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過去に囚われる人たちの話

 ある日、仕事が終わり、居候させてもらっている家に戻ると、いつも明るいおじさんが妙に暗い。子供たちが明るいので気にならないが、少し物足りない感じがする。調子が悪いのかと聞くと、どうもそうではないらしい。歯切れの悪い受け答えに周囲の男たちも気になったのか、いつものように酒を飲ませて吐き出させようとし始めた。ついに観念し、重々しく口を開いた。




 あるアイドルのファンだった。

 だが、20年離れ、たまたま仕事を一緒にやることになり、相応に年を重ねた彼女と再会することになった。

 現在の彼女は劇団のリーダーをやっていて、脚本の内容を劇団員に説明していた。

 それを見た俺は、立派になったと誇らしく思う反面、何か心に抵抗があることに気付いた。

 施設の外に出ると、彼女が子供の頃の写真とアイドルだった時のパネルがあり、それを見た彼女が恥ずかしそうにしているのを見かけた。商業的な目的もあってか、実際にアイドルだった当時の格好もしていた。

 それを見た小さな男の子が周囲ではしゃいでいることに気付いた。妙に馴れ馴れしく、ファンという様子ではない。

 近くには短髪で小太りの、太いフレームのメガネをかけた男性が立っていた。

 とっさにそれが彼女のパートナーで、男の子は彼女の息子だと分かった。

 それを見て、どうやってもアイドルだったときの彼女の姿と重ねて見てしまい、現在の姿を受け入れられない自分がいることに気付いた。

 自分の情けなさが嫌になった。




 そしたら、過去の様々な失敗をフラッシュバックし始めて気分が落ち込んでいたそうだ。それを聞いた私にも同じ経験があった。過去を振り返ると、それに囚われている自分を感じてしまう。とても重い。それは自分が飛ぶには過去が足を引っ張ると感じたことを思い出した。

 過去を思い出さない、という人がいることは承知するし、クヨクヨするなとか、そんなこと思い出してどうすると呆れる人もいる。だが、一部の人達には突然過去がつい昨日の様に口を開け、牙を剥いて飲み込もうとすることがある。それには抗えなく、身動きが取れなくなる。ただ静かに自省し、苦しい時間が過ぎるのを待つしかない。明るい毎日が続くなら気にしないのだが、少しの空白があると突然現れるのだ。そこで、多くの人は毎日を忙しく過ごすことで追いかけてくる過去を振り切ろうと走り続けることになり、疲弊する。

 周囲の男たちは、なんだつまらん、と呆れた口調になる。多くの反応はそうであろう。そして私も、彼のような過去に囚われた人ではないと振舞ってしまう。でも、誰に対しても、いつかは過去が清算しようと襲ってくるだろう。祖父が言っていた。若いころは自分自身の過去によって、老いては一族の過去も含めてやってくる。全てを捨てて身一つでやってきて、ミニマリズムとか言いながら切り捨てて、錘を捨てながら歩む人もいるだろう。究極は人との繋がりも絶ってしまえば良いことだ。だが人間はそんな生き物ではない。必ず一人で生きられず、誰かを求めてしまう。悟りを開いて解脱した仏陀のような人にはなれないのだ。欲求ある限り、本当の意味での錘は常に付きまとい続け、人と距離を置いてミニマルな生き方をすると、いざと言うときに手を差し伸べてくれる、救い上げてくれる人も居なくなってしまう。人は宝なのだ。人との繋がりを維持することに財を投じる生き方こそ、自分を苦しみから助けてくれる最良の手段だ。

 このことを島に来て学んだ。呆れたようすの男たちも話を切り替え酒を飲むなんてことはしない。彼の苦しみを笑う一方で、同じアイドルが好きだったことを打ち明け、当時の話を盛り上げていた。同じ錘を一緒に持とうとしてくれているのだ。とても素晴らしいことだ。私の過去を一緒に背負ってくれる人はここには居ないだろう。環境が違えば理解できないことも多くなる。それでも話を聞いてくれるだけでも気が軽くなる。彼女なら聞いてくれるだろうか。錘を持つことを嫌がらないだろうか。今日も盛り上がる団欒を見ながら、秋風の心地よさに身をゆだねた。

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