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鉄壁への挑戦状

入学式から数日。私の学校生活は、一言で言えば「本音との戦い」だった。


休み時間の廊下を歩けば、すれ違う人たちのミニキャラが「お腹すいた」「次の授業だるい」と騒ぎ立てる声(のような動き)が視界を埋め尽くす。

けれど、教室の対角線の先、窓際の一番前だけは、相変わらずの「無音地帯」だ。


「(……やっぱり、動かない)」


私は自分の席から、無駄にいい視力をフル活用して安藤結さんを凝視していた。

彼女が教科書を読めば、ミニキャラも同じ角度で俯く。

彼女が筆箱を開ければ、ミニキャラも同じタイミングで手を動かす。

そのシンクロ率は100%。誤差、ゼロ。


「ねえ、ルン。あんなことって、普通あると思う?」


頭上のルンに小声で話しかけると、ルンは安藤さんの席の方を指差し、不満げに頬を膨らませてジタバタした。どうやらルンも、あの日以来、あの鉄壁のミニキャラに完全にあしらわれているのが癪に障るらしい。


「だよね。……ちょっと、試してみたくなるじゃない」


私はゴクリと唾を呑み込んだ。

今まで、人の本音なんて「見たくなくても見えてしまう」厄介なものだった。

でも、安藤さんだけは違う。

見ようとしても、見せてくれない。


(……もし、彼女をびっくりさせたら?不意打ちで話しかけたら、あのミニキャラも『えっ!?』って、本人と違う動きをするのかな)


一度そう思うと、もう止まらない。

私はペンケースから一本の消しゴムを取り出し、わざとらしく彼女の席の方へ歩き出した。


「(作戦名、不意打ち挨拶。……いっけぇ!)」


安藤さんの席の横を通り過ぎる瞬間、私はわざとらしく消しゴムをポロッと落とした。


「あ、すみません……っ」


慌てて拾うフリをして、彼女の顔を至近距離で覗き込む。

心臓がうるさいくらいに跳ねる。


「……あの、安藤さん、ですよね? 隣のクラスの……じゃなくて、同じクラスの、和田です」


我ながら、めちゃくちゃな挨拶。

さあ、どうなる。驚く? 困る? それとも、ミニキャラが「なんだこいつ」って顔をする?

安藤さんは、ゆっくりとペンを置き、私の方を向いた。


「……そう。和田さん。何か用?」


声は鈴の音のように綺麗で、けれど冷たい。

そして、肝心の頭上は――。

本人と全く同じ速度で首を傾げ、全く同じ、表情のない瞳で私を見下ろしていた。


「(う、嘘でしょ……!?)」


挨拶されて、しかも変な絡まれ方をしたのに。

驚きも、不快感も、戸惑いも、何一つとしてミニキャラから漏れてこない。

そこにあるのは、完璧に統制された「無」だけだった。


「……あ、いえ、なんでもないです! 消しゴム、落としただけなので!」


私は真っ赤になって自席へ逃げ帰った。

安藤さんは、私が走り去るのを追うこともせず、また静かに教科書に目を落とした。

そのミニキャラも、寸分違わず同じ動きで。


「(……鉄壁すぎる……っ!)」


机に突っ伏した私の頭の上で、ルンが「だから言ったろ!」とでも言うように、私の髪をペシペシと叩いていた。

見えない。見えないとなると、余計に見たくなる。


それが私の「安藤結・観察日記」に、新たな火がついた瞬間だった。

正直なレビューしていってもらえると嬉しいです。

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