一章「実った恋」3
「出渕さん、今日も一緒に帰ろう」
ホームルームの終わり一目散に出渕さんの元へ向かう。
「う、うん。ちょっと待ってね」
周りのクラスメイトが何やら僕らの様子を見てひそひそ話をしている。聞こえてますよ。そうです付き合ってるんですよ。
「じゃあ、行こうか零児君」
出渕さんはクラスメイトに別れを告げて、僕と一緒に教室を後にする。
「零児君って大胆だよね。昨日もいきなり屋上に来てくれって言われてびっくりしちゃったよ」
「教室で話しかけるのは迷惑? それとも付き合ってるのは秘密にしておいた方がいいかな」
「ううん、迷惑じゃないよ。私も零児君とイチャイチャしたいもの。ただ、敢えて言いふらす必要は無いとは思うよ。私そんな目立つタイプじゃないし」
廊下ですれ違う度に視線を感じる。男女一緒にいるだけで珍しいものね。
「それもそうだね。僕、出渕さんと早く話がしたくて舞い上がってた。ごめんね」
「謝らなくてもいいよ。私も零児君とお話ししたくてうずうずしてた。授業中も我慢できずにチェイン送っちゃったし」
おおぅふ。可愛い。廊下じゃなきゃ抱き着いてたかも。今日は一緒に帰るだけじゃあ物足りない。
「それならさ、今日はどこか寄り道していかない? もっと出渕さんと仲良くなりたいんだ」
自然と放課後デートに誘うことが出来た。午後の授業はどう誘うかで頭がいっぱいだった。
下駄箱からスニーカーを出して歩きながら掃く。出渕さんはきちんと座ってローファーを足に合わせる。
「嬉しいな。こういうの放課後制服デートっていうのかな?」
出渕さんは立ち上がり肩に鞄を掛けると可愛らしいご当地キャラのマスコットが揺れる。
おぉおおおおー! 彼女をデートに誘うことが出来たぞ!
◇
「私、マクゾナルゾって久しぶりだな」
僕たちはトレーをもって二階のお食事用の席へ移動する。
「そうなんだ。僕は休みの日にマッゾは良く食べるけど」
リーズナブルなハンバーガーショップは学生の身分にはありがたい。食費を削ってまで買い物したいものがたまにあるんだよね。
「私、休日はあまり出かけないから。あ、ここがいいんじゃないかな」
出渕さんが選んだのは階段やトイレから少し離れた奥の席。人通りも少ないし二人っきりになるにはちょうど良い場所だ。
「いただきます」
向かい合って座り、出渕さんは両手を合わせる。
「いただきます」
男同士だとあまりやらない行為。育ちの良さと女子と一緒な空間にいることを実感する。デートなんだなぁ。ふふふふ。
袋に包まれたハンバーガーを頬張る。
僕はテリヤキ、出渕さんはフィッシュのバーガーセットを注文した。
「おいしー」
出渕さんは口に手を当てて歓喜の声をあげる。
「こういうジャンクなのってたまに無性に食べたくなるよね」
「うちは両親が外食好きじゃないから滅多に食べないんだけど、これはまた食べたくなるね」
「だったらさ、また一緒に来ようよ」
一口目にて次回の約束をする手の速さ。がっつきすぎだったか。
「ふふっ、やったー。また来ようね」
よかったぁー。よかったぁー。よっしゃぁぁー!!
「ジャンクといえば、深夜に袋ラーメンを作ってさ、片手鍋のまま食べるのもいいんだよね」
「えー? お行儀悪くない?」
「いやいや、器が熱いのもポイントなんだよ。一番はイケないことしてる背徳感なんだけど」
たまにだがテレビを眺めて横になりながら食べる時がある。最高の至福の時間だがさすがに引かれそうなのでやめておこう。
「あー、悪いことしてる自覚あるんだ。ならいいけどさ」
付き合ってから気づいたのだが彼女は礼節しっかりしててお姉さん気質みたいなところあるよな。授業中も叱られたし。
「出渕さんって兄弟とかはいるの?」
「んー、妹が二人いるよ」
飲み物を飲み終わってから話し出す。お行儀がいいのは姉として見本となるためなのだろうか。
「三姉妹なんだ」
「上は反抗期で口きいてくれないし、下は背伸びして大人振るからお姉ちゃんの威厳は全く無いんだけどね」
「そうなんだ、出渕さんは出渕家では大変な立場なんだね」
実は僕は今日、ある目標を持ってここまで来た。お互いのパーソナルな話になりいい流れになってきたぞ。
「まぁ、それでも可愛いのは変わりないんだけどね。零児君は兄弟とかはいるの?」
「僕は一人っ子だね。両親は忙しいから基本一人で自由に生きてきたな」
「なんとなくわかるな。零児君ってルールに縛られてないイメージあるもん」
「そうなの? そういうところは直した方がいいのかな?」
確かに、自由だし人目はそれほど気にはしてないけど
。
「人目も気にしてないし、自分の思ったように行動してるよね。それって私からしたら結構出来ないことだから自信を持っていいと思うよ」
おぉ、出渕さんの分析も僕の自己分析と同じだった。肯定してくれるのが嬉しい。
「わかった。ありがとう。自信を持って自由に生きるよ」
「自由といえばさ、このポテトだけどトレーの上に全部出して広げた時はびっくりしたよ」
「え? これはそういうためのトレーなんじゃあ」
「入れ物があるんだからそこから取り出せばいいでしょ。それにさっきのラーメンの話の時に行ってたよね、器が熱いものポイントだって。ポテト冷めちゃうよ」
「あら、ほんとだ」
僕はポテトを一つ摘み口元に運ぶ。まぁ、心なしか冷めているのが気になる。でも美味しいからいいか。
「あ、そうやってポテトにハンバーガーのソースをつけてから食べるのも自由だなって思うよ」
僕はテリヤキソースが大好きだ。包み紙についたソースを食べるのに考案した方法だ。
「そうかな? これはおすすめの食べ方だよ。はい」
僕はポテトを一本摘み、ソースをつけて佐倉さんの口元に運ぶ。
「え、あ……うん。あーん」
出渕さんは二度瞬きをしたあとに口を広げる。彼女の動揺した反応で気づく。あーんしてしまっている。恋人っぽい行動だ。うへへへへ。
長めの咀嚼をして出渕さんは「おいしー」と微笑む。
「はい、あーん」
そして、自分の手元のポテトを取り出し腕を伸ばす。
「あむ」
僕が食いつくと顔を真っ赤にしてにやけ顔を浮かべる。
「温かくてとても美味い」
「でしょー」
と、出渕さんは満面の笑みで僕の頭を撫でる。
「!?!?!?!?」
「あ、ごめん。なんとなく我慢できなくて」
僕が四度見をしているとはっとしたような顔で手を引っ込める出渕さん。
「べ、別にいいよ。僕は撫でられて伸びるタイプだから」
我ながらどういうフォローだ。
「そっか。それにしても零児君髪サラサラだね。羨ましいよ」
「そうかな? 猫っ毛だからワックス使ってもセットできないから気に入ってないんだけど。気に入ってないと言えば僕の名前なんだけどさ」
少し強引だが話を僕の目的ために繋げていく。
「僕が日付が変わった零時に生まれたから『零児』って名前なんだよ。結構適当じゃない?」
名前だ。名前の話で自然と言えれば。
「へぇ、そういう意味だったんだ。始まりの男みたいでカッコいい名前だと思うよ。また零児君のこと一つ知れて嬉しいな」
「じゃあ……」
あぁ……言えない。くそ、急に変えるって難しいよな。
「実は私も似たような理由なんだよ。また運命を感じるなぁ」
僕の視線に気づいたのか、出渕さんは胸に手を当てて語りだす。
「私は五月に生まれたから、英語でメイ。『芽衣』って漢字に当てはめただけなんだって」
「本当だね。僕らは似たような名付けなんだね。運命を感じるね」
僕はストローを啜り、ウーロン茶を飲む。
「僕は好きだな。芽衣って」
言えた。彼女を名前で呼ぶことが出来た。向こうは付き合ったその日から『零児』君と名前呼びに変えていて。僕は気恥ずかしくて呼べずにいた。
「あ、ありがとう。好きって……びっくりしたなぁ」
……ちょっと待て。今のは名前を褒めただけで名前で呼んではいない。ど、ど、どうしよう。
「あのさ、これから『芽衣』って呼んでいい?」
こういう時は素直に伝えよう。そうやって僕らは恋人になったんだし。
「うん、是非呼んで! 私も『零児君』って呼んでるしさ」
「わかったよ。芽衣」
「零児君。ふふっ……なんか名前で呼ぶって恋人同士って実感するね。こうして放課後、制服デートして何気ない会話して、他の人からしたら当たり前の恋愛の一部でも私にとっては大切な事柄に思えるよ」
「世の中にありふれた恋愛だとして、僕たちにとってはかけがえのない恋愛なんだ」
周りを見渡す。同じように制服の男女が仲睦まじくしている姿を眺める。
以前の僕なら秋田と共に羨ましいという感情に支配されていた。
今はどうだろう僕らの方が羨ましいだろうと思えてしまうほどだ。恋愛ってすげー。
「芽衣、好きだよ。僕と付き合ってくれてありがとう」
名前で呼んで一歩先に進んだぞ。次は手を握るプランでも計画しよう。楽しくなってきた
「くはっ、いきなりはずるいよ。もう、零児君は自由だなぁ」
口元に紙ナプキンを当ててはにかむ芽衣。
僕は自由に芽衣と恋愛をすることにしたのだった。




