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静寂の中の喧騒

全校生徒が一堂に会する体育館は、私にとって地獄絵図でしかなかった。


「(……う、頭が痛い……)」


パイプ椅子が整然と並べられた会場。けれど、その上空はカオスそのものだ。

校長先生の長い話を聞きながら、数百体のミニキャラたちがやりたい放題。

欠伸をする者、隣のキャラと相撲を始める者、飽きて自分のおさげで縄跳びを始める者……。

視界に入る本音の密度が、教室の比ではない。

そんな中、私の視線は自然と、最前列に座るあの背中を探していた。


「(……いた)」


安藤結さん

彼女だけは、やはり異常だった。

微動だにせず前を向く彼女の頭上で、ミニキャラもまた、寸分違わぬ姿勢で前を見据えている。

まるでそこだけ時が止まったような、冷たくて美しい、完璧な「静寂」。

すると、私の頭の上で大人しくしていたはずのルンが、急にムズムズと動き出した。


「(ちょ……ルン、今はダメ!)」


ルンは安藤さんの「鉄壁」のミニキャラが気になって仕方ないらしい。

私の髪を蹴り飛ばすと、あろうことか、低空飛行で体育館を横断し始めた。


「(待って! 戻ってきて!)」


声に出せない私は、必死に手を伸ばして空を仰ぐ。

周りから見れば、厳かな入学式の最中に、空中の何かを掴もうとして不自然な動きを繰り返している、かなり浮いた新入生だ。


「……和田さん?」


斜め後ろの席の男の子が、怪訝そうに私を見た。

その子の頭上のミニキャラが「こいつ、何やってんだ?」と首を傾げている。


「あ、いえ……蚊が、いた気がして……っ」


必死に誤魔化しながら前を見ると、ルンはすでに安藤さんの頭上、数センチのところまで接近していた。

ルンは安藤さんのミニキャラの顔を覗き込み、ぺしぺしと頬を叩いたり、鼻を摘んだりして反応を引き出そうとしている。

けれど、安藤さんのミニキャラは微動だにしない。

叩かれても、揺らされても、本人が無表情である限り、ミニキャラもまた「無」を貫いている。

本音を漏らさないなんてレベルじゃない。

まるで、最初からそこに「心」なんて存在しないみたいに。


「(……本当に、なんなの、あの人……)」


私は、安藤さんの背中越しに、ルンが彼女のミニキャラの頬をツンツンと突き刺しているのを見て、冷や汗が止まらなかった。

安藤さんは、そんな騒動が自分の頭上で行われていることなど、微塵も感じさせない様子で座り続けている。

結局、式が終わるまで、彼女のミニキャラが本人とズレることは一度もなかった。

退場する彼女の背中を、ルンはつまらなそうに頬を膨らませながら見送っていたけれど、私は確信した。


あの鉄壁は、私にとって最大の「謎」になる、と。

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