流星の矢
大木に手足の生えたような魔物、トレント。樹の皮に張り付いたような、二つの目玉は妙というか、グロテスクにすら見える。サナたちの自信に繋げるためにも、しっかりと倒したい。さあ、やろう!
「皆さん! 攻撃が来ます! 俺の後ろへ!」
「「「はい!」」」
※攻撃!?
※来るー!?
※トレントの攻撃か
※やばいぜ
※防御ー! 防御ー!
「まずは敵の攻撃を防御ですね!? 黒騎士のおじさん!」
防御? それは半分正解で、半分不正解だ。防御から攻撃に転ずるぞ。黒騎士は、こういう戦い方もできるってことをサナに教えたい! おじさんの格好良いところも、見せてやる!
トレントからの攻撃! 大木の枝に生えた木の実が勢い良く飛んでくる。それは、クルミのような形であり、クルミとは比べ物にならないほどに大きい。人一人分ほどもありそうな質量が俺に迫る!
「パリィ!」
ただのパリィじゃない。攻撃を反射してぶつける。弾き返しのパリィだ! 盾で木の実を弾き返し、大木にぶつける。凄まじい音が鳴り、木の実が弾けた!
※うおおおおおおおお!
※攻撃を弾き返した!?
※え、こんなスキル知らない
※パリィだよねこれ!?
※パリィを技量で進化させてるのか!?
「おじさん! これは!?」
「攻撃はまだまだ来ますよ! サナさん! 俺をよく見ていて!」
「は、はい!」
ダンジョン由来のスキルは技術によって昇華できる。まあ、ものは使いようってわけだ。俺はこういう技術には自信がある。
立て続けに、巨大な木の実が飛んできた! けど、そんなものは単に攻撃の手数を増やしただけだ。全て弾き返してやるぞ!
「見せてやる! 連続パリィだ!」
パリィ! パリィ! パリィ! パリィ!
「ははっ! もっと俺に攻撃してこい! トレント!」
飛んできた全ての木の実を打ち返す。何度も続けて破裂音が響き、大木の魔物に、かなりのダメージが入る。だが、流石は杉並ダンジョンのボスというところか。これくらいでは、まだ倒しきれないな。
トレントが、さっきとは違った木の実を自身の回りに落とした。それは巨大なクルミのようであり、ギョロリとした一つ目がある。触手が生えていて、何度見ても、不気味な魔物だと思わされる。
「おじさん、あの魔物はなんですか!?」
「ぶ、不気味ですわ!?」
「トレントの子分ってところだろうぜー。確か名前は……イービルナッツ!」
ハルカさん、正解。あれはイービルナッツという名の魔物で、トレントの子分のような存在なのだ。武蔵野ダンジョンの、ホブゴブリンとゴブリンのような関係が近い。まあ、雑魚が呼び出されただけだ。落ち着いて対処すれば問題ない。
「イービルナッツは個体としてはゴブリンと同程度か、もう少し強い程度の魔物です。特別な能力は持っていませんが、触手による締め付け攻撃にだけは注意してください」
「「「り、了解!」」」
続けて、ボトボト何体ものイービルナッツが落ちてきた。そいつらは、トレントを守るように位置している。不気味な魔物の数が増えると、生理的な嫌悪感すら覚える。俺、でっかいギョロ目は得意じゃないんだよね。
※触手!?
※うおーイービルナッツさん頑張れー!
※イービルナッツのかっこいいとこ見てみたい
※ドスケベモンスターイービルナッツさん!?
※流れてくるコメントが最低野郎過ぎる
リスナーたちが変な期待をしているところ悪いが、姪っ子には傷一つ付けさせないぞ。雑魚どもの相手は俺がする。
「イービルナッツの群れは、俺が相手します。サナさんたちは、トレントの方をよろしくお願いします! できますね?」
俺の言葉にサナたちはすぐ頷いた。良いね。凄く良い。じゃあ、続けようか。
俺は、ナッツみたいな魔物の群れに突撃。迫る触手を回避して、的確に目を突いていくのだ。大抵の生物にとって目は急所だ。刺突剣のツラヌキによる攻撃で、魔物を次々と撃破していく。
俺から少し離れたところでは、サナたちも戦っている! 頑張れよ、皆! トレントを倒せるのなら一人前の冒険者だ!
「魔力の矢!」
ハルカさんの放った矢が大木の魔物に大きなダメージを与える。トレントは、その長い枝をハルカさんたちへ伸ばして攻撃しようとする。危険はあるが、今の皆なら、あれくらいはどうにかできる。落ち着いて対処してほしい。
「弱防壁!」
「やあぁ! パリィ!」
サナとウイカゼさんがトレントの枝攻撃からハルカさんを守る。自らの防御もできているな! 良いぞ! その調子だ!
俺がナッツの魔物を全滅させたところへサナたちが走ってくる。サナたちは、より近い距離から大木の魔物への攻撃を狙っているな。それはすぐに理解できた。ナイスな選択だと思う。
「おじおじ! ジャンプ台になってくれ!」
「急に言いますね! 良いですよ!」
サナとウイカゼさんが、ハルカさんを守りながら前進! 俺は彼女たちの前方で、片膝を突く。そして盾を上に構えた。さあ、来い!
「行くぞおぉ!」
「グッドラック! ハルカさん!」
ハルカさんが跳躍! 彼女は俺が構えた盾の上に乗り、さらに跳躍! 空中で大きく引いた弓から、オーラをまとった矢を放つ! さあ、やってやれ!
「流星の矢ァ!」
あれは、矢に特大のオーラを乗せて放つ必殺の矢! 矢が進みながら燃えていくので、射程は縮むが、当たれば相当なダメージだ! これなら、やれる! 俺は彼女たちの勝利を確信した。
目映い閃光があった。凄まじい音がした。特大の破裂音と、その直後に大木が折れたような地響き。そうして、目が慣れてくる頃には討伐されたトレントの姿が確認できた。おぉ、流星の矢は凄い威力だ! その一撃を当てるためにハルカさんを援護した二人も、よくやった!
※おお!?
※すげー閃光! すげー音! すげー威力!
※流石だあ
※ハルカちゃんを運んだ皆も凄い!
※すげーもの見たわ
落下してくるハルカさんを素早くキャッチ! 俺の腕からゆっくり降りるハルカさんは、気恥ずかしそうにしていた。って、脚がプルプルしてるじゃないか!? その脚だと、休憩した方が良いな。俺は彼女の体を支える。
「……ハルカちゃん、もうダメだ。今の攻撃で魔力をほとんど使っちまったのが、感覚で分かるぜ。もうヘロヘロ~」
「とりあえず、ポーションがあります。疲労の回復にも効くので飲んでおいてください」
「……おう、サンキュ~おじおじ」
流星の矢はとにかく魔力を消費する。そこが欠点だな。とりあえず、今は休憩をして、帰りはハルカさんに無理をさせないようにしよう。なれない魔力切れは、かなり、きつ~く感じるはず。ハルカさんが心配だ。
「おじ様、私さっきのレベルアップで、疲労の回復に効果がある魔法を覚えていますわ。すぐに、疲労を全回復できるわけではありませんが、使った方が良いですわよね?」
「助かります」
「では……休息の息吹き」
ウイカゼさんの杖から、ほのかな光が発生して、ハルカさんを照らす。しばらくは動けないかもな……なんて思っていた時、唐突に空気が震えた! これは、EOEの出現の兆候! 空を見ると、そこにヒビが入っていた。なんつー運の悪い。
「お、おじ様!? どーしますの!?」
「ハルカさんがこの状態ですから。ダンジョンへ逃げて他の魔物と遭遇するのも嫌です。ここはEOEを迎え撃つべきでしょう」
ほどなくして、空が割れた。そこから鹿頭の巨人が降ってくる。巨人の着地により土煙が舞い、巨人の拳圧により土煙が晴れる。現れたのはウェンディゴ。そいつは俺たちに顔を向ける。その顔を見たとき、俺は何かが妙だと思い、すぐに違和感の正体に気づいた。
「あいつ……目が無いぞ!?」
体毛で目が隠れてるとかではなく、あるはずのものが無いのだ。どうしてあのウェンディゴは目を持っていないんだ? 一つ嫌な考えが頭に浮かぶ。さっき、金属スライムを消滅させた存在は、俺たちの配信を見ているのだと思う。だとしたら、このタイミングで意図的にウェンディゴを投入してきたのだとしたら……? やつは、俺の黒眼を克服するために、目を失っているのではないか!?
鹿頭の巨人は大きく腕を広げて、けたたましく、いなないた。




