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大賢者と16人の落ちこぼれ弟子  作者: 伝説の男前
第二部 育成編

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26/38

第26話 「北へ、もう一度」

一


包囲が、解けた、翌日。


村は、片付けに、追われていた。


王国軍が、残していったもの。


天幕の、跡。


焚き火の、跡。


そして。


三メートルの、木の壁。


「……これ、どうします?」


レンが、聞いた。


「……壊すか」


ドグが、答えた。


「……もったいないです」


レンは、首を振った。


「……いい木材です」


「……じゃあ」


「……解体して」


レンは、続けた。


「……家に、使いましょう」


「……なるほどな」


ドグは、笑った。


「……壁が、家になるのか」


「……はい」


レンは、頷いた。


「……その方が、いいと、思います」


二


村人たちが、壁の解体を、始めた。


そして、その作業の中で。


不思議なことが、起きていた。


「……見て」


リナが、言った。


「……なに?」


「……あれ」


彼女は、村の外を、指した。


そこに、人影が、あった。


十人ほど。


「……誰?」


「……王国軍の、兵士です」


ノアが、答えた。


「……え?」


「……残っています」


彼女は、続けた。


「……撤退せずに」


十六人は、その方へ、歩いていった。


そして、その兵士たちに、声をかけた。


「……あの」


バルドが、言った。


「……何か、ご用ですか」


一人の兵士が、答えた。


「……あの」


彼は、俯いた。


そして、言った。


「……手伝わせて、もらえませんか」


三


「……手伝う?」


バルドが、聞き返した。


「……はい」


兵士は、頷いた。


「……壁を、作ったのは、俺たちです」


彼は、続けた。


「……だから」


「……」


「……壊すのも、俺たちが」


バルドは、その言葉を、聞いた。


「……でも」


彼は、言った。


「……脱走に、なりませんか」


「……なります」


兵士は、答えた。


「……じゃあ」


「……でも」


彼は、続けた。


「……俺、もう、軍に、いたくないんです」


兵士は、俯いた。


「……三年前」


彼は、言った。


「……村を、焼いたとき」


「……」


「……俺、そこにいました」


四


十六人は、その言葉に、動きを、止めた。


「……三年前」


エマが、呟いた。


「……三百人の」


「……はい」


兵士は、頷いた。


「……俺、火を、つけました」


彼は、続けた。


「……命令されて」


「……」


「……そして、村人が、燃えるのを、見ました」


兵士の声が、震えていた。


「……その中に」


彼は、言った。


「……子供が、いました」


「……」


「……五歳くらいの、女の子です」


兵士は、続けた。


「……その子、俺を、見ました」


「……」


「……そして、何も、言わずに、死にました」


五


沈黙。


そして、兵士は、続けた。


「……昨日」


彼は、言った。


「……ここで、子供を、見ました」


「……」


「……遊んでいました」


兵士は、続けた。


「……そして、思いました」


「……」


「……『また、同じことを、するのか』と」


彼は、言った。


「……だから」


兵士は、頭を、下げた。


「……武器を、置きました」


そして、彼は、言った。


「……何かを、直したいんです」


六


バルドは、しばらく、黙っていた。


そして、答えた。


「……わかりました」


「……いいんですか」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……でも、一つ、条件が、あります」


「……なんですか」


バルドは、言った。


「……逃げないでください」


「……え?」


「……あなたは、三年前のことを、背負っています」


彼は、続けた。


「……それは、消えません」


「……」


「……でも、逃げなければ」


バルドは、言った。


「……返せます」


兵士は、その言葉に、頷いた。


「……はい」


そして、泣いた。


七


その日、十人の兵士が、村に、残った。


そして、壁の解体を、始めた。


村人たちは、最初、警戒した。


しかし。


昼になり。


ココが、彼らにも、食事を、出した。


「……これ、食べて」


「……え、いいんですか」


「……いいよ」


ココは、笑った。


「……働いたんだから」


兵士たちは、その食事を、食べた。


そして。


一人が、泣き出した。


「……どうしたの」


ココが、聞いた。


兵士は、答えた。


「……いえ」


彼は、続けた。


「……温かいものを、食べたの」


「……」


「……久しぶりで」


八


その日の午後。


大賢者と、十六人は、塾に、集まっていた。


「……で」


大賢者は、言った。


「……これから、どうする」


バルドが、答えた。


「……北に、行きます」


「……第二期計画か」


「……はい」


彼は、頷いた。


「……ただ」


バルドは、続けた。


「……問題が、あります」


「……なんだ」


「……場所です」


彼は、言った。


「……宰相閣下は、『北の山中』と、言いました」


「……ああ」


「……でも、それだけです」


バルドは、続けた。


「……正確な場所が、わかりません」


九


「……ニナさん」


彼は、聞いた。


「……なに?」


「……北の山中に、施設を、作るなら」


バルドは、続けた。


「……どこだと、思いますか」


ニナは、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……水」


「……水?」


「……うん」


彼女は、頷いた。


「……人が、住むには、水が、要る」


ニナは、続けた。


「……三十二人と、職員が、いるなら」


「……」


「……五十人以上」


彼女は、言った。


「……それだけの水が、出る場所は、少ない」


「……なるほど」


バルドは、頷いた。


「……あと」


ニナは、続けた。


「……道」


十


「……道?」


「……うん」


彼女は、頷いた。


「……物資を、運ぶ」


ニナは、続けた。


「……食糧も、薬も、王都から、運ぶはず」


「……」


「……なら、馬車が、通れる道が、要る」


彼女は、言った。


「……山の中で、水があって、馬車が、通れる場所」


ニナは、続けた。


「……そんなに、多くない」


「……いくつ、ありますか」


バルドが、聞いた。


ニナは、答えた。


「……見てみないと、わからない」


彼女は、続けた。


「……でも、たぶん」


ニナは、言った。


「……三か所くらい」


十一


「……三か所」


バルドは、頷いた。


「……なら、探せます」


彼は、続けた。


「……ポチさん」


「……おう」


「……犬は、何匹、連れて行けますか」


「……全部」


ポチは、答えた。


「……百匹」


「……百匹で、三か所を、探せますか」


「……探せる」


彼は、頷いた。


「……ただ」


ポチは、続けた。


「……何を、探せばいい?」


バルドは、少し、考えた。


そして、答えた。


「……人の匂いです」


彼は、続けた。


「……山の中に、五十人以上いる場所」


「……なるほど」


ポチは、頷いた。


「……それなら、わかる」


十二


「……よし」


バルドは、言った。


「……では、明日、出発します」


そのとき。


「……待ってください」


声が、した。


エリスだった。


彼女は、部屋の入口に、立っていた。


「……エリスさん」


エマが、言った。


「……はい」


エリスは、部屋に、入ってきた。


そして、大賢者の前に、立った。


「……先生」


「……なんだ」


「……お話が、あります」


エリスは、言った。


「……なんだ」


彼女は、答えた。


「……私、行けません」


十三


十六人が、彼女を、見た。


「……なぜ、ですか」


エマが、聞いた。


エリスは、答えた。


「……時間が、ありません」


「……」


「……あと、百七十日です」


彼女は、続けた。


「……北の山まで、往復で、二十日」


「……」


「……そして、戦闘」


エリスは、言った。


「……たぶん、私は、戻れません」


「……なら」


エマは、言った。


「……なおさら、来てください」


「……え?」


「……あと百七十日なら」


エマは、続けた。


「……村で、待っていても、同じです」


「……」


「……だったら」


彼女は、言った。


「……一緒に、来てください」


十四


エリスは、その言葉に、少し、笑った。


「……エマさん」


「……はい」


「……あなた、優しいですね」


「……いえ」


エマは、首を振った。


「……私は」


彼女は、続けた。


「……医者として、言っています」


「……医者として?」


「……はい」


エマは、頷いた。


「……エリスさんの、体は」


彼女は、続けた。


「……安静にしても、良くなりません」


「……」


「……むしろ」


エマは、言った。


「……悪くなります」


十五


「……悪くなる?」


エリスが、聞き返した。


「……はい」


エマは、頷いた。


「……なぜ、ですか」


エマは、答えた。


「……あなたの体は」


彼女は、続けた。


「……燃えています」


「……」


「……そして、その火は」


エマは、言った。


「……止まりません」


「……」


「……安静にしても、燃え続けます」


彼女は、続けた。


「……だから」


エマは、言った。


「……どうせ燃えるなら」


「……」


「……何かを、燃やしてください」


十六


エリスは、その言葉に、動きを、止めた。


そして、しばらく、黙っていた。


そして、言った。


「……エマさん」


「……はい」


「……あなた、いい医者に、なりますね」


「……いえ」


エマは、首を振った。


「……私は」


彼女は、続けた。


「……治せません」


「……」


「……だから」


エマは、言った。


「……せめて、生き方を、選んでほしいんです」


エリスは、その言葉に、頷いた。


そして。


「……先生」


彼女は、大賢者を、見た。


「……なんだ」


エリスは、聞いた。


「……私、行っても、いいですか」


十七


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、言った。


「……エリス」


「……はい」


「……約束を、覚えているか」


エリスの動きが、止まった。


「……約束?」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……一年前」


彼は、続けた。


「……私は、言った」


「……」


「……『傷を治せるかもしれん』と」


エリスは、その言葉を、思い出した。


「……はい」


彼女は、答えた。


「……そして」


大賢者は、続けた。


「……『そのためには、話さなければならない』と」


「……はい」


「……覚えています」


大賢者は、言った。


「……では、話そう」


十八


十六人が、緊張した。


「……先生」


バルドが、言った。


「……僕たちは、外に」


「……いや」


大賢者は、首を振った。


「……聞け」


「……いいんですか」


「……ああ」


彼は、頷いた。


「……お前たちにも、関係がある」


大賢者は、続けた。


「……ただし」


彼は、言った。


「……全部は、話さない」


「……」


「……今日、話すのは」


大賢者は、続けた。


「……エリスの、出自だけだ」


十九


大賢者は、椅子に、座った。


そして、しばらく、黙っていた。


そして、言った。


「……エリス」


「……はい」


「……お前の、生まれた年を、覚えているか」


「……はい」


彼女は、答えた。


「……二十六年前です」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……そして、賢者計画は」


彼は、続けた。


「……十八年前だ」


「……はい」


「……つまり」


大賢者は、言った。


「……お前は、賢者計画の、被験者では、ない」


「……はい」


エリスは、頷いた。


「……そう、思っていました」


「……しかし」


大賢者は、続けた。


「……それは、違う」


二十


エリスの体が、こわばった。


「……え?」


「……賢者計画には」


大賢者は、続けた。


「……前段階が、あった」


「……前段階」


「……ああ」


彼は、頷いた。


「……二十六年前」


大賢者は、言った。


「……最初の、実験が、行われた」


「……」


「……被験者は、一人」


彼は、続けた。


「……一人の、赤子に」


大賢者は、言った。


「……十六の能力を、すべて、与えた」


二十一


エリスは、動けなかった。


「……その赤子は」


大賢者は、続けた。


「……死ぬはずだった」


「……」


「……実際、その後の三人は、死んだ」


彼は、言った。


「……しかし」


大賢者は、続けた。


「……最初の一人は」


「……」


「……生きた」


十六人が、その言葉に、息を、呑んだ。


「……それが」


トムが、呟いた。


「……エリスさん」


「……そうだ」


大賢者は、答えた。


「……エリス・ヴァレンティア」


彼は、言った。


「……賢者計画・第零号」


二十二


エリスは、その言葉を、聞いた。


そして。


しばらく、動かなかった。


そして、言った。


「……嘘です」


「……嘘ではない」


「……嘘です!」


彼女は、叫んだ。


「……私、漁師の娘です!」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……お前の父は、漁師だった」


彼は、続けた。


「……そして、お前を、愛していた」


「……」


「……しかし」


大賢者は、言った。


「……お前は、生後三日で、連れて行かれた」


「……」


「……そして、三か月後に、返された」


彼は、続けた。


「……父も、母も、それを、知らない」


二十三


「……なぜ」


エリスは、聞いた。


「……なぜ、私が、生きたんですか」


大賢者は、答えなかった。


「……先生」


「……それは」


彼は、言った。


「……まだ、話せない」


「……!」


エリスは、拳を、握った。


「……また、それですか」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……しかし」


彼は、続けた。


「……一つだけ、言える」


「……なんですか」


大賢者は、答えた。


「……お前が生きたのは」


彼は、続けた。


「……お前が、強かったからでは、ない」


二十四


「……では」


エリスは、聞いた。


「……なぜ」


大賢者は、答えた。


「……不完全だったからだ」


「……不完全?」


「……ああ」


彼は、頷いた。


「……十六の能力を、与えたが」


大賢者は、続けた。


「……完全には、定着しなかった」


「……」


「……七割ほどだ」


彼は、言った。


「……だから、お前は、生きた」


「……」


「……しかし」


大賢者は、続けた。


「……その七割が」


彼は、言った。


「……お前の体を、燃やしている」


二十五


「……つまり」


エマが、言った。


「……はい」


大賢者は、彼女を、見た。


「……エリスさんの体は」


エマは、続けた。


「……最初から、燃えていたんですか」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……生まれたときから」


「……」


「……ゆっくりと」


彼は、続けた。


「……しかし、確実に」


エマは、その説明を、聞いた。


そして、聞いた。


「……では」


彼女は、続けた。


「……あの技は」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……『命を削る技』などでは、ない」


彼は、言った。


「……あれは」


大賢者は、続けた。


「……お前の、地の力だ」


二十六


「……地の力」


エリスが、呟いた。


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……お前は、独学で、あれを、身につけたと、言った」


「……はい」


「……違う」


彼は、言った。


「……お前は、思い出しただけだ」


「……」


「……元から、持っていたものを」


大賢者は、続けた。


「……そして」


彼は、言った。


「……それを、使うたびに」


「……」


「……燃焼が、加速した」


二十七


エリスは、その説明を、聞いた。


そして、聞いた。


「……先生」


「……なんだ」


「……なぜ、私を、置いていったんですか」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、答えた。


「……お前が、思い出さないようにだ」


「……え?」


「……私が、側にいれば」


彼は、続けた。


「……お前は、必ず、強くなろうとする」


「……」


「……そして、力を、使う」


大賢者は、言った。


「……そのたびに」


彼は、続けた。


「……燃焼が、進む」


「……」


「……だから」


大賢者は、言った。


「……離れた」


二十八


「……そんな」


エリスは、呟いた。


「……そんな理由で」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……間違っていた」


彼は、言った。


「……お前は、私がいなくても、強くなろうとした」


「……」


「……いや」


大賢者は、続けた。


「……私がいなかったから」


彼は、言った。


「……もっと、無茶をした」


「……」


「……結果」


大賢者は、続けた。


「……燃焼は、私が側にいたときより」


彼は、言った。


「……速くなった」


大賢者は、頭を、下げた。


「……すまなかった」


二十九


エリスは、その姿を、見た。


そして、泣いた。


「……先生」


彼女は、言った。


「……はい」


「……一つ、聞いていいですか」


「……ああ」


エリスは、聞いた。


「……手紙を、読みましたか」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、答えた。


「……全部」


「……!」


エリスの目が、見開かれた。


「……読んだんですか」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……十通、全部だ」


彼は、続けた。


「……そして」


大賢者は、言った。


「……全部、返事を、書いた」


三十


「……え?」


エリスは、驚いた。


「……でも、届いて」


「……出していない」


大賢者は、答えた。


「……」


「……書いて、燃やした」


彼は、続けた。


「……十通、全部だ」


エリスは、その言葉に、震えた。


「……なぜ」


彼女は、聞いた。


「……なぜ、出さなかったんですか」


大賢者は、答えた。


「……出せば」


彼は、続けた。


「……お前は、私を、探しに来る」


「……」


「……そして、力を、使う」


大賢者は、言った。


「……それが、怖かった」


彼は、続けた。


「……しかし」


大賢者は、言った。


「……それも、間違いだった」


三十一


エリスは、しばらく、泣いていた。


そして、顔を、上げた。


「……先生」


「……なんだ」


「……その手紙、覚えていますか」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……一通目」


エリスは、聞いた。


「……なんて、書きましたか」


大賢者は、答えた。


「……『どこにいますか』」


「……はい」


「……そして、私の返事は」


彼は、続けた。


「……『すぐ、近くにいる』だ」


エリスは、その言葉に、動きを、止めた。


「……近く?」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……十年間」


彼は、続けた。


「……私は、お前から、五十キロ以内にいた」


三十二


「……!」


エリスは、立ち上がった。


「……五十キロ」


「……ああ」


「……ずっと?」


「……ずっとだ」


大賢者は、答えた。


「……お前が、どこへ行っても」


彼は、続けた。


「……私は、その近くにいた」


「……」


「……見ていた」


大賢者は、言った。


「……お前が、傭兵団に、入ったときも」


「……」


「……お前が、初めて人を斬ったときも」


「……」


「……お前が、独学で、技を、身につけたときも」


彼は、続けた。


「……全部、見ていた」


三十三


「……なぜ」


エリスは、叫んだ。


「……なぜ、声を、かけてくれなかったんですか!」


大賢者は、答えた。


「……かければ」


彼は、続けた。


「……お前は、私に、追いつこうとする」


「……」


「……そして、燃える」


大賢者は、言った。


「……だから、見ているしか、なかった」


「……」


「……そして」


彼は、続けた。


「……八百人が、死んだ」


大賢者は、言った。


「……私が、声をかけていれば」


彼は、続けた。


「……あれは、起きなかった」


三十四


エリスは、その言葉を、聞いた。


そして。


大賢者の前に、座り込んだ。


「……先生」


「……なんだ」


「……私」


彼女は、言った。


「……ずっと、憎んでいました」


「……ああ」


「……捨てられたと、思って」


エリスは、続けた。


「……でも」


彼女は、言った。


「……もっと、辛かったのは」


「……」


「……先生だったんですね」


大賢者は、答えなかった。


そして。


その手が、微かに、震えていた。


三十五


長い、沈黙。


そして、バルドが、口を、開いた。


「……先生」


「……なんだ」


「……一つ、質問が、あります」


「……なんだ」


バルドは、聞いた。


「……エリスさんの体は」


彼は、続けた。


「……治せるんですか」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、答えた。


「……理論上は」


「……理論上?」


「……ああ」


彼は、頷いた。


「……どうすれば、いいんですか」


大賢者は、答えた。


「……七割を」


彼は、続けた。


「……分散させる」


三十六


「……分散?」


ミアが、聞いた。


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……エリスの中には」


彼は、続けた。


「……十六の能力が、七割ずつ、入っている」


「……はい」


「……それが、一人の体で、暴れている」


大賢者は、言った。


「……だから、燃える」


「……」


「……しかし」


彼は、続けた。


「……それを、分ければ」


大賢者は、言った。


「……燃焼は、止まる」


十六人は、その説明を、聞いた。


そして、トムが、言った。


「……分ける、って」


彼は、続けた。


「……誰に?」


大賢者は、答えなかった。


そして、十六人を、見た。


三十七


「……僕たち、ですか」


トムが、聞いた。


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……お前たちは」


彼は、続けた。


「……同じものを、一つずつ、持っている」


「……はい」


「……そして、エリスは」


大賢者は、言った。


「……十六を、七割ずつ、持っている」


「……」


「……つまり」


彼は、続けた。


「……お前たちと、エリスは」


大賢者は、言った。


「……同じ材料で、できている」


三十八


「……だから」


彼は、続けた。


「……理論上は」


大賢者は、言った。


「……エリスの七割を」


「……」


「……お前たち十六人に、少しずつ、移せる」


十六人は、その説明に、驚いた。


「……移せるんですか」


エマが、聞いた。


「……理論上は」


大賢者は、答えた。


「……実際は」


「……わからん」


彼は、首を振った。


「……一度も、試されていない」


「……」


「……そして」


大賢者は、続けた。


「……条件が、ある」


「……なんですか」


彼は、答えた。


「……お前たち十六人が」


大賢者は、続けた。


「……完全に、一つに、なることだ」


三十九


「……一つ」


バルドが、呟いた。


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……お前たちは、まだ、十六人だ」


彼は、続けた。


「……情報は、共有できる」


「……はい」


「……同時に、動ける」


大賢者は、言った。


「……しかし」


彼は、続けた。


「……まだ、十六人だ」


「……」


「……一人には、なっていない」


大賢者は、言った。


「……それができたとき」


彼は、続けた。


「……エリスは、助かる」


四十


「……先生」


エリスが、言った。


「……なんだ」


「……それ、いつですか」


大賢者は、答えた。


「……わからん」


「……」


「……一年後かもしれん」


彼は、続けた。


「……十年後かもしれん」


エリスは、笑った。


「……間に合いませんね」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……百七十日では」


彼は、言った。


「……たぶん、無理だ」


「……」


「……しかし」


大賢者は、続けた。


「……可能性は、ある」


四十一


十六人は、その言葉を、聞いた。


そして、バルドが、言った。


「……やります」


「……バルド?」


「……百七十日で」


彼は、続けた。


「……一つに、なります」


「……無理だぞ」


大賢者は、言った。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……たぶん、無理です」


彼は、続けた。


「……でも」


バルドは、言った。


「……やらなければ、確実に、間に合いません」


十五人が、頷いた。


「……やろう」


レオンが、言った。


「……はい」


ミアも、頷いた。


「……やります」


そして、十六人が、エリスを、見た。


四十二


エリスは、その視線に、驚いた。


「……あなたたち」


彼女は、言った。


「……なぜ」


「……なぜ、そこまで」


バルドが、答えた。


「……あなたが、僕たちだからです」


「……え?」


「……あなたは、第零号です」


彼は、続けた。


「……僕たちは、第一期です」


「……」


「……同じ材料で、できています」


バルドは、言った。


「……つまり」


彼は、続けた。


「……姉です」


四十三


エリスは、その言葉に、動きを、止めた。


「……姉」


彼女は、呟いた。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……僕たちの、姉です」


「……」


エリスの目から、涙が、こぼれた。


「……ずるい」


彼女は、言った。


「……本当に、ずるいです」


そして、泣いた。


十六人は、それを、見ていた。


そして。


リナが、彼女に、抱きついた。


「……姉さん!」


「……ちょ、ちょっと」


「……あたし、妹だから!」


リナは、言った。


「……四番目!」


「……四番目?」


「……被験者、四番だから!」


エリスは、その言葉に、笑った。


そして、泣きながら、笑った。


四十四


その夜。


村の広場。


出発の、前夜祭が、開かれた。


七百二十二人と、十人の元兵士。


そして、十六人と、大賢者と、エリス。


ココが、料理を、作った。


七百四十九人分。


「……多いな」


ドグが、笑った。


「……うん」


ココは、頷いた。


「……でも、平気」


彼女は、続けた。


「……手伝ってくれる人が、百人いるから」


宴会が、始まった。


そして、その中で。


バルドが、ジャンに、話しかけた。


「……ジャンさん」


「……おう」


「……村を、お願いします」


ジャンは、頷いた。


「……任せろ」


彼は、答えた。


「……ただし」


ジャンは、続けた。


「……一つ、頼みがある」


四十五


「……なんですか」


バルドが、聞いた。


ジャンは、答えた。


「……その子供たち」


彼は、続けた。


「……三十二人」


「……はい」


「……連れて帰ってこい」


ジャンは、言った。


「……全員だ」


「……」


「……そして」


彼は、続けた。


「……この村に、住まわせろ」


バルドは、その言葉に、驚いた。


「……いいんですか」


「……当たり前だろ」


ジャンは、笑った。


「……三十二人くらい」


彼は、続けた。


「……家、建てりゃいい」


四十六


「……でも」


バルドは、言った。


「……あの子たち、感情が、ありません」


「……知ってる」


ジャンは、頷いた。


「……エリスから、聞いた」


彼は、続けた。


「……で?」


「……え?」


「……感情がないと、何か、困るのか」


ジャンは、聞いた。


バルドは、答えられなかった。


「……いいか」


ジャンは、続けた。


「……俺たちも、そうだった」


「……え?」


「……盗賊だった頃だ」


彼は、言った。


「……人を、襲っても、何も、感じなかった」


「……」


「……感情なんて、なかった」


ジャンは、続けた。


「……でも、戻った」


四十七


「……なぜ、ですか」


バルドが、聞いた。


ジャンは、答えた。


「……飯だ」


「……飯?」


「……ああ」


彼は、頷いた。


「……この村に来て」


ジャンは、続けた。


「……温かい飯を、食った」


「……」


「……そして、婆さんに、礼を、言われた」


彼は、言った。


「……そのとき」


ジャンは、続けた。


「……なんか、こう」


彼は、胸を、押さえた。


「……ここが、痛くなった」


「……」


「……久しぶりに」


ジャンは、言った。


「……それが、感情ってやつだと、思う」


四十八


バルドは、その言葉を、聞いた。


そして、頷いた。


「……わかりました」


彼は、言った。


「……連れて、帰ります」


「……おう」


ジャンは、笑った。


「……三十二人分の、飯を、用意しとく」


そして、彼は、続けた。


「……ココに、言っとけ」


「……はい」


「……『腕を、振るえ』ってな」


四十九


翌朝。


出発。


十六人と、大賢者と、エリス。


十八人が、村の入口に、立っていた。


そして、七百三十二人が、見送りに、来た。


「……行ってらっしゃい!」


「……気をつけてな!」


「……子供たち、連れて帰れよ!」


声援が、飛んだ。


そして、七歳の女の子が、エリスに、駆け寄った。


「……エリスお姉ちゃん」


「……ミナちゃん」


「……行っちゃうの?」


「……はい」


エリスは、答えた。


「……いつ、帰ってくる?」


エリスは、少し、迷った。


そして、答えた。


「……わかりません」


「……」


「……でも」


彼女は、続けた。


「……帰ってきます」


そして、女の子の、頭を、撫でた。


「……剣の練習、続けてください」


「……うん!」


五十


十八人は、歩き出した。


北へ。


そして、しばらく歩いてから。


エリスが、言った。


「……先生」


「……なんだ」


「……一つ、いいですか」


「……なんだ」


エリスは、聞いた。


「……十通目の手紙の、返事は」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、答えた。


「……『生きている』」


「……」


「……そして」


彼は、続けた。


「……『お前も、生きろ』だ」


エリスは、その言葉を、聞いた。


そして、頷いた。


「……はい」


彼女は、答えた。


「……生きます」


五十一


同じ頃。


北の、山中。


石造りの、施設。


その中の、一室。


三十二人の、子供が、並んでいた。


全員、十三歳。


同じ服。


同じ髪型。


そして、同じ、無表情。


その前に、一人の男が、立っていた。


白衣。


年齢は、四十代。


「……報告を」


彼は、言った。


十一号が、前に、出た。


「……第一期被験体、十六名」


彼は、答えた。


「……現在、王都から、帰還」


「……そうか」


男は、頷いた。


「……戦闘力は」


十一号は、答えた。


「……個体単位では、低い」


彼は、続けた。


「……しかし」


「……しかし?」


十一号は、言った。


「……集団としては、測定、不能」


五十二


「……測定不能?」


男は、聞き返した。


「……はい」


十一号は、頷いた。


「……理由は」


彼は、答えた。


「……観測するたびに、数値が、変化します」


「……」


「……一時間ごとに」


十一号は、続けた。


「……上昇しています」


男は、その報告に、眉を、寄せた。


「……成長速度が、異常だと?」


「……はい」


「……推定は」


十一号は、答えた。


「……現時点で」


彼は、続けた。


「……本施設の、三十二名を」


「……」


「……上回る、可能性があります」


第26話終了。

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