白昼夢
目の前に広い空間が広がっている。
光が線上になって私のいるところから奥の壁に向かって走り、壁に当たった光は、壁沿いに垂直に駆け上がり更に高い階層に向かって登っていく。光が消えるところに次のステージがあるのだろう。
薄暗い空間ではあるが、白く薄い板上のものが積み重なっており、その断面が露出しているようだった。光はその板の層の間を走っており、板のエッジは青い。
積み重なっている板は相互に別方向にゆっくりと移動しており、大きくは二つの層がすれ違うように動いていることが分かる。
エッジは真っすぐではなく凸字のような突起がでており、同じ層の連続する一部は同じ形状をしているため、遠目にはブロック状に見える。
二つの層がすれ違うため、それぞれのブロックが重なると、白い側面とよりはっきりとした青い断面が姿を一瞬現し、また消えていく。
ゆっくりと、音もなくすれ違う二つの層と、薄暗い中で底の方からボンヤリとライトアップされ、光が走る造形は、とても幻想的で浮かぶような感覚になる。
私はずっとカゴのような物の中に置かれ、カゴはその空間をゆっくりと壁に向かって移動している。
ジェットコースターの一番遅い区間を、より遅い速度で移動しているようなものだが、重力に引っ張られる感覚はない。
この空間に来る前は何かの建物の入り口を潜った気がする。そこには何かがいて、濡れた布が握られており、カゴに乗った私の顔に触れたのを覚えている。
その建物の中が、いま私のいる空間だった。
私は動けないし、動こうとも思わない。
ゆっくりと動くカゴは次第に壁に近付いていく。
壁にぶつかると思ったが、次の瞬間には壁を垂直に登り始めた。
私はカゴに背を預け、両手両足を投げ出すように座っているのだから、背もたれに重力を感じるはずだ。
だが、重力は感じない。
薄暗く、美しい空間には、機械の出すような低音が常に聴こえており、徐々に上る間に頭に血が上るような、浮き上がるような感覚が訪れた。
私はあまりにも気持ちよく、ゆったりとした空間に身を任せて眠りに落ちた。
私が目を覚ますと場所が変わっていた。
先ほどとは全く違う木で出来た空間で、剝き出しの木組みと、新築の木造住宅のような匂いが充満している。
広さも一般的で、私は一瞬、脱衣所のようだと思った。
そこに何者かがいた。私はそれに違和感も覚えず、何者かが起こそうとする動きに従って起き上がった。
ふと、忘れ物がないか不安になった。何か予定があった気がして、遅刻すると思ってしまった。
そう考えると急いで身支度をしなければと思い、寝ていた場所を振り返り、置いてあった荷物に手を伸ばす。
何かが足りない気がする。頭がぼんやりとしていて思考が定まらない。だが次の予定に遅れてはならないと思い、出口のような場所にふらつきながら向かおうとすると、何者かは入浴を勧めてきた。
私は気になってそちらを覗くと茶色い温泉のようなものが見えた。いつもなら鉄分を含んだ温泉だと思ったであろうが、呆けた状態の私は咄嗟に、汚い、と思ってしまった。
そう思うと入浴する気はなくなり、荷物を持って急いで出口と思われる場所に向かって走った。外は非常に眩しかったが足を止めてはならない気がして真っすぐに走り抜けた。
少し目が覚めると、私は倒れていることに気付いた。雇用主の声が聞こえるが頭の中で反響して聞き取れない。意識を手放しそうになるが、誰かが私に触れる感覚があった。
再び目を覚ますと私は布団の中にいた。私が目を覚ましたことに一番最初に気付いたのは雇用主の娘さんだった。直ぐに家族が入ってきて体調を気遣ってくれた。私は仕事中に森の中で倒れてしまい、それに気付いた雇用主が抱えて連れ帰り介抱してくれたらしい。熱中症だろうか。その割に頭に残った風景が忘れられず彼らに話すと、彼らは少し表情が強張った感じがした。そして疲れていたのだろう、森の深いところに入ってはいけないよ、と言って話は終わってしまった。
起き上がって水を飲んだが、やはりあの光景が頭から離れない。あれはなんだったのだろうか、ただの夢だろうか。忘れることができない不思議な空間。夢の割にしっかりとしたイメージがある。私は見たことを、このような形で書き残すことにした。いつか、また行くことがあったときのため、また見直せるように。




