最後の一撃
羽根を破壊された白漂会長は、ここから飛んで逃げることができない。存在抹消のスキルは今の俺たちには効かない。しかも、会長を守る絶対防御の膜はやぶられた。勝てる! この戦い、もうちょっとで勝てるぞ! ここが踏ん張り所だ。
「――いや! まだだぁ!」
白漂会長が叫んだ。そして――やつの羽根が少しずつ再生している!? 破壊された羽根が、ゆっくりと再生している。まったく、厄介なことだ……!
「私には再生能力もあるのだ! このまま羽根が再生するのを待てば、逃げることは可能! 無理をして、ここで貴様らと戦う必要はないのさ。私は隠れて反撃の機会を待つ。四六時中、貴様らの元に、刺客の魔物を送りこんで、疲労させてやる! 疲れきったところを殺してやるよ。しかも、スタンピードを世界中のあちこちで起こしてやる! 覚悟しておけ!」
はあ~めちゃくちゃ厄介なこと言ってる。だがな。そんなことを言うのは、今のおまえが、追い詰められてるって証拠だぞ。
「逃げられると思うなら、やってみろ」
とはいえ、どうしたものか。俺はチラリとサナを見る。彼女は、陰の模倣者を発動したことにより、かなりの魔力を消費しているはずだ。そうだとしたら、これ以上の無理はさせられない。
「サナ! 魔力は残っているか!」
「ごめん、おじさん。もう魔力ほとんど残ってないよ……!」
「了解だ! 無理はするな!」
だとすれば、次に考えるのは、ハルカさんの大弓による攻撃だ。ハルカさんも、そのように考えていたのか、俺の元まで進んでくる。彼女が持つ大弓はかなりの存在感だ。こいつなら、やつを倒せるって気になるぞ!
「ハルカさん。この距離から、白漂のやつに致命傷を与えることは可能?」
「やってみれば、もしかしたらな。けど、より確実に致命傷を与えるなら、至近距離からの流星の矢をぶちこむのが良いと思うぜ。できたら、だがよ」
なるほど、と思いながら、近づいてきた魔物を刺し殺す。ハルカさんは手に持った矢で魔物を貫いていた。おお、やるねえ。
「ふむ、至近距離か……」
ハルカさんの言うことは最もだな。至近距離からの流星の矢を当てたいところ。実行するには魔物の群れが邪魔になる。手負いの魔物たちに代わり、新たな魔物たちが出てくる今、白漂会長の元まで行くどころか魔物の群れの包囲を維持することすら難しい。嫌になるね。
「おじおじ、なんか聞こえる」
「ああ、俺も聞こえてる」
耳に届くサイレンの音、これが援軍だと良いんだが、どうにもそうはいかないんじゃないか。そんな予感がする。こういう、悪い予感は当たるんだよな。そこへ更に、白漂会長の勝ち誇った声まで来た。
「勝った! ここれ来るのは、ただの警察じゃない! 渋谷の警備に置いていた変身スライムだ! 警官に変身していたスライムたちが、これから貴様らの邪魔をするぞ! そうこうしているうちに私は逃げる! ゲームセットだ!」
変身スライムは、どうなものにも形を変えられるAランクの魔物。そんなものまで残してたとはな。こいつはまじで、やばいかも。サイレンの音がもうそこまで来ている。万事休すか、と思われたその時!
「――援軍なら、こちらにも居るぞ!」
新たに聞こえてきたのは、どこまでも、届きそうなほどに大きく力強い声。声のした方を見ると、駅の入り口からやってくる冒険者の一団があった。先頭を進むのは、車掌の制服を着た黒髪の美人。俺と共にS級冒険者のパーティとして戦っていた友人だ。よく来てくれたな! おまえたちが居るなら、心強い!
「定刻には遅れたが、ただいま参上したぞ。友よ! さあ、皆! 突撃だ!」
「「「うおおおおおおお!」」」
駅から出てきた冒険者たちが雄叫びを上げながら走り出す! 更に、空からバラバラという音が聞こえる――これは! ヘリコプターだな!? サーチライトが魔物の群れを照らす!
「やっほー! アキヤ君! 空からも援護するよ! ファイアーボール!」
ヘリコプターから火球が放たれ、魔物の群れへと落下。一撃で魔物の群れが焼き払われる。凄い威力だ!
「今のは、ただのファイアーボールだ。これ! 言ってみたかったんだよねぇ!」
かつてのパーティメンバーたちが援軍に来てくれた! なんて頼もしい……! これなら、白漂会長を倒せるぞ! さあ、ここからは最後の詰めだ!
「馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿なぁ!? 私が、この大魔王である私が追い詰められているだと!? 認められるかそんなこと! 私は支配者なのだ! 私は全てを管理し、貴様らを観察する存在なのだ! その私を、追い詰めているだとぉ!?」
わめき散らす白漂会長は哀れにすら見える。そうだよ。おまえは今、追い詰められているぞ!
「おじおじ! 今なら行ける! もっと近づいて、必殺の一撃をぶちこむ時だ!」
「アキヤ先輩! 今なら俺と分身も突撃できるっす!」
ハルカさんとクニハラの提案に俺は頷く。二人の言う通り。今が最大のチャンス! このチャンスを無駄にはしない。
「了解だ! やるぞ!」
あとは突撃して、白漂会長に必殺の一撃を当てるだけだ! やってやる! やってやるさ!
「さあ! 行くぜ!」
「「おう!」」
ハルカさんの言葉に俺とクニハラが頷き、突撃を開始する。これが正真正銘、白漂会長との決着だ!
俺たちが勝つ! 絶対に!
「「「うおおおおぉぉぉ!」」」
「貴様らぁ! こっちに来てんじゃねええぇぇ!」
狼狽する白漂会長が、たたらを踏んだ。今の会長は巨体の異形。そんな姿になっても俺たちに狼狽しているのは、滑稽ですらある。数々の強力なスキルを持ちながらも、やつの本質は、小悪党でしかないのだ。そんな敵に俺たちが負けるかよ!
「くっそおおおおおおお!」
白漂会長の四本腕が近くの魔物を掴む。会長は力任せに魔物たちを投げつけてくるが、そんな苦し紛れの攻撃が通用するものか!
「パリイィ!」
投げつけられた魔物たちを弾きながら、足は止めない。絶対に、ハルカさんを流星の矢の射程圏まで運ぶ。そのために、俺とクニハラ、そして陰の分身と犬たちが、魔物の群れを割くように進む!
「おじおじ! もう少しだぜ!」
「分かってる!」
もう少しで、流星の矢の有効射程圏! もう少しだ! 大魔王を、後少しで倒せる!
「やらせるものかよ! 貴様らにぃ! 大魔王の爆裂魔法というものを見せてくれるわ!」
爆裂魔法だと!? ここで最上級の攻撃魔法を俺たちに放とうというのか!? しっかりと俺たちを見て、狙いを定めているってのかよ。けれど、しっかり俺を見ているというのなら、それは悪手だぞ!
「――黒眼!」
「なっ――がっ!?」
俺の目を見ている相手にのみ発動可能なスキル。黒眼! その力が、白漂会長の意識を一瞬奪った。流石に相手は大魔王か。動きを止められたのは一瞬だけ。でも、それで充分!
「が――しまっ!?」
「射程圏に入ったぜ」
ハルカさんが大弓に力を込める。そして、必殺の一撃が放たれる! いっけえええぇぇぇ!
「流星のぉ矢あっ!」
目映い一撃が、白漂会長の頭へ叩き込まれる! 爆発か起きて、轟音が響いた! 通常の魔物であれば、あれで致命傷だ! やったか!?
「――貴様らぁ! よくも! よくもぉ!」
まじかよ。あの一撃をくらって生きてんのか!? そこは死んどけよ生物として。やつは顔の半分を焼かれながらも、まだ生きている。
「っ! 風魔手裏剣!」
クニハラが影から生み出した巨大な手裏剣を放つ。だが、その攻撃は白漂会長の腕によって弾かれた。が、あと一撃だ! やつは顔の表面を損傷し、ガードもほとんど崩れている。なら俺がやるしかない! そう考え、ほぼ同時に俺は跳躍していた。
俺にはもうほとんどの魔力が残っていない。時を止めたりすることはできない。だから、間に合え! 刺突剣を! ツラヌキをやつの脳天に当てるのだ!
ほんの数秒。その間の行動が、勝敗を決定付けるように思えた。そして――白漂会長が勝ち誇ったように嗤う。
「たった今! 羽根が回復した! 私の勝ちだ!」
まずい! 白漂会長が逃げる。このままでは、逃げられる。俺は既に跳躍していて、影踏みは使えない。他のスキルを使う魔力も残ってない。ここまで来て逃げられるのか!? あと少し! ほんの少しなのに! その、刹那。
「――影踏み!」
その言葉に合わせるように、白漂会長の動きが縛られた。やつは、逃げることを妨害されている! これは!?
「おじさん! いけえええぇぇ!」
サナの叫ぶ声が聞こえる。そうか、白漂会長を止めてくれたのはサナか! ならば! 俺が絶対に決めてやる。最後の一撃を! 白漂会長という化物に決めてやる!
「こんのおおぉ! とるに足らない下等生物どもがあぁ!」
「うらああぁぁ!」
そして、最後の一撃が――決まる! 白漂会長の脳天に刺突剣が突き立てられ、その剣が、やつの脳をかき回した!




