影の模倣者
「ウイカゼさん。ハルカさんをお願いします」
「り、了解ですわ……!」
ハルカさんをウイカゼさんに預け、俺は一歩前に進む。今のハルカさんを連れて塔の中へ逃げ込むのはかえって危ない。となれば彼女を守りつつ、ここでウェンディゴを倒す。俺はそれがベストだと思う。一度判断したのなら、後は行動するだけだ。俺が、皆を守る!
「おじさん! 私も行けます!」
「サナさん……!」
そうだな……今はサナも戦えるのだ。なら、一緒にやろう。サナ! 一緒にあの魔物を倒そう。姪っ子の勇気が頼もしく思えて、彼女の成長を感じる。
「サナさん。二人でやりますよ!」
「はい!」
俺たちは盾を構えながらウェンディゴに向かって突撃する。さて、どうやって戦うとするか? 相手は通常のウェンディゴとは違うようだが……様子見をしながら戦うとしよう。
「サナさん。まずは様子を見ます。俺は正面から、サナさんは側面からで行きましょう。決して無理はしないように」
「分かりました。気を付けて戦います!」
サナがウェンディゴの右側面に動く。その動きに反応するように、ウェンディゴは首を動かした。目は見えていなくとも、何らかの方法でこちらの動きを把握している。まず、考えられるのは耳。ならば、俺は耳を狙う! 首を動かした隙を、狙わせてもらうぞ。なるべく、サナの負担は軽くしたいからな。決着が早くなるのならば、それに越したことはない。
俺は瞬時に踏み込んで突撃。ウェンディゴは跳躍して後方へ逃げようとするが、俺も跳躍をして瞬時に距離を詰めた。そして鹿頭の耳へと刺突剣を突っ込む! 剣は勢い良く魔物の頭に入った。が、手応えが妙だぞ? 魔物の頭が、空洞になっているかのようなスカスカな感触があった。
「ニイイイイィィ!」
ウェンディゴが、首を横に振ってきて、腕が引っ張られる。さらに、やつは連動するような動きで太い腕からのチョップをしかけてきた。
「おじさん!?」
サナが悲鳴を上げた。ああ、この状況は不味い。このまま時間が進んだら、武器を捨てなければウェンディゴのチョップに対応できない。跳躍をしたままの状態では、影踏みが発動できないし、影縛りにもつなげられない。武器を捨てなければ、攻撃を防御も回避もできない状況を作られている。明らかに、これまでの俺の戦いを観察して、メタを張るために、このウェンディゴは改造されている。だが、俺には、真の奥の手があるぞ!
俺は咄嗟にスキルを発動。世界の全ての動きが停止する。魔物の耳から刺突剣を抜き、素早く後方へ下がった。正直一瞬ヒヤッとしたが、これで振り出しに戻った。
「時間停止……体感でほんの数秒だけ時を止める。俺の、真の切り札だ」
停止した時間の中で、ほんの数秒という表現も変な話だが……俺はそう感じている。そして、そろそろ時間停止の限界だ。このスキルは非常に強力だが、それだけに魔力の消費も激しい。あまり連発できるものではない。何事も、そう都合良くは、いかないということだな。
停止していた世界が動き出す。ウェンディゴは俺が突然消えたことに動揺しているみたいだ。が、すぐに目の無い顔を俺に向けた。なるほど? 振動で俺を探しているというわけでもないみたいだぞ? となれば、熱関知か、魔力関知……辺りかな? 何にせよ、厄介だ。
「お、おじさん!? 今どうやって!?」
「説明は後です」
「は、はい! とにかく無事で良かった」
サナに心配させてしまったか。俺も修行が足りていないってことかな。しかし、どうしたものか。敵は顔をしっかり俺に向けて、こちらの出方を伺っている。俺からも、有効打を与えるのは難しい。できないわけじゃないが、時間はかかるだろうな。
「……サナさん。困ったことに、すぐにあの魔物を倒す手段がありません。そこで、俺からの提案です」
「はい……!」
「俺のツラヌキでは、一撃でウェンディゴの硬い体を貫くことはできません。しかし、時間をかけて同じ場所を攻撃し続ければ、やつの体に、穴を空けることはできると考えます。今、言った通り、時間のかかる方法です」
かつて、そうやって、ウェンディゴより硬い魔物を突いて倒したこともある。だけど、サナたちを、そんな泥沼の戦法に付き合わせるのは気が引ける。しかも、だ。このウェンディゴは通常のウェンディゴと違い、改造されている。心臓を狙ってみるが、貫いても生きているかもしれない。そうなると本当に厄介だ。
「俺が、こいつと戦っている間に、サナさんは後方でハルカさんたちと脱出の準備をしていてください。いざという時には、俺がしんがりをつとめて、逃走します」
「おじさん……!」
サナさんは悩むような顔をしてギリリッと歯を噛んだ。悔しい気持ちは分かるが、サナたちの安全が最優先だ。ここでウェンディゴを倒すことに、こだわる必要はない。幸いなことに、やつはさっき俺が何をしたか分からず、慎重になっている。こっちを警戒して、飛びかかってこないのは、好都合だ。
「サナさんたちの安全が一番優先ですから……」
「……おじさん。私にも考えがあります! それを試してからでも、おじさんのプランは、実行できるはずです」
「サナさんの考えですか?」
「はい」
サナの目からは、確かな決意が感じられた。適当にものを言っているわけではないんだな? ならば、サナの提案を聞いてみるのは、あり。なのかも、しれない。
俺たちと、魔物との間に風が吹く。それが、きっかけだったように思える。
「おじさん。私に合わせてください。私はおじさんと一緒に戦っている。私は、おじさんを信じてますから……だから!」
サナは剣と盾を構えた。その姿は今までの姪の姿からは想像もできなかったほどに、かっこよく見えた。
「おじさんも私を信じてください! 私に合わせてください!」
「……分かりました!」
ああ、二人で行くって言ったのは俺なんだ。だったら、俺がサナを信じてやらなくてはどうするよ。俺は、サナたちの成長を見ながらも、ずっと彼女たちを庇護の対象とも思っていたのだろう。それは違ったんだ。彼女たちはもう、一人前の冒険者なんだ! 今のきっかけで、俺はそれを理解した。
「やりましょう! サナさん! 二人で!」
「はい!」
サナが、側面からウェンディゴへ突撃していく。ウェンディゴはそちらを向き、サナを迎え撃つ構えだ。俺は、彼女が戦いやすいようにサポートする! きっとそれが、今やるべきことだから!
「影犬……! サナをサポートしろ!」
「「「ウォン!」」」
何体もの影犬を呼び出して、ウェンディゴへ向かわせる。俺も考えていたのだ。やつが、熱への反応で動くのであれば、後方を飛ぶ、発光ドローンに反応するのでなければはないかと。けれど、そんな様子は見られなかった。もし、やつが熱に反応するのでなければ、きっと魔力に反応しているはずだ。その考えは……的中した!
ウェンディゴの動きが明らかに鈍った。やつは、多くの影犬に撹乱されている。魔力の塊である影犬は、魔力関知で敵を探るやつには相当厄介なはすだ。今、ウェンディゴは完全にサナを見失っている!
「おじさん! 影犬! もっといっぱい!」
「分かりました! 俺の影犬を、もっともっと出してやりますよ!」
より多くの影犬が召喚される。そんな中で、あのウェンディゴが、サナを捕まえられるわけがない。やみくもに振り回す拳など、金属スライムとの戦いで立ち回りを鍛えた彼女にとっては、驚異でも何でもないはずだ。そして、サナの考えとはなんだ? ここから、ウェンディゴをどうにかできると、おまえは思っているんだろう? それを、俺に見せてくれ! サナ!
「おじさん! ハルカちゃんと私の影とを! 影犬で繋げることは出来ますか!」
「できますよ! 影犬たち! 新しい命令だ!」
影犬たちが動き、その影でサナとハルカさんを繋ぐ。そして、サナが叫ぶ! 力強い声で! 俺たち皆に勇気を与えてくれるような声で、叫ぶ!
「影の模倣者――流星のォ矢ァ!」
サナが、勢い良く剣を投擲した! 必殺の一撃が、ウェンディゴに襲いかかる!
「ニイイイイィィ!?」
「いっけえええええええええええぇぇぇ!」
少女と魔物が互いの全てをぶつけるかのように叫ぶ。輝く剣の光が、ウェンディゴの上半身を破壊した! 剣は輝きながらも、燃え尽きていき、塵のようになって消滅した。そして、体の上半分を失ったウェンディゴも、塵のようになって消滅していく。
「私の……勝ち……!」
へろへろのサナに、咄嗟に近寄って体を支えた。よくやった! よくやったよ! サナ! そんな俺たちの元へ、撮影機が飛んできた。
※うおおおお!
※勝った!
※やったじゃん! あと犬たちかわいい
※サナ姫も凄いけど、おじさん本当何者だよ
※おじさんってもしかしてS級冒険者?
コメントが凄い勢いで流れる中、サナの体がほのかに光だした。もしやと思い、ハルカさんたちの方をみると彼女たちも光っている。これはレベルアップの光だ! また一つ、成長したんだな。皆! おめでとう!




