第16話 「白い翼」
一
ヴェルド砦は、静かだった。
十六人は、砦の外壁から、五百メートルの位置にいた。
小高い丘の、陰。
そこから、砦を、観察していた。
「……門が、開いています」
ノアが、小さく言った。
「……はい」
シルフィが、頷いた。
「……音が、しません」
「……人の気配は」
バルドが、聞いた。
シルフィは、目を閉じた。
そして、耳を、澄ませた。
一分。
二分。
そして、答えた。
「……二人です」
「……二人?」
「……はい」
シルフィは、続けた。
「……砦の、中央に。……二人だけ」
「……六百人の守備兵は」
「……いません」
十六人は、沈黙した。
「……逃げた、のかな」
リナが、呟いた。
「……いや」
ポチが、首を振った。
彼は、犬たちの様子を、見ていた。
五匹の犬が、落ち着かない様子で、地面を嗅いでいた。
「……犬が、変だ」
「どう変なんだ」
ガルドが、聞いた。
「……匂いが、しないって、言ってる」
「匂い?」
「うん」
ポチは、答えた。
「六百人もいたなら、匂いが残る。汗とか、食べ物とか」
「……」
「でも、犬は、『何もない』って言ってる」
ポチは、続けた。
「まるで、最初から、誰もいなかったみたいに」
二
「……行きましょう」
バルドが、言った。
「え?」
「……砦に、入ります」
「危険だぞ」
ガルドが、言った。
「……はい」
バルドは、頷いた。
「……でも、先生が、中にいます」
「……確かか」
「……たぶん」
バルドは、答えた。
そして、言い直した。
「……いえ。……確かです」
彼は、砦を、見つめた。
「……二人しかいないなら。……一人は、先生です」
十六人は、その言葉に、頷いた。
「……ただし」
バルドは、続けた。
「……条件が、あります」
「条件?」
「……絶対に、戦闘に入りません」
バルドは、言った。
「……見つかったら、逃げます。……全員で」
「でも、先生が」
レオンが、言いかけた。
「……レオンさん」
バルドは、遮った。
「……僕たちが死んだら、先生を運べません」
「……」
レオンは、口を、閉じた。
「……いいですか」
バルドは、十五人を、見渡した。
「……僕たちの仕事は、勝つことじゃありません」
「……」
「……先生を、生きて連れて帰ることです」
十五人が、頷いた。
「……行きましょう」
三
十六人は、砦に、近づいた。
外壁に沿って。
低い姿勢で。
そして、開いた門の、脇に、たどり着いた。
門は、破壊されていなかった。
ただ、開いていた。
内側に。
「……蝶番、見てください」
レンが、小さく言った。
「……どうした」
ドグが、聞いた。
「……壊れていません」
レンは、続けた。
「……閂も、折れていません」
「……じゃあ」
「……誰かが、内側から、開けたか」
レンは、言った。
「……または」
彼は、その門を、見つめた。
「……門が、勝手に、開いたか」
十六人は、その言葉に、背筋が、凍った。
生存者の兵士が、言っていた。
『門が、開いた』
『まるで、門が、自分から、開いたみたいに』
「……行きます」
バルドは、言った。
そして、門の中へ、入った。
四
砦の内部は、無人だった。
兵舎。
厩舎。
武器庫。
すべてが、空だった。
しかし、それは「荒らされた空」ではなかった。
武器は、武器庫に、整然と並んでいた。
食堂の卓には、食器が、置かれたままだった。
そのうちの一つには、スープが、残っていた。
もう、冷え切っていたが。
「……変です」
ココが、呟いた。
「……何が」
「……これ、食べてる途中だよ」
ココは、その器を、指差した。
「……皿の減り方が、半分」
「……」
「……食事の途中で、いなくなったの」
十六人は、その光景に、悪寒を覚えた。
戦闘なら、逃げる時間はある。
しかし、これは。
まるで。
食事の途中で、六百人が、消えたようだった。
「……先へ」
バルドが、言った。
十六人は、進んだ。
中庭へ。
五
そして、彼らは、見た。
砦の、中央広場。
そこに、二人が、立っていた。
一人は、大賢者だった。
いつもの、質素な服。
武器は、持っていない。
そして、その二十メートル先に。
もう一人が、いた。
白い鎧。
顔は、兜で覆われている。
背中には、白い翼の紋章。
そして、右手に、一本の剣。
「……」
十六人は、物陰から、その光景を、見つめた。
誰も、声を出せなかった。
「……あの人が」
ミアが、口の形だけで、言った。
「……白い翼」
十六人は、その姿を、見た。
背は、高くない。
むしろ、小柄だ。
シルフィと、同じくらい。
そんな人物が。
八百人を、殺した。
六
「……久しぶりだな」
大賢者の声が、聞こえた。
静かな声。
しかし、砦全体に、響いた。
白い翼は、答えなかった。
ただ、立っていた。
「……なぜ、こんなことをした」
大賢者は、聞いた。
沈黙。
そして、白い翼が、口を開いた。
「……あなたが、来ないからです」
女の声だった。
若い。
そして、透き通っていた。
「……手紙を、送りました」
彼女は、続けた。
「……十年間。……毎年」
「……」
「……一度も、返事が、ありませんでした」
大賢者は、答えなかった。
「……だから、来ました」
彼女は、言った。
「……こちらから」
七
「……八百人だ」
大賢者は、言った。
「……はい」
「……何の罪もない、八百人だ」
「……はい」
白い翼は、頷いた。
「……知っています」
「……」
「……全員、名前を、覚えています」
彼女は、続けた。
「……ヴァレス・ゴード、三十四歳。……妻と、娘が二人」
「……」
「……トム・ハルバー、十九歳。……去年、入隊」
「……」
「……マルク・エイデン、五十一歳。……あと三年で、退役予定でした」
彼女は、淡々と、名前を挙げていった。
一人。
二人。
三人。
十人。
二十人。
「……やめろ」
大賢者が、言った。
「……なぜです」
白い翼は、聞いた。
「……あなたが、教えてくれました」
彼女は、続けた。
「……『人を殺すなら、名前を覚えろ』と」
「……」
「……『名前を忘れた瞬間、お前は人でなくなる』と」
「……」
「……だから、覚えています」
彼女は、言った。
「……八百人、全員」
大賢者は、目を、閉じた。
そして、長い間、黙っていた。
そして、言った。
「……そうだったな」
「……はい」
「……私が、教えた」
「……はい」
白い翼は、頷いた。
「……あなたが、教えてくれました」
八
物陰で。
十六人は、震えていた。
「……教えた?」
レオンが、口の形だけで、言った。
「……先生が?」
「……」
トムが、頷いた。
そして、口の形で、答えた。
「……弟子だ」
「……え?」
「……あの人は、先生の、弟子だ」
十六人は、その事実に、動揺した。
大賢者に、自分たち以外の弟子がいた。
十年前に。
そして、その弟子が。
八百人を、殺した。
「……嘘だろ」
ガルドが、呟いた。
「……先生が、あんな奴を」
「……ガルドさん」
エマが、小さく言った。
「……声、抑えて」
「……悪い」
九
「……なぜ、返事をしなかったのですか」
白い翼が、聞いた。
大賢者は、答えなかった。
「……十年です」
彼女は、続けた。
「……毎年、手紙を書きました」
「……」
「……最初の年は、『どこにいますか』と」
「……」
「……三年目は、『会いたいです』と」
「……」
「……五年目は、『怒っていますか』と」
彼女の声が、震え始めた。
「……七年目は、『私が悪かったのですか』と」
「……」
「……十年目は」
彼女は、言った。
「……『生きていますか』と」
大賢者は、拳を、握りしめた。
「……返事は、一度も、来ませんでした」
白い翼は、続けた。
「……だから、思いました」
「……」
「……『あの人は、私を、捨てたのだ』と」
十
「……捨てては、いない」
大賢者が、言った。
「……では、なぜ」
「……」
「……なぜ、返事を、くれなかったのですか」
大賢者は、答えなかった。
「……答えて、ください」
白い翼は、言った。
「……」
「……お願いします」
彼女の声が、掠れた。
「……一つだけで、いいんです」
「……」
「……なぜ、私を、置いていったのですか」
大賢者は、長い間、黙っていた。
そして、言った。
「……言えない」
その瞬間。
白い翼の、剣が、動いた。
十一
十六人には、見えなかった。
何が起きたのか、まったく、わからなかった。
ただ。
大賢者の立っていた場所の、地面が。
割れた。
深さ、一メートル。
長さ、二十メートル。
一直線に。
「……!」
十六人は、息を呑んだ。
そして、大賢者を、探した。
彼は、五メートル横に、立っていた。
いつの間に、移動したのか。
誰にも、わからなかった。
「……避けましたね」
白い翼が、言った。
「……ああ」
「……本気ですか」
「……いや」
大賢者は、答えた。
「……本気では、ない」
「……なぜです」
「……君を、殺したくないからだ」
その言葉に。
白い翼の、体が、震えた。
「……殺したくない?」
彼女は、言った。
「……八百人を殺した、私を?」
「……そうだ」
「……なぜ」
大賢者は、答えた。
「……君が、私の弟子だからだ」
十二
「……ふざけないでください」
白い翼が、叫んだ。
初めて、感情を、露わにした。
「……十年! 十年です!」
「……」
「……十年、放っておいて! 今さら、弟子!?」
彼女は、剣を、握りしめた。
「……あなたは、私を、忘れていた!」
「……忘れていない」
「……嘘です!」
「……嘘ではない」
大賢者は、静かに、言った。
「……君の名は、エリス・ヴァレンティア」
「……!」
「……生まれは、南のリーヴェン。……父は漁師。……母は、君が三歳のときに、病で亡くなった」
「……」
「……君は、右利きだが、剣は左で振る。……幼い頃、右腕を骨折したからだ」
「……」
「……好きな食べ物は、蜂蜜のかかったパン。……嫌いなものは、雨の音」
大賢者は、続けた。
「……忘れるものか」
白い翼――エリスは、震えていた。
そして、兜の隙間から。
涙が、こぼれた。
十三
「……じゃあ」
エリスは、言った。
「……なぜ」
「……」
「……なぜ、来てくれなかったんですか」
大賢者は、答えなかった。
「……言えない、ですか」
「……ああ」
「……そうですか」
エリスは、剣を、構えた。
「……では」
彼女は、言った。
「……あなたが、本気になるまで、殺し続けます」
「……エリス」
「……次は、ラウム砦です」
彼女は、続けた。
「……千二百人います」
「……やめろ」
「……その次は、王都です」
「……エリス!」
大賢者が、初めて、声を荒げた。
その声に。
砦全体が、震えた。
いや。
空気が、震えた。
物陰にいた十六人は、その圧に、押し潰されそうになった。
「……!」
ミアが、その場に、崩れ落ちた。
「……ミア!」
エマが、支えた。
「……なに、これ」
リナが、呻いた。
「……魔力じゃ、ない」
ミアが、震えながら、言った。
「……魔力の流れが、ないのに」
彼女は、続けた。
「……空気が、押されてる」
十六人は、初めて。
大賢者の、本気の片鱗に、触れた。
十四
「……いいですね」
エリスが、笑った。
「……その顔です」
「……」
「……私が、見たかったのは」
彼女は、剣を、構え直した。
「……来てください」
そして、駆けた。
その動きは、十六人には、見えなかった。
ただ、大賢者の目の前に、彼女が、現れた。
剣が、振られた。
大賢者は、右手を、上げた。
素手で。
そして。
剣を、掴んだ。
「……!」
エリスが、驚いた。
「……素手で!?」
「……昔から、そうしていただろう」
大賢者は、答えた。
そして、剣を、握ったまま、言った。
「……エリス。君の剣は、変わったな」
「……え?」
「……速くなった。……重くなった」
大賢者は、続けた。
「……そして、悲しくなった」
エリスの動きが、止まった。
「……昔の君の剣は、もっと、楽しそうだった」
大賢者は、言った。
「……何が、あった」
その問いに。
エリスは、答えられなかった。
代わりに。
彼女は、剣を、手放した。
そして、後ろに、跳んだ。
十メートル。
一瞬で。
「……何が、あったか」
彼女は、言った。
「……教えてあげます」
そして、兜に、手をかけた。
十五
兜が、外された。
そして、十六人は、その顔を、見た。
若い女性だった。
二十代半ば。
金髪。
そして――
左半分の顔が。
焼けていた。
大きな火傷の痕。
首まで、続いている。
「……!」
エマが、口を押さえた。
「……あれ」
彼女は、震える声で、言った。
「……火傷、じゃ、ないです」
「……え?」
トムが、聞いた。
「……あの傷、火じゃ、ありません」
エマは、続けた。
「……何かに、焼かれたんじゃなくて」
「……」
「……内側から、焼けています」
十六
「……これを」
エリスは、言った。
「……見てください」
大賢者は、その顔を、見つめた。
そして、目を、見開いた。
「……それは」
「……はい」
エリスは、頷いた。
「……あなたが、教えてくれなかった、技です」
「……」
「……独学で、覚えました」
彼女は、続けた。
「……六年、かかりました」
「……」
「……何度も、失敗しました」
エリスは、自分の顔に、触れた。
「……これは、その代償です」
大賢者は、震えていた。
「……なぜ」
彼は、言った。
「……なぜ、そんなものを」
「……強くなりたかったからです」
エリスは、答えた。
「……あなたに、認められるくらい」
「……」
「……そうすれば、会いに来てくれると、思いました」
彼女は、笑った。
歪んだ、笑いだった。
「……でも、来なかった」
「……」
「……だから、殺しました」
エリスは、言った。
「……八百人」
「……」
「……そうしたら、来てくれました」
十七
大賢者は、その場に、膝をついた。
十六人は、その光景に、驚愕した。
大賢者が。
膝を、ついた。
「……すまなかった」
彼は、言った。
「……え?」
エリスが、聞き返した。
「……すまなかった」
大賢者は、繰り返した。
「……私が、悪い」
「……」
「……君を、置いていったのは、私だ」
彼は、続けた。
「……理由は、言えない。……今も、言えない」
「……」
「……しかし、君に、苦しみを与えたのは、私だ」
大賢者は、頭を、下げた。
「……すまなかった」
エリスは、動けなかった。
彼女は、その姿を、見つめていた。
そして。
「……そんなの」
彼女は、呟いた。
「……そんなの、望んでません」
「……」
「……謝ってほしいんじゃ、ない」
エリスは、叫んだ。
「……理由を! 理由を、教えてください!」
「……言えない」
「……なぜ!」
「……言えば、君が、死ぬからだ」
十八
その言葉に。
エリスは、動きを、止めた。
「……私が、死ぬ?」
「……そうだ」
大賢者は、答えた。
「……どういう、意味ですか」
「……言えない」
「……また、それですか!」
エリスは、叫んだ。
「……エリス」
大賢者は、立ち上がった。
「……一つだけ、言おう」
「……」
「……私が君を置いていったのは、君を守るためだ」
「……」
「……そして、それは、失敗した」
大賢者は、続けた。
「……君は、もっと、深く傷ついた」
「……」
「……だから、私の判断は、間違っていた」
彼は、言った。
「……その責任は、取る」
エリスは、その言葉を、聞いていた。
「……どうやって」
彼女は、聞いた。
大賢者は、答えた。
「……君と、戦う」
十九
「……本気で、ですか」
エリスが、聞いた。
「……本気で、だ」
大賢者は、答えた。
「……そして、君が勝ったら、理由を話す」
「……!」
エリスの顔が、輝いた。
「……本当ですか」
「……ああ」
大賢者は、頷いた。
「……ただし」
彼は、続けた。
「……君が負けたら、殺しをやめてもらう」
「……」
「……そして、私と一緒に、来てもらう」
エリスは、しばらく、考えた。
そして、笑った。
今度は、歪んでいない笑いだった。
「……いいですよ」
彼女は、言った。
「……それ、私が、ずっと、欲しかったものです」
「……」
「……あなたと、本気で、戦うこと」
エリスは、剣を、拾った。
「……昔から、そうでした」
彼女は、続けた。
「……あなたは、いつも、手加減してた」
「……」
「……私は、それが、悔しかった」
「……」
「……だから、強くなりました」
エリスは、構えた。
「……見てください」
彼女は、言った。
「……十年分の、私を」
二十
そして、戦いが、始まった。
十六人には、ほとんど、見えなかった。
音だけが、聞こえた。
金属の、音ではない。
大賢者は、素手だ。
聞こえたのは。
空気が、破裂する音。
地面が、砕ける音。
そして、風が、切り裂かれる音。
「……見えない」
レオンが、呟いた。
「……何も、見えない」
「……私にも」
シルフィが、答えた。
「……音は、聞こえます。……でも、追いつけません」
「……あれが」
ガルドが、言った。
「……あれが、先生」
十六人は、その光景を、見ていた。
いや。
見えていなかった。
しかし。
理解していた。
自分たちは。
この人の、足元にも、及ばない。
一年間、修行してきた。
盗賊団に、勝った。
グレイウルフを、倒した。
強くなったと、思っていた。
しかし。
「……僕たち」
バルドが、呟いた。
「……何も、できない」
二十一
戦いは、五分、続いた。
そして、終わった。
エリスが、地面に、倒れていた。
剣は、二十メートル先に、飛んでいた。
大賢者は、無傷だった。
いや。
右腕の袖が、切れていた。
そして、そこから、血が、流れていた。
「……傷、つけました」
エリスは、倒れたまま、言った。
「……ああ」
大賢者は、答えた。
「……十年前は、できませんでした」
「……そうだな」
大賢者は、頷いた。
「……強くなった」
「……はい」
エリスは、笑った。
「……でも、負けました」
「……ああ」
「……悔しいです」
彼女は、言った。
そして、泣いた。
「……本当に、悔しいです」
大賢者は、彼女の側に、しゃがんだ。
そして、その頭に、手を置いた。
「……よく、頑張ったな」
その言葉に。
エリスは、声を上げて、泣いた。
十年分。
すべてを、吐き出すように。
二十二
そのとき。
「……先生!」
声が、した。
大賢者が、振り返った。
そして、目を、見開いた。
物陰から、十六人が、出てきていた。
「……お前たち」
大賢者は、呟いた。
「……来たのか」
「……はい」
レオンが、答えた。
「……すみません」
「……王命を、破ったな」
「……はい」
十六人は、頷いた。
大賢者は、しばらく、彼らを、見つめていた。
そして。
微かに、笑った。
「……そうか」
彼は、言った。
「……来たか」
「……怒らないんですか」
ミアが、聞いた。
「……怒る理由が、ない」
大賢者は、答えた。
「……私は、『来るな』とは、言わなかった」
十六人は、その言葉に、頷いた。
バルドの、読み通りだった。
しかし。
そのとき。
倒れていたエリスが、身を起こした。
そして、十六人を、見た。
その目が。
見開かれた。
二十三
「……なんですか」
エリスが、言った。
「……あれは」
大賢者は、答えなかった。
「……先生」
彼女は、聞いた。
「……あの子たちは、誰ですか」
「……」
「……答えてください」
エリスの声が、震えていた。
大賢者は、しばらく、黙っていた。
そして、答えた。
「……私の、弟子だ」
その瞬間。
エリスの顔から。
すべての表情が、消えた。
「……弟子」
彼女は、繰り返した。
「……ああ」
「……何人ですか」
「……十六人だ」
「……十六人」
エリスは、頷いた。
そして。
笑った。
「……そうですか」
彼女は、言った。
「……私を捨てて」
「……エリス」
「……新しい弟子を、十六人も」
「……違う」
「……何が、違うんですか!」
エリスは、叫んだ。
そして、立ち上がった。
「……私は、十年、待ちました!」
「……」
「……その間、あなたは!」
彼女は、十六人を、指差した。
「……あの子たちを、育てていた!」
「……エリス、聞け」
「……聞きません」
エリスは、言った。
そして、剣を、拾った。
「……エリス!」
「……あの子たちを、殺します」
彼女は、言った。
その声は。
静かだった。
そして、冷たかった。
「……そうすれば」
エリスは、続けた。
「……私だけの、先生に、戻る」
第16話終了。




