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同窓会への誘い

自転車に2人乗りして、丘を下った。傾斜は緩やかだが、下り坂のためスピードが乗る。自転車のハンドルを握るフィンの操縦は安定していた。

昔はメリルの後ろに弟が乗っていた。今や立場逆転だ。ぐんと広くなった弟の背中をメリルはしみじみと眺めた。


弟は成長した。

対して、メリルは変わっていない。ロイドにも家族にも言われ、自分で鏡を見ても思った。

まあ元々童顔だし、若く見えるのは良いことだと思った。


丘を下り終えたところで、犬を連れた男性に出会った。


「よう、フィン。自転車デートか、いいなあ若いなあ。青春だなあ」


フィンの知り合いらしく、朗らかに声をかけてきた。

フィンが自転車を止めた。荷台に座るメリルを見て、その男性はあっと声を上げた。


「メリル!? えっ、いつ帰ってきたんだよ!」


キースだった。ダークブラウンの髪に同色の瞳、精悍な顔立ちにがっしりした体躯の、いかにも体育会系に見えるキースは、メリルの幼なじみだ。


一浪して都の大学に入ったキースとは、ロイドも含めて三人で、時々食事に行ったりもしていた。


「昨日よ。キースはこっちに帰ってきてるの?」


「ああ。大学卒業して、都勤めしてたんだけどな。やっぱ地元が恋しいなーって思ってたら、ドノイでいい求人出てるから受けてみろって親父に言われてさ。受けたら受かったから、戻って来た。ってわけで、次の仕事が始まるまでは無職。メリルはどうしてたんだよ。みんな心配してたんだぞ。お前いなくなったとき、すげー大騒ぎしてさ、すげー捜したし。結局何だったの? ロイとの痴情のもつれ?」


ずばっと聞かれてメリルは口ごもった。


「……ごめん。迷惑かけて」


「えっいや、別に謝ってほしくて言ったんじゃなくて。あっごめん、言いにくいことだよな。悪い、デリカシーなくて。まー何にしろ、また会えて良かったよ。実家に帰って来てるんなら、また飯でも行こうぜ」


「うん、ありがとう」


「じゃあな。フィンも、またな。気をつけて漕げよ」


黙って2人のやり取りを見守っていたフィンが、「うぃっす」と無愛想に答えた。そしてまた自転車を漕ぎ出す。


メリルは流れる景色と共にキースを振り返った。まだ立ち止まったまま、去り行く自転車を見ている。大きく手を振るキースに、メリルは小さく振り返した。


「キースにはよく会うの?」


「あいつんち近所じゃん。暇なのか、よく犬の散歩してるよ」


「そっか」



その夜、キースから電話がかかってきた。


「来週、高校の同窓会があるのを思い出してさ。案内来たのが二ヶ月くらい前だったかな。一緒に行かないか」


「でも私、招待されてないし」


「連絡の取りようがなかったからな。みんなお前に会いたいって。クロエとかリズとか、仲良かったじゃん。会いたいだろ?」


懐かしい女友達の名前を出され、メリルは彼女たちの顔を思い浮かべた。

ロイドを追って都に行ってからも、最初のうちはよく電話したり、手紙を送りあった。次第にそれぞれの生活に埋もれ、自然と疎遠になってしまったが、それでも毎年開かれる同窓会には必ず参加して、積もる話に花を咲かせたものだ。

同じく同級生であるロイドも行くときは一緒で、行ってからはお互いの友人に遠慮して、距離を取っていた。


「会いたいのは、会いたいけど……」


メリルは躊躇した。

この5年間どうしていたかという近況報告を、メリルは持ち合わせていない。記憶障害だと話したらみんな変に気を遣うだろうし、楽しい同窓会に水を差したくない。


失踪していたことをあれこれ詮索されるのも嫌だし、同級生たちの近況を知れば、自分の惨めさが増すような気がした。

ロイドとの破局も、ロイドの結婚によりすでに知れ渡っているのだ。

どんな顔をして、同級生たちに会えばいいというのか。


「あ……そっか」


キースが思い出したように言った。


「えっと、その……、あれだ。ロイは来ないから大丈夫。仕事が忙しいからって、ここ何年かはずっと不参加だ。多分今回も来ないよ。一応、確認しとく」


ロイドは元々クールな性格で、交友関係においても無理をせず、「本当に気の置けない友人が一人、二人いれば十分」という考えのため、同窓会に対する熱意は低かった。過去の参加は、恋人のメリルが行くから付いてきてくれていたに過ぎない。


ある年の同窓会で、ベロンベロンに酔っ払った同級生がメリルにしつこく絡んできて、ロイドが颯爽と助けてくれたことがあった。

こういうことがあるから、一人で行かせられないんだとロイドは苦笑した。やっぱり私の婚約者はかっこいい、姫を守る騎士みたいだと馬鹿みたいににやけたことを思い出し、メリルは泣きそうになった。


「ロイが来ないことが確定したら、来いよな」

「ロイが来なくても行かない」

「ええー、何で?」

「キースこそ、何でそんなにしつこく誘うわけ」

「しつこいか、ごめん。俺ってほら、デリカシーないだろ。男だし。女の気持ち、よく分かんねーし。そっち系の込み入った話ってのは、女同士のほうがしやすいじゃん。だから」


だからメリルを昔の女友達と引き合わせたい、と。

「そっち系の込み入った話」というのはロイドのことらしい。


「悪いな、ちょっとお節介すぎたか。けどほんと悪いようにはしないからさ、同窓会の件考えといて」


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