表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/38

四冊の本の話

 今日は仕事仲間と一緒に飲むことになっていた。島の夜を飲酒運転しようなんて自殺行為も同然で、大概がホスト側の家に泊めてもらう。逆算的に徒歩圏の酒場に出向いて飲むのだ。いつも来ないような酒場では新しい出会いもある。

 そこには白髪を短く切り揃え、日焼けでかなり黒くなって歯の欠けた老人がいた。彼も仲間と飲んでいたのだが、こちらの仲間の一人が意気投合し、そのまま大規模な宴会になった。正直、随分と酒が回っていたこともあり記憶が曖昧ではあるものの、彼が話してくれたことを書き留めている。




 彼は島の外から来た者だった。この島に来て定住する者の多くは過去に何か後ろめたいことをしたか、逃げてきた者が多いことはなんとなく知っていた。

 彼は依頼で、ある教授の不正を調査するため、学生に扮してキャンパスに入り込んでいた。教授に近付くために学生として過ごし、近況を探るために事務員に扮して園芸部の部活の手伝いなどもしていた。目的の情報は四冊の本に書かれていることは分かっており、忍び込むタイミングを伺いながら過ごしていた。

 その園芸部には胸の大きな女学生がおり、彼女に近付いて園芸のあれこれを教えてもらっていたらしい。その話をする彼の顔がいやらしかったのを覚えている。園芸部は育てた植物を売っており、イチゴは一から事業を始めて儲かる縁担ぎ、キウイは既にある事業を多角化させる縁担ぎ、と言った感じで活動費に変えていたらしい。

 彼らからも教授はいけ好かないようで様々な情報を得られた。お陰で教授の鍵のかかった部屋は玄関ホールの玄関向かって右手の壁を壊したら入れることが分かった。夜は警備で近付けないので大胆にも日中に行うことになり、生徒たちが教授を呼び出している間に、協力者四人と力を合わせて侵入することになった。

 彼らはツルハシを持って日の挿し込む学部の建物の玄関にやってきた。長細い玄関のどこを壊すと教授の部屋に繋がるのかを調べていると、誘い出していた生徒たちが、既に達成感にはしゃぎながらやってきた。その中には胸の大きい女学生もいて、玄関から中を覗いて彼を応援してくれた。彼はそれに嬉しくなるも、試しに壊した壁が貫通する気配がない。数か所試すが部屋に繋ぐ穴も開かないため、玄関の吹き抜けを見上げながら途方に暮れてしまった。

 そのうち、壁の一番下のタイルを貫いたツルハシが奥の空間を探し当てた。やっと見つけたと穴を広げてみるが、その部屋は半地下の様になっている上に、天井と玄関の間の穴の大きさは非常に小さく潜り抜けることは不可能だった。覗いた穴からは机の上の本が目に留まるが、手は届かない。そんなこんなしている内に教授が戻ってきてしまい、彼らは退散することになった。

 部外者の彼は大学を離れることになり、逆に色々なものから逃げることになった。誰も追ってこないと聞いた島に逃げ込み、今は庭師として生活しており、その時の胸の大きい女学生より、もっと大きい胸の嫁をもらって大変満足した暮らしをしているらしい。




 四冊の本を盗んで逃げたのかと思ったので、失敗したのかよ、とツッコミを入れてしまった。彼は笑い、失敗しなかったらここにいないさ、と言った。それを語る彼は楽しそうだし、もう別な誰かの話のような感じである。他の人はどうしたのですか、と聞いたが他は大学の関係者なので、怒られたかもしれないがそれで終わりだ、部外者は俺だけだったのさ、と笑った。どこか寂し気ではあったのは、今ももう一つの可能性を考えてしまうからだろうか。

 顔で選べば飽きるし、性格も変わる、胸はいいぞ、と言うので何の話かと思ったら結婚相手選びのポイントだった。やたらと大きな胸に拘りがあることは分かった。仰ぐように大笑いする彼を見ていると、過去の失敗もいつかは笑いものになるのだな、と自信のようなものが温かく広がっていくのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ