メロンパンの誘惑
「……とったぁぁ!!」
購買の争奪戦、私は最後の一つとなった『幻の極上メロンパン』を掴み取った。
周りのミニキャラたちが「あーあ、取られた」「お腹すいたー!」と阿鼻叫喚の図を描く中、私は戦利品を胸に抱えて教室へと急ぐ。
ターゲットは、窓際最前列。
安藤結さんは、休み時間だというのに、やはり一人で静かに文庫本を読んでいた。
その頭上のミニキャラも、寸分違わぬ角度で小さな本を広げ、無表情でページをめくっている。
「(……見てなさいよ。この香りに勝てる人類はいないはず!)」
私はルンを肩に乗せ、わざとらしく彼女の席の横を通った。
そして、彼女の鼻先をかすめるように、メロンパンの袋をパサリと開ける。
ふわぁぁん、と広がるバターと砂糖の、抗いがたい甘い香り。
私のルンなんて、すでにヨダレを垂らしてメロンパンにダイブしようとしているのを、必死で片手で抑え込んでいる。
「……あ、安藤さん。これ、最後の一つだったんだ。食べる?」
私は精一杯の「親切なクラスメイト」を装って、メロンパンを差し出した。
「(さあ、来い!)」
ミニキャラが「わあぁっ!」って目を輝かせるとか、喉を鳴らすとか、何かしら本音が漏れるはず……!
安藤さんは、ゆっくりと本から目を離した。
透き通った瞳が、私と、その手の中のメロンパンを交互に見つめる。
「(……来る……!?)」
私は固唾を呑んで、彼女の頭上を凝視した。
ところが。
安藤さんのミニキャラは、メロンパンの香りにピクリとも反応しなかった。
それどころか、本人と同じように、少しだけ困ったような、冷めたような目で私を見上げている。
「……和田さん。私、メロンパンはあんまり……。甘すぎるのは苦手なの」
「(……がーんっ!?)」
想定外の拒絶。
私の期待は、メロンパンのクッキー生地よりも脆く崩れ去った。
「あ、そ、そうだよね! ごめん、押し付けちゃって!」
私はまたもや顔を真っ赤にして、逃げるように自分の席――廊下側最後列へと戻った。
自席に座り、ヤケ食いするようにメロンパンを頬張る。美味しい。悔しいくらいに美味しい。
「……むぐむぐ。……ねえ、ルン。あの人、本当に人間なのかな……」
ルンは「そんなことよりパンくれ!」と私の頬をつついているけれど、私は安藤さんの背中をじっと見つめ直した。
甘いものにも、突然の親切にも動じない。
けれど、ふと思った。
「苦手」と言った時の彼女のミニキャラ。
表情こそ変わらなかったけれど、ほんの一瞬……ほんの数ミリだけ、本を握る指先に力が入ったような気がした。
「(……気のせい? それとも……)」
鉄壁の表面に、目に見えないほどの小さな「ヒビ」を見つけたような、不思議な感覚。
私の「安藤結・観察日記」に、初めての『?(クエスチョン)』マークが書き込まれた。
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