


「……ほら」


ハーヴィスが、言った。


「……無駄でしょう」


ココは、答えなかった。


ただ、見ていた。


五十八


そして。


一人の子供が。


手を、止めた。


「……」


彼は、器を、見つめていた。


そして、動かなかった。


「……どうした」


隣の子供が、聞いた。


その子供は、答えなかった。


そして、しばらくして、言った。


「……不明です」


「……何が」


「……この、感覚が」


彼は、続けた。


「……分類、できません」


ハーヴィスが、その様子に、気づいた。


「……七号」


彼は、言った。


「……どうした」


七号は、答えた。


「……不明です」


五十九


「……説明しろ」


ハーヴィスは、言った。


七号は、しばらく、考えた。


そして、言った。


「……胸部に」


彼は、続けた。


「……圧迫感が、あります」


「……」


「……しかし、痛みでは、ありません」


七号は、言った。


「……そして」


彼は、続けた。


「……喉が、締まります」


「……」


「……呼吸に、問題は、ありません」


七号は、言った。


「……原因が、不明です」


エマが、その症状を、聞いた。


そして、静かに、言った。


「……それ」


彼女は、続けた。


「……泣きそう、って言うんです」


六十


七号は、その言葉に、動きを、止めた。


「……泣く」


彼は、呟いた。


「……はい」


エマは、答えた。


「……知っています」


七号は、言った。


「……涙腺から、液体が、分泌される現象です」


「……はい」


「……しかし」


彼は、続けた。


「……私は、泣いていません」


「……はい」


エマは、頷いた。


「……まだ」


彼女は、続けた。


「……でも」


エマは、言った。


「……そのうち、泣きます」


第27話終了。

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