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不良と噂の獅子道くんは、【完】  作者: 新羽梅衣
蒼の光 - S

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2


 ◇◇


 あっという間に一ヶ月は過ぎ去り、俺は学年がひとつ上がって、新一年生が入学してきた。俺の興味はもっぱら蒼人くんで、彼のクラスの体育の時間を覚えてしまうほど、夢中になって窓から眺めとった。見れば見るほど、かっこいいんやもん。サッカーしとるとき以外は、あんま表情変えへんところも硬派でいい。彼のことを少しでも知りたくて、初めて自分から矢野ちゃんに話しかけた。



 「なぁ、矢野ちゃん」

 「うん? どうかした?」

 「あの子の名前って知っとる?」

 「んー、どの子だろう?」

 「あの、今ボール持っとる、一番キラキラしとる子」

 「あー、サッカー部期待の新人エースくんね」

 「入学してすぐやのに、もうエースなんや……」

 「そう、蓮水蒼人くんだって。サッカーの推薦で入学してきたけど、頭もいいらしいよ。職員室でもよく話題に上がってる」



 俺の憧れは、みんなのスーパースターやった。そりゃそうや、蒼人くんは太陽やもん。女の子にキャーキャー言われるのなんて、当たり前。蒼人くんのことを好きにならん人はおらんのちゃうかって思ってまう。どんなに学校に来るのがしんどくても、蒼人くんがおるって思ったらその姿を見るためだけに一歩を踏み出せた。


 蒼人くんはみんなのスーパースターで、俺の背中を押してくれるスーパーヒーローだった。


 でも、だからこそ、自分なんかが近付いたらあかん。醜い俺は、神聖な存在を汚してしまう。みんなから愛されている蒼人くんと、親からも嫌われている俺。住む世界が全然違いすぎて、釣り合わへん。お近付きになりたいなんて考えたこともなかったから、一方的に見とるだけで満足やった。俺の存在なんて知らんまま、穏やかに学校生活を楽しんでほしかった。


 そう思っとったのに……。まさか矢野ちゃんがいないタイミング、それも俺がベッドから抜け出しとるときに保健室に来るなんて……。内心大パニックやったこと、蒼人くんは気づかんかったかなぁ。平然を装ってたけれど、ほんまは声も手も震えてたって知ったら、どんな顔するやろう。


 初めて話す憧れの人は今まで見ていた通りクールで、人を寄せ付けない雰囲気があった。怪我をそのまんまにして帰ろうとするから慌てて強引に引き止めたけど、あんな不格好な手当てならむしろ必要なかったかもしらんって、後から思い出しては時々恥ずかしくなる。


 知ってるくせに名前を聞いて、もう関わらんつもりやのに自己紹介して……。全てに淡い期待が漏れ出しとって、自分のやったことがダサいなぁって自己嫌悪に陥る。


 蒼人くんがグラウンドに戻った後もしばらくは顔の熱が取れんくて、帰ってきた矢野ちゃんから何があったか問い詰められた。



 「どうしたの、そんなに顔赤くして。誰か来た?」

 「……うん」

 「え、誰? 恋でもしちゃった?」

 「っ、からかわんといてや」

 「ごめんごめん。で、何があったの?」

 「…………蒼人くんが、怪我の手当てしにきた」

 「えっ、獅子道くんがいつも窓から見てる、あの蓮水くん?」

 「……なんか言い方嫌やけど、そう」

 「わー、よかったね。ちゃんと話せた?」

 「あんまし……」

 「じゃあ、次はもっと話せたらいいね」



 正直に白状したら矢野ちゃんは応援してくれたけど、俺は分かっとる。俺と蒼人くんに「次」はない。もうこれっきり、話すことはない。二本の線が交わることなんて、もう二度と起こらんはずやった。俺は諦めた未来を描いとったのに、蒼人くんはいつだってトリッキーで我が道を行く男やった。


 「悪魔」なんて大層なあだ名で呼ばれとる自分とは金輪際関わらんと思っとったのに、蒼人くんは何でか俺の引いた境界線なんて無視してこっちに飛び込んでこようとする。


 噂を知っても態度を変えないし、俺がいくら逃げようとしたって、諦めることなく追いかけてきて、ネガティブな自分を肯定して褒めてくれる。かおちゃんの意地悪を知っても、そこまで引きずらんかったんは蒼人くんのおかげ。キラキラの太陽は、見た目だけじゃなくて中身までかっこいい男やった。


 これ以上好きになったら後戻りできなくなるってわかってるのに、知れば知るほどその沼は深くて、どんどん深みにはまっていく。一緒におるときにどれだけ俺がドキドキしていたか、からかってばかりいた蒼人くんは知らんやろうね。


 キラキラと輝くその瞳に俺だけ映してくれへんかなぁって、俺なんかには到底許されないことを何度も思った。一緒に過ごす時間が増える度に、自分の中に欲がどんどん蓄積されていく。そんな自分を抑えようとして「酷い子やね」って言ったのは、優しい蒼人くんに依存してしまうのを止めたかったから。


 誰もが焦がれる太陽に恋をした。青春なんかとは程遠い毎日を送っていても、蒼人くんを見ている間だけは彼の青春を分けてもらってる気分だった。少しずつ、蒼人くんが俺のページを青に染めていく。気がついたら、蒼人くんが俺の青春の全てになっていた。


 やけど、あかんよ。友達止まりにするって決めたんやから。この気持ちは、墓場まで持っていくって決めたんやから。それぐらいしか、俺が蒼人くんのためにできることはない。やからさ、これ以上、好きにならせんといてよ。何度、そんなことを考えたやろう。


 オレンジみたいに甘くて苦いこの恋は、独りで寂しく終わらせるはずやった。それやのに、どうしてバレちゃったんかな……。確信めいた瞳が俺を射抜く。この瞳を前にしたら、嘘なんかつけへん。


 手を掴まれとるから、逃げ場なんてどこにもない。

 いつかは終わりが来るって、分かっとった。

 それがたまたま今日やっただけ。


 もう、覚悟は決めた。


 俺の初恋、蒼人くんの手で終わらせて。

 蒼く染まった宝物は、俺の手ではよう壊せんから。


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