桜と雪の話
その日は珍しい朝だった。春だと言うのに雪が降った。
街には大きな施設はなく、学校の校舎が利用されることが多い。若い女性の結婚式がありお呼ばれしたのだが、校舎に入るのは初めてだった。
花嫁は卒業したばかりで、ついこの間まで学生だった。先月まで校舎で制服を着て、友人に囲まれ、未来の不安を隠し、目の前の楽しい毎日が続くと思っていた。彼女は器量が良いと評判で、近所の子供たちの面倒見がよく、将来は良い妻になるだろうと言われていた。彼女の結婚が決まったのは急な話ではなく、仲の良い兄のような方との結婚の話が親同士で進み、気が付くと高校卒業と共に結婚することになっていた。島でも珍しい早婚であった。
式は外で行う予定であったが、急遽体育館で行われることになり、大人たちが準備に慌てている。彼女は既に着替えを済ませ、彼女の教室であったのかもしれない窓からグラウンドを見ていた。地面に積もる白い雪と、咲いたばかりの桜の美しい色のコントラスト。グラウンドに粗い縄で引かれていたラインは見えなくなり、どこに何があったかも見えなくなっている。
教室を見ると、後ろの壁には習字で書いたであろう学生の心意気が、元気良い文字で埋め尽くされていた。この中に花嫁の当時書いたものがあるかもしれない。どんな思いで何を書いたのだろうか。自分の人生が、自分のあずかり知らぬところで決まっていくことの恐怖、それを止めたい思いと、両親に言えない罪悪感、周囲に祝われることの孤立感。
今、花嫁は外を見ながら泣いていた。喜びではないのは読み取れた。唇を強く結んで、嗚咽を上げず泣いていた。私と一緒に訪れた雇用主の娘もまた、花嫁に世話になった一人だった。姉さんと呼び、花嫁の肩に手をかけ、それ以上何も言わずに寄り添っていた。どんな応援の言葉も意味を成さないだろう。親孝行に勤しんだ彼女は、最後まで親孝行をしようとしている。
その後、式は執り行われ、その間も花嫁は何も言わなかった。笑顔も、泣き顔も見せなかった。新郎の方は逆に嬉しそうに皆に話しかけ、友人から祝いの言葉を投げかけられていた。飾り立てられた体育館は客で溢れかえり騒がしい。壇上の花嫁は遠く、ただ美しく座っていた。
式の帰り、雪道を歩いていると彼女がポツリと言った。
姉さんは大丈夫だと思う。今はまるで前が見えずに怖いと思うけど。
急な雪で人通りは少なく、どこが歩道かも分からない。花嫁はこの日に向けて準備をしてきたのだろう。しかし、これからは学校の問題のように正解のない、慣れない環境での生活が待っている。この季節外れの雪は、島からの花嫁に向けた未来の暗示なのかもしれない。




