白く染まる世界
その後、サナたちは順調に金属スライムを倒していく。時々、遭遇したホブゴブリンは軽く蹴散らした。またレベルが一つ上がり、全ては順調に進んでいた。
そこへ、唐突に異常事態が訪れた。俺が、何か来ると警戒した時には、すでに通路が白く染まっていたのだ。
「……なんだこれは!?」
俺はサナたちを見る。三人は動きを止めている。三人が今まさに倒そうとしていた金属スライムも動かない。まるで、時間が止まっているかのような感覚があった。不思議とそう感じたのだ。
俺は視線を動かし、撮影機の方を見る。画面に映るコメントは止まったままだ。考えられるのは……俺たちの方が外の空間と切り離されている……か。もしくは世界全体がこのように停止しているか。そんな中で、俺はなぜ動ける。俺が持つ最後の切り札的なスキルが関係しているのだろうか? なんにせよ、不気味な状況だ。
俺以外の全てが、停止しているかのような、白く染まった世界に、変化が起きた。金属スライムが、白い世界へ溶けるように消えていく。スライムの姿が薄れていき、そして、最終的には全く見えなくなってしまう。それは、とても奇妙な光景だった。
金属スライムが白い世界に溶けきってすぐ、サナたちが動き出す。白く染まっていた景色は一瞬で元に戻っていた。もしや、と嫌な予感がする。俺はそのことを確認せずにはいられなかった。
「皆さん、今……何を倒そうとしていましたか?」
「「「え?」」」
三人はお互いに顔を見合せ、少しの間黙っていた。その表情は、今の状況を理解しようと、悩んでいるみたいだった。
「……スライムだったような気がするぜ?」
「ハルカさん、それはあり得ませんわ。この塔にスライム系の魔物なんて出現しないはずですもの」
「そ、そうだよな? いや、すまねえ。ハルカちゃんとしたことが、勘違いしてたぜ」
「しっかりしてくださいまし。ハルカさん」
「おう、わりぃわりぃ!」
二人とも、覚えてないのか? 金属スライムの存在そのものを覚えていないのか? サナは……手に持ったドクバリを不思議そうに眺めている。彼女は首をかしげた後、その武器を腰のベルトに差した。彼女は撮影機の方へ問いかけるように言う。
「皆、私たちが何を倒そうとしてたか覚えてる?」
※ホブゴブリン
※確か、ホブゴブリンだよ
※ホブゴブリン狩りに来たんだよね
※ホブやでー
※ホブゴブリン
「あーそっかそっか! 私たちホブゴブリンを倒しに来たんだったね! なんで一瞬思い出せなかったんだろ」
「ちょっと、疲れてきてるのかもな? ハルカちゃんは休憩タイムに入ることを提案するぜ」
「それは良い考えですわね。少しの休息でも、あると無いとでは、大違いですわ」
違う。そうじゃない! そうじゃないぞ! 皆! だが、皆にこのことをどう伝えれば良い? 何を言うべきか、頭の中でまとまらないうちに、俺の口から言葉が漏れる。
「……金属スライムは、もうどこにも居ないのか?」
「金属スライム……? おじさん、なんですかそれ?」
「ん、いや……かつては、そういうものが、この塔に居たんです。今は……居なくなってしまったようですが……」
「へえー。そうなんですね!」
※ほえー。金属のスライム!
※それは、ほんとにござるかぁ~?
※おじさんEOEのことも知ってたからな
※黒おじが活動してた頃はおったんやろ
※俺も見てみてえなー。金属スライム
皆、忘れてる。金属スライムが居たことを覚えていない。きっとこうやって、今までの世界の常識も改変されてきたんだ。そ、そんな……あっけなさすぎる。こんなに簡単に、一つの存在が世界から消え去るのか……それは……許せるものではない。
世界を勝手に変える存在なんて、許せるものかよ……相手の力は、未知数だ。この世から一つのの存在を、跡形もなく消し去れるほどのやつ。強力な存在だ。だからこそ、放置してはおけない! この事態に、気付いてしまった俺は、この事態を、なんとか解決しなければならない! どんな敵や、事態からも人々を守ってきた。それがS級冒険者としての、俺の矜持だ。こんなことで怖じ気づくものかよ。逆に! 闘志が湧いてきたぞ!
しかし、どうしたものかな?
「……とりあえず、皆さんは、休憩していてください。俺が周囲を警戒しておきます」
「「「はい!」」」
いつも通り明るく返事をしてくれるサナたちを見ると、少しだけ安心できた。
少しの休憩時間を挟み、俺たちは塔を上へ進むことにした。サナたちのレベルはアップしているので、このダンジョンの、ボスモンスターに挑むことにしたのだ。今の彼女たちであれば、ここのボスを倒すことは可能なはず。経験を積ませたいし、もっ、自信をつけさせてやりたい。
道中に出現する魔物を軽く倒しながら、塔を登っていく。見ていれば分かる。三人は今日の配信開始時よりも、格段に、動きが良くなっているぞ。単純なステータスの上昇によるため、だけではない。彼女たちが以前よりも考えて戦っているからだ。今日の金属スライム狩りでの経験は、しっかり形になっている。俺はそれが嬉しい。
そして、俺は考えているうちに一つ気付いたことがある。おそらく、金属スライムを消した存在は俺たちの動向をきにしているんじゃないか? もっと言えば、そいつは、この配信を見ているのだろう。そう思うのには理由がある。考えてみれば簡単なこと。そのことに気付いた時、俺は、なんとかなるかもしれない、と希望を感じた。
今日の、俺たちの目的は金属スライムを倒してレベルを上げることだった。それは、途中で金属スライムが消えてしまったから、続行できなくなった。ってことは、俺たちのレベル上げが妨害されたことになる……はずだ。よほどの偶然でなければ、金属スライムを狩る俺たちの姿を見て、そいつは危機感を覚えた。だから金属スライムを存在ごと消してしまった。そういうことになると……思う。
一時はその相手をとんでもない上位存在かと思った。いや、世界のルールや、魔物の存在に干渉する力を持っているのだから、確かにとんでもないやつではある。だけど、やつは小心者だ。たった三人の、女の子たちの成長を恐れ、慌てて動くような小心者。俺はそう感じた。
サナたちが成長したところで驚異を感じないほどの上位存在なら、今慌てて動くような必要は無かったはずだ。となれば、相手は俺たちの力でも、倒すことはできる。その程度の存在。そう思えば、こちらも恐れることはない。
向こうはサナたちの成長を妨害して安心しているのかもしれない。が、サナたちはすでに、大事なことを学んだ後なのだ。彼女たちは連携や立ち回りの大切さを学んだ。それこそが単純なステータスの上昇やスキルの習得よりも重要なことだ。小心者の間抜けな存在。そいつが、どれだけ凄い能力を持っていようともだ。必ず俺が、おまえの前に立ち塞がってやる!
しばらく考え事をしながら進んでいるうちに、塔の頂上まで到着した。屋外で、しかも、かなり高いところだ。辺りは夕日に照らされた草木が生えている。高い木々は、高所の突風を防いでくれる。そんな空中の庭園に、杉並ダンジョンのボスモンスターは存在する。
俺たちを見下ろす大木の魔物を前にしてサナは目を丸くしていた。うん、初見はビビるよね。俺も初見時のこいつには、かなりビビった。でも大丈夫だ。今のサナたちならば、なんとかなるよ!
「あわわわわわ! すっごくデカい!?」
「ハルカちゃん知ってるぜ。あいつはトレントって魔物だ!」
「か、勝てるんですの!? 私たち!?」
※で、でけえ!?
※トレント凄く強そうな魔物だな!?
※サナ姫たちならなんとかできるよ!
※おじさんもついてるし!
※いける! よね……?
「大丈夫です! 今が皆さんの修行の成果を見せる時ですよ!」
皆を鼓舞するように叫びながら、俺は一歩前に出た。さあ、大木の魔物を倒すとしよう!




