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第4幕 その4

 ――父さん、決めたよ。覚悟ってやつを決めたよ。


 足元の空瓶を取り上げる。これが答えだ。パンドラの箱に残された希望。俺の希望。たった一粒のメジコン。


 それは多分百人を傷付けて一人を救うような選択なんだけれど。


 それは多分人を殺すような選択なんだけれど。


 ODとかさ、自傷しながら――自分を傷付けながら生きてるやつが沢山いるんだ。


 子供が死んでるんだ。若者が殺され続けているんだ。ODコミュの人数は物凄く右肩上がりでもう止められない。


 死にたい。殺してくれ。死ねない。生きられもしないって若い子たちが苦しんでいるんだ。安楽死させてくれって。


 不幸と孤独と自傷と自殺とODと……これらなしに"今"は表現できないんだ絶対に。


 左手首に張り付けた保護シールを剥がして放る。その傷痕を右手の一指し指でそっと撫でる。


 そうだ。俺たちはもう自殺も自傷もODも肯定しなきゃいけないんだ。


 自分を傷付けさせる選択をさせなければ、彼ら彼女らは生きられないんだ。


 ODしてる時だけ幸福を感じるんだよ。


 もう一度傷痕を撫ぜる。


 死んだ子に怖かったね、でも苦しいの辛いの終わって良かったねって言わなきゃいけないレベルまで来てしまったんだこのクソゲー日本は。


 勿論ファッション感覚の子たちだっている。でもそんな空気の中を生きてんだ。友達が殺されているの見てるんだ。


 大人の無責任が子供の心と体に幾万と刻まれるんだ。殺され続けるんだ。


 だからさ、そいつらの居場所作るよ、父さん。見捨てられた連中をかつて見捨てられた俺が助けるんだ。助けなんかいらないってやつにも『いいね』押して回るくらいはできるからさ。見てる奴いるからなって。気付いてますよって。上手くいけばが話が聞けるかもしれない。


 俺がすべきことは自分がした選択や行いに対しODコミュニティの管理人として最後まで責任を果たすことだ。ライナーみたくな。


 だが生憎こちとら糞中卒元ヒキニート障害年金二級元ナマポ"おじ(オールドボーイ)"でね。取れる責任なんて何にもない。


 だから無責任に肯定し続ける。自分を傷付けていいって。何なら死にゆく君を俺は泣きながら肯定するって。


 立派に悪人だろ?


 善人なおもて往生をとぐ。いわんや悪人をや――。


 サンキュー親鸞。都合よく解釈させてもらうぜ。


 ――Yes, Father. I shall become a "bad"


 ――そうだ、父さん。僕は悪人になろう。


 こどおじだからかバットマン大好きなんだよな。


 何だろう、この気持ちは。


 さっきのバッドで全て悪いものが出切ってしまったような感覚だ。あちこち痛むのにとても心地よい。


 本当に馬鹿でありがとう、俺。ここに至るまで何年掛かってんだよ。馬鹿でありがとう――玉井雪雄の『オメガトライブ』は二十代の時よく読んだな。死にたい中あれは楽しみだったな。Made from nothingな俺を満たしてくれた――LEO今井も大好きだ。そうだ俺は舞城王太郎の「世界は密室でできている」を読んでいる。


 そして狩撫麻礼。迷走王ボーダーを愛読してたら、自分も大迷走することになるとはな。ははは。


 借り物の言葉がどんどん繋がっていく。


 ――すべては繋がっている。


 それらはがらんどうな俺を満たしていく。大麻やメジコンで埋めていた空白を別の何かで満たす。


 俺の輪郭を明らかにしていく。


 俺という密室。死体だらけだった密室。よく生き残ったよ。自分を傷付けてよく生き残ったな俺。


 だが、やっと鏡を正面から見れる。自分が解った。自分という密室――ミステリーが。


 ミステリーの究極の答えが解った気がする。解ったよ……父さん、いや気付いたんだ。今ならそれは犯人が読者という究極すら凌駕する。


 その答えは? ――作者を"作者"にした作品たちさ。物語という魔法に見せられたものの最終形態、作者になること。私を作ったもの。私を探偵かつ犯人たらしめるもの。私が愛した作者、作品たち。


 これが答えだ。なんかよくわかんないけど、今浮かんできた大切な感情だ。


 それ、どこまでも無責任に時に遁走し、自己矛盾だらけの迷走王ボーダー、親に殺された次の世代ホモサピエンス・オメガシス、元仮名・堂島、元OD"少年"――それが俺だ。


<第四幕 我は青ちゅ~≒ラリックマ――閉幕>



<インタールード その5>


 実際のXのオーバードーズコミュニティは約1年で、自殺と自傷の助長と運営に判断され凍結。


 その時のメンバー数は約6500人。1日に100人以上の新規参加がある日も数多くあった。


 アンケートによると、メンバーの約9割が20代以下の若者・子供であった。

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