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大賢者と16人の落ちこぼれ弟子  作者: 伝説の男前
第一部 賢者塾開校編

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第20話 「同じものを見る」

一


七月の、終わり。


村の外れに、新しい訓練場が、作られていた。


ドグとレンが、二週間かけて、建てたものだ。


広さは、百メートル四方。


土を、平らに、ならしてある。


そして、周囲には、簡単な観覧席まで、あった。


「……なんで、観覧席があるんですか」


ミアが、聞いた。


「……村の人が、見に来るからです」


レンが、答えた。


「……見に来る?」


「……はい」


レンは、頷いた。


「……皆さん、興味があるみたいで」


確かに。


訓練場の周りには、すでに、十人ほどの村人が、集まっていた。


「……見られるの、恥ずかしいです」


エマが、呟いた。


「……慣れましょう」


バルドが、言った。


「……戦場では、もっと、見られます」


二


訓練が、始まった。


最初の課題は、単純だった。


「……十六人で、この的を、破壊する」


大賢者が、言った。


訓練場の中央に、木製の的が、置かれていた。


高さ、三メートル。


厚さ、五十センチ。


かなり、頑丈だ。


「……制限時間は、十秒」


「……十秒!?」


リナが、叫んだ。


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……十六人全員が、動いて、十秒で、壊しなさい」


十六人は、顔を見合わせた。


「……簡単じゃないですか?」


ガルドが、言った。


「……俺の一撃で、壊せますよ」


「……ならば、やってみなさい」


大賢者は、言った。


「……ただし、条件がある」


「……条件?」


「……十六人全員が、その破壊に、関与すること」


三


十六人は、作戦を、立てた。


十分かけて。


そして、実行した。


「……行きます!」


バルドが、叫んだ。


まず、ポチの犬が、走った。


的の周囲を、囲む。


次に、ミアが、魔法陣を、展開した。


リナが、爆弾を、設置した。


シルフィが、矢を、放った。


レオンが、駆けた。


ガルドが、拳を、握った。


しかし。


「……あ」


レオンが、止まった。


ミアの魔法陣の上を、通ろうとして。


「……ごめん!」


彼は、迂回した。


その一秒。


そして、ガルドが、駆け込もうとした。


しかし、そこには、リナの爆弾が、あった。


「……待って! 踏まないで!」


リナが、叫んだ。


ガルドが、止まった。


さらに、一秒。


シルフィの矢が、飛んだ。


しかし、その軌道上に、ドグがいた。


「……危ない!」


ドグが、伏せた。


矢は、逸れた。


十秒。


的は、無傷だった。


四


「……失敗だ」


大賢者が、言った。


十六人は、その場に、立ち尽くしていた。


「……なんで」


ガルドが、呟いた。


「……作戦通りに、やったのに」


「……いえ」


トムが、言った。


「……作戦通りじゃ、なかった」


「……え?」


「……僕たち、お互いの動きを、知らなかった」


トムは、続けた。


「……ミアの魔法陣が、どこに展開されるか、レオンは知らなかった」


「……」


「……リナの爆弾が、どこに置かれるか、ガルドは知らなかった」


「……」


「……シルフィの矢が、どこを通るか、ドグは知らなかった」


十六人は、その指摘に、沈黙した。


「……もう一度」


バルドが、言った。


「……今度は、もっと、詳しく、打ち合わせます」


五


二回目。


打ち合わせに、二十分。


一人ひとりの、動きを、確認した。


誰が、どこに、いつ、動くのか。


すべてを、決めた。


そして、実行した。


「……行きます!」


今度は、うまくいった。


犬が、走る。


魔法陣が、展開される。


爆弾が、設置される。


矢が、飛ぶ。


レオンが、駆ける。


ガルドが、拳を、放つ。


そして、十秒。


的は、崩れた。


「……やった!」


リナが、叫んだ。


しかし。


大賢者は、首を、振った。


「……失敗だ」


「……え!?」


十六人が、驚いた。


「……壊れましたよ!」


ガルドが、言った。


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……しかし、それでは、実戦で、使えない」


六


「……なぜですか」


バルドが、聞いた。


「……打ち合わせに、二十分かかった」


大賢者は、答えた。


「……」


「……戦場で、二十分の打ち合わせが、できると思うか」


十六人は、答えられなかった。


「……敵は、待ってくれない」


大賢者は、続けた。


「……戦況は、一秒ごとに、変わる」


「……」


「……その中で、十六人が、動くには」


彼は、言った。


「……打ち合わせなしで、動けなければ、ならない」


「……そんなの」


ミアが、呟いた。


「……無理です」


「……無理ではない」


大賢者は、答えた。


「……お前たちは、既に、それができている」


「……え?」


「……ペアの中では」


七


十六人は、その言葉に、気づいた。


確かに。


レオンとシルフィは、打ち合わせをしない。


ミアとリナも、しない。


ガルドとエマも、しない。


「……なぜ、ペアだと、できるんだ」


ガルドが、聞いた。


「……それを、考えなさい」


大賢者は、言った。


そして、去っていった。


八


その夜。


塾の大部屋。


十六人が、議論していた。


「……なんで、ペアだと、できるんだろう」


レオンが、言った。


「……慣れ、じゃないですか」


ミアが、答えた。


「……一年、一緒にいましたし」


「……でも」


トムが、言った。


「……僕たち、十六人全員、一年、一緒にいるよね」


「……あ」


ミアが、気づいた。


「……確かに」


「……じゃあ、なんだ」


ガルドが、聞いた。


沈黙。


そして、ノアが、小さく言った。


「……見ているものが、違います」


「……え?」


「……ペアの二人は、同じものを、見ています」


ノアは、続けた。


「……でも、ペアとペアは、違うものを、見ています」


「……どういうこと?」


リナが、聞いた。


ノアは、説明した。


「……レオンさんとシルフィさんは、『敵の動き』を見ています」


「……」


「……ミアさんとリナさんは、『地形と爆風の方向』を見ています」


「……」


「……ガルドさんとエマさんは、『敵の弱点』を見ています」


ノアは、言った。


「……全部、違います」


九


「……なるほど」


トムが、頷いた。


「……つまり、僕たち、同じ戦場にいるのに」


彼は、続けた。


「……違う戦場を、見てるんだ」


十六人は、その言葉に、沈黙した。


「……でも」


バルドが、言った。


「……それ、どうやって、直すんですか」


「……」


「……見ているものを、揃える?」


「……無理だと思います」


ノアが、答えた。


「……なぜですか」


「……見えるものが、違うからです」


ノアは、続けた。


「……私は、人の仕草が、見えます」


「……」


「……でも、地形は、見えません」


彼女は、言った。


「……ニナさんには、地形が、見えます」


「……」


「……でも、たぶん、人の仕草は、見えません」


ニナが、頷いた。


「……うん」


彼女は、答えた。


「……あたし、人の気持ち、全然わかんない」


「……つまり」


トムが、言った。


「……見えるものを、揃えるのは、無理だ」


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……じゃあ、どうする」


十六人は、また、沈黙した。


十


翌朝。


大賢者が、訓練場に、来た。


そして、十六人に、言った。


「……今日から、一か月」


彼は、言った。


「……ペアを、解散しなさい」


「……え!?」


十六人が、驚いた。


「……解散、ですか」


レオンが、聞いた。


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……一か月間、相棒と、組んではならない」


「……なんで、ですか」


「……お前たちは、ペアに、依存している」


大賢者は、答えた。


「……依存?」


「……そうだ」


彼は、続けた。


「……レオン。お前は、遠くの敵を、どうする」


「……シルフィが、撃ちます」


「……シルフィがいなければ」


レオンは、答えられなかった。


「……ミア。お前は、火力が足りないとき、どうする」


「……リナさんが」


「……リナがいなければ」


ミアも、答えられなかった。


「……それが、依存だ」


大賢者は、言った。


十一


「……いいか」


大賢者は、続けた。


「……ペアは、強い」


「……」


「……しかし、ペアが崩れたとき、お前たちは、何もできなくなる」


彼は、言った。


「……戦場では、必ず、崩れる」


「……」


「……相棒が、倒れることもある」


大賢者は、続けた。


「……離れ離れになることも、ある」


「……」


「……そのとき、お前たちは、どうする」


十六人は、答えられなかった。


「……だから、一か月」


大賢者は、言った。


「……別の相手と、組みなさい」


彼は、続けた。


「……毎日、変えなさい」


「……毎日!?」


リナが、叫んだ。


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……一か月で、十五人全員と、組むことになる」


十二


訓練が、始まった。


一日目。


レオンの相棒は、モモだった。


「……えっと」


レオンは、困っていた。


「……モモ、何ができる?」


「……えっと」


モモも、困っていた。


「……植物を、育てられます」


「……戦闘で?」


「……戦闘では、あんまり」


二人は、沈黙した。


「……どうしよう」


「……どうしましょう」


そして、訓練が、始まった。


課題は、簡単なものだった。


「……あの的まで、走って、破壊しなさい」


ただし。


訓練場には、障害物が、置かれていた。


丸太。


穴。


そして、動く的。


「……行くぞ!」


レオンが、走った。


そして、丸太に、つまずいて、転んだ。


そのまま、転がって、起き上がる。


いつもの、動き。


しかし。


「……レオンさん!」


モモが、叫んだ。


「……そっち、穴です!」


レオンは、止まった。


そして、足元を、見た。


確かに、穴があった。


落ちるところだった。


「……なんで、わかった?」


「……土の色です」


モモは、答えた。


「……掘り返した土は、色が、違います」


レオンは、驚いた。


「……見えるのか、それ」


「……はい」


モモは、頷いた。


「……あたし、土のことなら、わかります」


十三


その日の訓練は、意外なほど、うまくいった。


モモが、地面を、読む。


レオンが、走る。


穴も、罠も、すべて、避けられた。


「……モモ、すごいな」


レオンが、言った。


「……いえ」


モモは、首を振った。


「……あたし、走れないので」


「……走れなくても、いいんだよ」


レオンは、言った。


「……お前が、見て、俺が、走る」


彼は、続けた。


「……それで、いい」


モモは、その言葉に、少し、笑った。


「……はい」


十四


二日目。


レオンの相棒は、シオンだった。


「……えっと」


レオンは、困っていた。


「……シオン、何ができる?」


「……」


シオンは、答えなかった。


「……あ、そうか」


レオンは、頭を、掻いた。


「……喋らないんだったな」


「……」


「……じゃあ、どうする」


「……」


シオンは、訓練場を、見ていた。


そして、指を、差した。


的の、方向を。


「……あそこに、行けって?」


シオンは、頷いた。


「……わかった」


レオンは、走った。


そして、途中で。


シオンが、手を、上げた。


「……止まれ?」


レオンは、止まった。


そのとき。


動く的が、彼の目の前を、通過した。


「……あぶねえ」


もし、走り続けていたら、ぶつかっていた。


「……シオン」


レオンは、聞いた。


「……なんで、わかった?」


シオンは、答えなかった。


ただ、耳を、指差した。


「……音か」


シオンは、頷いた。


十五


そして、レオンは、気づいた。


シオンは、喋らない。


しかし、伝えている。


指。


手。


視線。


そして、頷き。


それだけで、十分だった。


「……なあ、シオン」


レオンは、聞いた。


「……お前、いつも、こうやって、伝えてるのか」


シオンは、頷いた。


「……ノアには、伝わるのか」


シオンは、また、頷いた。


「……すげえな」


レオンは、笑った。


「……俺、今日、初めて、お前と会話した気がする」


シオンは、その言葉に。


微かに、笑った。


十六


日は、過ぎていった。


三日目。


ミアの相棒は、ドグだった。


「……ドグさん」


ミアが、言った。


「……あの的、壊せますか」


「……壊せる」


ドグは、答えた。


「……でも、遠いな」


的は、五十メートル先にあった。


「……近づけません」


ミアは、言った。


「……途中に、罠があります」


「……じゃあ、どうする」


ミアは、考えた。


そして、言った。


「……ドグさん、何か、投げられますか」


「……投げる?」


「……はい」


ドグは、周囲を、見渡した。


そして、石を、拾った。


「……これでいいか」


「……はい」


ミアは、頷いた。


「……その石に、魔法陣を、刻めますか」


「……刻む?」


「……はい」


ミアは、地面に、魔法陣を、描いた。


「……これと、同じものを」


ドグは、その魔法陣を、見た。


そして、ハンマーを、取り出した。


「……やってみる」


彼は、石を、叩いた。


正確に。


精密に。


十分後。


石の表面に、細かい魔法陣が、刻まれていた。


「……できた」


「……すごい」


ミアは、驚いた。


「……こんなに、正確に」


「……まあな」


ドグは、笑った。


「……俺、精密作業は、得意だ」


十七


ミアは、その石に、魔力を、込めた。


そして、ドグが、投げた。


石は、五十メートル、飛んだ。


そして、的に、当たった。


その瞬間。


魔法陣が、発動した。


爆発。


的が、崩れた。


「……できた!」


ミアが、叫んだ。


「……できましたよ、ドグさん!」


「……おう」


ドグは、頷いた。


「……いい発明だな、これ」


「……はい」


ミアは、興奮していた。


「……これ、リナさんの爆弾より、便利かも」


「……そうか?」


「……はい」


ミアは、続けた。


「……爆弾は、重いです。……でも、石なら、たくさん、持てます」


彼女は、言った。


「……ドグさん」


「……ん?」


「……これ、たくさん、作れますか」


「……作れる」


ドグは、答えた。


「……一日、百個くらいなら」


「……百個!」


ミアの目が、輝いた。


十八


こうして。


十六人は、新しい組み合わせを、発見していった。


ガルド+レン


レンが、壁を作る。


ガルドが、その壁ごと、敵を、押し潰す。


シルフィ+ポチ


犬が、敵の位置を、知らせる。


シルフィが、見ずに、撃つ。


ニナ+リナ


ニナが、地形の弱い場所を、見つける。


リナが、そこを、爆破する。


エマ+ココ


エマが、必要な栄養を、判断する。


ココが、それを、料理にする。


ノア+トム


ノアが、観察する。


トムが、それを、全員に、伝える。


バルド+ドグ


バルドが、必要な道具を、思いつく。


ドグが、それを、作る。


新しい組み合わせは、次々と、生まれた。


そして、十六人は、気づいた。


「……あれ」


リナが、言った。


「……あたしたち、けっこう、なんでも、組めるじゃん」


十九


一か月が、経った。


八月の、終わり。


大賢者が、訓練場に、来た。


「……では」


彼は、言った。


「……もう一度、あの課題を、やりなさい」


的が、置かれた。


「……制限時間は、十秒」


「……打ち合わせは」


バルドが、聞いた。


「……なし」


大賢者は、答えた。


「……今から、十秒後に、始める」


十六人は、驚いた。


「……十秒後!?」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……九」


彼は、数え始めた。


「……八」


「……七」


十六人は、慌てた。


「……どうする!?」


ガルドが、叫んだ。


「……六」


「……五」


そのとき。


トムが、叫んだ。


「……ノア!」


「……はい!」


「……見て!」


ノアは、的を、見た。


そして、答えた。


「……右下!」


「……四」


「……ニナ!」


トムが、叫んだ。


「……うん!」


「……地面!」


ニナは、地面を、見た。


「……左が、柔らかい!」


「……三」


「……シルフィ!」


「……はい!」


「……音!」


シルフィは、耳を、澄ませた。


「……的の中、空洞です! ……上の方!」


「……二」


「……一」


「……始め」


二十


十六人が、動いた。


しかし、それは、打ち合わせのない動きだった。


ノアが、「右下」と言った。


その情報が、全員に、届いていた。


ニナが、「左が柔らかい」と言った。


その情報も、届いていた。


シルフィが、「上に空洞」と言った。


その情報も。


そして。


十六人は、その情報を、共有した状態で、動いた。


レオンが、走った。


左を。


地面が柔らかいから、転びやすい。


しかし、彼は、転ぶことが、得意だ。


彼は、意図的に、転んだ。


そして、滑るように、的に、接近した。


その後ろから。


シルフィが、矢を、放った。


的の、上部。


空洞のある場所へ。


矢が、突き刺さった。


そこに、リナの爆薬が、仕込まれていた。


ミアが、微量の魔力を、放った。


爆発。


的の、上部が、崩れた。


その瞬間。


ガルドが、駆け込んだ。


そして、右下を、殴った。


ノアが、指摘した場所。


的の、最も弱い部分。


的が、崩れた。


完全に。


そして。


その崩れた木材を。


ドグとレンが、受け止めた。


「……危ない!」


レンが、叫んだ。


彼は、崩れた木材の、進行方向を、読んでいた。


そして、ドグが、それを、叩き落とした。


木材は、誰にも、当たらなかった。


十秒。


的は、完全に、破壊されていた。


そして、誰も、怪我をしていなかった。


二十一


沈黙。


十六人は、その場に、立ち尽くしていた。


「……え」


リナが、呟いた。


「……今の、何?」


「……わからない」


レオンが、答えた。


「……気づいたら、体が、動いてた」


「……私も」


ミアが、言った。


「……何も、考えてませんでした」


十六人は、互いを、見合わせた。


そして。


大賢者が、拍手をした。


一人で。


「……見事だ」


彼は、言った。


「……今のが、答えだ」


二十二


「……先生」


バルドが、聞いた。


「……僕たち、何を、したんですか」


大賢者は、答えた。


「……情報を、共有した」


「……情報?」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……ノアが見たものを、全員が、知った」


「……」


「……ニナが見たものを、全員が、知った」


「……」


「……シルフィが聞いたものを、全員が、知った」


彼は、続けた。


「……その瞬間、お前たちは、同じものを、見た」


十六人は、その説明を、聞いた。


「……つまり」


トムが、言った。


「……見えるものを、揃える必要は、なかったんだ」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……見えたものを、伝えればいい」


彼は、続けた。


「……そうすれば、全員が、同じものを、見る」


二十三


「……いいか」


大賢者は、言った。


「……人間の体を、考えてみなさい」


「……体、ですか」


「……そうだ」


大賢者は、続けた。


「……目は、見る」


「……」


「……耳は、聞く」


「……」


「……鼻は、嗅ぐ」


彼は、言った。


「……しかし、目は、聞こえない。耳は、見えない」


「……はい」


「……では、なぜ、人間は、まとまって動ける」


十六人は、考えた。


そして、エマが、答えた。


「……神経が、あるからです」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……目が見たものを、神経が、脳に運ぶ」


「……」


「……耳が聞いたものも、同じだ」


彼は、続けた。


「……そして、脳が、判断する」


「……」


「……その判断が、また、神経を通って、手足に、届く」


大賢者は、言った。


「……お前たち十六人は、一つの体になれる」


二十四


「……ノア、シルフィ、ニナ、ポチ、モモ、エマ」


大賢者は、言った。


「……お前たちは、感覚器だ」


六人が、頷いた。


「……見る。聞く。嗅ぐ。読む」


「……」


「……お前たちが、情報を、集める」


大賢者は、続けた。


「……トム、シオン」


「……はい」


「……お前たちは、神経だ」


「……神経?」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……トムは、全員の言葉を、翻訳できる」


「……」


「……シオンは、言葉なしで、伝えられる」


彼は、続けた。


「……お前たちが、情報を、運ぶ」


そして、大賢者は、バルドを、見た。


「……バルド」


「……はい」


「……お前は、脳だ」


「……脳」


「……そうだ」


大賢者は、答えた。


「……集まった情報から、判断する」


「……」


「……そして、レオン、ミア、ガルド、リナ、ドグ、レン、ココ」


七人が、頷いた。


「……お前たちは、手足だ」


大賢者は、言った。


「……判断を、実行する」


二十五


十六人は、その説明を、聞いていた。


そして、レオンが、言った。


「……つまり、僕たちは」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……十六人で、一人の人間になる」


彼は、続けた。


「……それが、お前たちの、最終形だ」


十六人は、その言葉に、震えた。


「……でも、先生」


バルドが、聞いた。


「……僕が、脳ですか」


「……そうだ」


「……僕、判断、遅いです」


バルドは、続けた。


「……いつも、迷います」


「……知っている」


大賢者は、答えた。


「……しかし、お前は、必ず、決める」


「……」


「……遅くても、決める」


彼は、続けた。


「……そして、その決断で、誰も死んでいない」


バルドは、その言葉に、頷いた。


「……はい」


二十六


「……ただし」


大賢者は、言った。


「……問題が、ある」


「……問題?」


「……今日の課題は、的だった」


大賢者は、続けた。


「……動かない、木の的だ」


「……はい」


「……しかし、実戦の敵は、動く」


彼は、言った。


「……そして、考える」


「……」


「……お前たちの情報伝達を、妨害してくる」


十六人は、その言葉に、緊張した。


「……エリスなら」


大賢者は、続けた。


「……まず、ノアを狙う」


「……え?」


「……次に、トムを狙う」


彼は、言った。


「……感覚器と、神経を、潰せば」


「……」


「……お前たちは、動けなくなる」


二十七


「……じゃあ、どうすれば」


バルドが、聞いた。


「……考えなさい」


大賢者は、答えた。


そして、去っていった。


十六人は、その場に、残された。


「……また、それか」


ガルドが、笑った。


「……あの人、絶対、答え言わないな」


「……はい」


バルドは、頷いた。


そして、少し、笑った。


「……でも、それが、先生です」


二十八


その夜。


塾の大部屋。


十六人が、議論していた。


「……感覚器を、増やせばいいんじゃないですか」


ミアが、言った。


「……増やす?」


「……はい」


ミアは、続けた。


「……ノアさんだけじゃなくて、全員が、観察できるようになれば」


「……無理だよ」


リナが、言った。


「……あたし、人の気持ちとか、わかんないもん」


「……私も」


ニナが、頷いた。


「……いや」


トムが、言った。


「……完璧じゃなくていいと思う」


「……え?」


「……ノアの十分の一でもいい」


トムは、続けた。


「……全員が、少しずつ、観察できれば」


「……」


「……ノアが倒れても、なんとかなる」


十六人は、その提案を、考えた。


「……できるかな」


レオンが、言った。


「……できると思う」


トムは、答えた。


「……僕、そういうの、得意だから」


彼は、笑った。


「……僕、何でも『そこそこ』できるだろ」


「……うん」


「……だから、教えられる」


トムは、言った。


「……ノアの十分の一なら、僕にも、できる」


二十九


そして、十六人は、新しい訓練を、始めた。


全員が、全員の技術を、少しずつ学ぶ


ノアが、観察の基礎を、教えた。


「……人が嘘をつくとき、まばたきが、増えます」


シルフィが、聴覚の基礎を、教えた。


「……目を閉じて、五分。……それだけで、音が、変わります」


ニナが、地形の読み方を、教えた。


「……水が流れた跡は、こういう形に、なります」


エマが、体調の見方を、教えた。


「……唇の色を、見てください」


モモが、植物の知識を、教えた。


「……この葉は、食べられます」


ポチが、犬との、意思疎通を、教えた。


「……尻尾じゃなくて、耳を見て」


そして、十六人は、少しずつ。


互いの、才能を、共有していった。


三十


九月。


十月。


十一月。


季節が、過ぎていった。


村は、さらに、大きくなった。


収穫があった。


モモの指導した畑から、大量の作物が、採れた。


そして、その一部を、他の村に、売った。


交渉は、ノアとシオンが、担当した。


村に、初めて、現金収入が、生まれた。


「……すごいです」


村長が、言った。


「……こんなに、豊かになるなんて」


「……はい」


バルドは、答えた。


「……皆さんの、おかげです」


そして、十二月。


雪が、降り始めた。


エリスとの約束まで。


あと、四か月。


三十一


その夜。


塾の屋上。


十六人が、集まっていた。


「……四か月か」


レオンが、呟いた。


「……はい」


バルドが、頷いた。


「……間に合うかな」


「……わかりません」


バルドは、答えた。


「……でも、やります」


十六人は、村を、見下ろした。


灯りが、点いている。


百五十軒以上の、家。


そして、そこに住む、七百人以上の人々。


「……守らなきゃな」


ガルドが、言った。


「……はい」


「……あいつが来たら」


ガルドは、続けた。


「……この村も、危ないかもしれない」


「……いえ」


バルドは、首を振った。


「……エリスさんは、村を襲いません」


「……なんで、わかる」


「……約束したからです」


バルドは、答えた。


「……あの人は、嘘をつきません」


「……そうか」


ガルドは、頷いた。


「……ただ」


バルドは、続けた。


「……もし、僕たちが、負けたら」


「……」


「……殺されます」


彼は、言った。


「……全員」


十六人は、その言葉に、沈黙した。


そして、レオンが、言った。


「……負けないよ」


「……」


「……一撃、入れる」


彼は、続けた。


「……絶対に」


十五人が、頷いた。


そして、その夜。


十六人は、静かに、決意した。


四か月後。


自分たちの、すべてを、賭けることを。


第20話終了。

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