日常の攻防戦
高校生活が始まって一週間。私の日常は、かつてないほど「一点集中」していた。
視線の先はいつも、窓際の一番前。
「(……まだだ。まだ動かない……!)」
今は数学の授業中。先生の背中が黒板に向いた瞬間、私は自席の廊下最後尾から、獲物を狙う鷹のような目で安藤結さんを見つめる。
安藤さんの頭上のミニキャラは、本人と同じ角度でノートを取り、同じタイミングでシャープペンシルの芯を出している。その動きは、まるで鏡合わせのダンスだ。
「……ねえ、ルン。ちょっと行ってきて」
私が小声で指示を出すと、待ってましたとばかりにルンが飛び出した。
ルンの今回のミッションは『安藤さんの筆箱を、こっそりペンで突っつく』作戦。
ルンが安藤さんの机に降り立ち、彼女のペンケースをツンツンと叩く。普通なら「えっ?」と手元が狂ったり、視線が泳いだりするはず。
(……来るか!?)
だが、安藤さんは眉ひとつ動かさない。
それどころか、彼女のミニキャラは、ルンが目の前で変顔をしても、ペンケースを揺らしても、微動だにせず数式を書き写している。
「(……鉄壁すぎる。サイボーグなの!?)」
あまりの反応のなさに、ルンが「つまんない!」とばかりに私の元へ戻ってきて、私の消しゴムを八つ当たり気味に齧り始めた。
「……和田さん。そこ、答えなさい」
「ひゃいっ!?」
先生の鋭い声に、私は椅子から飛び上がった。
机の上では、ルンが「あちゃー」と頭を抱えてひっくり返る。クラス中に笑い声が広がり、真っ赤になって煙を吹いている。
恥ずかしさに震えながら、ふと窓際の前方を見た。
安藤さんは、騒ぎに背を向けたまま、静かに次の問題を解き始めている。
そのミニキャラも、他のクラスメイトが笑っている中で、一人だけ全く笑わず、完璧な無表情でペンを走らせていた。
「(……悔しい。一瞬でいいから、あの子の『本当の顔』が見たい……!)」
休み時間のチャイムが鳴る。
私はルンを頭に乗せ、次なる作戦を練るために屋上……ではなく、購買へと走り出した。
胃袋を刺激すれば、少しは本音が漏れるかもしれない。
「(待ってなさいよ、安藤さん。次は、購買の期間限定メロンパンで勝負よ!)」
私の「安藤結・観察日記」に、また一つ敗北の記録が刻まれたけれど、好奇心の炎は消えるどころか、ますます勢いを増していくのだった。
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