八章「ハツカノデイズは続く」1
ブクマありがとうございます。
楽しい時はあっという間に過ぎ去るもので僕らは終電まで二人の時間を満喫した。
電車に乗ること三十分。
『次は大越、大越。降り口は左側となっております』
芽衣と夫婦(仮)になれた二日間楽しかった。まるで僕らは本物の夫婦になったみたいだった。
「もう僕の家の近くの駅か。じゃあ先に降りるけど、芽衣も帰り道気をつけてね」
電車の減速に合わせて立ち上がる。僕が立ち上がったのと同時に芽衣も立ち上がる。
「うん……」
どこか寂し気な芽衣。僕だって同じ気持ちだ。
電車から降りて振り返る。車内では芽衣がぎこちない笑顔で手を振っている。
……。
「……」
……。
「えっ、零児君……?」
僕は芽衣の手を引き、抱き寄せる。いざとなると離したくない。
「芽衣。まだ一緒に居よう」
電車は僕らを置いて走り出した。
最終電車を逃した芽衣はもう帰る手段が無くなった。
「今日まで僕らは夫婦だよね。最後の時まで寄り添っていたいよ」
「零児君。私も同じ気持ちだよ」
僕の手を握り返し微笑む芽衣。
「家に帰ろう」
「そうだね」
駅を後にして家路に向かったのだった。
「朝積もっていた雪も夕方になると溶けちゃってたね」
地面はすっかりからっとしており雪が降っていたことが嘘だったように思える。
「何週間かすれば今度は本格的に積もるんだろうなぁ」
「その時はまた温泉に温まりに行きたいね。温泉に入るのにはまっちゃった」
「それは良かった。旅行に誘った甲斐があったよ」
ポケットから家の鍵を取り出し玄関を開ける。
「ただいま」
靴を手を使わずに脱ぎ捨てて上がり込む。芽衣がその靴を丁寧に揃えてくれていた。
「えへへ、ただいま」
電気をつけて石油ファンヒーターの電源を入れる。ボロ屋なので隙間風が寒いのだ。
「おかえり。あー、やっぱり我が家が一番だよなぁ」
座布団の上に腰を下ろし深いため息をこぼす。
「旅行あるあるだねぇ。お湯沸かしてもいい?」
「ヤカンないから片手鍋使って」
「はーい」
しばらくすると芽衣が温かいお茶を用意してくれた。
「お土産で買ったんだ。魚介系ほうじ茶だって」
「なんかお土産さ、全体的に魚介系〇〇っての多かったよね」
海の観光地アピールなんだろうけどなんとなくラーメンを想像してしまう。
バイト先に魚介系クッキーをお土産で買ってきたけど味が予想できない。
「うーん……このお茶はほんのり出汁の味がする感じかなぁ」
「そう? 僕にはよく違いがわからないなぁ」
お茶をすすり背伸びをする。ふと、時計に目をやると時刻は十一時過ぎ。
「今更だけど家に帰らなくて大丈夫だった?」
勢いとはいえとんでもないことをしてしまっている。
「親からすごい電話来てる……ちょっと電話に出てくるね」
芽衣は外へ出行く。何やら話し声が聞こえるが揉めてはいないみたいだ。
「ただいま。事情説明したらなんとか許してくれた。でも明日学校休むのは許さないって」
「もうちょっとだけもうちょっとだけ一緒に居よう」
「もちろんだよ。夫婦の魔法が解けるまでは一緒に居たいな」
そうだ。僕らが夫婦(仮)でいられるのはあと数分程度。
長いようで短い夫婦生活だった。
「っと、十二時になったか。シンデレラの魔法は解けちゃったね」
「ふふ、ガラスの指輪は残ったままだけどね」
芽衣は左手薬指にはめた指輪を蛍光灯の光に反射させる。
「でもさすがにこの旅行以外で指輪をつけてると色々と怪しまれるよ。僕ら本当は夫婦じゃないんだからさ」
「そうだね。そろそろ舞踏会も終わったし置いていかなきゃだね」
芽衣はちゃぶ台の上に指輪を置き愛おしそうに撫でている。
「芽衣、今までタクシーで送るよ」
僕も指輪を外す。こうなったのは僕の責任だし、そろそろ芽衣も家に返さないといけない。夫婦生活は終わったんだから。
と、僕の指をぎゅっと握る芽衣。
「零児君は本物になりたいって言ったよね」
「うん。そうだね。少しの間でも本物の夫婦になれたから満足だよ」
僕がなりたかったもの。本物になりたかったんだ。夢が叶った僕は幸せ者だ。
「そう、私たちはまだ本物じゃない。……私たち本物になれないかな?」
芽衣は僕の手を自分の大きな胸に押し当てる。
「それって……」
鼓動が高鳴る。芽衣の意図していることを察する。
「零児君……私を、本物の恋人にしてください」
芽衣から口づけを交わす。今までとは違う感覚。
「っ、ん、……んぅっ、ぁ……」
舌と舌が絡み合う。呼吸を忘れるほど夢中に喰らいつく。どちらかの唾液が垂れていくがかまうのもか。
「っぷは……はぁ、はぁ」
芽衣の覚悟を受け止めて、芽衣の目を見つめる。こくりと頷く。決心は揺るがないみたいだ。
「今夜は帰さない。本物になるまで」
◇
あーたらしい朝が来た。希望のあーさーが。
彼女を腕枕して朝チュンというのを初めて体験した。
芽衣と本物の恋人になれたような気がした。
まぁ、そういうのは結婚初夜に取っておくと言った僕の家の寝室で一緒に寝ただけなんですけどさ。
だけど、だけど、だけど、ついにおっぱいは触ることが出来ました。
この感触。あぁ、もう……表現できないわ。あとは君自身で確かめてくれ。言っておくけど車から手出した時の感触とか比じゃないよ。
「んっ……」
おや、愛しの彼女がお目覚めのようだ。
「おはよう、芽衣」
「おはよー」
背伸びをしながら起き上がる芽衣。
「あっ……やだっ」
タオルケットで身を隠すが後の祭り。僕の脳内HDDに永久保存された。
手探りで衣服を手に取り、タオルケットに覆いかぶさりながらごそごそする。
ここは紳士的な対応で顔を洗いに行っておくか。




