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頼もしい少女たち

「そ、そんな。会長が化物だったなんて」

「ぼさっとするな。敵が来るぞっ」


 巨大な異形に変身した白漂会長の姿を見て、多くの冒険者たちが動揺している。まあ、俺も一切の前情報無しでこの場に居合わせたら、驚いてただろうよ。けど、今は驚いている場合じゃない。


 渋谷ダンジョンから全方位へ魔物たちが溢れてくる。数えきれないほどの魔物が絶えず襲ってくるぞ。しかも、この群れを相手にしながら、白漂のやつも倒さないといけない。厄介な状況だ。けど、恐怖はない。俺はできることをやるだけだし、心強い仲間も居るんだ。


「おじおじ! 皆! 矢の雨を降らせるぜ!」

「分かった! 皆、前には出るな! 矢の雨が降るぞ!」


 ハルカさんの声を聞き、俺も叫ぶ。俺たちは包囲を緩めずに足を止める。その後方でハルカさんが、動くのが分かった。一本の矢が天高く飛んでいき、無数の矢となって魔物たちに降り注ぐ。魔力の消費は激しいはずだが、その分、強力な必殺技だ!


 矢が降り注ぐ中、魔物たちが倒れていき、倒れた魔物は塵になって消えていく。塵にならずとも瀕死の魔物は地に伏せ、そんな魔物には別の魔物たちが――かじりついた!? 通常ではあり得ない行動。どういうことだ?


「今回のスタンピードでは魔物たちにちょっとした改造を施していてねぇ!」


 愉快そうに笑う白漂会長の声。やつは、矢の雨の中で平然としていた。降り注ぐ矢が、やつには届いていない……! やつを包む透明な何かが、攻撃を防いでいる!


「私もねぇ! 考えていたのだよ! 君たちの絆とやらをぶち壊すにはどうすれば良いのか!? 簡単なことさ。恐怖と絶望を与えてやれば良いんだよぉ!」


 白漂会長は高いテンションで語る。おまえが楽しそうなのは癪だな。すぐに吠え面かかせてやる。


「君たちは、私に勝つ気で居るのかもしれないがぁ!? 恐怖と絶望のニュースを届けてやるよ! 先ほども話したが、この群れの魔物たちには改造を施している! 倒れたものを見れば補食するように設定した! 生きながら食われる恐怖が、貴様らに伝播していくのが楽しみだよ!」


 魔物たちは矢の雨に晒されながらも、倒れた魔物に食らいついている。その光景はこちらの士気を下げるのに、効果を発揮しているようだ。俺やサナたち、クニハラは良いとして、他の冒険者たちは皆萎縮してしまっている。


 これは、良くないな。どうにかして、士気を上げる方法を考えねば。そんな俺たちに向けて、白漂のやつは追い討ちをかけるように、笑いながら言う。


「そしてもう一つ、貴様らには悪いニュースだ! 私を守るこの透明な膜は常に発動している! 私は常時無敵の状態なのだ! この膜が私を守る限り、貴様らの攻撃は一切私に届かないんだよぉ!」


 白漂会長を守る透明な何かが絶対防御の力を持っているのなら、厄介だな。これは結構マズいかもな。ハルカさんが放った矢の雨も、そろそろ……終わりそうだ。


「さあ……そろそろ私たちのターンだな?」

「――魔物の群れが来るぞ! 全員! 戦闘態勢だ!」

「「「……おう!」」」


 矢の雨がやんで、魔物たちの進行が再開される。数秒して、魔物たちとの白兵戦が始まった! 俺の声に合わせてクニハラや、サナたちはすぐに動きだす。他の冒険者たちは、ビビりながらも戦ってくれるのなら。状況はかなり悪いな。白漂会長の目論見はうまくいっている。嫌な気持ちにはなるよ。が、同時にあの傲慢な野郎をぶっ倒してやりたいという気持ちも強くなり続けていた。


「アキヤ先輩! 俺ができる限りの時間を稼ぐっすから! 何か状況を打開する一手が欲しいっす!」

「俺も、その一手が欲しいところだよ!」


 クニハラの分身は百体。その全てが、時間稼ぎに専念すれば、もう少しは時間稼ぎができるはず。とはいえ、それも限界はある。今は手負いの魔物も多く、なんとか包囲を維持できてはいるが、この状況がいつまで持つかは、だいぶ不安だ。せめて、かつての仲間たちが援軍を連れてきてくれれば良いのだが! 彼女たちの到着はまだか!?


 魔物の群れを相手しながら、好転しない状況に焦る。想定よりも一体一体の魔物が強いのだ。これも白漂会長の改造によるものか? 手負いでこれだと、後から来る魔物たちには苦労させられるだろうと、簡単に予想ができる。嫌になるね。


 白漂会長は、余裕の静観を決め込んでいる。今、あいつが突っ込んでこないおかげで包囲が維持できているのは、嫌な事実だ。ん……待てよ……なんであいつは攻めてこない。そうしなくても勝てると考えているから? いや、たぶん違う。俺の直感が、それは違うと言っている。やつは、こちらの、何かを恐れているんじゃないか……それは……あれか!


「どうして、そんな簡単なことに、気付かなかったかな! 馬鹿か俺は!」

「先輩!? 何か良い手を思い付いたんですか?」

「良い手は思い付いた! うちの姪っ子が頼りだがな!」

「良い手があるなら早めに頼むっす! こっちはあまり長くは持たない……!」


 クニハラが、魔物たちを押さえてくれている今がチャンスだ! 俺は希望を感じながら、近くのサナへと声をかける。


「サナ! 今こそ、陰の模倣者の使いどころだ! 白漂までの影は俺の犬たちで繋げる!」

「――分かったよ! おじさん!」


 俺の伝えたいことを、サナは瞬時に分かってくれたようだ! 凄いぞ! サナ!


「貴様ら馬鹿かぁ! この膜が存在する限り、私は守られていると言っただろうがあ! 陰の模倣者で、私の存在抹消のスキルをコピーするつもりなんだろうが! 無駄なんだよぉ!」


 白漂会長が叫んだ。それは俺たちに、今からやることは無駄な行動だと、印象付けたくて言っているのだろう。けど、焦っているのがバレバレだぞ。おまえは、俺と最初に会った時から、感情を隠すのが下手だったものな。


「おまえの存在をそのまま消すことはできないかもな! だが! おまえを守る膜は、消せるんじゃあないかよ……!」

「き、貴様ら! 無駄なことだ! そんなのは無駄なことだぞ!」

「ご親切な忠告をどうも! こっちはどうせ、じり貧なんだ! やってみる価値はあるさ!」

「ぐ、ぐくうううぅぅぅ!」


 その態度が、おまえのされたくないことを教えてくれているぞ! おまえが嫌だと言っても、こっちはやるぜ!


「影犬たち! サナからあの白いデカブツまで、影を繋ぐんだ!」

「「「ウォン!」」」


 さらに影犬たちを呼び、魔物の群れに潜り込ませる。これで俺も、かなりの魔力を使った。この作戦が上手くいかなかったら、その時はその時。だが、俺はサナのスキルがしっかりと決まるところを想像できた。だから、今は彼女を信じる!


「サナ! やってくれ!」

「任せて!」

「くそおおおぉぉぉ!」


 サナのスキルと、白漂会長のスキルが同時に発動した。それが、直感で分かった! スキルが互いに押し合い……拮抗している! いける! いけるぞ! サナ!


 世界は白く染まっている。今、動けるのは俺と、サナ、そして白漂会長のみ! けれど、皆の心が、サナを後押ししてくれるのを感じるぞ!

 

「な、何故だ!? 何故私のスキルが、あんな小娘のスキルに押し負ける!?」

「何故かは、おまえだって分かっているはずだぞ! 白漂! サナも、騎士の面影の力で皆と繋がっているんだ! 皆の心と繋がっている! 皆の心が、サナのスキルを後押ししているんだよ!」

「絆だと! 絆の力だと!? 馬鹿らしい! そんなものに、この大魔王たる私が、倒されてたまるものかよ!」


 俺と白漂会長の会話に、サナが入ってくる。頼もしい少女が、叫ぶ。


「いいや! 倒す! 私たちが! おまえを倒す!」

「やってみろ! 小娘えええぇぇ!」


 世界がより白くなっていき、完全に視界が白く染まった! 直後、世界に色が戻り、時は動き出す。


「く、くそがああぁ!」


 白漂会長の羽根が振動しだす。野郎! 逃げようってのか!? 臆病者が! 大魔王なら正々堂々と戦えよ! 


 その時、何か大きなものが、地面に突き立てられる音がした。これは!? 悪いものでは、ない気がする!


「――状況はよく分かんねえけど、逃げようってんだな? つまり、やつが不利を感じたってことだぜ!」


 それはハルカさんの声だった。頼もしい少女はサナだけではない。ハルカさんのスキルが、発動する。


「魔力の矢!」


 その叫びに合わせて、太く大きな矢が飛んでいく。それは、白漂会長の背から生えている虫みたいな羽根をぶち抜いた!


「がっ!? そんな!? 馬鹿なぁ!」


 まともに飛行ができなくなり、驚愕する白漂会長。その姿を見て、ざまあみろ、と思った。俺って性格悪いかもね。

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