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大賢者と16人の落ちこぼれ弟子  作者: 伝説の男前
第二部 育成編

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22/38

第22話 「王都へ」

一


五月。


十七人は、南へ、歩いていた。


十六人と、大賢者。


王都まで、十日の道のり。


「……先生」


レオンが、聞いた。


「……なんだ」


「……王都って、どんなところですか」


大賢者は、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……大きい」


「……それだけですか」


「……それだけだ」


大賢者は、頷いた。


「……行けば、わかる」


十六人は、その答えに、笑った。


「……先生、いつも、そうですよね」


ミアが、言った。


「……説明、してくれません」


「……当然だ」


大賢者は、答えた。


「……説明を聞いて、わかった気になるのが、一番、危ない」


彼は、続けた。


「……自分の目で、見なさい」


二


三日目。


十七人は、最初の街に、到着した。


ミルドン。


一年前、ノアとシオンが、交渉に来た街だ。


「……大きい」


リナが、呟いた。


「……村より、ずっと」


人口、三千人。


家が、密集している。


石畳の道。


そして、市場。


「……人が、いっぱいだ」


ポチが、言った。


彼の犬たちが、落ち着かない様子で、周囲を、見ていた。


「……大丈夫か、ポチ」


ガルドが、聞いた。


「……うん」


ポチは、頷いた。


「……でも、犬が、緊張してる」


「……なんで」


「……匂いが、多すぎるって」


十六人は、その街を、歩いた。


そして、その賑わいに、圧倒された。


村とは、違う。


人が、多い。


音が、多い。


そして。


「……」


ノアが、立ち止まった。


「……どうしたの」


ミアが、聞いた。


ノアは、しばらく、黙っていた。


そして、言った。


「……この街、貧しいです」


三


「……え?」


リナが、驚いた。


「……こんなに、賑やかなのに?」


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……市場を、見てください」


十六人は、市場を、見た。


多くの店。


多くの商品。


多くの人。


「……賑やかだけど」


「……客が、買っていません」


ノアは、言った。


「……え?」


「……見ているだけです」


彼女は、続けた。


「……手に取って、値段を聞いて、そして、戻します」


十六人は、その光景を、注意深く、見た。


確かに。


多くの人が、商品を、見ている。


しかし、買っていない。


「……あと」


ノアは、言った。


「……子供の服が、小さいです」


「……小さい?」


「……サイズが、合っていません」


彼女は、続けた。


「……去年の服を、着ています」


「……」


「……新しい服を、買えないんです」


十六人は、その指摘に、沈黙した。


四


「……なぜ、貧しいんですか」


バルドが、聞いた。


「……戦争だ」


大賢者が、答えた。


「……戦争?」


「……ああ」


彼は、頷いた。


「……三年前の、国境紛争」


大賢者は、続けた。


「……あれで、王国は、大量の金を、使った」


「……」


「……そして、その金は、税で、回収された」


彼は、言った。


「……三年間、税が、上がり続けている」


「……」


「……この街も、その影響を、受けている」


バルドは、その説明を、聞いた。


「……先生」


「……なんだ」


「……三年前の戦争で、王国は、勝ったんですよね」


「……ああ」


「……なのに、貧しくなったんですか」


大賢者は、答えた。


「……戦争に、勝者はいない」


彼は、続けた。


「……いるのは、負けが少なかった者だけだ」


五


その夜。


十七人は、宿に、泊まった。


安い宿。


十七人で、二部屋。


「……狭い」


ガルドが、呻いた。


「……我慢しろ」


ドグが、言った。


「……金がねえんだから」


十六人は、床に、寝転がった。


そして、天井を、見つめた。


「……なあ」


レオンが、言った。


「……ん?」


「……俺たちの村、恵まれてるよな」


「……そうだね」


トムが、答えた。


「……水も、食糧も、ある」


レオンは、続けた。


「……家も、ある」


「……うん」


「……でも、この街の人たちは」


彼は、言った。


「……服も、買えない」


沈黙。


そして、モモが、言った。


「……あの」


「……ん?」


「……この街の周りの畑」


彼女は、続けた。


「……荒れています」


「……見たのか」


「……はい」


モモは、頷いた。


「……人手が、足りないんだと、思います」


「……」


「……あと、土が、疲れています」


彼女は、言った。


「……同じ作物を、作りすぎです」


六


翌朝。


バルドが、大賢者に、聞いた。


「……先生」


「……なんだ」


「……一日、この街に、留まっては、駄目ですか」


「……なぜだ」


「……モモさんが」


バルドは、答えた。


「……畑を、見たいと」


大賢者は、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……いいだろう」


「……ありがとうございます」


「……ただし」


彼は、続けた。


「……一日だけだ」


「……はい」


そして、十六人は、動いた。


七


モモが、街の外の畑に、行った。


そこには、農夫たちが、いた。


「……あの」


モモは、声をかけた。


「……なんだい、お嬢ちゃん」


「……この畑、麦ですよね」


「……ああ」


「……去年も、麦でしたか」


「……そうだが」


「……一昨年は」


「……麦だ」


モモは、頷いた。


「……その前は」


「……麦だよ」


農夫は、答えた。


「……ここは、麦しか作らねえ」


「……なるほど」


モモは、言った。


そして、しゃがんだ。


土を、握った。


そして、しばらく、それを、見つめた。


「……この土」


彼女は、言った。


「……疲れています」


「……はあ?」


農夫が、聞き返した。


「……土が、疲れるだと?」


「……はい」


モモは、頷いた。


「……同じ作物を、作り続けると、土の中の、栄養が、偏ります」


彼女は、続けた。


「……麦は、特定の栄養だけを、吸います」


「……」


「……だから、その栄養が、なくなります」


八


「……で、どうすりゃいい」


農夫が、聞いた。


「……豆を、植えてください」


モモは、答えた。


「……豆?」


「……はい」


彼女は、頷いた。


「……豆は、土に、栄養を、戻します」


「……嘘つけ」


農夫は、笑った。


「……植物が、栄養を、戻すわけねえだろ」


「……いえ」


モモは、首を振った。


「……戻します」


「……」


「……根に、小さな粒が、つきます」


彼女は、続けた。


「……その粒が、土を、豊かにします」


農夫は、疑いの目で、彼女を、見た。


「……証拠は」


「……あります」


モモは、答えた。


そして、周囲を、見渡した。


「……あそこ」


彼女は、畑の隅を、指した。


そこには、雑草が、生えていた。


「……あの草、豆の仲間です」


モモは、言った。


「……で?」


「……あの周りだけ、麦が、育っています」


農夫は、その場所を、見た。


確かに。


雑草の周囲だけ。


麦が、他より、大きく、育っていた。


「……!」


農夫が、驚いた。


「……本当だ」


九


その日、モモは、十人の農夫に、教えた。


輪作。


土を、休ませること。


豆と、麦を、交互に、植えること。


そして、堆肥の作り方も。


「……こうやって、落ち葉と、糞を、混ぜます」


「……糞?」


「……はい」


モモは、頷いた。


「……家畜の糞です」


「……汚ねえな」


「……いえ」


彼女は、首を振った。


「……土にとっては、ご馳走です」


農夫たちは、その説明を、聞いた。


最初は、半信半疑だった。


しかし。


モモの説明は、具体的だった。


そして、根拠が、あった。


「……お嬢ちゃん」


一人の農夫が、聞いた。


「……あんた、何者だ」


モモは、答えた。


「……ただの、農家です」


彼女は、続けた。


「……たくさん、枯らしました」


「……」


「……だから、少しだけ、わかります」


十


同じ日。


ノアとシオンは、市場に、いた。


そして、店主たちと、話していた。


いや。


正確には。


聞いていた。


「……で、売れねえんだよ」


一人の店主が、言った。


「……客は、来る。でも、買わねえ」


「……」


「……金がねえんだ、みんな」


シオンは、頷いた。


そして、何も、言わなかった。


店主は、話し続けた。


「……税が、高くてな」


「……」


「……売り上げの、三割だ」


「……」


「……で、仕入れ値も、上がってる」


彼は、続けた。


「……北からの、物流が、止まってるからな」


ノアが、その言葉に、反応した。


「……北から」


「……ああ」


店主は、頷いた。


「……ホルム砦が、落ちただろ」


「……はい」


「……あそこ、街道の、要所でな」


彼は、続けた。


「……北の物資が、来なくなった」


「……」


「……特に、鉄と、塩だ」


ノアは、その言葉を、記憶した。


鉄と、塩。


十一


その夜。


宿。


十六人が、報告を、し合っていた。


「……モモさん、どうでした」


バルドが、聞いた。


「……はい」


モモは、答えた。


「……十人に、教えました」


「……効果、出そうですか」


「……たぶん、来年です」


彼女は、続けた。


「……土は、すぐには、変わりません」


「……そうですか」


バルドは、頷いた。


「……でも、来年は、変わります」


モモは、言った。


「……たぶん、収穫が、二割、増えます」


「……二割!?」


リナが、驚いた。


「……はい」


「……すごいじゃん!」


「……いえ」


モモは、首を振った。


「……本当は、四割、増えます」


彼女は、続けた。


「……でも、最初の年は、二割です」


「……なんで」


「……土が、回復するのに、時間が、かかるからです」


十二


「……ノアさんは」


バルドが、聞いた。


「……はい」


ノアは、答えた。


「……この街の問題は、税と、物流です」


「……税」


「……売り上げの、三割です」


ノアは、続けた。


「……三年前は、一割でした」


「……三倍」


「……はい」


「……そして、物流」


彼女は、言った。


「……北からの、鉄と、塩が、止まっています」


「……ホルム砦ですね」


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……あそこが、街道の、要所でした」


十六人は、その報告を、聞いた。


「……つまり」


トムが、言った。


「……エリスさんが、砦を落としたことで」


「……はい」


「……この街が、貧しくなった」


沈黙。


そして、エマが、言った。


「……エリスさんに、言うべきでしょうか」


「……いえ」


バルドは、首を振った。


「……言っても、どうにも、なりません」


彼は、続けた。


「……それより」


「……それより?」


「……砦を、直す方が、早いです」


十三


「……直す?」


ドグが、聞いた。


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……ホルム砦を、再建します」


「……できるのか」


「……わかりません」


バルドは、答えた。


「……でも、レンさんとドグさんなら」


彼は、続けた。


「……できるかも、しれません」


レンが、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……砦の規模に、よります」


「……大きいです」


「……なら、無理です」


レンは、言った。


「……僕たちだけでは」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……でも」


彼は、言った。


「……七百人なら?」


十六人が、その言葉に、驚いた。


「……村の人たち?」


「……はい」


バルドは、答えた。


「……水路を、二キロ、掘りました」


彼は、続けた。


「……砦も、直せるかも、しれません」


十四


大賢者が、その会話を、聞いていた。


そして、口を、開いた。


「……バルド」


「……はい」


「……それは、王国の仕事だ」


「……はい」


「……お前たちが、やることでは、ない」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……でも」


彼は、続けた。


「……王国は、やっていません」


「……」


「……一年、経ちました」


バルドは、言った。


「……でも、砦は、そのままです」


大賢者は、答えなかった。


「……先生」


「……なんだ」


「……なぜ、王国は、砦を、直さないんですか」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、答えた。


「……金が、ないからだ」


「……」


「……そして、もう一つ」


彼は、続けた。


「……直したくない者が、いるからだ」


十五


「……直したくない?」


トムが、聞き返した。


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……誰ですか」


「……わからん」


彼は、答えた。


「……しかし、いる」


大賢者は、続けた。


「……砦が落ちて、得をする者が」


十六人は、その言葉に、緊張した。


「……先生」


ノアが、言った。


「……なんだ」


「……鉄と、塩です」


「……ほう」


「……北から、鉄と塩が、来なくなりました」


彼女は、続けた。


「……ということは」


「……」


「……別の場所から、買うことになります」


ノアは、言った。


「……そして、その値段は、上がります」


大賢者は、微かに、笑った。


「……そうだ」


彼は、言った。


「……誰かが、儲けている」


十六


翌朝。


十七人は、ミルドンを、出発した。


農夫たちが、見送りに、来た。


「……お嬢ちゃん!」


一人が、モモに、叫んだ。


「……はい」


「……来年、また来てくれ!」


「……はい!」


モモは、頷いた。


「……収穫を、見せる!」


「……楽しみにしています!」


十六人は、歩き出した。


そして、しばらく歩いてから。


モモが、呟いた。


「……嬉しい」


「……ん?」


レオンが、聞いた。


「……初めて」


モモは、続けた。


「……農業のことで、頼られました」


彼女は、笑った。


「……あたし、『命を殺す子』って、言われてたんです」


「……」


「……でも、今日は」


モモは、言った。


「……『来年また来てくれ』って」


彼女の目に、涙が、浮かんでいた。


「……よかったな」


レオンは、言った。


「……はい」


十七


六日目。


十七人は、ある村を、通った。


小さな村。


しかし。


「……」


十六人は、その光景に、絶句した。


家が、焼けていた。


十軒以上。


そして、その周囲に、人が、いた。


生き残った、村人たち。


三十人ほど。


「……何が」


ミアが、呟いた。


大賢者が、村人に、聞いた。


「……何があった」


村人は、答えた。


「……盗賊です」


「……いつだ」


「……三日前」


彼は、続けた。


「……四十人ほどの、盗賊が」


「……」


「……食糧を、全部、持っていかれました」


十六人は、その話を、聞いた。


「……死者は」


エマが、聞いた。


「……五人です」


村人は、答えた。


「……抵抗した者が」


十八


「……先生」


レオンが、言った。


「……なんだ」


「……追いますか」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、答えた。


「……お前が、決めろ」


「……え?」


「……お前たちが、決めろ」


彼は、続けた。


「……私は、従う」


十六人は、顔を、見合わせた。


そして、バルドが、言った。


「……状況を、確認します」


彼は、村人に、聞いた。


「……盗賊は、どちらへ」


「……東です」


「……人数は、四十人」


「……はい」


「……武装は」


「……剣と、弓です」


村人は、答えた。


「……あと、馬が、十頭」


バルドは、その情報を、整理した。


「……ポチさん」


「……おう」


「……犬で、追えますか」


「……三日前なら、たぶん」


ポチは、答えた。


「……匂いが、残ってる」


十九


「……ニナさん」


バルドは、続けた。


「……なに?」


「……東に、何がありますか」


ニナは、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……山」


「……それだけですか」


「……うん」


彼女は、頷いた。


「……でも、山の中に、道がある」


「……道?」


「……古い道」


ニナは、続けた。


「……誰も、使ってない」


「……なぜ、知っているんですか」


「……昨日、見た」


彼女は、答えた。


「……歩いてるとき、地形を見て、たぶんあると思った」


バルドは、頷いた。


「……その道の、先は」


「……たぶん、洞窟」


ニナは、答えた。


「……山の形が、そうなってる」


二十


「……行きます」


バルドは、言った。


「……追うのか」


ガルドが、聞いた。


「……はい」


「……四十人だぞ」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……勝てるか」


「……わかりません」


彼は、答えた。


「……でも」


バルドは、続けた。


「……食糧を、取り返さないと」


彼は、村人たちを、見た。


「……この人たち、餓死します」


十六人は、その言葉に、頷いた。


「……行こう」


レオンが、言った。


「……はい」


そして、十七人は、東へ、向かった。


二十一


その夜。


山の中。


十六人は、洞窟の、手前にいた。


ポチの犬が、匂いを、辿った。


そして、ニナが、道を、見つけた。


洞窟には、灯りが、点いていた。


そして、笑い声が、聞こえた。


「……いますね」


シルフィが、言った。


「……何人ですか」


バルドが、聞いた。


彼女は、目を、閉じた。


そして、耳を、澄ませた。


「……三十八人」


「……四十人じゃ、ないんですか」


「……二人、外にいます」


シルフィは、答えた。


「……見張りです」


バルドは、頷いた。


そして、作戦を、考え始めた。


「……ノアさん」


「……はい」


「……見張りの様子は」


ノアは、暗闇の中で、その二人を、観察した。


「……眠そうです」


彼女は、言った。


「……あと、酒を、飲んでいます」


「……油断していますね」


「……はい」


二十二


バルドは、作戦を、立てた。


「……第一段階。ポチさんの犬で、馬を、逃がします」


「……馬を?」


「……はい」


バルドは、答えた。


「……逃げられなくします」


「……なるほど」


「……第二段階。モモさんの煙」


彼は、続けた。


「……洞窟に、煙を、入れます」


「……第三段階。出てきたところを」


バルドは、言った。


「……ノアさんとシオンさんが、交渉します」


「……交渉?」


ガルドが、驚いた。


「……戦わないのか」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……四十人と、正面から戦ったら」


彼は、続けた。


「……こちらにも、被害が、出ます」


「……」


「……でも」


バルドは、言った。


「……あの人たち、たぶん、弱いです」


二十三


「……弱い?」


レオンが、聞いた。


「……はい」


バルドは、答えた。


「……ジャンさんたちと、比べてください」


彼は、続けた。


「……ジャンさんたちは、元軍人でした」


「……ああ」


「……訓練を、受けていました」


バルドは、言った。


「……でも、あの人たちは」


彼は、洞窟を、指した。


「……夜に、酒を、飲んでいます」


「……」


「……見張りが、二人しか、いません」


「……」


「……そして、洞窟に、入っています」


バルドは、続けた。


「……洞窟は、出口が、一つです」


「……あ」


トムが、声を、上げた。


「……閉じ込められる」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……素人です」


二十四


作戦は、成功した。


まず、犬が、馬を、逃がした。


盗賊たちは、気づかなかった。


次に、モモの煙が、洞窟に、入った。


「……なんだ、これ!」


「……煙だ!」


「……火事か!?」


盗賊たちが、慌てて、外に、出た。


三十八人。


そして、その全員が。


目を、押さえていた。


「……目が! 目が痛え!」


「……何も、見えねえ!」


そこへ。


ノアと、シオンが、歩いていった。


丸腰で。


そして、盗賊たちの前に、立った。


「……」


「……」


二人とも、何も、言わなかった。


盗賊たちは、混乱した。


「……だ、誰だ!」


「……何もんだ!」


沈黙。


そして、シオンが、口を、開いた。


「……返せ」


たった、一言。


二十五


「……あ?」


盗賊の一人が、言った。


「……返せ」


シオンは、繰り返した。


「……何をだ!」


「……食糧」


シオンは、答えた。


「……ふざけんな!」


盗賊が、剣を、抜いた。


そのとき。


洞窟の上から。


矢が、降ってきた。


十本。


しかし、それは、誰にも、当たらなかった。


盗賊たちの、足元に、刺さった。


「……!」


「……囲まれてる!?」


そして、その矢の一本が。


爆発した。


小さな爆発。


しかし、音は、大きい。


「……ひっ!」


盗賊たちが、悲鳴を、上げた。


「……何人だ!?」


「……見えねえ!」


そして、暗闇の中から。


犬の、遠吠えが、聞こえた。


五十匹。


「……狼か!?」


「……囲まれてる!」


恐怖が、広がった。


二十六


「……返せ」


シオンが、もう一度、言った。


「……」


盗賊たちは、動けなかった。


そして、一人が、叫んだ。


「……返す! 返すから!」


「……おい!」


「……無理だ! 勝てねえ!」


三十八人が、武器を、捨てた。


そして、食糧を、返した。


全部。


「……」


ノアが、それを、確認した。


そして、頷いた。


「……全部です」


「……では」


バルドが、暗闇から、出てきた。


「……あなたたちに、選択肢を、与えます」


二十七


「……せ、選択肢?」


盗賊の一人が、聞いた。


「……はい」


バルドは、答えた。


「……一つ目。ここで、逃げる」


「……」


「……ただし、次に会ったら、容赦しません」


「……」


「……二つ目」


バルドは、続けた。


「……あの村で、働く」


「……働く?」


「……はい」


彼は、頷いた。


「……あなたたちが、焼いた村です」


「……」


「……家を、建て直してください」


「……」


「……そして、畑を、耕してください」


バルドは、言った。


「……一年間」


盗賊たちは、その提案に、困惑した。


「……なんで、そんなこと」


「……あなたたちが、壊したからです」


バルドは、答えた。


「……壊した人が、直す」


彼は、続けた。


「……当然です」


二十八


「……で、でも」


一人が、言った。


「……村の連中が、許すわけねえ」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……たぶん、許しません」


「……じゃあ」


「……それでも、働いてください」


バルドは、言った。


「……許されなくても」


「……」


「……それが、償いです」


盗賊たちは、その言葉を、聞いた。


そして、一人が、聞いた。


「……なんで、俺たちを、殺さねえんだ」


バルドは、答えた。


「……殺しても、村は、戻らないからです」


「……」


「……あなたたちが、働けば、村は、戻ります」


彼は、続けた。


「……どちらが、いいですか」


沈黙。


そして。


「……働く」


一人が、言った。


「……俺も」


「……俺も、だ」


三十八人のうち。


二十二人が、残った。


十六人は、逃げた。


二十九


翌朝。


十七人は、村に、戻った。


食糧と、二十二人の盗賊を、連れて。


村人たちは、驚いた。


そして、怒った。


「……こいつら!」


「……殺してやる!」


「……待ってください」


バルドが、間に、入った。


「……この人たちは、償います」


「……償い!?」


村人が、叫んだ。


「……五人、殺されたんだぞ!」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……知っています」


「……じゃあ!」


「……でも」


彼は、続けた。


「……この人たちを、殺しても、五人は、戻りません」


村人は、答えられなかった。


「……そして」


バルドは、言った。


「……この人たちが、働けば」


「……」


「……家が、建ちます」


彼は、続けた。


「……畑が、耕せます」


「……」


「……あなたたちは、生きられます」


三十


村人たちは、しばらく、黙っていた。


そして、一人の老人が、言った。


「……許さん」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……許さんが」


老人は、続けた。


「……働かせる」


「……はい」


「……朝から、晩まで」


老人は、言った。


「……休ません」


「……はい」


バルドは、答えた。


「……それで、構いません」


そして、彼は、盗賊たちを、見た。


「……いいですね」


二十二人が、頷いた。


「……ああ」


「……わかった」


そして、その日から。


村の再建が、始まった。


三十一


十七人は、村を、出発した。


村人たちが、見送りに、来た。


「……ありがとう」


老人が、言った。


「……いえ」


バルドは、答えた。


「……あんたら、何者だ」


「……賢者塾の、第一期生です」


バルドは、答えた。


「……賢者塾?」


「……はい」


「……聞いたことねえな」


老人は、笑った。


「……最近、できたので」


バルドも、笑った。


そして、十七人は、歩き出した。


南へ。


王都へ。


三十二


その道中。


大賢者が、バルドに、言った。


「……バルド」


「……はい」


「……いい判断だった」


「……ありがとうございます」


「……ただし」


彼は、続けた。


「……一つ、問題がある」


「……なんですか」


大賢者は、言った。


「……お前は、あの村を、変えた」


「……はい」


「……そして、ミルドンも、変えた」


「……はい」


「……それは、王国の仕事だ」


大賢者は、言った。


「……お前たちが、やることでは、ない」


バルドは、その指摘を、聞いた。


「……先生」


「……なんだ」


「……でも、王国は、やっていません」


「……ああ」


「……だから、僕たちが、やりました」


バルドは、言った。


「……間違って、いますか」


大賢者は、答えた。


「……間違ってはいない」


彼は、続けた。


「……しかし、危険だ」


三十三


「……危険?」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……なぜですか」


大賢者は、答えた。


「……王国が、やるべきことを、お前たちが、やった」


「……はい」


「……それは、こう見える」


彼は、続けた。


「……『王国は、無能だ』と」


バルドは、その言葉に、はっとした。


「……あ」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……お前たちは、善意で、やった」


「……はい」


「……しかし、結果として」


彼は、言った。


「……王国の、面目を、潰している」


十六人は、その指摘に、沈黙した。


「……じゃあ」


レオンが、聞いた。


「……見捨てろって、ことですか」


「……いや」


大賢者は、首を振った。


「……そうは、言っていない」


彼は、続けた。


「……ただ、知っておけ」


大賢者は、言った。


「……お前たちの善行は、誰かにとっては、脅威だ」


三十四


十日目。


十七人は、丘の上に、立った。


そして、その先に。


王都が、見えた。


「……」


十六人は、絶句した。


大きい。


想像を、遥かに、超えて。


城壁が、地平線まで、続いている。


その中に、建物が、密集している。


数万。


いや、数十万。


そして、中央に。


巨大な城が、そびえていた。


「……これが」


ミアが、呟いた。


「……王都」


「……ああ」


大賢者が、頷いた。


「……人口は」


トムが、聞いた。


「……十五万人ほどだ」


「……十五万」


トムは、その数字を、噛みしめた。


村の、二百倍。


「……行くぞ」


大賢者は、言った。


そして、十七人は、丘を、下り始めた。


三十五


同じ頃。


王都。


王城の、一室。


一人の男が、机に、向かっていた。


年齢は、五十代。


痩せている。


銀色の髪。


そして、鋭い目。


宰相、アルヴィス・グレイル。


彼の前には。


一枚の、古い書類が、あった。


紙は、黄ばんでいる。


十年以上、前のものだ。


そこには、こう書かれていた。


『賢者計画・第一期被験者、十六名』


そして、その下に、十六の名前が、並んでいた。


しかし、その名前は。


すべて、塗り潰されていた。


「……」


アルヴィスは、その書類を、見つめていた。


そして、呟いた。


「……十六人か」


彼は、続けた。


「……偶然にしては、できすぎている」


そのとき。


扉が、ノックされた。


「……閣下」


「……なんだ」


「……大賢者殿が、王都に、到着されました」


アルヴィスは、書類を、引き出しに、しまった。


そして、立ち上がった。


「……そうか」


彼は、言った。


「……では、会おう」


彼は、扉に、向かった。


そして、その途中で、立ち止まった。


「……ああ、それと」


「……はい」


「……十六人の、身体検査を、手配しておけ」


「……身体検査、ですか」


「……そうだ」


アルヴィスは、答えた。


「……客人の、健康を、気遣うのは」


彼は、微かに、笑った。


「……主人の、務めだろう」


第22話終了。

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