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ハツカノデイズ  作者: ほしの
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七章「新婚旅行(仮)」4

 館内は年季を感じられる造りではあるがどこか落ち着いた趣がある。寒かった外から暖色に包まれた景色は心までも温めてくれるようだ。


「予約していた常盤です」


 入口にいた和服姿のお姉さんに受付まで案内されてチェックインの手続きを進める。


「常盤様ようこそおいでくださいました。本日はお二人の予約で承っております。こちらに宿泊する方のお名前とご住所をいただいてもよろしいでしょうか」


 宿帳と万年筆を手渡され、常盤と書いた所で筆を止める。


「あの予約したのは僕なんですけど、宿泊する予定だった父と母が都合が合わなくて……妻と泊まりに来たのですが大丈夫でしょうか?」


 妻という単語にぴくっと反応する芽衣。嘘だが嘘ではない今日だけは。

 だがだが他の人から見たら綻びがあるように見えるのだろうか。ここで試して見たくなった。部の悪い賭けではないはず。


「構いませんよ。とても四十代の夫婦には見えなかったので不思議に思っておりました」


 僕の左手を一瞥した後に受付の人は営業スマイルを崩すことなく了承をしてくれる。正直に話をして良かったみたいだ。通報とかされたら洒落にならん。


 常盤 零児、常盤 芽衣と記入して住所も僕の家を記載する。

 芽衣が覗き込んでにまにましているのが可愛い。


「お部屋は二階の二〇八号室になります。どうぞごゆっくり」


 部屋の鍵を手渡されて僕らはエレベーターに乗る。


「はぁぁ……なんか緊張したね」


 芽衣はキャリーバッグにもたれかかり溜息をつく。


「そうだね。でも僕らはちゃんと夫婦に見えてるみたいだね。指輪の効果かもしれないけど」


 部屋の番号が掛かれたキーホルダーの輪っかに指を通して鍵をくるくると回しながら二階のボタンを押す。


「んん? この旅館のプラモデルだと!?」


 エレベーターの壁に設置された広告を見る。


 浅海旅館八分の一スケールが三千円。ご予約はロビーまで電話を。


「こういうご当地プラモデルも魅力なんだよな。修学旅行でも買ったな、スカイツリーのプラモデル」


「そうなんだ。せっかくなら買っちゃえば? 結婚指輪の三倍するけど」


 なんかぐさりとくる言い方だ。


「ほら、芽衣二階についたよ。立った立った」


 僕は芽衣の手を握りエレベーターから出る。


 案内板を頼りに二〇八号室に辿り着き玄関に鍵を差し込む。がちゃりと開錠音に顔を見合わせ微笑む僕ら。


「失礼しまーす」


 靴を脱いで障子を開けると畳の部屋が現れる。


「だぁー!!」


「どうしたの零児君!?」


 畳に転がり込んで奇声を発する。テンションが上がりつい奇行に及んでしまった。


 だってここが僕たちだけの愛の巣。常盤家の部屋だと思うと居ても経ってもいられなくなってしまった。


「いいから芽衣もやってみ」


 寝転び畳を叩いて芽衣を隣に誘う。


「え? 私も、だ、だぁ~」


 へにゃりと寝転ぶ芽衣。ラベンダーの香りが鼻腔をくすぐる。


 僕は目を瞑り大の字に四肢を広げる。芽衣も僕の様子を見ておずおずと真似をする。


「……」


二人とも黙り込んで天井の見上げる。


「っ」


 僕は芽衣の手をそっと握る。芽衣も握り返してくれる。


「芽衣、好きだよ」


 目を閉じているのをいいことに芽衣の唇にキスをするのだった。




 しばらく寝転がった後に奥の襖を開け放つ芽衣。


「零児君、オーシャンビューだよ」


 お茶を用意していた僕は芽衣に手招きされて隣に立つ。


 二人で緑茶をすすり景色を眺める。


「というか一面海しか見えないな。夜景は別のとこで楽しむしかないのかな?」


 ネットの情報だと温泉街の光が海に反射して奇麗といっていたがこの部屋からは期待でき無さそうだ。だから安いのかもしれないな。


「夜のお散歩もしてみようね」


「賛成だけど寒そうだな」


「まずは温まろうか。夕食まで時間あるし温泉に入りに行く?」


 温泉付きの部屋は一階にしかなくて料金が段違いになるので諦めた。

 僕らは大浴場を利用するしかないのだ。

 ……芽衣と一緒に入るみたいなやらしい展開はないぞ。諸君。

「そうするか。早く浴衣に着替えて楽になりたい」


 なにより浴衣姿の芽衣を見たい。見たい。見たいのだ。


「私もお風呂あがってから荷物とか整理しようかな。それじゃあ行く準備しよっか。ちょっと待っててね」


 芽衣はキャリーバッグと備え付けの風呂敷を持って襖を閉める。そっかー、見られたくないものを準備するんだね。着替えの下着だろうな。へへへ。


「っと、僕も準備しないと」


 僕もお気に入りのパンツを風呂敷に包もうとする。


「あれ? これどうやって包むんだ? まぁ、四角くなればいいか。てか、今のうちに浴衣になっておけば着替えを持っていかなくてもいいか」


 風呂敷にパンツ一枚を大切に包み込み、浴衣に着替える。


「お待たせ―って、零児君もう着替えたの?」


「あぁ、持っていく荷物を減らそうと思って。僕は風呂敷とパンイチだけだ」


 まるで変態みたいな字面だ。

 あくまで持ち物がそれだけってことだよ。

 装着してるのだそれだけってことじゃないよ。あっ、泥棒スタイルで風呂敷を頭にかぶったパンイチ姿の僕を想像したな? すけべさんめ。


「私は持っていくよ。女性用はこっちの方だね」


 ふむ、芽衣は少し大きめのサイズを選んだな。胸のせいか。日本人仕様の浴衣では芽衣のサイズは規格外だもんな。

 入浴後浴衣の下は下着付けるのかな。

 ポロリとかしたら。ああああー、って何を考えてるんだ僕は。


「? どうしたの零児君? 早く行こうよ」


 入口でスリッパを履いた芽衣に急かされて現実に戻るのであった。



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