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大賢者と16人の落ちこぼれ弟子  作者: 伝説の男前
第一部 賢者塾開校編

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18/38

第18話 「帰り道」

一


四月。


ヴェルド砦を、出発して、二日目。


十七人は、南へ、歩いていた。


十六人と、大賢者。


「……先生」


エマが、言った。


「……腕の傷、見せてください」


「……大丈夫だ」


「……大丈夫じゃ、ありません」


エマは、珍しく、強い口調で、言った。


「……昨日から、血が、滲んでいます」


大賢者は、少し、驚いた顔をした。


そして、袖を、まくった。


右腕。


そこに、切り傷があった。


エリスの剣が、つけたものだ。


長さ、十センチほど。


深くはない。


しかし。


「……治っていません」


エマは、言った。


「……二日、経っているのに」


「……そうだな」


大賢者は、頷いた。


「……エリスさんの剣、何か、あるんですか」


「……ある」


大賢者は、答えた。


「……治りにくくなる」


「……毒、ですか」


「……いや」


大賢者は、首を振った。


「……毒では、ない」


「……では」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、言った。


「……あれは、『命を削る技』だ」


二


十六人が、足を、止めた。


「……命を、削る」


ミアが、呟いた。


「……そうだ」


大賢者は、答えた。


「……自分の命を、燃やして、力に変える」


「……」


「……だから、傷が、治りにくい」


彼は、続けた。


「……斬られた側の、生命力も、奪うからだ」


十六人は、その言葉に、青ざめた。


「……じゃあ」


エマが、言った。


「……エリスさん、自分の命を」


「……そうだ」


大賢者は、頷いた。


「……あの顔の傷も、それが原因だ」


「……」


「……内側から、焼けている」


エマは、その言葉に、震えた。


自分の診断が、正しかった。


しかし、正しくないことを、望んでいた。


「……先生」


彼女は、聞いた。


「……エリスさんは、あと、どのくらい」


大賢者は、答えなかった。


「……先生」


「……わからん」


彼は、言った。


「……しかし、長くはない」


三


その日の夜。


野営地。


焚き火を、囲んで。


十六人は、静かだった。


「……なあ」


ガルドが、口を開いた。


「……あいつ、死ぬのか」


「……」


誰も、答えなかった。


「……八百人、殺したんだぞ」


ガルドは、続けた。


「……許されることじゃ、ない」


「……はい」


バルドが、頷いた。


「……でも」


ガルドは、言った。


「……なんか、嫌だな」


「……はい」


「……あいつが、死ぬの、嫌だ」


ガルドは、俯いた。


「……なんでだろ」


「……たぶん」


トムが、言った。


「……僕たちと、似てるからだよ」


「……似てる?」


「うん」


トムは、続けた。


「あの人も、たぶん、落ちこぼれだったんだ」


十六人が、彼を、見た。


「……先生が、拾ったってことは、そういうことだと思う」


トムは、言った。


「先生は、いつも、できない子を、拾う」


「……」


「僕たち、みんなそうだ」


「……確かに」


レオンが、頷いた。


「……じゃあ、あの人も」


「うん」


トムは、答えた。


「……だから、他人事じゃないんだ」


四


「……先生」


シルフィが、聞いた。


「……なんだ」


「……エリスさんは、どんな弟子でしたか」


大賢者は、しばらく、考えた。


そして、答えた。


「……最悪だった」


十六人が、驚いた。


「……最悪?」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……なにをやっても、駄目だった」


彼は、続けた。


「……剣を持てば、指を切る」


「……」


「……魔法を使えば、自分に当たる」


「……」


「……走れば、転ぶ」


十六人は、その説明に、驚いた。


「……レオンさんみたい」


ミアが、呟いた。


「……そうだな」


大賢者は、笑った。


「……似ている」


「……」


「……そして、泣き虫だった」


彼は、続けた。


「……毎日、泣いていた」


「……」


「……『私、才能ないです』と言って」


十六人は、その言葉に、胸を、突かれた。


自分たちと、同じだった。


「……で、私は、こう言った」


大賢者は、続けた。


「……『君は、必ず強くなる』と」


「……」


「……そして、彼女は、強くなった」


彼は、言った。


「……私の、想像を、超えて」


五


「……先生」


バルドが、聞いた。


「……なんだ」


「……なぜ、置いていったんですか」


大賢者は、答えなかった。


「……すみません」


バルドは、言った。


「……聞いては、いけないことですね」


「……いや」


大賢者は、首を振った。


「……いつか、話す」


「……いつか?」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……お前たちが、それを聞いても、揺らがなくなったときに」


十六人は、その言葉を、聞いた。


そして、バルドが、言った。


「……わかりました」


彼は、続けた。


「……待ちます」


六


三日目。


十七人は、山を、越えた。


そして、平原に、出た。


その先に。


避難民たちの、姿があった。


前に会った、三百人。


しかし、その数が。


増えていた。


「……多い」


ノアが、呟いた。


「……五百人以上、います」


「……増えてる?」


リナが、聞いた。


「……はい」


ノアは、頷いた。


「……他の村からも、逃げてきたんだと思います」


十七人は、その列に、近づいた。


そして、あの老婆を、見つけた。


「……あんたら!」


老婆が、叫んだ。


「……生きてたのかい!」


「……はい」


バルドが、答えた。


「……ただいま、帰りました」


老婆は、泣いた。


そして、十六人を、抱きしめた。


一人ずつ。


「……よかった」


彼女は、言った。


「……よかった」


七


「……ばあちゃん」


ココが、聞いた。


「……人、増えてない?」


「……ああ」


老婆は、頷いた。


「……北から、次々と、逃げてきてね」


「……」


「……でも、行く先が、ないんだよ」


老婆は、続けた。


「……南の街は、受け入れてくれない」


「……なんで」


「……食糧が、足りないってさ」


老婆は、答えた。


「……五百人分の食い扶持なんて、どこにもないよ」


十六人は、その言葉を、聞いた。


そして、バルドが、大賢者を、見た。


「……先生」


「……なんだ」


「……村に、連れて帰っては、駄目ですか」


大賢者は、少し、驚いた。


「……五百人をか」


「……はい」


「……村の人口は、二百人だぞ」


「……はい」


バルドは、頷いた。


「……食糧は、どうする」


「……わかりません」


バルドは、答えた。


「……でも」


彼は、続けた。


「……モモさんがいます」


「……え?」


モモが、驚いた。


「……モモさんなら、畑を、増やせます」


バルドは、言った。


「……ポチさんの犬が、狩りをできます」


「……」


「……ドグさんとレンさんが、家を建てられます」


「……」


「……ココさんが、大人数の料理を、作れます」


バルドは、続けた。


「……ニナさんが、新しい水源を、見つけられます」


「……」


「……ノアさんとシオンさんが、他の村と、交渉できます」


彼は、大賢者を、見た。


「……できると、思います」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、微かに、笑った。


「……お前は」


彼は、言った。


「……本当に、指揮官になったな」


八


十七人と、五百人。


合わせて、五百十七人。


その大移動が、始まった。


しかし、それは、簡単ではなかった。


老人が、多い。


子供が、多い。


病人も、いる。


一日に、進める距離は、わずか十キロ。


「……食糧が、足りません」


ココが、言った。


三日目の夜。


「……あと、二日分しか、ありません」


「……村まで、何日?」


トムが、聞いた。


「……六日です」


ニナが、答えた。


「……四日、足りない」


十六人は、沈黙した。


「……モモさん」


バルドが、聞いた。


「……この辺で、食べられるもの、ありますか」


モモは、周囲を、見渡した。


そして、答えた。


「……あります」


「……本当ですか」


「……はい」


モモは、頷いた。


「……でも」


彼女は、続けた。


「……採るのに、時間が、かかります」


「……どのくらい」


「……五百人分だと」


モモは、計算した。


「……一日、かかります」


「……」


バルドは、考えた。


一日、止まる。


そうすれば、村まで、七日になる。


食糧は、増える。


しかし、時間が、かかる。


「……止まりましょう」


彼は、言った。


九


翌日。


五百十七人が、食糧採取に、動いた。


モモが、指揮を執った。


「……この葉っぱは、食べられます」


彼女は、言った。


「……こっちの根も、食べられます」


「……この実は、駄目です。……お腹を、壊します」


彼女は、五百人に、教えた。


一人ずつ。


丁寧に。


そして、五百人が、動いた。


森へ。


草原へ。


沢へ。


そして、夕方には。


大量の、食材が、集まっていた。


「……すごい」


ココが、呟いた。


「……こんなに」


「……はい」


モモは、頷いた。


「……人が多いと、たくさん、集まります」


彼女は、笑った。


「……あたし一人だと、一日で、十人分くらいしか、採れません」


「……でも、五百人いれば」


「……はい」


モモは、答えた。


「……五百人分、採れます」


十六人は、その言葉に、感心した。


そして、ココが、料理を、始めた。


五百人分。


一人では、無理だ。


しかし。


「……手伝わせて」


避難民の女性たちが、集まってきた。


「……あたしら、料理は、得意だよ」


「……よろしくお願いします!」


ココは、頭を、下げた。


そして、五十人の女性たちと、一緒に、料理を、作った。


大きな鍋が、二十個。


そして、夜。


五百十七人が、食事を、した。


温かい食事を。


何日ぶりかの。


「……うまい」


誰かが、呟いた。


「……うまい」


そして、あちこちで、泣き声が、聞こえた。


生きている。


そのことを、確かめるように。


十


その夜。


大賢者は、焚き火の外で、立っていた。


「……先生」


バルドが、近づいてきた。


「……なんだ」


「……いいんでしょうか」


「……何がだ」


「……こんなことをしていて」


バルドは、続けた。


「……僕たちは、王命を、破りました」


「……ああ」


「……たぶん、罰が、あります」


「……そうだな」


「……なのに、五百人を、連れて帰ろうとしています」


バルドは、言った。


「……もっと、罪が、重くなるかもしれません」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、聞いた。


「……バルド」


「……はい」


「……お前は、なぜ、五百人を連れて帰ろうと思った」


バルドは、答えた。


「……見捨てられなかったからです」


「……」


「……それだけです」


大賢者は、頷いた。


「……ならば、それでいい」


「……でも」


「……バルド」


大賢者は、言った。


「……法は、人を守るためにある」


「……」


「……人を殺すためではない」


彼は、続けた。


「……もし、法が人を殺すなら」


「……」


「……その法は、間違っている」


バルドは、その言葉を、聞いた。


「……先生」


「……なんだ」


「……それ、王様に、言ったら」


バルドは、聞いた。


「……怒られませんか」


大賢者は、笑った。


「……怒られるだろうな」


彼は、答えた。


「……しかし、私は、王の家来ではない」


十一


六日目。


村まで、あと一日。


そのとき。


前方に、砂煙が、見えた。


「……騎馬だ」


シルフィが、言った。


「……数は?」


バルドが、聞いた。


「……五十騎」


「……五十」


十六人は、身構えた。


そして、その騎馬隊が、近づいてきた。


王国軍の、旗。


そして、その先頭に。


甲冑を着た、男が、いた。


三十代。


厳格な顔つき。


「……止まれ!」


彼は、叫んだ。


五百十七人が、止まった。


男は、馬から、降りた。


そして、大賢者の前に、立った。


「……大賢者殿」


彼は、言った。


「……久しいな、ロラン卿」


大賢者が、答えた。


「知り合いですか」


トムが、小声で、聞いた。


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……王国軍第二師団長。……ロラン・デュヴァル」


十二


「……単刀直入に、申し上げます」


ロランは、言った。


「……そちらの、十六名」


彼は、十六人を、指した。


「……王命により、拘束いたします」


十六人が、緊張した。


「……罪状は」


大賢者が、聞いた。


「……王命違反」


ロランは、答えた。


「……『弟子の同行は認めない』との勅令に、背きました」


「……」


「……本来なら、極刑です」


その言葉に。


五百人の避難民たちが、ざわめいた。


「……なんだって!?」


「……この子らを!?」


「……冗談じゃない!」


老婆が、前に、出た。


「……ちょっと、あんた!」


彼女は、ロランに、詰め寄った。


「……この子らは、あたしらを、助けてくれたんだ!」


「……」


「……食べ物を、分けてくれた!」


「……」


「……そんな子らを、殺すってのかい!?」


ロランは、答えなかった。


そして、五百人が、十六人の前に、立ちはだかった。


「……連れて行かせない」


「……そうだ!」


「……この子らに、手を出すな!」


五百人が、壁になった。


十六人は、その光景に、絶句した。


十三


「……どきなさい」


ロランは、言った。


「……これは、王命です」


「……知るか!」


老婆が、叫んだ。


「……王様が、何をしてくれた!?」


「……」


「……砦が落ちても、誰も助けに来なかった!」


老婆は、続けた。


「……あたしらは、逃げるしかなかった!」


「……」


「……南の街は、受け入れてくれなかった!」


彼女は、泣きながら、叫んだ。


「……助けてくれたのは、この子らだけだ!」


五百人が、頷いた。


「……そうだ!」


「……この子らだけだ!」


ロランは、その声を、聞いていた。


そして、しばらく、黙っていた。


そのとき。


大賢者が、前に、出た。


「……ロラン卿」


彼は、言った。


「……はい」


「……この子らを、裁くのなら」


大賢者は、言った。


「……私を、裁け」


十四


その言葉に。


場が、静まり返った。


「……大賢者殿」


ロランは、言った。


「……それは、できません」


「……なぜだ」


「……あなたは、この国に、必要です」


「……」


「……あなたがいなければ、この国は、崩れます」


大賢者は、答えた。


「……ならば、覚えておけ」


彼は、言った。


「……この十六人がいなければ」


「……」


「……私も、崩れる」


ロランは、その言葉に、驚いた。


「……大賢者殿」


「……ロラン卿」


大賢者は、続けた。


「……ヴェルド砦の、守備兵、六百名」


「……」


「……無事だ」


ロランの顔色が、変わった。


「……なんですと?」


「……無事だ」


大賢者は、繰り返した。


「……全員、生きている」


十五


「……どういう、ことですか」


ロランは、聞いた。


「……ヴェルド砦は、陥落したと」


「……いや」


大賢者は、首を振った。


「……守備兵は、砦を、放棄した」


「……放棄?」


「……そうだ」


大賢者は、答えた。


「……敵が来る、と聞いて、逃げた」


「……」


「……食事の途中で」


大賢者は、続けた。


「……六百人全員が、南に、逃げた」


ロランは、絶句した。


「……そんな、馬鹿な」


「……確かめればいい」


大賢者は、言った。


「……彼らは、今、南の森に、隠れている」


「……」


「……ノア」


「……はい」


ノアが、前に、出た。


「……説明しなさい」


「……はい」


ノアは、頷いた。


そして、言った。


「……砦の中に、血が、ありませんでした」


「……」


「……武器庫の武器も、揃っていました」


ノアは、続けた。


「……戦ったなら、武器が、減っているはずです」


「……」


「……そして、厩舎の馬が、いませんでした」


彼女は、言った。


「……つまり、馬に乗って、逃げたんです」


ロランは、その説明を、聞いていた。


「……それを、いつ、確かめた」


「……砦に入って、五分後です」


ノアは、答えた。


ロランは、驚いた。


「……五分?」


「……はい」


十六


「……なぜ、報告しない」


ロランは、大賢者に、聞いた。


「……守備兵の逃亡は、重大な軍規違反です」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……報告すれば、六百人が、処刑される」


「……当然です」


「……そうか」


大賢者は、言った。


「……では、聞くが」


彼は、続けた。


「……ホルム砦の八百人は、なぜ、死んだ」


ロランは、答えられなかった。


「……逃げなかったからだ」


大賢者は、言った。


「……命令を守って、砦に留まった」


「……」


「……そして、全員、殺された」


大賢者は、続けた。


「……逃げた六百人は、生きている」


「……」


「……どちらが、正しい」


ロランは、答えられなかった。


「……ロラン卿」


大賢者は、言った。


「……私は、報告しない」


「……」


「……そして、君にも、報告してほしくない」


ロランは、しばらく、黙っていた。


そして、聞いた。


「……なぜ、私に、それを言うのですか」


大賢者は、答えた。


「……君が、三年前、同じことをしたからだ」


十七


ロランの顔から。


血の気が、引いた。


「……なぜ、それを」


「……知っている」


大賢者は、答えた。


「……三年前の、国境紛争」


彼は、続けた。


「……君は、第五中隊に、撤退を命じた」


「……」


「……命令違反だった」


「……」


「……しかし、そのおかげで、二百人が、生き延びた」


ロランは、震えていた。


「……あれは」


彼は、言った。


「……誰にも、知られていないはずです」


「……知っている者は、いる」


大賢者は、答えた。


「……ただ、黙っているだけだ」


ロランは、俯いた。


そして、しばらくして、言った。


「……私は」


彼は、続けた。


「……ずっと、それを、後悔していました」


「……後悔?」


「……はい」


ロランは、答えた。


「……命令を破ったことを、ではありません」


「……」


「……もっと早く、破らなかったことを」


彼は、言った。


「……三日、遅れました」


「……」


「……その三日で、四百人が、死にました」


十八


沈黙。


そして、ロランは、顔を上げた。


「……大賢者殿」


「……なんだ」


「……一つ、確認します」


「……なんだ」


ロランは、聞いた。


「……白い翼は、止まりましたか」


「……ああ」


大賢者は、答えた。


「……一年間は、動かない」


「……一年」


ロランは、頷いた。


「……それは、確かですか」


「……確かだ」


大賢者は、言った。


「……彼女は、嘘をつかない」


ロランは、しばらく、考えた。


そして、部下たちを、振り返った。


「……全隊、聞け!」


彼は、叫んだ。


五十騎が、姿勢を、正した。


「……我々は、この一帯を、捜索した!」


ロランは、言った。


「……しかし、大賢者殿の弟子は、発見できなかった!」


十六人が、驚いた。


「……以上!」


ロランは、続けた。


「……報告書は、そう書く!」


「……し、師団長!」


副官が、叫んだ。


「……それは!」


「……不服か」


ロランは、聞いた。


副官は、しばらく、迷った。


そして、答えた。


「……いえ」


彼は、言った。


「……我々は、何も、発見しませんでした」


五十騎が、頷いた。


十九


「……ロラン卿」


大賢者が、言った。


「……礼は、不要です」


ロランは、答えた。


「……ただし」


彼は、続けた。


「……一つだけ、警告します」


「……なんだ」


ロランは、声を、低めた。


「……宰相閣下です」


「……」


「……あの方は、あなたの弟子を、警戒しています」


「……なぜだ」


大賢者は、聞いた。


「……わかりません」


ロランは、答えた。


「……しかし、勅令の但し書きは、あの方が、書きました」


「……」


「……そして、あの方は、こう言っていました」


ロランは、続けた。


「……『あれは、十六人ではない。十六の破片だ』と」


十六人は、その言葉に、戸惑った。


「……破片?」


トムが、呟いた。


「……どういう、意味ですか」


ロランは、首を振った。


「……わかりません」


彼は、答えた。


「……しかし、あの方は、何かを、知っています」


そして、ロランは、大賢者を、見た。


「……あなたと、同じものを」


二十


騎馬隊は、去っていった。


五百十七人は、再び、南へ、歩き出した。


「……先生」


バルドが、聞いた。


「……なんだ」


「……宰相って、どんな人ですか」


大賢者は、しばらく、黙っていた。


そして、答えた。


「……賢い男だ」


「……」


「……そして、危険だ」


「……危険?」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


「……あの男は、正しいことをする」


「……それは、いいことでは」


「……いや」


大賢者は、首を振った。


「……あの男の『正しい』は、国のためだ」


彼は、続けた。


「……人のためではない」


「……」


「……国のためなら、百人殺す」


大賢者は、言った。


「……そういう男だ」


バルドは、その言葉に、身震いした。


二十一


七日目。


夕方。


五百十七人は、フェアウッド村に、到着した。


そして、その光景に。


十六人は、絶句した。


村が。


変わっていた。


「……なんだ、これ」


レオンが、呟いた。


村の周囲に。


新しい家が、建っていた。


三十軒以上。


そして、畑が、広がっていた。


以前の、三倍。


「……あれ」


モモが、言った。


「……あの畑、耕したばかりです」


「……誰が」


そのとき。


村から、人が、走ってきた。


ジャンだった。


「……お前ら!」


彼は、叫んだ。


「……帰ってきたか!」


「……ジャンさん!」


十六人が、駆け寄った。


「……これ、どうしたんですか」


バルドが、聞いた。


「……ああ、これか」


ジャンは、笑った。


「……作った」


「……作った?」


「……三十四人でな」


ジャンは、答えた。


「……お前らが、いない間に」


二十二


「……なんで」


バルドが、聞いた。


「……いや」


ジャンは、頭を、掻いた。


「……お前ら、帰ってきたら、疲れてるだろうと思って」


「……」


「……で、何かできることないかって、考えて」


彼は、続けた。


「……そしたら、家と、畑かなって」


十六人は、その言葉を、聞いていた。


そして、バルドが、後ろを、振り返った。


五百人の、避難民たち。


「……ジャンさん」


「……ん?」


「……この人たち、五百人います」


「……」


「……住む場所が、ありません」


ジャンは、その五百人を、見た。


そして、しばらく、黙っていた。


そして、言った。


「……足りねえな」


「……え?」


「……三十軒じゃ、足りねえ」


ジャンは、続けた。


「……あと、百軒くらい、要るか」


「……ジャンさん」


「……作るぞ!」


ジャンは、振り返って、叫んだ。


村から、三十三人が、出てきた。


「……なんだ、ジャン!」


「……人が、増えた!」


ジャンは、叫んだ。


「……家、足りねえ!」


「……何人だ!」


「……五百人!」


「……五百!?」


三十三人が、驚いた。


しかし。


「……よし!」


一人が、叫んだ。


「……やるか!」


「……材木、切りに行くぞ!」


「……おう!」


三十四人が、動き出した。


十六人は、その光景を、見つめていた。


そして、バルドが、呟いた。


「……すごい」


「……ああ」


トムが、頷いた。


「……あの人たち、本当に、変わったな」


二十三


その夜。


村の広場。


五百十七人と、二百人の村人と、三十四人の元盗賊。


合計、七百五十一人。


そのすべてが、広場に、集まっていた。


そして、大きな焚き火が、焚かれた。


ココが、料理を、作った。


七百五十一人分。


一人では、無理だ。


しかし。


村の女性たちが、手伝った。


避難民の女性たちも、手伝った。


そして、元盗賊たちも、手伝った。


百人以上が、鍋を、囲んだ。


そして、夜。


七百五十一人が、食事を、した。


「……うまい」


誰かが、呟いた。


「……うまい」


そして、笑い声が、聞こえた。


久しぶりの。


本当に、久しぶりの。


「……ココ」


レオンが、言った。


「……ん?」


「……お前、すごいな」


「……え?」


「……七百五十人だぞ」


レオンは、続けた。


「……七百五十人を、食わせてる」


ココは、その言葉に、驚いた。


そして、周囲を、見渡した。


七百五十一人が、食べていた。


自分の料理を。


「……あたし」


彼女は、呟いた。


「……料理、下手だったのに」


「……下手じゃない」


レオンは、言った。


「……独創的なんだよ」


ココは、笑った。


そして、泣いた。


「……味見しました」


彼女は、言った。


そして、続けた。


「……自信、あります」


二十四


大賢者は、その光景を、離れた場所から、見ていた。


「……先生」


トムが、隣に、来た。


「……また、君か」


大賢者は、笑った。


「……すみません」


「……いい」


大賢者は、答えた。


そして、二人は、広場を、見つめた。


七百五十一人。


一年前は、二百人の、小さな村だった。


「……先生」


「……なんだ」


「……この村、これから、どうなりますか」


大賢者は、答えた。


「……わからん」


「……」


「……しかし」


彼は、続けた。


「……面白くなりそうだ」


トムは、笑った。


「……はい」


そして、彼は、聞いた。


「……先生」


「……なんだ」


「……宰相の言った、『十六の破片』って」


大賢者は、答えなかった。


「……先生」


「……トム」


大賢者は、言った。


「……それも、いつか、話す」


「……いつか、ですか」


「……ああ」


大賢者は、頷いた。


そして、広場を、見つめた。


十六人が、そこにいた。


笑っていた。


食べていた。


そして、生きていた。


「……まだ、早い」


大賢者は、呟いた。


その言葉は、焚き火の音に、かき消された。


第18話終了。

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