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ハツカノデイズ  作者: ほしの
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二章「過去より大事な今」2

 ついに今日は休日デートの日。ついつい早起きをしてしまった。


 十時からの約束なのでまだ時間がある。落ち着かない。落ち着け僕。


 時計を何度も確認するが時が進むのが遅い気がする。


「ダムプラを作って気分を落ち着かせるか」


 僕は作りかけの「ダムダム」のプラモデルの箱を開ける。


 半世紀以上シリーズ展開しているロボットアニメ。

 アニメ自体はそれほど詳しくはないが作品に登場するロボットのプラモデル作りが僕の唯一の趣味だ。


 部屋の本棚には本ではなくプラモデルのコレクションが並べられている。


「こうやって自分の手で何かを作るのって楽しいよな」


 ニッパーで切り離し、やすりでバリ取りをして仮組みをしていく。


「……」


 芽衣は僕のために料理を作ろうと変わったのに僕はこのまま現状に甘んじてていいのだろうか。


 変わろうとしている彼女のために僕も変わるべきではないだろうか。


「……やっぱり落ち着かないから早いけど行こうかな」


 ダムプラの箱をそのままに部屋を後にするのだった。


   ◇


「あれ? 芽衣、もういるし」


 三十分ほど早いバスに乗り待ち合わせ場所に着くと芽衣の姿が。


「わわっ、零児君!?」


 手鏡の眺めながら前髪の位置を調整している仕草がとても可愛かった。


 初めて私服姿を見たのだがシックでモノトーンを基調としたなコーディネイトであり学校で見るより大人っぽい印象がある。


 肩に掛けている小物入れのポーチにはスクールバッグと別のマスコットが。こういった類の物を集めるのが好きだったりするのだろうか。


「待ち合わせの時間までまだまだ時間あるのにもう芽衣がいるとは思わなかったよ」


「家の近所だしね。今日は歩いてきたよ」


 僕らが待ち合わせしたのは田舎民御用達の駐車場がだだっ広いイオソ。広大な土地を利用した一階建てだがオールジャンルの店舗が揃っている。


「それならむしろぎりぎりに出てもいいような気もするけど。まさか友達との約束もすげー待ってたりする?」


「えっと……友達とは……うん、ギリギリか遅刻すると思うかな」


「へぇ、そうなんだ。それならより一層謎が深まるばかりなんだけど」


「私がわがまましただけだよ」


「わがまま?」


「うん、待ってるのもデートの醍醐味かなって。彼氏を待つなんてさ……恋人がいないと出来ないこと特権だよね。すごくドキドキしてワクワクしたよ」


 胸に手を当ててはにかむ芽衣。本当に一途で可愛い子だ。好き。


「今度は僕がもっとドキドキワクワクさせたいな。これもデートの醍醐味でしょ? さぁ、行こう」


 僕は芽衣の手を握る。掌をぎゅっと握っての恋人繋ぎ。


「零児君っ、そうだね。今日はよろしくね」


 隣に寄り添う芽衣。よかったぁー! 自然に手を握ることが出来たぞぅ。



「ここの雑貨屋さんなら色々売ってるよ」


 芽衣にすすめられた雑貨屋。女性客ばかりで普段なら見向きもしないような店構えだ。


 バライティにとんだ商品が並べられている。僕からすると規則性が感じられずどこに何のジャンルがあるのかわからない。


「芽衣はよく来るの?」


 筋トレグッズらしいぐにょぐにょした物体をしげしげと手に取る。


「さっきも言ったけど近所だからね。この前も手帳とか買ったよ」


 おぉ、女子高生っぽいアイテムだ。ベタにカラフルなペンも買ったりするのだろうか?


「ふふっ。零児君、こっちこっち」


 キョロキョロしていると芽衣が僕の手を優しく引っ張る。僕はリードに引っ張られる犬の如く歩き出す。


「零児君、お弁当箱あったよ」


 キッチンコーナーの一角に大小様々な弁当箱が陳列されている。


「どれにする? こんなにあると悩んじゃうね。あ、これなんてどう?」


 芽衣はしゃがみ込んでニコニコしながら僕に色々な弁当箱をすすめてくる。


「うーん、コンビニ弁当に比べると大分小さく感じるね。物足りないかも」


「男の子だもんね。量が食べたいなら二段のボックスはどうかな?」


「保温性機能付き。温かいご飯が食べれるのか!!……えっ?」


 嘘だろ。食材を入れるだけの弁当箱が三千円近くするのかよ。ダムプラの大きいの買えるぞ。


 よく見ると特別高級そうな物でなくても千円以上はする。ぼったくり、いやいや、芽衣がそんなことするわけない。

 僕が世間知らずで相場そんなもんなのか……。


「他に箸と持ち運び用の袋も揃えるんだよね?」


 事前に必要な一式は聞いていたが、ちらっと隣接された箸を見ると僕の昼食以上の値段。箸買ったら飯食えないんだけど。


「芽衣の友達も皆、こんな感じのお弁当箱使ってるの?」


「ど、どうだろうな? あまりじろじろと見たことないなぁー」


 明後日方向を見てわざとらしく首を傾げる芽衣。何か変なこと言ったか?


「えっと……その他の二つは百均でいいんじゃないかな。それにお弁当箱売ってるし、そっちも行ってみる?」


 僕が慄いているのを感じ取ったのか。頬をぽりぽりとしながら微笑む芽衣。


「芽衣の愛情がたっぷり詰まった料理に安物なんて使えませんよ!」


「零児君。声が大きい。恥ずかしいよぅ。それじゃあ、これなんてどう? 商品入れ替えで三割引きのがあるよ」


 芽衣は下に置かれた籠を物色してセール品の弁当箱を取り出す。


「ふむ、そこそこ大きくて、箸までついているのか。しかも専用の巾着袋と箸付きときた」


 二段のボックスで千円を切る値段で一式揃うのか。


「造りも結構いいな、ふむ」


 こういうモデラ―の血が騒ぐ。


「国内製だって。この値段じゃあ中々、買えない代物だよ」


「これにしようかな」


 数ある色の中で僕は青色の弁当箱を選んだ。一番好きなダムダムエグゼのイメージカラーだ。


「うん! いいと思うよ。この際だから私も一緒に同じの買おうかな? いい掘り出し物だと思うからさ」


 芽衣はピンク色のお弁当箱を手に取る。同じブランドのお弁当箱だが、女性用なのか一回り小さい。


「おぉ! お揃いのお弁当箱か。ある意味ペアルックって言うのかな?」


 少し古い語彙な気がするが。夫婦茶碗でもないしな。


「っ!! そうだね。全然意識してなかった。恋人っぽいね」


「そりゃ恋人だかね。これも特権だよ」


「ふふ、そうだね……よろしくお願いします」 


 芽衣は弁当箱を僕の手に持ったお弁当箱にこつんと当てて微笑む。


「お買い上げありがとうございました」


 お互い弁当箱を買い終え店を後にする。



「少し早いけどお昼にする?」


 携帯で時計を確認する芽衣。もう昼時の時間帯らしい。


「そうだね、十二時過ぎると飲食店は混むからね」


「芽衣は何か食べたものはある? 奢るよ」


「そんなそんな。申し訳ないよ。お互い学生なんだしこういうのは割り勘にしようよ」


「いい買い物出来て予算は余ってるし、それに初デート記念ってことで奢らせてよ」


「そんな言い方されると受け取らずにはいられないよ。……それじゃあ私行ってみたいお店あるんだ」



「入口で食券を買うんだけど、芽衣は決まった?」


「うーん……多すぎて迷っちゃうね。今回は零児君と同じのでいいかな」


 芽衣は本格的なラーメン屋でラーメンを食べてみたいとのことだった。


 レストラン街にある家系ラーメンの店が目に付いたので入店することに。


「じゃあ豚骨塩チャーシューにしようかな」


 芽衣が鞄から財布を出そうとしたが先に二枚食券を買ってしまう。


「あ、ありがとう」


「いいってことさ」


 僕は芽衣の手を握り店内へと進む。


「今日は家族連れが多いしカウンター席で食べるとしようか」


「うん、カウンター席……なんか通っぽくていいね」


「っしゃいやせー! 食券をお預かりしやーす。っピングはどーしゃーすか?」」


 タオルを深々と頭に巻いた黒いTシャツの店員がお冷を置いてくれる。


「ひにゃ……れ、零児君っ」


 店員さんに少しビクついて僕の服の袖を引っ張る芽衣が可愛い。


「バリカタヤサイマシセアブラオオメ。芽衣はどうする?」


「え? え? え? えっと、零児君と同じで」


「それじゃあ、さっきの二つでお願いします」


「かしこまりしたー。オーダーいただきまっした。ありざっす!」


 店員さんが食券にトッピングの種類を書いて半分をもぎ取る。残された食券を眺めて芽衣が耳打ちをする。


「い、今何が起こってたの?」


「え? 普通に注文してただけだけど?」


「日本語だった? もしかして海外のお店とかじゃないよね」


 芽衣は目をキョロキョロとさせて店内に達筆で書かれたポエムや日焼けした店員さんをこっそり指さす。


「博多が本店の店だよ。あー、芽衣みたいな女の子には異文化かもしれないね。こういうの」


 というか、休日の初めてデートのお昼がこんなむさくるしい場所でいいのだろうか。一応、お洒落なパスタ屋も下調べはしてきたのだが。


「芽衣はあまり外食しないんだったよね?」


「そうなんだよね。両親も基本インドアだからね。私もあまり外で遊ぶことないし。でもこの前、マクゾで零児君がラーメンの話してたから食べたくなったんだよね」


 お冷を両手で掴み一口飲み込む芽衣。


「あぁ、片手鍋でインスタントラーメン食べるって話覚えてくれたんだ」


 袋ラーメンやカップラーメンとはまた違うんだけど……そこらへんのこだわり話しても理解してくれなさそうだなぁ。まぁ、芽衣がわくわくしているのが良しとしよう。


「零児君との思い出は私の宝物だからね大事に覚えてるよ。そうだ、この半券を記念に取っておこう。宝物だね」


「映画とかコンサートの半券ならわかるけどラーメン屋の半券ってどうなんだろう……」


「私にとって大事なのは『どこで何をするか』じゃなくて、『誰と』ってことだからね」


「芽衣、……確かにそうだね。僕も芽衣と一緒だと見慣れた光景もキラキラしてみえるな」


 おとこの一言が似合う店内も芽衣と一緒だとドキドキワクワク甘々空間に早変わりだ。


「そんな風に思ってくれるなんて嬉しいな。零児君は私の世界を広げてくれる素敵な彼氏さんだよ」

 

「そんな大げさな。これくらいの誰でも……それこそ友達とかでも」


 ふと、芽衣が落ち着く無く前髪を触っている。


「零児君、私ね……言わないといけないことが」


「芽衣、ちょっと待って。お喋りは食べ終わってからにしようよ」


 店員の動きを見て芽衣との会話を中断する。


「ったせしやしたー」


 カウンターにラーメンの丼ぶりが乗せられる。


 僕が立ち上がり丼を自分の目の前に降ろすと、芽衣も見よう見まねで同じく降ろす。


「ラーメンが来たら無言で味に集中しなければならないんだ」


 腕組みした店員さんがさあ、無心で食らいつけという勇ましい顔をしている。


 割り箸を芽衣に手渡す。芽衣はヘアゴムで髪をまとめて手を合わせる。


「そ、そうなんだ。よーし、いただきます」


 やっべぇ、髪結った感じも可愛いな。……って、いかんいかん。目の前のラーメンに集中をせねば。


「いただきます」


「ふーふー、はふっ、おいしー、あっ、静かに食べないとダメなんだっけ」


 反応が可愛いから許しちゃう。店員さんもうんうんと頷き満足気である。


「感想を言うのはマナー違反じゃないみたいだよ」


 スープをレンゲですくい口元へ運ぶ。うん、美味い。


 勢いよく麺をすするスープの飛び跳ねとか気にしたら負けだ。


「ん? 使う?」


 僕がコショウを振っていると芽衣が物珍し気にじっと見つめる。本当にこういうのって経験があまりないんだろうな。


「うん。くしゃみ出たらごめんね」


 おずおずとコショウの瓶を振る芽衣。スープをレンゲでかき混ぜると口元に運ぶ。


「おぉー! なるほどねぇ」


 目を見開いてぶんぶんと頷く。


 いちいち反応が可愛すぎて味に集中出来きねぇ。でも楽しいな。


「ふぁ……あっつい」


 掌をひらひらと風を仰ぐ芽衣。ほんのり汗掻いててシャンプーと女の子の匂いがする。


 彼女と一緒だとこんなにも色んなことを楽しめるんだよなぁ。


 確かに『誰と』デートをしているかが大事なんだなぁと実感した瞬間だった。



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