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偶然助けた美少女に「貴方に告白するのは十五回目ですっ」と言われても、俺は過去の十四回を知らない  作者: 紐育静
第1章『十五回目の告白』

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第3話 人は階段もこけるし落とし物もする



 前回までのあらすじ。

 俺は朝、駅でぶつかりおじさんの体当たりを食らって階段から落ちかけた女の子を助けた。

 そして、俺は見事に朝課外どころか朝のHRにすら遅刻してしまとさ、めでたしめでたし。


 まぁ、それだけの話なのである。あの出来事をきっかけに恋が始まるだなんて、そんな甘酸っぱい青春のようなベタベタな展開は俺には無縁だろうし、彼女が言う「また明日」というのも社交辞令に違いない。高望みは禁物だ。


 先生には寝坊しましたとテキトーな理由を伝えたが、初犯だったからか軽く注意されただけで済んだ。日頃の行いが良くて助かったぜ。


 俺が遅刻するのがそんなに珍しかったのかクラスメイト達に不良だの寝坊助だのいじられまくったが、俺にとってはそんなことなんてどうでも良くて、今日もいつも通りの学校生活を送っていた。



 そして放課後、この学校の生徒会副会長である俺は、生徒会長と共に顧問の先生から資料の整理という雑用を押し付けられ資料室へ向かっていたのだが、その途中の廊下にて。


 「いたた……」

 「川崎さん、大丈夫?」


 階段の下でしゃがみ込む同級生の川崎という女子生徒と、彼女に寄り添う生徒会長の(のぼい)琴乃(ことの)の姿を見かけた。どうやら川崎が階段から転げ落ちたようで、彼女は自分の右の足首を手で押さえていた。

 俺も彼女達の元へ向かい、声を掛ける。


 「ボリノ、何があったんだ?」


 俺にボリノと呼ばれた幟琴乃は、茶髪のポニーテールと大きな黒いリボンを揺らしながら俺の方を向く。


 「川崎さん、階段から落ちちゃったみたいなのよ」

 「お、落ちたと言っても、踏み外したのは最後の段ぐらいだったのでそんな大事ではないんですけど……」

 「でも、足が腫れてるわ。きっと捻挫してるのよ、保健室に行かないと」


 ボリノはそう言って川崎に肩を貸して彼女の体を支えようとしたが、ボリノは身長の割には華奢で、一方で川崎はボリノよりも身長が高いからか支えづらそうにしていた。


 「待てボリノ、俺がやる」

 「え? ちょっと、何する気?」

 「って、わわっ、津々見君!?」


 俺は川崎の体を抱きかかえた。所謂お姫様抱っこというやつだ。


 「……もう、またそんなことしちゃうんだから」

 「何ぶつぶつ言ってるんだ。ほら、早く保健室行くぞ」


 何故かボリノは不満そうにしていたが、俺は川崎を抱きかかえたまま保健室へと急ぐ。俺にお姫様抱っこされている川崎は顔を真っ赤にして大人しくしていたが……ごめん川崎。お前には俺がスマートに助けたように見えたかもしれないが、女の子をお姫様抱っこしてみたいなぁという多少の下心や欲望もあったんだ。ごめん。



 丁度職員会議が開かれているからか養護教諭の姿がなかったため、川崎を椅子に座らせてボリノが彼女の右の足首を氷袋で冷やしてあげていた。一時冷やした後は川崎の右の足首に湿布を貼ってやり、手際よくテーピングも施していた。


 「はい、これで一旦終わりね。川崎さん、もう歩けそう?」

 「うん、ありがとう幟さん」

 「でもあくまで応急処置だから、痛みが続くようだったらちゃんと病院行ってね?」

 

 生徒会の仕事も残っているのに時間かけて手当してやるなんて相変わらずお節介を焼くのが好きな奴だなぁと思いながら俺が彼女達を眺めていると、川崎が俺にニコッと微笑みかけて言う。


 「津々見君も、ありがとね」

 「礼には及ばない」

 

 と、俺がかっこつけているとボリノが俺の脇腹をゲシッと小突いた。


 「何かっこつけてんのよ。川崎さんをここまで運んできてあげたのに」

 「名乗るほどの者ではない」

 「いや名前知ってるし」


 川崎に処置を施した後、俺はボリノと共に保健室を後にした。


 「お前って相変わらず面倒見が良いというか、お節介な奴だよな」

 

 廊下を歩きながら俺が茶化すようにボリノにそう言うと、彼女はムッとした表情をする。


 「そういうの関係ないでしょ。あんな場面見かけたら放っておけないじゃない」

 「そうか。流石は聖母様だな」


 俺がそんなことを言うと、とうとう俺のスネに蹴りが入った。

 先生から押し付けられた雑用が残っているし早く帰りたいだろうに、偶然怪我をした同級生を見かけて丁寧に処置してやるなんて、流石は皆から『聖母様』と慕われる奴だ。

 その反動なのかどうかは知らないが、ボリノは俺に対してかなり攻撃的なのである。黙っておしとやかにしていれば、十分に可愛い奴のはずなのに。


 「大体、ツバル君だってあの場面見かけたら私と同じようにしたでしょ?」

 「さあな。川崎を煽るように彼女の周りをグルグルと周りながら踊っていたかもしれない」


 すると、再び俺のスネに蹴りが入った。

 まぁ、ボリノが俺に向けているこの攻撃性は俺だけのものだと思えば特別感があるものだ。俺の津々見昴という名前をもじってツバルと呼んでくるのはボリノぐらいだし、彼女をボリノと呼ぶのも俺ぐらいの、いわば悪友みたいなものなのだ。


 俺に対してはやけに攻撃的でツンツンしているボリノだが、多分それが彼女の素の性格に近いものだろう。俺も聖母様の相手をするよりかはツンデレ暴力系ヒロインの相手をしている方が落ち着く。


 なんてことを考えていると、さっき俺のスネに蹴りを入れてきやがった奴と同一人物とは思えないほどの優しい笑みを浮かべながら、ボリノが口を開く。


 「でも、ありがと。私だけじゃ川崎さんを運ぶのに苦労してたかも」

 「礼には及ばない。名乗るほどのものでもない」

 「名乗らなくても知ってるのよ。でも、ツバル君がまさかあんなことするなんて思わなかった」

 「いや、俺があの場面を見かけてスルーする程薄情な奴だと思ってたのか?」

 「さっき踊るとかどうとか言ってたじゃない。って、そうじゃなくて……その、お姫様だっことか、随分大胆なことするのね」


 と、ボリノは少しモジモジしながらお姫様抱っこと口にする。

 俺だって常日頃からあんなことを繰り返しているわけじゃないが、ボリノみたいな奴でもお姫様抱っこというシチュエーションに憧れたりするのだろうか?

 しかし、おふざけで俺がボリノをお姫様抱っこすると、そのままプロレス技とかかけられて俺の命が危なさそうだから、とても出来ないが……。


 「もしかしてボリノ、お前お姫様抱っこしてもらいたいのか?」

 「は、はぁっ!? そ、そんなこと言ってないでしょっ。変なこと考えないでよねっ」


 と、俺のスネに二連撃が入る。

 皆には聖母様って呼ばれるぐらい面倒見が良くてお節介を焼くのが好きで慕われているのに、どうして俺が相手だと昔懐かしいツンデレ暴力系ヒロインを極めているんだか……。



 と、俺はボリノと和気あいあいと話しながら資料室へと向かっていたのだが、その途中……今度は廊下を這いつくばるように移動しながら探し物をしているらしい女子生徒(おそらく後輩)を見かけた。

 そして、まだ生徒会の仕事が残っているというのに、ボリノが困っている生徒を見かけて放っておけるわけもなく。


 「貴方、どうかしたの?」

 「あ、わぁっ、聖母様!? じゃ、じゃなくて幟先輩!?」


 人を見かけて一言目に聖母様って出てくるか。


 「その、実は鞄につけていたストラップを失くしてしまって……多分廊下に落ちてると思うんですけど……」


 なんだろう、このデジャヴは。

 なんだか今日は、やけに階段でつまずいたり落とし物をしている人を見かける気がするなぁ。

 そして、俺も困っている人を見かけて素通りする出来るほど薄情な奴ではないので、探し物を手伝ってやることにする。


 「どんなキーホルダーなんだ?」

 「えっと、頭をパカッと開いてメロンパンを見せている羂◯のキーホルダーです」

 「どんなキーホルダーなんだ……?」


 どうしてそんな趣味の悪いグッズを鞄につけているんだと思いながらも、俺はボリノと一緒に探し物を手伝っていた。

 そして探し物を手伝い始めて十分も立たない内に、水道場の下の隙間に挟まっていた◯索のキーホルダーをボリノが発見した。


 「もしかしてこれかな?」

 「あっ、はいそれですそれです! 良かったぁ、見つかって……」


 まさか本当に彼女が言ったままのデザインのキーホルダーだとは思わなかったが、彼女はボリノからキーホルダーを受け取ると、それを大事そうに両手で握りしめて胸に当てた。

 何だか、今朝のことを思い出してしまう。


 「それ、そんなに大事なものなのか?」

 「はい。これは……わ、私が大好きな人と始めてお出かけした時に、彼からプレゼントされたものなので……」


 彼女はえへへと幸せそうに笑いながら言う。わぁ、これが恋の熱に浮かされた女の子なのか、なんて眩しさだろう。

 それはそれとして、彼女も彼女だが彼氏もどんな趣味をしているんだ、このキーホルダーのチョイスは。


 「良かったわね、見つかって。それじゃ、彼氏さんと仲良くね」

 「は、はいっ、ありがとうございます幟先輩……と、えっと、貴方は……?」

 「副会長な、コイツの補佐」

 

 生徒会副会長だったのに新入生に誰なのかわかってもらえなかった俺を見てボリノはお腹を抱えてゲラゲラと笑っていやがった。別に良いだろ、会長より目立たないんだし。

 俺達にペコペコと頭を下げて帰っていく後輩を見送って、俺達は再び資料室へ向けて進み出す。


 「良いよな、聖母様は新入生に名前覚えてもらえて」

 「私が聖母聖母って呼ばれるぐらいなら、ツバル君だって名前ぐらい覚えてもらっても良いぐらいだと思うけど」

 「なんだ? この優秀な副会長を褒めてくれてるのか?」

 「べ、別にそういうわけじゃないわよっ」


 と、ボリノは相変わらずツンツンしていたのであった。


 

 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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