ショーウィンドウ前での再会
退院したロイドと偶然再会したのは、2年後だった。
休日街中のショーウインドウ、佇んでいる若い男性が目にとまった。
そのショーウィンドウは、ブライダルウェディングをプロデュースする会社の物で、ドレスやブーケ、バルーン、ペアリング等が華やかに展示されている。
展示品は定期的に変わり、新しく目を引く工夫がされている。
ここで立ち止まってうっとりと眺めている若い女性たちや、幸せそうなカップルはよく見かける。
ナタリーはここを通るのが苦手だった。
「THE結婚」をテーマにしている場所。自分にはすっかり縁遠くなってしまったもの、しかし心の奥底では憧れとして残っているもの、それがナタリーにとっての「結婚」だった。
叶わぬ憧れであるがゆえに、嫌悪対象でもある。
そのため、ここを通るときにはなるべく見ないように、意識しないようにと気を張っていた。
そして、意識しないようにと意識すればするほど目に入ってしまうのだ。
だから、ロイドに気付いたのだ。
わざわざ足を止めて「THE結婚」を眺める人々は大体、浮かれた若い女性か幸せそうなカップルだ。もしくは夢見る少女。
若い男性が1人で、しかもひどく思い詰めたような暗い表情で、じっとショーウィンドウを見つめている様は、ナタリーが普段蓋をして心の奥底にしまっている「結婚」への憧れと嫌悪を同時に刺激した。
つい足を止めて、男性の横顔を観察してしまった。
(あれ、この人どこかで……あっ)
記憶を手繰り寄せ、二年前のことを思い出したとき、急に振り返って歩き出そうとしたロイドと軽くぶつかった。
「あっ」
ロイドは慌てて謝った。あまりにぼんやりしていて、近くの人の気配に気付けなかったとは迂闊だった。
「すみませんっ、大丈夫ですか?」
「はい、こちらこそすみません。あのっ、私のこと覚えてますか?」
「え?」
「中央病院に、二年前に入院されてた軍の学生さんじゃないですか? 違ってたらすみません、私、中央病院の看護師で……」
「あっ、ああ! その節はお世話になりました」
再会した2人は少し立ち話をした後、近くのカフェでお茶をした。
退院後、無事に婚約者とヨリを戻せたのか気になっていたナタリーは、ロイドから「彼女はあのまま見つからず、未だ失踪中」と聞き、ひどく胸を痛めた。
聞けば、ロイドと彼女は駆け落ち同然で都へ出て来ており、彼女は実家にも戻っていなかったそうだ。
「俺は彼女の家族から嫌われていますから、電話は取り次いでもらえないと思い、退院した足で、直接実家へ迎えに行ったんです。でも彼女は実家にも居なくて……」
事件性も踏まえ、彼女の家族と警察へ届け出て、友人知人の協力を仰いであちこち探し尽くしたが、結局彼女は見つからなかった。
そう話したロイドはひどく疲れた表情をしていて、顔色が悪かった。入院時よりもやつれたように見えた。
「ちゃんとご飯食べてます?」
「え?」
「何にしても、健康が一番の資本ですよ。しっかり食べてよく寝て、身体を大事にしてくださいね」
職業柄、説教臭いことを言ってしまったナタリーだったが、ロイドのことが心配だった。
先程1人でショーウィンドウを眺めていたロイドは、そこがもしビルの屋上なら、そのまま飛び下りてしまいそうな雰囲気だった。
「死んじゃ駄目ですよ?」
「まさか」とロイドは薄く笑った。
「死にませんよ、ご心配なく。俺はまだ諦めてませんから。彼女は戻って来ると思ってます」
ーーああ、その時が今来たのかと、ナタリーは受話器越しにロイドの報告を聞きながら思った。
今さら?
「どうして今さら戻ってきて、あなたと一緒にいるの?」
ルーシーの安全のためにずっと冷静でいようと心がけていたナタリーだったが、夫の告白に心が乱された。つい感情的になった。
「それは俺が、俺が全部悪かったんだ。あの指輪を拾ったせいでーー」
そこで通話はガチャンと切れた。後ろから伸びてきたペレス元大佐の太い腕が、強制終了させたのだ。
「長話はするな。行くぞ、車に乗れ」




