騎士の面影
ウェンディゴを倒した俺たちは、しばらくの休憩の後、塔を下り、杉並ダンジョンを脱出した。近くにあるダンジョン監視センターで今日のことを報告した後、杉並区の中華料理店へと打ち上げに来た。体をしっかり動かせば腹が減る。とりあえず、何でも良いから食いたいぞ……俺はもうお腹ペコペコだし、サナたちもそうだと思う。今はゆっくりしようじゃないか。そういう気分だ。
「……というわけで、皆さんお疲れさまでした!」
「お疲れさまでした。私……今はもう動くのは無理ですよ……エネルギー切れです」
「私も疲労困憊ですの。今日の配信は、一時はどうなることかと思いましたわ」
「まあ、なんとかなったんだから良いじゃねえか。でも、へへ……視聴者の皆にはへろへろの私たちを見せちゃたなぁ」
皆疲れているが、サナとハルカさんの二人は特にへばっている。初めて、体内の魔力を使いきったのだろう。それなら、疲労困憊で動けなくて普通なのだ。俺が守りながらとはいえど、杉並ダンジョンのボスエリアから自力で帰ってきているのは、良くやっている。彼女たちの姿は、配信の視聴者たちの目にも好意的に映ったはずだ。と、思いたい。
「皆頑張ったんだから、立派ですよ。俺はそう思います」
「おじさん……」
「……良いこと言うぜ」
「ええ、きっとそうに違いありませんわ」
楽しそうに笑いながらも、へろへろな感じの三人はいつもより、へにゃっとしている。なんというか緩い空気が漂っていた。こういう空気も嫌いじゃない。
「皆さん、お腹もすいていることでしょう。今は、いっぱい食べるとしましょう」
「「「は~い」」」
とりあえず、俺は馴染みの店員に料理を注文する。向こうは、俺の正体には気付いていないな。それで良い。俺の正体が姪っ子の前でばれたら嫌だし。
少しして、丸いテーブルに並んでいく料理の数々。この店の料理は全部美味い。というわけで、いただきます。俺が箸を手に取ると、三人娘の視線が俺に向いた。俺が料理に口をつけると、三人とも困惑したような顔になる。なんでです!? 飯食ってるだけじゃないですか!?
「おじさん、飲み物だけじゃなくて、食べ物も兜を被ったまま接種できるんですね……」
「いくらシャイとはいえ、フルフェイス兜を被ってラーメンをすする図は、なかなか凄い光景でしてよ」
「あはは……すっげぇ……」
そんなに言うほどかなぁ。なんて思いながら俺は三人と一緒に食事を進めていく。俺を含めて皆が、次々に料理を平らげていく。エネルギーを大量に使った分、大量に食事をとる。自然の摂理だな。
しばらく、黙々と食事の時間が進み、並んだ皿のほとんどが空になったところで、再びサナが喋り始めた。彼女はいくらかは元気になってくれたみたいだ。俺も、彼女の姿に元気をもらえる。
「私、今日は、凄く成長できたと思うんです。疲れたけど、充実した一日でした」
「俺から見ても、サナさんたちは今日一日で、凄く成長しましたよ。誇るべきです」
「ありがとうございます。ここまで成長できたのも、黒騎士のおじさん、のおかげです」
サナの言葉にハルカさんとウイカゼさんも頷く。急に感謝されると、なんだか照れてしまうな。
「皆さんの成長は、皆さんの頑張りが、あったからこそですよ。俺はその手助けをしただけです」
「その手助けが、私たちにはありがたいって話なんですよ。おじさん」
「なるほど」
「私たちが、上級職にジョブチェンジできたのも、おじさんの、おかげですからね」
「褒めすぎですよ。でも、どうも」
俺のことはいいんだ。それより話をするべきは彼女たちの新しいジョブについてじゃないか。折角なら、上級職になった彼女たちに、今の心境を聞きたいな。
「皆さんの新しいジョブ、どんな感じですか? 何か、思ったこととか、あったんじゃないかと、気になります」
「私たちの上級職についてですか?」
「ええ、そうです」
サナたちは互いに顔を見合わせる。誰から、話をしようかと様子を見ているらしい。やがて、サナが遠慮気味に「じゃあ、私から」と手を挙げた。サナの話、叔父さんは気になるぞ。
「私は、おじさんと同じ黒騎士のジョブに進化したみたいです……! 新しく、影でできた鳥を呼び出すスキルも覚えたみたい」
「ほほう、影の鳥ですか?」
「はい、同じ黒騎士でも、私と、おじさんの覚えたスキルってちょっと違いますよね?」
「そうですねえ。俺が持ってるスキルは、サナさんたちには、ほぼ全部見せましたかね。確かに、サナさんとは覚えてるスキルがちょっと違いますね」
パリィや影踏みは、俺とサナの、どちらも持っている。でも、俺はサナが覚えた防御力強化や、陰の模倣者、それと、影の鳥を呼び出すというスキルは使えない。同じジョブなら、全てのスキル構成が同じになる、ということはない。個性みたいで面白いと思う。
特にサナが覚えた陰の模倣者は、非常にレアでユニークなスキルだ。影の繋がっている相手と同じスキルを利用できるというスキル。任意でどんなスキルにもなりえる。ワイルドカードみたいで、かっこいいな。確か、ジョイント型の能力に分類されるんだよな。何らかの方法で繋がりを得た者たちが、互いに、あるいは一方のみが、強力なスキルを使うことができるってやつ。
「ところで、おじさん」
「ん、何でしょうか?」
「おじさんって、瞬間移動みたいなことを今日してましたよね」
「ええ、まあ。瞬間的に動くスキルを持っていますからね」
「ほえ~! 凄いです! あ、さっき私たちには、ほぼ全部のスキルを持ってるって、言ったじゃないですか。もっと凄い能力を隠してたりするんじゃないですか?」
「ふむ……サナさんたちには、まだ、伝えてなかったスキルなんですが、俺は、騎士の面影というスキルも持っています」
「騎士の面影、ですか?」
俺は頷く。ワクワクした様子のサナたちには悪いけどそんなに凄いスキルじゃないよ。正直なところ、俺も、まあ弱いよねって思うレベルのスキルなんだから。
「騎士の面影は持っていると人からちょっと、覚えられやすくなり、俺からも相手をちょっと覚えやすくなる。それだけのスキルです」
「ちょっとだけ、互いに覚えやすくなる……能力ですか?」
キョトンとした様子のサナに、もう少しだけ補足をすることにする。騎士の面影は俺や、俺に関係したこと、俺の周囲で起こっていたことを、関わった人間にほんの少しだけ印象を強くする。ほんの少しだけだ。正直、スキルとしては外れの部類だと思う。サナにはガッカリされちゃったかな?
「……なるほど、不思議なスキルですね?」
「不思議……かどうかは分かりませんけど、まあ珍しいスキルではありますね。さ、あまり俺の話ばかりするものでも、ないでしょう。俺は皆さんの話に興味があります」
次は、ハルカさんに話を聞く。ハルカさんは大弓使いにジョブチェンジして、矢の雨という読んで字のごとくなスキルを覚えた。矢を天に放って、大量に増えた矢を空から降らせる強力なスキルだ。攻撃の落下地点をある程度コントロールができるということなので、頼もしい。
「大弓使いってことは、武器も今の弓とは変えた方が良いよなあ……小さい弓も取り回しが良くて、好きなんだけどよ」
「だったら、ハルカさん。大きい弓と、普通の弓をどっちも持てば良いんじゃないですか?」
「それ、ありなの?」
「そういう戦い方をしていた人も俺は知っていますからね。ありだと思います」
「ほほう……ちょっと、この前の武具店で、相談してみるかなー」
「それは良いですね。どぶろぐの店主も喜ぶと思いますよ」
「おう……!」
そして、次はウイカゼさんの番になる。彼女は胸に手を当てて、得意気な顔になっていた。新しい力が彼女の自信に繋がっているのであれば、それは喜ばしいことだ。
「ふふふっ! 私はなぁんと、聖女に、ジョブチェンジしましたのよ! 覚えたスキルは――」
その時、突然に俺のスマホが振動。いや、俺だけじゃない。サナや、ハルカさん、ウイカゼさんのスマホも同時に着信したみたいだ。これは、なんだか嫌な予感がするぞ。




