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鉄壁の裏側の『孤独』

放課後のチャイムが鳴り、騒がしい「本音の海」が教室から引いていく。

私は日直の仕事で、一人黒板を拭いていた。

ふと窓際に目を向けると、そこにはまだ、安藤さんが座っていた。


「(……あ、まだいたんだ)」


彼女は夕日に照らされながら、一人で明日の予習をしているようだった。

相変わらず、指一本の動きまで無駄がなく、美しい。

その頭上のミニキャラも、本人と全く同じ角度で机に向かい、微動だにせず「完璧な安藤結」を演じ続けている。

私はルンを頭に乗せたまま、掃除の手を止めて、遠くから彼女をじっと見つめた。

いつもなら「あの子の秘密を暴いてやろう」と意気込むところだけど、なぜかその時は、そんな気持ちになれなかった。


オレンジ色の光が、誰もいない教室に長い影を落とす。

その中でポツンと座る彼女は、まるで行儀のいい人形みたいに静かすぎて、どこかこの世界から浮いているように見えた。


「(……あ)」


安藤さんが、ふっと顔を上げた。

彼女の視線はノートから外れ、窓の外……オレンジ色に染まる校庭を見つめる。

そこでは、まだ部活動に励む生徒たちの声が響き、彼らのミニキャラたちが泥だらけになって笑ったり、悔しがったりして跳ね回っていた。

安藤さんの表情は、相変わらず無表情のままだ。けれど、その頭上のミニキャラが。

本人が瞬きひとつしない中で、ほんの、ほんの少しだけ。重たそうに、その小さな肩を落とした。

溜息をつくことさえ自分に許さない本人の代わりに、ミニキャラだけが、言葉にならない「疲れ」を漏らしたみたいに。


「(……安藤、さん……?)」


私が思わず声をかけようとした瞬間、安藤さんはハッとしたように姿勢を正した。

瞬時にミニキャラも「鉄壁」の状態に戻り、寸分違わぬ無表情でノートに向き直る。

まるで、今の数秒間の休息なんてなかったかのように。


「(……ずっと、ああやって自分を縛ってるんだ)」


見えすぎる私にとって、本音が漏れるのは当たり前のことだ。

でも彼女は、自分の本音を殺して、殺して、そうしてやっと「安藤結」という完璧な形を保っている。


胸の奥が、ちくりと痛んだ

あんなに張り詰めていたら、いつかポッキリ折れてしまうんじゃないか。


「(……暴きたいなんて、思ってごめん)」


私は黒板消しをぎゅっと握りしめた。

あの完璧な彼女に、ほんの少しだけでいいから、「楽をしてもいいんだよ」って伝えたくなった。



その日の帰り道。

私の頭の上で、ルンが珍しく大人しく私の首筋に寄り添っていた。

明日、彼女に何を言おう。どうすれば、あの鉄壁の裏側にあるしんどさを少しでも軽くしてあげられるだろう。


それが、翌日のあの無茶苦茶な『逆・鉄壁ガード作戦』へと繋がるとは、この時の私はまだ知る由もなかった。



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