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大賢者と16人の落ちこぼれ弟子  作者: 伝説の男前
第二部 育成編

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25/38

第25話 「村の包囲」

一


「……包囲?」


バルドが、聞き返した。


「……はい」


伝令の兵士が、答えた。


「……誰に、ですか」


兵士は、答えにくそうに、俯いた。


「……答えなさい」


大賢者が、言った。


「……王国軍です」


十六人が、凍りついた。


「……王国軍」


レオンが、呟いた。


「……はい」


兵士は、頷いた。


「……第一師団、千二百名」


「……千二百」


トムが、その数字を、噛みしめた。


村の人口の、二倍近い。


いや。


戦える者だけで、数えれば。


十倍以上だ。


「……罪状は」


ノアが、聞いた。


兵士は、答えた。


「……二つです」


彼は、続けた。


「……一つ。元盗賊三十四名の、不法な庇護」


「……」


「……二つ。白い翼、エリス・ヴァレンティアの、隠匿」


二


「……隠匿」


エマが、呟いた。


「……はい」


「……エリスさんは」


彼女は、続けた。


「……隠れて、いません」


「……はい」


兵士は、頷いた。


「……村で、堂々と、働いていました」


「……なら、隠匿じゃ」


「……そうです」


兵士は、答えた。


「……だから、これは」


彼は、言い淀んだ。


そして、小声で、言った。


「……口実だと、思われます」


バルドは、その言葉を、聞いた。


そして、アルヴィスを、見た。


「……宰相閣下」


「……はい」


「……これは、あなたの、仕業ですか」


アルヴィスは、答えた。


「……いいえ」


彼は、続けた。


「……しかし、原因は、私です」


三


「……どういう、意味ですか」


トムが、聞いた。


アルヴィスは、答えた。


「……私が、あなた方を、王都に、呼んだ」


彼は、続けた。


「……それを、王が、知りました」


「……」


「……そして、警戒した」


アルヴィスは、言った。


「……『宰相が、十六人と、接触している』と」


「……」


「……だから、切り離しに、来た」


彼は、続けた。


「……あなた方と、村を」


バルドは、その説明を、聞いた。


「……つまり」


彼は、言った。


「……村は、人質ですか」


「……はい」


アルヴィスは、頷いた。


「……そういうことです」


四


「……先生」


バルドが、言った。


「……なんだ」


「……村に、戻ります」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……何日、かかりますか」


「……普通に行けば、十日だ」


「……十日」


バルドは、計算した。


「……間に合いません」


「……ニナさん」


彼は、聞いた。


「……なに?」


「……最短で、何日ですか」


ニナは、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……五日」


「……本当ですか」


「……うん」


彼女は、頷いた。


「……山を、二つ、越える」


ニナは、続けた。


「……道はないけど」


「……行けますか」


「……行ける」


ニナは、答えた。


「……あたしが、いるから」


五


「……お待ちください」


アルヴィスが、言った。


「……なんですか」


「……馬を、用意します」


彼は、続けた。


「……私の、私財で」


「……いいんですか」


「……はい」


アルヴィスは、頷いた。


「……ただし、山道では、使えません」


「……はい」


バルドは、答えた。


「……平地だけでも、助かります」


アルヴィスは、頷いた。


そして、部下に、指示を、出した。


「……あと、一つ」


彼は、言った。


「……なんですか」


アルヴィスは、答えた。


「……第一師団長は、ガレス・オルディン」


「……」


「……王の、直属です」


彼は、続けた。


「……そして、冷酷です」


「……どのくらい」


バルドが、聞いた。


アルヴィスは、答えた。


「……三年前、彼は、村を、一つ、焼きました」


六


「……焼いた?」


ガルドが、聞いた。


「……はい」


アルヴィスは、頷いた。


「……ゲルニアに、内通した疑いが、ありました」


彼は、続けた。


「……疑いだけです」


「……」


「……証拠は、ありませんでした」


アルヴィスは、言った。


「……しかし、彼は、焼いた」


「……村人は」


エマが、聞いた。


「……三百人」


アルヴィスは、答えた。


「……全員、死にました」


十六人は、その言葉に、絶句した。


「……そんな奴が」


レオンが、呟いた。


「……村に、行ってるんですか」


「……はい」


アルヴィスは、頷いた。


「……急いでください」


七


同じ頃。


フェアウッド村。


村の周囲に、王国軍が、展開していた。


千二百人。


天幕。


馬。


そして、攻城兵器。


村は、完全に、包囲されていた。


「……どうする」


ジャンが、言った。


彼は、村の入口に、立っていた。


その隣に、エリスが、いた。


「……籠城しても、勝てません」


彼女は、答えた。


「……わかってる」


ジャンは、頷いた。


「……で、どうする」


エリスは、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……私が、出頭します」


八


「……馬鹿言うな」


ジャンは、言った。


「……あなたが行っても、終わりません」


エリスは、答えた。


「……罪状は、二つです」


彼女は、続けた。


「……私の隠匿と、あなたたちの庇護」


「……」


「……私が出ても、あなたたちが、残ります」


「……じゃあ」


「……はい」


エリスは、頷いた。


「……あなたたちも、出頭することになります」


ジャンは、その言葉を、聞いた。


「……三十四人、全員か」


「……はい」


「……そして、たぶん」


エリスは、続けた。


「……処刑されます」


「……」


「……盗賊は、死罪です」


彼女は、言った。


ジャンは、しばらく、黙っていた。


そして、言った。


「……いいぜ」


九


「……いい?」


エリスが、聞き返した。


「……ああ」


ジャンは、頷いた。


「……俺たち、三十四人が、出頭する」


「……」


「……それで、村が、助かるなら」


「……ジャンさん」


「……いいんだ」


彼は、笑った。


「……俺たち、元々、死んでてもおかしくねえ」


ジャンは、続けた。


「……盗賊だったんだ」


「……」


「……この一年、余分に、生きた」


彼は、言った。


「……十分だ」


エリスは、その言葉を、聞いた。


そして、首を、振った。


「……駄目です」


「……なんでだ」


「……村人が、許しません」


十


その通りだった。


一時間後。


村の広場。


七百二十二人が、集まっていた。


そして、ジャンの提案を、聞いた。


「……ふざけるな!」


老婆が、叫んだ。


「……ばあちゃん」


「……あんたら、どこにも行かせないよ!」


彼女は、続けた。


「……うちの屋根、直してくれたんだ!」


「……そうだ!」


村人たちが、叫んだ。


「……水路を、掘ったのは、誰だ!」


「……家を、建てたのは、誰だ!」


「……畑を、耕したのは、誰だ!」


七百二十二人が、口々に、叫んだ。


ジャンは、その声を、聞いていた。


そして、俯いた。


「……お前ら」


彼は、呟いた。


「……馬鹿かよ」


そして、泣いた。


十一


「……皆さん」


エリスが、前に、出た。


七百二十二人が、静かになった。


「……状況を、説明します」


彼女は、言った。


「……包囲軍は、千二百人」


「……」


「……我々が、戦える人数は」


エリスは、続けた。


「……およそ、二百人です」


「……」


「……元盗賊、三十四人」


彼女は、言った。


「……村の男、百五十人ほど」


「……」


「……そして、私」


エリスは、続けた。


「……勝ち目は、ありません」


村人たちは、その説明を、聞いた。


「……じゃあ」


一人が、言った。


「……どうすりゃいい」


エリスは、答えた。


「……時間を、稼ぎます」


十二


「……時間?」


「……はい」


エリスは、頷いた。


「……あの子たちが、戻ってきます」


彼女は、続けた。


「……十六人が」


「……」


「……それまで、耐えます」


「……何日だ」


ジャンが、聞いた。


「……わかりません」


エリスは、答えた。


「……でも、十日以内には」


「……十日」


ジャンは、その数字を、考えた。


「……十日、耐えられるか」


「……わかりません」


エリスは、答えた。


「……でも、やるしか、ありません」


彼女は、村人たちを、見渡した。


「……皆さんに、お願いが、あります」


エリスは、言った。


「……戦わないでください」


十三


「……戦うな?」


村人が、聞き返した。


「……はい」


エリスは、頷いた。


「……戦えば、殺されます」


彼女は、続けた。


「……相手は、正規軍です」


「……」


「……だから、戦わない」


エリスは、言った。


「……その代わり」


彼女は、続けた。


「……籠城します」


「……籠城?」


「……はい」


エリスは、頷いた。


「……水は、あります」


彼女は、続けた。


「……水路が、あるので」


「……」


「……食糧も、あります」


エリスは、言った。


「……モモさんの畑が、豊作でした」


彼女は、続けた。


「……三か月分は、あります」


十四


「……で、その間、どうする」


ジャンが、聞いた。


「……普通に、暮らします」


エリスは、答えた。


「……普通に?」


「……はい」


彼女は、頷いた。


「……畑を、耕します」


エリスは、続けた。


「……家を、直します」


「……」


「……子供に、勉強を、教えます」


彼女は、言った。


「……いつも通りに」


ジャンは、その提案に、困惑した。


「……なんで」


彼は、聞いた。


エリスは、答えた。


「……見せるためです」


「……見せる?」


「……はい」


彼女は、頷いた。


「……あの兵士たちに」


十五


「……兵士に?」


ジャンが、聞き返した。


「……はい」


エリスは、答えた。


「……千二百人の兵士は」


彼女は、続けた。


「……何のために、来たと、思いますか」


「……村を、潰しに来たんだろ」


「……はい」


エリスは、頷いた。


「……では、彼らは」


彼女は、聞いた。


「……この村を、何だと、思っていますか」


ジャンは、少し、考えた。


そして、答えた。


「……盗賊の、巣か」


「……そうです」


エリスは、頷いた。


「……犯罪者の、村」


彼女は、続けた。


「……危険な、集団」


「……」


「……そう、聞かされています」


エリスは、言った。


「……でも」


彼女は、続けた。


「……実際は、違います」


十六


「……この村には」


エリスは、続けた。


「……七百二十二人が、住んでいます」


「……」


「……その多くが、老人と、子供です」


彼女は、言った。


「……そして、避難民です」


「……」


「……戦争で、家を失った人たちです」


エリスは、続けた。


「……それを、見せます」


「……」


「……毎日」


彼女は、言った。


「……兵士たちの、目の前で」


ジャンは、その意図を、理解した。


「……つまり」


彼は、言った。


「……攻めにくくするのか」


「……はい」


エリスは、頷いた。


「……人は」


彼女は、続けた。


「……顔の見える相手を、殺せません」


十七


その日から。


村は、いつも通りに、動いた。


朝。


農夫たちが、畑に、出た。


包囲軍の、目の前で。


兵士たちは、それを、見ていた。


「……なんだ、あれ」


一人の兵士が、呟いた。


「……畑、耕してるぞ」


「……包囲されてるのに」


「……気づいてないのか?」


そして、昼。


子供たちが、外で、遊んだ。


走り回って。


笑いながら。


兵士たちは、それも、見ていた。


「……子供が、いる」


「……当たり前だろ、村なんだから」


「……いや」


一人が、言った。


「……俺、盗賊の村って、聞いてた」


「……俺も、だ」


そして、夕方。


炊事の煙が、上がった。


そして、良い匂いが、漂ってきた。


「……腹、減ったな」


「……あっちの方が、いいもん食ってるぞ」


「……ちくしょう」


十八


三日目。


第一師団長、ガレス・オルディンが、苛立っていた。


彼は、五十代の男だった。


大柄。


そして、無表情。


「……なぜ、降伏しない」


彼は、副官に、聞いた。


「……わかりません」


副官は、答えた。


「……籠城のつもりでしょうか」


「……籠城?」


ガレスは、笑った。


「……あの村に、城壁は、ない」


「……はい」


「……なら、籠城ではない」


彼は、続けた。


「……ただ、無視しているだけだ」


ガレスは、村を、見た。


そこでは、人々が、普通に、暮らしていた。


「……不快だ」


彼は、言った。


「……攻めますか」


副官が、聞いた。


ガレスは、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……いや」


「……なぜ、ですか」


「……兵の、士気が、下がっている」


十九


「……士気?」


副官が、聞き返した。


「……ああ」


ガレスは、頷いた。


「……あれを、見ろ」


彼は、村を、指した。


そこでは、子供が、遊んでいた。


「……あれを、三日、見せられた」


ガレスは、続けた。


「……兵は、迷い始めている」


「……」


「……『本当に、盗賊の村か』とな」


副官は、その指摘に、頷いた。


確かに。


兵士たちの間で、そういう会話が、増えていた。


「……どうしますか」


彼は、聞いた。


ガレスは、答えた。


「……見せるな」


「……はい?」


「……壁を、作れ」


彼は、言った。


「……村と、我が軍の間に」


二十


その日から、王国軍は、壁を、作り始めた。


木製の、簡易な壁。


高さ、三メートル。


村を、囲むように。


「……何をしてるんですか」


村人が、聞いた。


エリスは、それを、見ていた。


そして、答えた。


「……見えないように、しています」


「……見えない?」


「……はい」


彼女は、頷いた。


「……私たちの姿を」


エリスは、続けた。


「……兵士に、見せないためです」


「……なんで」


「……効いているからです」


彼女は、言った。


「……私たちの作戦が」


そして、エリスは、微かに、笑った。


「……焦っていますね」


二十一


しかし。


壁が、完成すれば。


村は、孤立する。


そして。


攻撃が、始まる。


「……何日で、完成する」


ジャンが、聞いた。


「……三日でしょう」


エリスは、答えた。


「……三日」


「……はい」


「……十六人は」


ジャンは、聞いた。


「……間に合うか」


エリスは、答えた。


「……わかりません」


彼女は、続けた。


「……でも」


「……でも?」


エリスは、言った。


「……あの子たちなら」


彼女は、続けた。


「……間に合わせます」


二十二


同じ頃。


山の中。


十七人は、走っていた。


いや。


登っていた。


「……はあ、はあ」


ミアが、呻いた。


「……もう、限界です」


「……あと、少し!」


ニナが、叫んだ。


「……それ、何回目ですか!」


リナが、叫び返した。


「……たぶん、十二回目!」


「……!」


十六人は、その会話に、笑った。


疲れているのに。


「……ニナさん」


バルドが、聞いた。


「……なに?」


「……今、どこですか」


「……二つ目の山の、中腹!」


彼女は、答えた。


「……予定より、早い!」


「……本当ですか」


「……うん!」


ニナは、頷いた。


「……四日目で、ここは、すごい!」


二十三


四日目の、夜。


十七人は、山中で、野営した。


焚き火。


ココの、料理。


「……食べて」


彼女は、言った。


「……体力、戻さないと」


「……ありがとう」


十六人は、それを、食べた。


そして、大賢者も。


「……先生」


バルドが、聞いた。


「……なんだ」


「……一つ、相談が、あります」


「……なんだ」


バルドは、言った。


「……村に着いたら」


彼は、続けた。


「……どうすれば、いいですか」


大賢者は、答えた。


「……お前が、決めろ」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……でも」


彼は、続けた。


「……相手は、千二百人です」


「……ああ」


「……戦っても、勝てません」


二十四


「……バルド」


大賢者は、言った。


「……はい」


「……お前は、勝つ必要が、あるのか」


バルドは、その問いに、考えた。


「……いえ」


彼は、答えた。


「……村を、守れれば、いいです」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……では、どうすれば、村を、守れる」


バルドは、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……包囲を、解かせます」


「……どうやって」


「……わかりません」


バルドは、答えた。


「……ただ」


彼は、続けた。


「……ガレスという人が、包囲を、解く理由を」


「……」


「……作れば、いいと、思います」


二十五


「……理由か」


大賢者は、呟いた。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……あの人は、王の直属です」


彼は、続けた。


「……つまり、王の命令で、動いています」


「……そうだな」


「……その命令は」


バルドは、言った。


「……たぶん、『十六人と村を、切り離せ』です」


「……」


「……なら」


彼は、続けた。


「……切り離されなければ、いい」


大賢者は、その答えに、微かに、笑った。


「……どういう意味だ」


バルドは、答えた。


「……僕たちが、村に、入ります」


二十六


「……入る?」


トムが、聞いた。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……包囲されている村に」


「……そうです」


彼は、答えた。


「……そうすれば」


バルドは、続けた。


「……『切り離す』という命令は、失敗します」


「……」


「……そして」


彼は、言った。


「……ガレスは、判断を、迫られます」


「……何を」


「……攻めるか、攻めないか」


バルドは、答えた。


「……もし、攻めれば」


彼は、続けた。


「……僕たちも、死にます」


「……」


「……そして、それは」


バルドは、言った。


「……宰相閣下の、切り札を、潰すことになります」


二十七


「……つまり」


トムが、言った。


「……政治の問題に、なる」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……ガレスは、王の直属です」


彼は、続けた。


「……でも、宰相も、王の側近です」


「……」


「……宰相が、僕たちを、必要としているなら」


バルドは、言った。


「……ガレスは、勝手に、殺せません」


「……なるほど」


トムは、頷いた。


「……でも」


彼は、続けた。


「……危険だよ」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……ガレスが、命令を、無視したら」


トムは、言った。


「……僕たち、全滅する」


バルドは、答えた。


「……はい」


彼は、続けた。


「……だから、賭けです」


二十八


五日目。


夕方。


十七人は、村の、北の丘に、到着した。


そして、その光景を、見た。


「……」


村が、囲まれていた。


木の壁で。


高さ、三メートル。


そして、その外側に、千二百の兵。


「……間に合わなかった」


レオンが、呟いた。


「……いえ」


ノアが、言った。


「……まだ、攻撃は、始まっていません」


「……なぜ、わかる」


「……煙が、ありません」


彼女は、答えた。


「……攻撃が始まれば、火が、出ます」


十六人は、その言葉に、安堵した。


「……壁は」


レンが、言った。


「……完成しています」


彼は、続けた。


「……たぶん、今日」


「……つまり」


バルドが、言った。


「……明日、攻撃が、始まります」


二十九


「……どうする」


ガルドが、聞いた。


「……今夜、入ります」


バルドは、答えた。


「……壁があるぞ」


「……はい」


彼は、頷いた。


「……レンさん」


「……はい」


「……あの壁、越えられますか」


レンは、その壁を、観察した。


そして、答えた。


「……越えなくても、いいです」


「……え?」


「……壊せます」


レンは、言った。


「……三メートルの木の壁は」


彼は、続けた。


「……急ごしらえです」


「……」


「……支柱の、間隔が、広い」


レンは、言った。


「……ドグさんなら、一撃で」


三十


「……いや」


バルドは、首を振った。


「……壊しては、駄目です」


「……なぜ?」


「……それは、攻撃になります」


彼は、答えた。


「……戦闘の、口実を、与えます」


「……じゃあ」


「……越えます」


バルドは、言った。


「……音を、立てずに」


彼は、続けた。


「……ニナさん」


「……なに?」


「……あの包囲網に、隙は、ありますか」


ニナは、しばらく、その包囲を、見ていた。


そして、答えた。


「……ある」


「……どこですか」


「……南東」


彼女は、指差した。


「……そこ、沢が、ある」


ニナは、続けた。


「……水が、流れてるから、兵士が、嫌がる」


「……」


「……見張りが、少ない」


三十一


その夜。


十七人は、南東の沢から、包囲網に、近づいた。


そして、シルフィが、耳を、澄ませた。


「……見張り、二人です」


「……距離は」


「……三十メートル」


「……眠っていますか」


ノアが、暗闇の中で、観察した。


「……いえ」


彼女は、答えた。


「……起きています」


「……でも」


ノアは、続けた。


「……集中していません」


「……なぜ、わかる」


「……足を、動かしています」


彼女は、答えた。


「……退屈な、証拠です」


バルドは、頷いた。


「……ポチさん」


「……おう」


「……犬を、一匹」


「……どうする?」


バルドは、答えた。


「……あの二人の、反対側で、鳴かせてください」


三十二


犬が、鳴いた。


包囲網の、反対側で。


「……なんだ?」


見張りの一人が、言った。


「……犬か」


「……見てくる」


一人が、そちらへ、歩いていった。


残り、一人。


「……今です」


バルドが、囁いた。


そして、シオンが、動いた。


音もなく。


見張りの、背後に。


そして。


肩を、叩いた。


「……!」


見張りが、振り返った。


そこに、シオンが、いた。


「……だ、誰」


そして、シオンは、指を、口に、当てた。


「……」


見張りは、動けなかった。


シオンは、何も、言わなかった。


ただ、見つめていた。


そして、その沈黙が。


見張りを、動けなくした。


その間に。


十六人が、通り過ぎた。


三十三


壁を、越えた。


音を、立てずに。


レオンが、先に、登った。


そして、上から、手を、伸ばした。


一人ずつ。


十七人。


全員が、村の中に、入った。


そして。


「……!」


村の見張りが、気づいた。


「……誰だ!」


「……待って」


エリスの声が、した。


彼女は、暗闇から、現れた。


そして、十七人を、見た。


「……」


しばらく、沈黙。


そして、彼女は、言った。


「……遅い」


三十四


「……すみません」


バルドが、答えた。


「……五日です」


エリスは、言った。


「……王都から、五日」


彼女は、続けた。


「……よく、来ましたね」


「……ニナさんの、おかげです」


「……えへへ」


ニナが、照れた。


エリスは、微かに、笑った。


そして、大賢者を、見た。


「……先生」


「……ああ」


「……お帰りなさい」


「……ただいま」


大賢者は、答えた。


そして、聞いた。


「……状況は」


エリスは、答えた。


「……最悪です」


三十五


その夜。


村の、集会所。


十七人と、エリスと、ジャンが、集まっていた。


「……壁が、完成しました」


エリスは、報告した。


「……明日、攻撃が、始まります」


「……根拠は」


バルドが、聞いた。


「……夕方、攻城兵器が、前進しました」


彼女は、答えた。


「……そして、兵が、装備を、確認していました」


「……そうですか」


バルドは、頷いた。


「……時間が、ありませんね」


「……はい」


「……村の状況は」


彼は、聞いた。


ジャンが、答えた。


「……食糧は、三か月分」


「……水は」


「……水路が、あるから、無限だ」


「……武器は」


「……ほとんど、ない」


ジャンは、答えた。


「……戦えるのは、二百人」


彼は、続けた。


「……でも、素人だ」


三十六


「……わかりました」


バルドは、言った。


そして、しばらく、考えた。


十六人が、待った。


そして、五分後。


バルドは、顔を、上げた。


「……作戦を、説明します」


彼は、言った。


「……まず、戦いません」


「……戦わない?」


ジャンが、聞いた。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……一切、戦いません」


彼は、続けた。


「……武器も、持ちません」


「……おい」


ジャンが、言った。


「……攻めてくるんだぞ」


「……はい」


バルドは、答えた。


「……でも」


彼は、続けた。


「……攻めさせません」


三十七


「……どうやって」


エリスが、聞いた。


バルドは、答えた。


「……明日の朝」


彼は、続けた。


「……村の全員で、壁の前に、並びます」


「……全員?」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……七百二十二人、全員です」


「……」


「……老人も、子供も」


彼は、続けた。


「……そして、何もしません」


「……何も?」


「……はい」


バルドは、答えた。


「……ただ、立ちます」


彼は、続けた。


「……壁の、こちら側に」


三十八


「……危険です」


エリスが、言った。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……攻撃されたら、全滅します」


「……はい」


「……なぜ、そんなことを」


エリスは、聞いた。


バルドは、答えた。


「……エリスさんが、やっていたことの、続きです」


「……え?」


「……見せるんです」


彼は、言った。


「……兵士たちに」


バルドは、続けた。


「……七百二十二人の、顔を」


「……でも、壁が」


「……はい」


彼は、頷いた。


「……だから、こちらから、壁を、越えます」


三十九


「……越える?」


ジャンが、聞いた。


「……はい」


バルドは、答えた。


「……村人が、壁を、越えて」


彼は、続けた。


「……兵士の、前に、立ちます」


「……無防備で、か」


「……はい」


「……殺されるぞ」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……可能性は、あります」


彼は、続けた。


「……でも」


バルドは、言った。


「……たぶん、殺せません」


「……なぜだ」


バルドは、答えた。


「……あの兵士たちは」


彼は、続けた。


「……三日間、村を、見ていました」


四十


「……子供が、遊ぶのを」


バルドは、続けた。


「……農夫が、畑を、耕すのを」


「……」


「……そして、炊事の煙を」


彼は、言った。


「……三日間」


「……」


「……だから、知っています」


バルドは、続けた。


「……この村が、盗賊の巣では、ないことを」


「……」


「……そして、壁が、作られた」


彼は、言った。


「……なぜでしょう」


エリスが、答えた。


「……見せないため、です」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……つまり」


彼は、続けた。


「……ガレスは、恐れているんです」


「……」


「……兵士が、村人の顔を、見ることを」


四十一


「……だから」


バルドは、言った。


「……見せます」


彼は、続けた。


「……壁の、向こう側に、行って」


「……」


「……七百二十二人、全員の顔を」


十七人は、その作戦を、聞いた。


そして、エリスが、言った。


「……勝算は」


バルドは、答えた。


「……五分です」


「……五分」


「……はい」


彼は、頷いた。


「……低いですね」


「……はい」


バルドは、答えた。


「……でも」


彼は、続けた。


「……戦えば、勝算は、ゼロです」


四十二


翌朝。


夜明け前。


村の広場に、七百二十二人が、集まっていた。


そして、バルドが、前に、立った。


「……皆さん」


彼は、言った。


「……今日、僕たちは、壁を、越えます」


村人たちが、ざわめいた。


「……武器は、持ちません」


バルドは、続けた。


「……そして、戦いません」


「……」


「……ただ、立ちます」


彼は、言った。


「……兵士たちの、前に」


沈黙。


そして、一人の男が、聞いた。


「……殺されるんじゃ、ないのか」


「……可能性は、あります」


バルドは、答えた。


「……じゃあ」


「……はい」


彼は、頷いた。


「……だから、強制は、しません」


四十三


「……行きたくない人は」


バルドは、続けた。


「……家に、いてください」


「……」


「……誰も、責めません」


彼は、言った。


「……これは、命令では、ありません」


「……」


「……お願いです」


バルドは、頭を、下げた。


沈黙。


長い、沈黙。


そして。


老婆が、前に、出た。


「……行くよ」


彼女は、言った。


「……ばあちゃん」


ココが、言った。


「……危ないよ」


「……知ってるさ」


老婆は、笑った。


「……でもね」


彼女は、続けた。


「……あたし、逃げるのは、もう、飽きた」


四十四


「……ホルム砦から、逃げて」


老婆は、続けた。


「……南に、逃げて」


「……」


「……街に、断られて」


彼女は、言った。


「……で、この村に、来た」


「……」


「……ここが、最後だ」


老婆は、言った。


「……もう、逃げない」


そして、彼女は、歩き出した。


壁に、向かって。


「……ばあちゃん!」


ココが、追いかけた。


そして。


「……俺も、行く」


ジャンが、言った。


「……俺も」


「……俺もだ」


三十四人が、続いた。


そして。


村人たちが、動き出した。


一人。


十人。


百人。


三百人。


五百人。


七百二十二人。


全員が。


壁に、向かって、歩き出した。


四十五


夜明け。


王国軍の、陣地。


見張りが、叫んだ。


「……敵襲!」


ガレスが、天幕から、出てきた。


「……何事だ」


「……村から、人が!」


ガレスは、壁の方を、見た。


そして。


その光景に、動きを、止めた。


壁を、越えて。


人が、出てきていた。


一人。


十人。


百人。


そして。


七百二十二人。


その全員が。


武器を、持っていなかった。


四十六


「……なんだ、あれは」


ガレスは、呟いた。


「……わかりません」


副官が、答えた。


七百二十二人は、壁の外に、出た。


そして、そこに、立った。


何もせずに。


ただ、立っていた。


老人。


女。


子供。


そして、男たち。


その全員が、王国軍を、見ていた。


「……」


千二百人の兵士が。


その光景を、見ていた。


そして。


誰も、動けなかった。


四十七


「……構えろ!」


ガレスが、叫んだ。


「……全軍、構えろ!」


兵士たちが、武器を、構えた。


しかし。


その動きは、鈍かった。


「……何をしている!」


ガレスは、叫んだ。


「……構えろ!」


そのとき。


七百二十二人の中から。


一人が、前に、出た。


バルドだった。


そして、彼は、叫んだ。


「……第一師団長、ガレス・オルディン殿!」


ガレスが、彼を、見た。


「……なんだ、貴様は」


バルドは、答えた。


「……大賢者の弟子、バルド・アワアワです」


四十八


「……大賢者の、弟子」


ガレスは、呟いた。


「……はい」


バルドは、答えた。


「……我々、十六人は」


彼は、続けた。


「……今、この村に、います」


「……」


「……つまり」


バルドは、言った。


「……あなたの任務は、失敗しました」


ガレスの顔が、歪んだ。


「……何を、言っている」


「……あなたの任務は」


バルドは、答えた。


「……我々十六人と、この村を、切り離すことです」


「……」


「……違いますか」


ガレスは、答えなかった。


「……我々は、ここにいます」


バルドは、続けた。


「……村人と、一緒に」


彼は、言った。


「……切り離されていません」


四十九


「……ならば」


ガレスは、言った。


「……まとめて、潰すまでだ」


「……できますか」


バルドは、聞いた。


「……なに?」


「……我々十六人は」


彼は、続けた。


「……宰相閣下の、客人です」


「……」


「……我々を殺せば」


バルドは、言った。


「……宰相閣下は、あなたを、許しません」


ガレスは、その言葉に、動きを、止めた。


「……そして」


バルドは、続けた。


「……ここには、七百二十二人が、います」


彼は、言った。


「……その多くが、避難民です」


「……」


「……ホルム砦から、逃げてきた人たちです」


バルドは、続けた。


「……彼らを、殺せば」


「……」


「……それは、王国が、自国民を、虐殺したことに、なります」


五十


ガレスは、しばらく、黙っていた。


そして、言った。


「……小僧」


「……はい」


「……脅しのつもりか」


「……いいえ」


バルドは、答えた。


「……お願いです」


「……なに?」


バルドは、頭を、下げた。


「……包囲を、解いてください」


彼は、言った。


「……お願いします」


そして、その後ろで。


七百二十二人が。


一斉に、頭を、下げた。


「……!」


ガレスは、その光景に、驚いた。


七百二十二人が。


頭を、下げていた。


武器も、持たずに。


ただ、頼んでいた。


そして。


千二百人の兵士たちは。


その光景を、見ていた。


五十一


「……師団長」


副官が、小声で、言った。


「……なんだ」


「……兵が、動きません」


ガレスは、周囲を、見た。


確かに。


兵士たちは、武器を、構えていなかった。


いや。


構えを、解いていた。


「……貴様ら!」


ガレスは、叫んだ。


「……構えろと、言っている!」


しかし。


誰も、動かなかった。


そして、一人の兵士が、武器を、地面に、置いた。


「……!」


そして、もう一人。


さらに、もう一人。


十人。


五十人。


百人。


そして。


千二百人の、半数以上が。


武器を、置いた。


五十二


「……貴様ら」


ガレスは、震えていた。


「……これは、反逆だぞ」


一人の兵士が、答えた。


「……申し訳ありません」


彼は、続けた。


「……しかし」


「……」


「……私には、母がいます」


兵士は、言った。


「……あそこにいる、婆さんと、同じ年です」


「……」


「……斬れません」


ガレスは、その言葉を、聞いた。


そして、剣を、抜いた。


「……ならば」


彼は、言った。


「……私が、斬る」


そして、村人たちに、向かって、歩き出した。


五十三


しかし。


その足が、止まった。


彼の前に。


一人の男が、立っていた。


大賢者だった。


「……そこを、どけ」


ガレスは、言った。


「……断る」


大賢者は、答えた。


「……貴様」


「……ガレス・オルディン」


大賢者は、言った。


「……三年前、お前は、村を、焼いたな」


ガレスの動きが、止まった。


「……三百人」


大賢者は、続けた。


「……全員、死んだ」


「……」


「……証拠は、なかった」


彼は、言った。


「……それでも、焼いた」


大賢者は、ガレスを、見つめた。


「……なぜだ」


五十四


ガレスは、しばらく、黙っていた。


そして、答えた。


「……命令だ」


「……そうか」


大賢者は、頷いた。


「……では、聞くが」


彼は、続けた。


「……お前は、それを、後悔しているか」


ガレスは、答えなかった。


「……答えろ」


大賢者は、言った。


そして、ガレスは、答えた。


「……毎晩」


彼は、続けた。


「……夢に、見る」


「……」


「……子供の、顔を」


ガレスは、言った。


その声は、震えていた。


「……ならば」


大賢者は、言った。


「……二度目を、作るな」


五十五


ガレスは、剣を、握りしめていた。


そして。


しばらくして。


その手が、下がった。


剣が、地面に、落ちた。


「……全軍」


彼は、言った。


「……撤退する」


「……師団長!」


副官が、驚いた。


「……聞こえなかったか」


ガレスは、言った。


「……撤退だ」


「……し、しかし、王命が」


「……私が、責任を、取る」


彼は、答えた。


そして、村人たちを、見た。


七百二十二人。


その全員が、まだ、頭を、下げていた。


「……顔を、上げろ」


ガレスは、言った。


村人たちが、顔を、上げた。


そして、ガレスは、言った。


「……すまなかった」


五十六


王国軍は、撤退した。


千二百人が、北へ、去っていった。


そして、村に、静寂が、戻った。


「……勝った」


リナが、呟いた。


「……勝った?」


「……うん」


彼女は、頷いた。


「……誰も、死んでない」


十六人は、その事実に、気づいた。


七百二十二人。


千二百人。


合わせて、千九百二十二人。


誰一人。


死んでいなかった。


「……バルド」


レオンが、言った。


「……はい」


「……お前、すげえよ」


バルドは、俯いた。


そして、震えていた。


「……バルド?」


「……こわ、かった」


彼は、呟いた。


「……本当に、こわかった」


そして、その場に、座り込んだ。


十五人が、駆け寄った。


五十七


その日の夜。


村の広場。


七百二十二人が、集まっていた。


そして、宴会が、開かれた。


ココが、料理を、作った。


七百二十二人分。


「……うまい!」


「……最高だ!」


笑い声が、響いた。


そして、その端で。


大賢者と、エリスが、立っていた。


「……先生」


「……なんだ」


「……あの子たち」


エリスは、言った。


「……強くなりましたね」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……一年前」


エリスは、続けた。


「……私が、三秒で、倒した子たちが」


彼女は、言った。


「……千二百人を、追い返しました」


「……そうだな」


大賢者は、答えた。


そして、微かに、笑った。


「……誰も、殺さずに」


第25話終了。

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