不可解な指輪
初めてメリルと顔を合わせたナタリーは、そのあどけなさに面食らった。
4歳年下の夫と同級生だと聞いていたが、まだ10代にも見える。
咄嗟に我が身を省みた。三十路手前で、育児に追われていたため、髪の手入れも化粧もおろそかだ。特にここ数日はそれどころではなかった。
そう、そんなことを気にしている場合ではない。分かっているが、夫の元婚約者の登場にナタリーは引け目を感じた。
(今さら戻ってきて、どうしようって言うの……?)
ロイドは「全て自分が悪かった」と言った。指輪を拾ったせいだと。
車に入って来たメリルは、ナタリーの隣に座った。ぎこちなく会釈をするメリルの手元に視線を走らせた。
(えっ、これがその指輪?)
それは想像していたような物でなかった。
古ぼけた銅色の、細やかな透かし彫りが施されたアンティークな指輪だ。
大きなダイヤモンドではなく、小さな黒い石がついている。黒曜石だろうか。
「大丈夫ですか?」
声をかけられて視線を上げると、心配そうな顔をしたメリルと目が合った。
人質であるナタリーのことを案じてくれているのだと分かった。
「ごめんなさい、皆さんを巻き込んでしまって……」
ナタリーは咄嗟に謝罪を口にした。
詳しい事情は知らされていないが、今の状況は夫曰く、全て夫の責任らしいのだ。
ペレス元大佐に呼び出され、はるばるこんな場所までやって来たのは、夫とその元婚約者だけではなかった。
何故だか分からないが、夫の友人のキースと、もう1人面識のない友人もいる。
ナタリーとルーシーが人質に取られたことで、関係性の低い彼らまでペレス元大佐の指示に従っているのだろう。
「気にしないでください。ナタリーさんとお嬢さんこそ、私たちに巻き込まれたんじゃ……」
メリルが言った。
「おい、私語は禁止だ」
運転席からペレス元大佐の声が飛んで来た。
前列の席に乗り込んできた夫とも話をしたかったが、ぴりっとした空気の中、全員無言でいる他なかった。
ペレス元大佐から運転を命じられたサイモンが車を走らせた。
しばらく走ったところで、ペレス元大佐が口を開いた。
「いいか、私は君たちの仲間だ。指輪を外したら、真っ先に私に渡せ。指輪を手に入れて都に戻ったら、ロイの娘を解放する。君たちは大人しくそれを待ちたまえ」
ロイの娘を解放する、そう声高に宣言されたことにナタリーの気持ちは高揚した。
ようやく目的が達成される。
ルーシーをさらわれてからというもの、それだけを目標に辛抱してきた。
誘拐犯と2人きりで過ごさねばならない恐怖にも。
夫とその友人たちと無事に合流できた、それだけでもほっとすべきことだが、やはりルーシーを再びこの手に抱くまでは一つも気は抜けない。
ナタリーは気持ちを引き締め直した。
(それにしても、どうして指輪はすぐに渡せないのかしら……どこへ向かってるの?)
ペレス元大佐はナタリーへ多くは説明せず、とにかく大人しく従っていろと言った。そうしていればルーシーを返すからと。




