道だ!人だ!イケメンだ!
もう何日歩き続けたかわからない。途中で何度も心が折れそうになった。でも道を見つけた瞬間全てが報われた気持ちになった。
「道だ。これ幻覚じゃないよね。私の脳が見せている夢じゃないよね。」
頬をつねり、夢ではないことを再認識する。今までの疲れも吹っ飛ぶような気持ちになり、気が抜けその場で万智は倒れこんでしまった。
「おい!大丈夫か。おい!」
身体を激しく揺さぶられ、目を覚ますと犬の耳が頭から生えたイケメンが万智の顔を覗き込んでいた。
「イケメン獣人来たー!」
思わず叫ぶと、犬の獣人さんは後ずさり、変な生き物を見るような目でこっちを見ている。これはいけないと慌てて声をかけた。
「私、出雲万智といいます。この森に迷い込んでしまって、やっと森から抜け出せたと思ったら気が抜けてしまって倒れてしまっていたみたいで。本当に申し訳ないんですが、水と食料を分けていただくことは出来ないでしょうか。」
「ああ、それは大変だったな。俺はジェイドという。えーと。いずもさんでいいのかな。聞いたことの無い響きの名前だが、他国出身なのか。あと、なんでこの森で迷っていたんだ。自分で入って迷ったのか。」
犬の獣人さん改めジェイドさんは訝しげな表情で聞いてきた。ジェイドさんの全身をよく見ると、制服のような格好をし、帯剣している。もしかしたら、仕事の制服で仕事中なのかもしれない。そして、万智の姿、話している内容から密入国者か犯罪者かなにか疑われているのかもしれない。
「ここがどこなのかわかっていないんです。気づいたらほとんど何も持っていない状態で森の中に居て・・・。怪しい人物であることは自分でもわかっています。答えられることは何でもお答えします。頂いたものは必ず倍にしてお返しします。どうか助けていただけませんか。」
万智は土下座をし、ジェイドに助けを求めた。ここを逃したらもう人と出会えないかもしれない。このまま行き倒れてしまうかもしれない。そんな万智の必死な様子を見て、ジェイドはため息をつき、万智の頭に手を置いた。
「そんな姿勢を取らなくていい。俺の質問の仕方が悪かったな。状況の確認は一旦置いておいて、まずは腹を満たそうか。」
ジェイドは優しく万智に声をかけ、パンのようなものを差し出した。
「それで?出雲さんはどこの出身なんだ。この国の民ではないだろう。」
パンを食べた後、ジェイドに尋ねられ、日本という国で暮らしていたが、突然森の中に迷い込んでしまったこと、森の中での生活、自身の持ち物など自分が今わかっている限りの情報を話した。
「二ホン、聞いたことの無い国の名前だ。出雲さんの言うこの世界ではない別の世界から来たということが本当であれば、聞きなじみのない名前や服装、立ち入りが禁じられている精霊の森で迷っていること、精霊の森に入って無事に外に出てこれていることも辻褄が合うな。」
「え、ここ。立ち入りできないんですか。しかも無事で出てこれているってどういう・・・。」
ジェイドから詳しく話を聞くと、ここはエスプリアモート連合国といい、精霊に愛された土地で人間、エルフ、獣人、ドワーフ、竜人等の多種族が集まってできた国で比較的新しい国だということ。精霊の森は、精霊が多くいる土地であるため、魔物はいないが、邪悪な心を持った者が精霊の森に入ると精霊からのいたずらを受けてしまい、森から出てこられなくなってしまうという逸話があるそうだ。また、精霊の森に居る精霊の力を聖女様が借り受け、国全体を神域としていることで他国や魔物からの攻撃から守っているそうだ。そのため、精霊の森は国が保護、管理しており、侵入者がいないか、森に異常がないかを国の騎士が毎日巡回し、確認をしていると教えてくれた。
「そ、そんな大切な場所に足を踏み入れてしまって、私なにか罰を受けたりとかってしないんですか。森を荒らそうとか考えてはいませんでしたが、森になっていた木の実は食べてしまっていますし。」
そう恐る恐る尋ねると、ジェイドは笑って答えた。
「木の実を食べたり、水を飲んで無事だったんだ。それが答えだろう。もし、森に対して良からぬことをしようとしていたり、この国に敵意を向けていた場合はその時点でこの世にいないと思うぞ。」
「そ、そんな笑顔で恐ろしいことを言わないでください。」
精霊の森に異常がないか、一か月に一度は騎士が森に入り調査することがあるとの事だが、その目的は調査だけでなく、騎士の忠誠心を試すためのものでもあるという。まれに近くの村の子どもが迷い込んでしまうことがあるため、基本的に立ち入りは禁止されているが、立ち入った際に罰は精霊が与えるため、無事出てこられたものに対して何か罰を与えることはないそう。ひとまず処刑ルートはないと万智はほっと胸をなでおろした。




