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ハツカノデイズ  作者: ほしの
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七章「新婚旅行(仮)」3

 昼食は観光施設内の食堂で食べることにした。


 その日、海で採れた食材の漁師の気まぐれ丼がおすすめらしいので二人で注文をする。


「醒めない魔法だったらいいのになぁ」


 左手薬指を日光にかざして恍惚の表情を浮かべる芽衣。そんな喜んでくれるなら彼氏冥利に尽きるというものだ。


「魔法だからね明日で効果は切れてしまうさ」


 僕も左手を太陽にかざして目を細める。


「そっか……そうだよね」


 しゅんとした芽衣の手を握る。


「でも、いつか魔法に頼らず現実に、本物にしてみせる。その時を待っててくれるかい?」


「零児君、……約束だよ。私待ってるからね」


 芽衣の周りにハートの幸せピンクオーラがふわふわと醸し出されている。


 今日も僕らは所構わずイチャイチャしているだった。


「へい、漁師の気まぐれ丼二つお待ち」


 ねじり鉢巻きをした恰幅の良いおじさんが運んできてくれた丼ぶり。


「おぉ、海の幸の宝石箱や~ってやつだね」


 丼から溢れ出そうなくらいに盛られた海鮮の数々。


「ウニにイクラとホタテもたくさん乗ってるね」


 芽衣は丼ぶりを携帯で撮影をする。夢月ちゃんに送るのだろう。


「寒い季節ならではだね。本場の味って初めてだなぁ。いただきます。……美味い!」


 お刺身って普段食べないけどこんな素材の味がしっかりしているんだ。甘い醤油との相性もばっちりでご飯が進むな。


「回転寿司で食べてるネタとは全然違うね。おいしー」


 外に広がる海の景色を眺めながら食べる海鮮丼も乙なものだ。


「これで五百円は破格だ」


「秋と冬の間の中途半端なこの時期は観光客が少ないか必然的に一人当たりの丼のボリュームが多くなるってわけよ」


 僕の独り言に漁師さんがガハハと豪快に笑いながら答えてくれる。


「へぇ、そうだったんですか」


「兄ちゃん達そんな細かいこと気にしなくていいさ。市場に出せない規格の物をこっちは出してるんだから食べてくれるだけありがたいってことさ」


「なるほど。廃棄ロスを無くする。大事なことですよね」


 僕も働いている身として納得する。店長に教わったことだが廃棄するよりだったら半額にしてでも捌いた方が世のため自分のためになるらしい。


「訳あり商品って言うのかな? こんなに美味しいのに捨てちゃうなんてもったいないですもんね」

「そういうことだ。こっちのためにこれも食べてくれよ」


 漁師さんはそういって何やら僕らの机に置いてくれる。醤油を垂らすとジューっと音を立てていい匂いを発する。


「おー、ホタテの貝焼きだ。いいんですか?」


 鼻腔を擽る匂いによだれが出てきた。芽衣も似たような感じなのか僕と目が合うと恥ずかしそうに口元を抑える。


「サービスだよ。七輪で焼いた出来立てだから火傷しないように気をつけろよ」


「ありがとうございます」


「それにしても二人は旅行かい? 言葉遣いと発音からして県内の人だろうが」


「今日は新婚旅行なんですよ」


 という設定です。と心の中でフォローはして結婚指輪(仮)を見せつける。


 芽衣も僕の動きに合わせてドヤ顔で見せつけていた。




「芽衣は回転寿司ではなんのネタが好き?」


 昼食を終えてクラゲを形どったアイスクリームの頬張りながら目的の旅館へ歩いている。


 手を繋いで、もう片方でアイスを食べる。なんという幸せな時間なのだろうか。寒さもそれほど気にならないぜ。


「私はえんがわかな。触感が好きなんだよね」


「中々渋いチョイスだね」


「えー、そうかな? 零児君は?」


「話題を振っておきながらなんだけど僕、回転寿司屋に行ったことなんだよね。一人だと中々行こうって気にはならなくて」


「それはわかるかもなぁ。じゃあさ、今度二人で食べに行こうよ。イオソの近くにある一皿百円のチェーン店のお店」


「今度一緒に行こう。約束だ。僕、あれ食べてみたかったんだよね。ハンバーグ乗ってる寿司」


「食べたいのそれなんだ。ちなみに最近はウインナーとかエビフライとかもあるよ」


「おぉ、男の子のロマンだね。あとこれもロマンだね」


 僕は芽衣の口元に付いたアイスクリームを指で掬い自分の口元へ運ぶ。


「え、やだ」


 ぽかんとしていた芽衣が急にわたわたと顔を赤らめる。ロマンチックゥー!


「今更だけどこの旅行で芽衣にも結構お金使わせてるけど大丈夫?」


「あ、それなら大丈夫だよ。両親からお小遣い貰ってるの。それに私友達いないから零児君と付き合うまで趣味以外はお小遣い貯金してたから」


 自分のコンプレックスを躊躇うことなく笑い飛ばす芽衣。出会ったころより笑うようになったなと嬉しく思い胸が熱くなる。


「私ね、友達がいなくて良かったなって最近思うんだ。だって何気ない事も零児君が初めての相手という思い出として新鮮に刻まれていくのが嬉しくてさ」


「芽衣は僕に出会うために生まれてきたのかもしれないよ」


 僕は芽衣の手を握り微笑む。芽衣も微笑み返してくれる。幸せな一時である。


「そうかもね。あ、零児君。そろそろ目的地だよ」


 落ち着きを取り戻した芽衣は携帯のナビを確認している。


「あれじゃないかな? 『浅海旅館』って看板あるし」


「大きなお屋敷みたいだね。文豪とか偉い人とか泊ってそうだね」


 行き先には木造の味のあるいかにも老舗っぽい建物。なんの捻りもないベタな旅館名。ネットで検索したら一番に出てきたので選んだのだが、これは当たりかもしれないな。


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