八章「ハツカノデイズは続く」2
歯磨きをして髭をそって鏡を見つめ思慮を巡らせる。
「あっ、今日は月曜なのにパン買うの忘れてたな」
休みは旅行三昧だったからな五個入りの薄皮のパンを買うのを忘れてた。
あれが一週間のしょうもない楽しみであるのになぁ。
学校行く途中で何かコンビニで買うとするか。そういえば、コンビニはしばらく利用してなかったな。
「って、このままだと今日は芽衣のお弁当もお預けかぁ」
うだつが上がらないまま居間へと戻る。
居間には何やら良い匂いが漂っている。
「あ、零児君。もうちょっとで朝ご飯出来るから待っててね」
制服姿にエプロンを付けた芽衣が台所に立っている。
「おぉ……」
色んな感情が入り混じった感嘆が漏れる。制服姿の彼女が朝食つくるって……おぉ。
「あれ? この食材はどうしたの?」
味噌汁やら炊き込みご飯が用意され、出汁巻き卵を調理中である。冷蔵庫は麦茶しかなかったはず。
「昨日、こんなこともあろうかと浅海で買っておいたの。道の駅の地場産品だよ」
「そうなんだ……てか、制服持ってきてたんだ」
「……あんなこともあるかなぁと思って持ってきてたの」
顔を真っ赤にして微笑む芽衣。
「だからあの大荷物だったんだね」
そもそも準備万端だったのか。
「彼女ですから彼氏の期待には応えたいわけですよ」
「ほほぅ」
なんだその反応は。鼻の下伸びまくりだ。
「はい、出来上がり。ささ、早く食べて学校に行こう」
芽衣はちゃぶ台に朝食を運ぶ。僕も芽衣に習い運ぶのを手伝う。
「そうだね! 初っ端から最高な一週間だよ」
あぁ、僕は今なんて幸せなのだろうか。
趣味に興じた休日が終わり、死すらも考えたことがある憂鬱な月曜がこんなにも幸せに変わるものなんだな。
芽衣は僕のおかげで変われたと言う。変われた僕の人生そのものだ。
芽衣が居れば僕は本物になれる。
醒めない魔法に掛けられたのは僕の方だった。ありがとう僕のシンデレラ。
「ごちそうさま。洗い物は流しに置いておいて。それくらいは帰ったら僕がやるよ」
「うん、任せるね。それじゃあ学校へ行こうか」
「家から一緒に出るなんて不思議な気分だね」
玄関のカギを閉めて手を繋ぎ歩き出す。
「新婚さんみたいだね。あ、そうそう。お昼のお弁当も合わせて用意したから一緒に食べようね」
芽衣は二人で買ったお弁当箱を手渡してくれる。
「ありがとう……あぁ……くっ……うぅ……」
弁当箱を受け取る。予期せぬ好意に瞳から涙が零れる。
「泣かないでよ。零児君涙脆くなってない?」
「この涙は流していい涙なんだ。堪える必要なんて無いと芽衣が教えてくれたから。僕は変われたんだ」
僕のこの気持ちはありふれた感情で誰にだって手に入る。
僕らの関係性だって世の中にありふれていて誰もが手に入れられる。
それでも、それでも、僕はこのありふれたかけがえのない恋愛をしている。
彼女との日々は続いてゆく。
読んでくださった方々本当にありがとうございました。




