第1幕 その3
『いつもNHKの放送にご理解とご協力を賜りありがとうございます。
NHK報道局で記者をしております直江太輔と申します。
去年、NHKのニュースポストにいただいた「社会問題化する若者のオーバードーズについて」の投稿を拝見してご連絡差し上げました。
今年夏をメドに、若年層のオーバードーズの問題についてNHKで大きく取り上げられないかと取材班が立ち上がりました。ぜひ、かねてからこの問題に警鐘を鳴らしていらっしゃる青ちゅ〜様にお話を伺いたく御連絡を差し上げました。
いただいた投稿に電話番号も入力してくださっているので、日時など指定いただければこちらから電話いたします。そのほか、WEBミーティングや直接お会いすることも可能ですので、ご希望あればおっしゃってください。
投稿から連絡まで間があき大変恐縮に存じますが、オーバードーズをめぐる青ちゅ〜様の思いを、NHKでぜひお伝えできればと考えておりますので、ご検討いただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします』
貪るように一気読みする!
(きやがった)(今更なんだと)(落ち着け)(メールした途端受信料の紙だけ送ってきやがったくせに)(3ヶ月以上だぞ)(だから落ち着――)(NHKが――)
全部ほぼ同時に浮かんだ。
再び、一字一句確認するように、指で最初から、メールの受信画面をなぞっていく――
『NHK報道局で記者をしております直江太輔と申します』
声に出して件名を読む。
今更連絡? 本物か? 差出人アドレスはNHKのドメインになっている。
とにかくタバコだ。
換気扇の下に行く。ガスコンロの上にスマホを置き、少し乱暴にタバコを取り出すと火を付けた。自己暗示のようにゆっくり吸って十秒。その間も目がスマホの画面から離せない。
紫煙が視界を遮った。手で払い、左手で換気扇をつけながら、右手でスマホを掴む。
記者の直江太輔――すぐにコピペして検索にかける。いくつか出てきた。Xのアカウントもある。このメアドは基本公開してないし、わざわざいたずらしてくる奴もいないだろう。となれば――ホンモンだ!
ふとタバコの火が落ちた。反射的に足が出た。「あっつ」スリッパを履いていないのを忘れていた。
フローリングに座り込んで穴が増えてしまった靴下を脱ぐ。ったく何してんだか。 タバコを咥え、まだ痛む足の裏を我慢して座したまま続きを読む。
『日時など指定いただければこちらから電話いたします』
電話か。電話でコミュの話を聞きたいということか。
NHKのホームページからオーバードーズについての取材依頼したのは3ヶ月前の昨年10月である。同時に取材依頼を申し込んだテレビ東京からも無しの礫であるのは、前作で書いた通りだ。
完全に無視されたものと諦めていた。
タバコ先から煙が立ち上り換気口に吸い込まれていくのを床から見上げ、
「蜘蛛の糸か……」
芥川龍之介の蜘蛛の糸。カンダタだったか細部はうろ覚えだが、なぜかそれを連想した。
と、同時に漫☆画太郎の「ブスの瞳に恋してる」にパロディのクソの糸ってあったなあと浮かんでしまうのが俺らしいかった。
「はは……」
自虐だか何だかわからない乾いた笑みがこぼれた。忘れていた足の痛みを自覚する。
クソの糸でもいい、掴もうじゃねえか。




