島のワインとロードバイク
港の友人から、お勧めのカフェに連れて行ってやる、と言われた。家に迎えに行くと言われて待っていると、友人は三輪のシャシーがフレームで構築されたバギーのような乗り物で来た。一応二人乗りになっており、乗るように促されヘルメットを渡される。いざ走ると剥き出し故に泥とかも撥ねてヘルメットにかかる。だが舗装されてない道を元気よく走り抜けるのは悪くない。いつもの車も良いが、これは風になるという表現がぴったりだ。ただ残念なことに友人が大声で話しかけてきていることは分かるが、互いにヘルメットを被っていることもあって良く聞こえない。ちょっと聞こえたのは、いい車だろ、という自慢話のようなので聞こえないくらいが丁度良さそうだ。
舗装された道に入り、徐々に町の中心に差し掛かると周囲の目線がこちらに向けられる。注目の的だ。信号で停まったときに近くの修理工が、世界に数台の珍しい車だ、飽きたら買ってやるよ、と言ってきたが持ち主は下品なジェスチャーを返すだけだった。一度は停止線をオーバーして停まったところ、周囲の車も合わせてオーバーして来て下がる様子を見れた。珍しい車を見ていたら停止線が見えなかったようだ。衆目に晒されるのは慣れると快感になるのだろうことは彼を見れば分かる。盗まれても直ぐに犯人も捕まりそうだから手も出せないのだろうし、このような選択肢は閉鎖的な島ではありなのかもしれない。
しばらく走るとロードバイク競技が行われていた。広く急な坂道を選手達が登っていく横を派手なエンジン音を上げて通り抜ける。登り切ったところに目的のカフェがあった。
店は木造で柱や梁が見える。中央に厨房と長いカウンターテーブルがあり、四隅に円形のカフェスペースがある。四隅はドーム状になっており、ブドウの木を下から見上げたようなトラス構造で、日光で透ける紫の天井がガレの陶器のようだった。
店内では店主と競技関係者が話しており、丁度カフェの目の前が競技の折り返し地点になっていて、ゴールもこの付近になるそうだ。彼らはワインを飲んでいて、この辺で作られたブドウを使ったワインらしい。早速四隅のスペースに着席して軽食とワインを頼む。外はブドウ畑が広がり葉が黄色くなりかけている。畑を区切るように真っすぐに伸びた街道を選手たちが登っていく。
オーナー自ら軽食を持ってきてくれ、目の前の畑で採れたブドウも味見させてくれた。小ぶりで非常に甘い。私の故郷では粒が大きく水気の多い品種が食用のブドウなので、初めて食べるワイン用のブドウは新鮮な体験だった。それを食べてからワインを口にすると、同じブドウから作られたことが理解できた。こんなワインが島で作られていることに驚かされる。
オーナーは元々島の外の生まれで、この島に来たときに一部のエリアであればブドウが育つことが分かり、ここで畑を開いたそうだ。そして作ったワインが飲めるカフェを作り、更には自転車競技を計画し、島の外のビールばかり飲む人々に地産地消できるお酒を広めようとしているらしい。
こんなに良い場所があること自体知らなかった。友人もドライブしていたら気付いたそうだ。是非買って帰ろうとしたのだが、乗ってきた車には貨物スペースもなく、剥き出し故に簡単に物が転がり落ちてしまうと言う。流石にそれはないよ、と悪態をつくが、彼も肩を竦めるだけだった。オーナーも、また来てください、と言って笑った。
収穫が始まる前にあの娘を誘ってみようか。その前に自分の車を買わなくては、と思い友人に相談すると中古車ディーラーを紹介してくれることになった。仕事で彼女の父親の車を使うことはあるが自分の車は持っていない。あれば休日も色々な場所に行き、友人のように新しい発見ができるかもしれない。折角だし二人乗りが良いかも、と聞いたが島には四駆しかないので、二人乗りはピックアップトラックくらいらしい。一瞬でもオープンカーでデートに誘う自分をイメージしたが儚く散ってしまった。まぁそれもいいか。外の景色を見ながら、車を買ったらどこに誰を誘って行こうか、と夢想するのだった。




