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1部 12芒星魔方陣 編  10章 デジタル魔法の実力 3話

 結界を張ったビルから家に帰る途中で、車のタイヤの音とドンと何かに当たる鈍い音が聞こえた。

「何の音かな?」

「行ってみましょ」

 多香子は私にそう言って音のした方へ向かった。

 曲がり角を曲がった坂道になった路地で(うずくま)る男が居た。制服を着ているから何処かの学校の生徒だと思う。細身だが比較的体格はがっしりしている様に見える。

「怪我したの?」

 私はその男子生徒に聞いた。意識ははっきりしているみたいだ。しかし痛みからかまともな返事が返ってこない。

「とにかく救急車を呼んで」

 多香子もその様子から言った。男子生徒の隣でパニックになっている女子生徒が少し落ち着きを取り戻し119番通報を始めた。

 その近くに車に轢かれた猫が居る。もしかしたらまだ助かるかも知れないが、そこに踞る男子生徒の腕がみるみる青黒く腫れているのが暗がりでも分かる。

「私はこの猫ちゃんの治療をするから多香子はそっちの人の応急治療をお願い」

 しかし、多香子は首を横に振って。

「ウィザードの私、この怪我を治療するプログラム組んだ事無いよ」

「プログラム持ってないの?」

「うん、私、治療のプログラム組んだ事無い」

 私は端末の画面のリストを探して治療プログラムを選んだ。

「じゃあこのプログラムをあげるからそっちの人お願い、私が猫ちゃんの治療するから」

「ありがと、わかった」

 私は鞄に入っている端末の接続コードを取り出し多香子の端末に“ナイチンゲールB”をコピーした。我ながら重いプログラムである。転送開始してから40秒が過ぎてもまだコピーが終わらない。

「何をしているの?」

「応急治療のプログラム組むから少し離れて」

 多香子は男子生徒の背中を撫でている女子生徒に言った。見た感じから彼女だろうか?

「何をするんだ?」

 思ったより男子生徒は冷静に多香子がこれからしようとしている事を聞いた。

「少しじっとしていて、怪我の応急治療をするから」

「ああ、わかった」

 怪我をした男子生徒は多香子の言葉に様子を見ていた。

 多香子の足元に青い円陣が現れその中に人の絵が描かれている。私の書いたプログラムだ。魔法名も“ナイチンゲールB”と言う。“A・B・C”で別けているのは発動の効果が異なる為で、怪我や火傷を治す“A”内臓の損傷は骨折には“B”と言ったプログラムを別けないとプログラムが重たくてとても使えない。それでも、“AからD”迄を網羅した“E”も作っている。

「何?このプログラム、ものすごく重いよ」

 多香子は不満げに言う。魔法陣は消えそうになり多香子は意識を集中させている。

 一方私は、車に轢かれ重傷の猫に「ナイチンゲールE」を実行した。


 この魔法はこの学研都市へ来るきっかけになった治療プログラム、私は歴史上の偉人から“ナイチンゲール”と名前を付けている。プログラムは少しずつ改良に改良を重ね今のプログラム量になった。

 去年の祇園祭で熱中症で倒れた人に応急治療をした時にこの魔法を見た人からこれが“デジタル魔法”と言う物だと知った。

 ナイチンゲールの説明はさておき、私の場合は傷ついた猫に直接触れプログラムを実行したが治癒魔法は効かなかった。

 そう、治癒とは生きている物にだけ有効で死んでいる物には魔法の効果は無い。

 もう既に猫は絶命していたのだ。猫の腹から内蔵が少しずつ溢れる様に出てくる。

「もう助からない・・・」

 私は静かに目を閉じた。

「猫はどうだった」

「もう、そんな事言ってる場合じゃ無いでしょ」

 多香子から治癒魔法を受けた男子生徒が言って一緒に居た女子生徒がそれに怒っている。

「ダメ、猫ちゃんはもう死んでる。助けられなかった・・・」

 私は肩を落とした。

「気を落とさないで、魔法だって万能じゃ無いんだから」

「でも、まだ間に合うと思ったのに」

 あふれ出す涙をこらえている私を多香子は抱き寄せた。

「あなた達って常徳学園の人?」

 落ち着きを取り戻し、男子生徒に付き添っている女子生徒が私達に聞いた。

「そうよ、常徳学園よ」

 私は、二人へ返事した。

 そして私は死んだ猫に目を遣り。

「多香子ちゃんちょっとコンビニ行ってタオル買って来て貰える?お金は後で払うから、猫ちゃん・・・ここだとまずいでしょ」

 さすがに猫をこのままにしておけなない、何処に土に埋めて供養しようと思った。

「分かった、すぐ行って来る」

 多香子は少し先に見えているコンビニまで走って行った。

「怪我はまだ治ってない?」

 怪我をした男子生徒の腕を診ながら言った。

「どうも、骨折してるみたいだ。後、靱帯もやられているみたい」

 やけに詳しい症状を把握している様だった。腕の腫れは若干引いた様に見える。

「今の魔法は腫れや痛みを和らげるプログラムだから骨折までは治せないわね、救急車はもう呼んだの?」

「ええ」

 女子生徒は落ち着かない様子で答えた。多香子が茶色い袋を持ってコンビニから走って帰ってきた。

「買って着たわ」

 多香子は息を切らしながら袋を私に差し出した。

「有り難う」

「何をする気なの、浩子」

「ちゃんと供養してあげないと、可愛そうじゃない」

 私はそう言いながら、タオルを取り出し地面に横たわる猫を包み抱き上げた。

「それであなた達は」

 女子生徒が名前を聞いた。

「えっと私は岡本浩子、さっきも言ったけど常徳学園で魔法を習ってるの」

「魔法ってあのコンピュータ使うあの?」

「そう、『デジタル魔法』って言うの」

「私は浦多香子、あんた、何処かで見たような・・・」

 多香子は何かを思いだそうと口元に左手を当てている。

「そう?だったかな」

 男子生徒も何か覚えが有りそうな表情をしているが惚けているように見える。

「あっ、私は中野綾香、こっちは朝倉裕貴、車に轢かれそうになった猫を助けようとしたのだけど間に合わなくって」

 中野さんは事情を説明してくれた。大怪我までして猫を助けようとした朝倉さん。そういえば今日、モンローで隣のテーブルだった人だと気が付いた。

「でもそんな大怪我してまで猫ちゃんを助けようとしたのだから猫ちゃんも分かってくれるよね」

 私はそこまでして助けようとした二人を慰めた。

 少しして救急車が到着した。

 朝倉さんは救急車に乗り綾香を呼んだ。

「綾香、早く乗れよ、病院行くのだろ?」

「うん」

 そう返事して中野さんも救急車に乗り込んだ。

「じゃあ私達はここで良いかしら」

 多香子が地面に置いた鞄を持ってから救急車に乗り込んだ二人に言った。

「裕貴を助けてくれて有り難う」

「良いのよ、それに応急処置だからちゃんと治療して貰って」

「ああ、有り難う」

 朝倉さんは私達にお礼を言った。救急車はサイレンを鳴らしながら遠ざかっていった。

「その猫、どこかに埋めるの?」

「近くの公園の脇に埋めてあげようと思うの」

「だったら、コンビニの先に公園が有ったわよ」

「じゃあそこで埋めてあげる」

 私と多香子は公園の脇に有る木の麓に穴を掘りタオルで包んだ猫を埋めた後、手を合わせ成仏するよう祈った。


いよいよ、第2主人公 朝倉裕貴 と接触します。2話のカフェでのよそからの話し声は朝倉裕貴と中野綾香の2人でした。

今後、こういったニアミスや接触したシーンも有ります。今後公開する朝倉裕貴編にも注目していてください。

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