王と宣誓の話
この島には王様が居た、という話が良く出てくる。どこにもお城はないし、その時代を偲ぶ遺跡もない。ただ人々の話の中に生きる存在。研究する人もいないので、いつ、どの時代にいたかも分からない。なぜ根拠の薄い存在に対し、島の人たちが親しみを持つのか不思議だ。
子供への読み聞かせが終わり、庭で子供たちが早速聞いた話を模したごっこ遊びを始めると、私は老婆に聞いてみることにした。老婆はなぜそんなことを聞くのか、と言わんばかりにぎょろりと目を見開いて覗き込んできた。思わずしり込みしそうになったが、素直に理由を言うと、座るように指で指示してきた。老婆の目の前に座ると、ゆっくりと話し始めた。
昔、王様がいた。
王は人々に慕われていたが、王は人々のことをそれほど好きではなかった。
次第に人々が離れていき、横暴だと風潮する者たちが現れた。
王はついに人々に捕まり処罰される。
王なき島は統率がなくなり、次々に王を名乗るものが現れた。そして彼らは争うようになった。
ある者たちは船で島を離れ、ある者たちは殺し合った。
人々は王になりたがったが島が選ばなかった。そのため王を名乗るものがいなくなり、複数の集落がたまに交流する程度に距離を保つことで争いを避けるようになった。
その内、島の外から船に乗った人々がやってきた。
島の中の人々は操舵に優れたものはいなくなっており、誰も海に浮かぶ彼らと戦うこともできなかった。
そうしているうちに湾は制圧され、森も切り拓かれ、実に大量の人々が島の内部に向かって侵略を開始した。
島の中の集落の代表者が集まり会議が開かれた。
そこには親に連れられた若い男がいた。
会議において、若い娘を持つ母親が、海から来た人々と積極的に交流し、文化を取り入れ、平和への手がかりを探ろうと言い出した。
参加者は賛同もし兼ねるが、反対も出来なかったため、彼女の意見を採用することにした。
話し合いには発案者の母親と娘、他にも会議の参加者が数名で使節団として向かうことになった。
その会議の中で、若い男一人だけが反対の意思を示したが、誰も聞かなかった。
港に向かった使節団は、海から来た人々と話し合おうとしたが、彼らは使節団を捉え、逆に兵を向けてきた。
若い男は、父親も捉えられたため集落の代表として彼らの前で、島を守るために戦うべきだ、と発言した。
すると彼の髪が長く伸び、髪色や姿が変わり、背には翼が生えた。
それを見て驚いていた島の人々に対し、自分が王で、島を守るために戦う、共に来るものには翼を授ける、と言った。
人々が槍を手に賛同を示すと、彼らの背にも翼が生え、新たな王は彼らを率い、湾を囲う丘陵を飛び越え、その先に居る海から来た兵隊たちに上空から襲い掛かった。
空からの急襲に兵たちは慌てて海に逃げるが、空を駆ける戦士には敵わず多くの敵が命を失い、海に船が沈んだ。
降伏した人々は森を侵略しないことを約束し、また王に従うことを誓った。
捉えられた使節団も解放され、新たな王となった男は、使節団に付き添った若い娘を妻に迎えた。
彼は神格化され、翼ある者として島の外の竜とも会い、彼の知識を得て島に新しい文化を作り上げた。
そのため王が居なくとも正しく生活が守られる仕組みが作られ、今も平和な生活が維持されている。
老婆は語り終えると、王は存在し、今は空席だが必要に応じて宣誓をし、島に認められた者が次の王として戦うのだ、と言った。
島に城がないのはかなり昔に滅んでおり、その後の混乱で森に飲まれたのだろう。その後は城の中の王ではなく、必要に応じて選ばれるため、城という権威の象徴が不要であるということのようだ。とはいえ、やはり突拍子もないのが紛れ込んでいる。翼だの、髪の色が変わるだの、とてもファンタジー色が強い。でも、そんなこと言えば老婆の機嫌を損なうのは見えていたので黙って頷いた。
帰り道の雇用主の娘さんは夢見るお姫様だった。危機に訪れる若き王と、助けられて妻に迎えられる若い娘。私の故郷ではそんな価値観は大分前に廃れ、子供向けのアニメーションくらいでしか見られないものだが、島ではこの手の話が老いも若きも心躍る大作映画のようなものなのだろう。湾を囲う丘陵は湾に向かって崖のようになっている。そこを翼で急降下して襲い掛かるのはアクション映画としては良い見せ場にはなるだろうな、と思いながらゆっくりと二人で家路についた。




