とある働き者の話
街の中には浮浪者もいる。親族が支えているし、何かしらの簡単な仕事はしている場合があり、完全に不労状態の人はいないらしい。それでも朝から酒を飲む人たちは居て、お昼を食べようと食堂に行くと出来上がった方々が何人かいる。
珍しく絡んでくる人が居て、泥と汗で汚れた私を見て良いことだと褒めながら、彼が今の立場になったときの話をしてくれた。
最初、俺だって真面目に仕事してたさ。なんだったら他の誰よりも仕事が出来る自負があった。
でも働いても一向に楽にならねぇ。そんで神様に祈ったのさ。もっと俺に時間をくれ、もっと仕事をくれ、そうすりゃもっと稼げる、ってな。
そしたらどうだ。次の日から全く疲れなくなって、頭も冴える。いつもだったらとっくに日が暮れてる量の仕事をしても昼前だ。
あっと言う間に仕事が片付いたんで、もっと仕事取って来ようとしたんだ。ちょっと回っただけで簡単に何個も仕事が取れちまった。それどころかオフィスで仕事している間にも仕事が舞い込んで来やがる。
でもよ、そこからなんか変だな、って思ったんだよ。俺のやる仕事は冴えに冴えててどんどん片付く。でも一つ一つの仕事の量がいつもよりとんでもない量になってたんだ。
徹夜しても疲れないから幾らでも頑張るんだが、多分一週間くらいかな、流石に疲れが出てきた。ちょっと寝るか、と横になったんだが、起きても全く疲れが取れてねぇ。
周りに助けを求めようとしたんだけど助けてくれるような友人がいないことに気付いたんだ。
神様は俺の願い通り、物凄い出来る奴にしてくれたけど、同じくらい仕事も増やしてくれた。でも、俺一人でやるにも限界はある。働いた分は休まにゃならんし、助けてくれる友人を作る時間も大切だ。
それを教えてくれたんだよ。だから今は働くことより、もっと大切な時間を過ごすようになったんだ。
彼は私の肩を叩くと、働くもいいが、ちゃんと休んで友人と遊んで可愛い娘を捕まえろよ。それが肝心だ。そう言って席に戻っていった。ある意味真理ではある。ただそれで働くのを放棄するのはやり過ぎでは、と思ってしまう。だが、席に戻った彼は友人に囲まれて幸せそうだ。彼があのまま仕事に熱中していたら、リタイアするときに何が残っていただろうか。
一緒に食べていた雇用主は彼の方を一瞥すると、あんな奴だったら自分の娘をやろうとは思わんがな、とこちらに聞こえるように言ってきた。流石にあんな風になる気は毛頭ない。肩を竦めて目の前の食事を口に運ぶ。今度は車を借りてどこかに行こうか、と考えつつ。




