風俗嬢と若い男の話
秋も感じられる日々になり、快適に仕事ができていた。私自身にも仕事が来るようになって、最近買った自分自身の車で、雇用主と別な場所で作業していた。雇用主も森の近くでなければ良いだろうと送り出してくれたが、水分補給はするように、と水筒を渡してくれていた。快適な気候にはなったが、それで油断すると危険だ、と教えてくれたつもりなのだろう。ただ私も自分自身に来た仕事に興奮し、ぜひ依頼主に喜んでもらいたいといつも以上に気合が入っていた。
依頼主に頼まれた場所は街の風俗店が並ぶ一角だ。島にもこの手の仕事はあり、ここだけ営業が許されていた。私の仕事仲間に誘われたことはあるが行ったことはなく、初めて来たのが営業を開始するまでの日の高い時間帯だった。夜は相当明るいと思われる街灯とネオンだが、昼は当然として点いてなく、夜には見えない寂れた感じの店の外観が今は良く見える。閑散としているのだが、お店の中では従業員が寝ているそうで午後を回る頃には起き出した女性たちの声が聞こえるようになってきた。
店の周りで伐採をしている私の作業がうるさかったのか、窓越しに睨まれることもあり、申し訳ないと思いながら作業に勤しんでいた。彼らも遅い食事時のようで店の中から美味しそうな香りが漂ってくる。食べたはずだが、お弁当だけでは足りなかったか、お腹が鳴りだした。それに気付いた女性が休んだらどうだ、と聞いてきたが、あられもない格好でふらつく彼女たちを直視できず、感謝だけ伝えて仕事を続けた。あの時に少し暑く感じていたのだが、もう少しやろうと思ってしまったのがいけなかった。私は眩暈を起こして途中で倒れてしまった。私は、私に声を掛けてくれた風俗嬢に助けられ、お店のベッドの上に横にされていた。冷たいタオルを頭や首筋に当ててくれたお陰で意識もハッキリし始める。感謝を言って立ち上がろうとしたが、彼女はまだ寝てなさい、としっかりした口調で世話を焼いてくれた。
彼女は背が低く、抑揚のない口調と、感情があまり出ない、どちらかと言えば乏しい感じに見えたが、それのせいか私には親身に接してくれているように感じられた。彼女は私の頭の濡れタオルを再び水に浸し、絞ってから頭に載せてきた。私を子供を寝付かせるような感じで、手のひらで私の肩にポンポンと優しく触れてくれながら、こんな話をしてくれた。
昔働いてたお店の従業員全員で旅行に行った時のことよ。
当時、とても若い男の子がいたのよ。
とても穏やかな雰囲気だけど、やっぱりどこか野心的な感じがあったわ。
そのせいかとても危うくって気にしてあげることが多かった。
そしたら彼ったらお店の他の子の名前は覚えないのに、私だけ覚えたのよ。とても嬉しかったわ。
船から降りた先で観光していたのだけど、そこで彼は昔の友人と会ったの。
短い髪にクタクタになって穴の開いたデニム履いて、デニムのストームライダーだったかしら、あれを羽織っていたわ。
イヤリングやブレスレット、香水も付けていてね、彼と同い年とは思えないくらい遊び慣れた感じだった。
瞼も二重だったし、相当モテたのでしょうね。ブレスレットなんて絶対彼女の趣味でしょうね。
二人は久々の再会のようだったけど、友人の方は妙に馴れ馴れしかったわ。一緒に仕事をしよう、と持ち掛けたの。
正直、彼も戸惑っている感じもあったのよ。でも彼は友人と一緒に行動することを選んだわ。
私に謝りながら、彼は私たちから離れていった。
でも急に遠くへは行けないものだから、ショッピングモールで買い物していたらトイレから彼が出てきて、そこで再開したのよ。
向こうから私に気付いて呼びかけてくれたの。
その時の会話の感じからしたら、どうも私たちのところに戻りたい気持ちもあったと思うわ。その時はまだ迷っているようだった。
今思えば、あのときに、彼に戻ってくるよう声を掛けた方が良かったと思うわ。あの友人はどこか信用できない部分もあったのよ。
人としての魅力と、社会性としての評価は嚙み合わないこともある。あの友人はその手のタイプだったのよ。彼自身は世渡りが上手いのでしょうけど、皆が彼のようになることはできない。
でも彼らは、だからこそ、お互いに全く違う存在として惹かれたのでしょうね。
友人がトイレから出てきて、彼の腕を引っ張って行ってしまったわ。
彼らは私たちから離れてから寝泊まりするところが、近くのブッシュだったみたいよ。
分かる?ブッシュよ。荒野に点在する、背の低い植物が生い茂っていて、地面の方に人が入ることができるような空間があるのよ。
そこに荷物もあって、少なくとも前日からそこにいたそうよ。
私たちと再び別れた彼らはブッシュに戻って、そこで蛇に襲われたのよ。
彼は近くの住民に助けを求めて声を上げた。近くの人達が気付いて寄ったころには彼はうつ伏せに倒れていた。
友人もまた、二匹の蛇に腕と足を噛まれて悲鳴を上げていた。
二人は病院に送られたけど助からなかった。
彼は腕を噛まれていたみたい。
友人の足に噛みついていた蛇は、彼を噛んだ個体だったそうよ。
なんであんな場所にいたのかしらね。
友人はあそこで寝泊まりしていても大丈夫だったのかもしれないけど、二人になって何かのバランスが崩れたのかしら。
刺激的な友情だったのかもしれないけど、それが成功するとは限らない。
野心に溺れて不安定な場所に飛び込むことで自分を奮い立たせたかったのか、友人を通して過去の自分を見てもう一度と思ってしまったのか。
最後に会った時に、彼は助けを求めているように見えたけど、プライドがそれをさせなかったのかもね。
あなたも無理はダメよ。人には器のサイズがあって、それを大きくする前に、収まらない物事をやってしまうと彼のようになるわ。
無理しているように思われてしまったのか、とその時に気付いた。雇用主の気遣いもそれだったのだ。自分の車、自分の仕事であることで気負い過ぎていることに気付かされた。彼女に謝ると、謝る先を間違えてはいけないよ、と諭された。彼女の表情からは何も読み取れないが、私よりも多くの人の人生を見てきたのだろう。彼女のことが急に尊敬できる気がした。またお話ししても良いですか、と聞くと初めて彼女は笑って、いいよ、と言ってくれた。客として来てくれてもいいけど、と添えてくれたが、友人として話すならそうでない方が良いね、とも。不思議と落ち着く安心感を覚えながら、今日の失敗を雇用主に相談し、どうすべきか教えてもらおうと思った。




